「廃都の悪霊・後編」
-悪霊
仮面の巨漢を一言で言い表そうとすると、キールベインの語彙では、それ以上の言葉は思い付かなかった。
蝕(エクリプス)と名乗った洗礼者の、一見、無造作な佇まい。
だが、隙がない。
というより、隙が読めない。
その動きや構え方が、戦闘の定石から全くかけ離れていた。
素人同然の立ち方から、状況に応じた様々な奇跡を行使する。
攻撃。
防御。
移動。
近距離から遠距離まで。
戦闘における全ての局面において、デタラメでありながら、完璧。
素人でありながら、玄人。
僅かな殺気すら放つことなく行使しされる、強力な奇跡。
その矛盾した存在は、対峙した三人を圧倒した。
ジグ・ブライドの全精神力を振り絞った'三転発火`。
エムレ・ゼラートが捨て身で放った複合元素弾。
いずれも'漸門'`蕀錠'の奇跡で凌ぐだけではなく、その余波で押しきった。
そして。
「貴方は何をみせて頂けるのでしょうか、キールベイン審問官?」
廃都の中央広場。
仮面の巨漢は、僅か5メトルーの距離に近づいたキールベインに尋ねた。
「見事な連携でした。仲間の援護を受けながら、尚且つ、仲間を逆に援護する。随分とご苦労を好まれる。・・・お察しの通り、私は格闘においては素人同然。間合いさえ詰めれば、貴方も十分に勝利の美酒を掲げる権利があります。最も・・・」
仮面が僅かに揺れる。
「・・・その為に随分と代償を払われたようですが」
エムレとジグの援護が在りながらも、無制限に放たれる十系統に及ぶ奇跡をくぐり抜けるのは、困難を極めた。
裂傷、火傷、打撲、刺傷。
満身創痍といっていい状況だ。
「貴方は罪深い方だ」
低く無機質な言葉を浴びながら、キールベインは無言で半身を開く。
「誰もかれも救える、と思っていらっしゃる。
まるで路上の小石を拾うように、貴方には何の責任も、何の義務も無い事まで背負いたがる。
そうする事で、貴方は優越感に浸っている。
自分より、弱く哀れな存在に慈悲を示す事で、自分には出来ない事など何もない、と証明するかの如く、・・・欲深きは罪です、キールベイン審問官」
右足を前方に、腰を低く落とし、聖ナタリア鋼聖の甲手を填めた左手は脇を締め、顔と左胸を守るように構え、`シャランサの右手'を填めた右手は迷うことなく、尚も語り続ける白き仮面へと向けられる。
「その傲慢を償い、悔い改め、そして己の無力を嘆きかのです。」
僅かに嘲りを含んだ笑いと同時に、奇跡を発動する。
特大サイズの、水槍。
ただし、標的は。
「・・・守るべき者を、奪われる事によって」
キールベインのはるか後方で倒れたままのエムレに対して。
「持ち上げて頂いて恐縮ですが・・・」
一閃。
キールベインは、大地を蹴った。
微震動により発光した`シャランサの右手'が、衝掌として繰り出され、水槍を迎撃した。
「僕はそこまで立派な人間ではありませんよ」
霧散した水槍は、細かな雨となってキールベインの全身に降り注ぐ。
「直ぐに、人任せにしてしまいますから」
「しっかりやれよ、俺!」
額の傷が開き、巻き付けた包帯は赤く染めたいく中、膝立ちの姿勢をとったエムレは、両手で銃型AF:ケルベロスを構え、キールベインより託されていた銀の弾丸を装填する。
チャンスは一瞬。
霧散した水槍が細雨となり、あの化物の視界を塞いでいる間だけ。
霧の中輝く、`シャランサの右手'を標準にして、劇鉄を弾く。
「食らいやがれ、第一種封印弾を!」
「なんと!」
この戦いを通して、初めて驚愕の声が仮面の下から漏れた。
「・・・分かった時にはもう遅い」
壁に背を持たれ、戦況を見守っていたジグ・ブライトが口端を歪めた。
~◇~◇~◇~
「・・・驚きました」
キールベインは只、唖然として呟いた。
射撃銃型AFより射出される第一種封印弾は、着弾箇所より半径数メトルーを封印、即ち対象の硬度を無視して『削り取り』、別の異相空間へと転位させる。
過去に、封印弾をかわした異端者はいた。
射出を防いだ異端者もいた。
だが。
「力押しで防がれたのは、初めてです」
キールベインは、先ほどと代わり無い姿で、無造作に近づいてくる仮面の巨漢を見上げた。
奇跡の連続行使。
言葉にすると、簡潔になる。
蝕(エクリプス)が行使する十系統全ての奇跡を、己に迫る封印弾に対し、超高速起動により連続して使用した。
-断空
-水牢
-火息
-操布
-雷斧
-水槍
-土壁
-漸門
-蕀錠
結果、封印弾の『封印』許容容量は臨界点に達し、蝕(エクリプス)に到達することなく、消滅した。
底知れぬ精神容量。
まさに、化物。
拳を構えたキールベインの数歩手前で、巨漢の足が止まった。
「また、お会いしましょう」
巨漢が纏った黒衣が、その巨体全身を包み、その体をかき消した。
「撤退して、くれたのか」
仮面の巨体から放たれていた圧倒的な威圧感は失せていた。
押し潰されそうなプレッシャーから解放され、キールベインは大きく息を吐いた。
「あれが`ベルザインの子供たち(チルドレン)'だ。あと何人いるんだ、あのクラスの化物が」
片足を引きずりながら歩いてきたジグは、残された黒布を見つめ、苦々しく呟いた。
「封印弾、初めて撃たせて貰いました」
駆け寄ってきたエムレが、興奮ぎみに話す。
「ああ、本当に助かったよ、エムレのおかげだ。」
「いやぁ、俺はキールベインさんの指示通りにやっただけで、・・・ああっ!姐さん大変です!頬が赤く腫れている!早く手当しないと!」
「姐さんは止めろと言っているだろう!そもそも顔中血まみれの奴に心配されたくない!」
「俺の事は、後でいいんです!キールベインさん、治療の準備を!?」
「今、準備しています」
「止めろ!自分でやる!」
腫れた頬を更に赤くするジグと、エムレのやり取りは更に続いたが、キールベインは残された黒布の中に、光る金属塊があることに気がついた。
見間違えるはずはない。
一世代前の形状だが。
「異端・・・審問印」
「こぼれ落ちたもの、捨てられたものを、私はただ拾い集めるのです」
転位した先の空間で、蝕(エクリプス)は仮面に手を伸ばしながら呟いた。
封印弾を防ぎきった直後、蝕(エクリプス)はキールベインよりも更に面白い存在を認識した。
特定の他人を思うという、意味ではキールベインを遥かに凌駕している。
「覚えておいてください、ジグ・ブライト」
仮面の下には、穏やかな笑みが広がっていた。
-悪霊
仮面の巨漢を一言で言い表そうとすると、キールベインの語彙では、それ以上の言葉は思い付かなかった。
蝕(エクリプス)と名乗った洗礼者の、一見、無造作な佇まい。
だが、隙がない。
というより、隙が読めない。
その動きや構え方が、戦闘の定石から全くかけ離れていた。
素人同然の立ち方から、状況に応じた様々な奇跡を行使する。
攻撃。
防御。
移動。
近距離から遠距離まで。
戦闘における全ての局面において、デタラメでありながら、完璧。
素人でありながら、玄人。
僅かな殺気すら放つことなく行使しされる、強力な奇跡。
その矛盾した存在は、対峙した三人を圧倒した。
ジグ・ブライドの全精神力を振り絞った'三転発火`。
エムレ・ゼラートが捨て身で放った複合元素弾。
いずれも'漸門'`蕀錠'の奇跡で凌ぐだけではなく、その余波で押しきった。
そして。
「貴方は何をみせて頂けるのでしょうか、キールベイン審問官?」
廃都の中央広場。
仮面の巨漢は、僅か5メトルーの距離に近づいたキールベインに尋ねた。
「見事な連携でした。仲間の援護を受けながら、尚且つ、仲間を逆に援護する。随分とご苦労を好まれる。・・・お察しの通り、私は格闘においては素人同然。間合いさえ詰めれば、貴方も十分に勝利の美酒を掲げる権利があります。最も・・・」
仮面が僅かに揺れる。
「・・・その為に随分と代償を払われたようですが」
エムレとジグの援護が在りながらも、無制限に放たれる十系統に及ぶ奇跡をくぐり抜けるのは、困難を極めた。
裂傷、火傷、打撲、刺傷。
満身創痍といっていい状況だ。
「貴方は罪深い方だ」
低く無機質な言葉を浴びながら、キールベインは無言で半身を開く。
「誰もかれも救える、と思っていらっしゃる。
まるで路上の小石を拾うように、貴方には何の責任も、何の義務も無い事まで背負いたがる。
そうする事で、貴方は優越感に浸っている。
自分より、弱く哀れな存在に慈悲を示す事で、自分には出来ない事など何もない、と証明するかの如く、・・・欲深きは罪です、キールベイン審問官」
右足を前方に、腰を低く落とし、聖ナタリア鋼聖の甲手を填めた左手は脇を締め、顔と左胸を守るように構え、`シャランサの右手'を填めた右手は迷うことなく、尚も語り続ける白き仮面へと向けられる。
「その傲慢を償い、悔い改め、そして己の無力を嘆きかのです。」
僅かに嘲りを含んだ笑いと同時に、奇跡を発動する。
特大サイズの、水槍。
ただし、標的は。
「・・・守るべき者を、奪われる事によって」
キールベインのはるか後方で倒れたままのエムレに対して。
「持ち上げて頂いて恐縮ですが・・・」
一閃。
キールベインは、大地を蹴った。
微震動により発光した`シャランサの右手'が、衝掌として繰り出され、水槍を迎撃した。
「僕はそこまで立派な人間ではありませんよ」
霧散した水槍は、細かな雨となってキールベインの全身に降り注ぐ。
「直ぐに、人任せにしてしまいますから」
「しっかりやれよ、俺!」
額の傷が開き、巻き付けた包帯は赤く染めたいく中、膝立ちの姿勢をとったエムレは、両手で銃型AF:ケルベロスを構え、キールベインより託されていた銀の弾丸を装填する。
チャンスは一瞬。
霧散した水槍が細雨となり、あの化物の視界を塞いでいる間だけ。
霧の中輝く、`シャランサの右手'を標準にして、劇鉄を弾く。
「食らいやがれ、第一種封印弾を!」
「なんと!」
この戦いを通して、初めて驚愕の声が仮面の下から漏れた。
「・・・分かった時にはもう遅い」
壁に背を持たれ、戦況を見守っていたジグ・ブライトが口端を歪めた。
~◇~◇~◇~
「・・・驚きました」
キールベインは只、唖然として呟いた。
射撃銃型AFより射出される第一種封印弾は、着弾箇所より半径数メトルーを封印、即ち対象の硬度を無視して『削り取り』、別の異相空間へと転位させる。
過去に、封印弾をかわした異端者はいた。
射出を防いだ異端者もいた。
だが。
「力押しで防がれたのは、初めてです」
キールベインは、先ほどと代わり無い姿で、無造作に近づいてくる仮面の巨漢を見上げた。
奇跡の連続行使。
言葉にすると、簡潔になる。
蝕(エクリプス)が行使する十系統全ての奇跡を、己に迫る封印弾に対し、超高速起動により連続して使用した。
-断空
-水牢
-火息
-操布
-雷斧
-水槍
-土壁
-漸門
-蕀錠
結果、封印弾の『封印』許容容量は臨界点に達し、蝕(エクリプス)に到達することなく、消滅した。
底知れぬ精神容量。
まさに、化物。
拳を構えたキールベインの数歩手前で、巨漢の足が止まった。
「また、お会いしましょう」
巨漢が纏った黒衣が、その巨体全身を包み、その体をかき消した。
「撤退して、くれたのか」
仮面の巨体から放たれていた圧倒的な威圧感は失せていた。
押し潰されそうなプレッシャーから解放され、キールベインは大きく息を吐いた。
「あれが`ベルザインの子供たち(チルドレン)'だ。あと何人いるんだ、あのクラスの化物が」
片足を引きずりながら歩いてきたジグは、残された黒布を見つめ、苦々しく呟いた。
「封印弾、初めて撃たせて貰いました」
駆け寄ってきたエムレが、興奮ぎみに話す。
「ああ、本当に助かったよ、エムレのおかげだ。」
「いやぁ、俺はキールベインさんの指示通りにやっただけで、・・・ああっ!姐さん大変です!頬が赤く腫れている!早く手当しないと!」
「姐さんは止めろと言っているだろう!そもそも顔中血まみれの奴に心配されたくない!」
「俺の事は、後でいいんです!キールベインさん、治療の準備を!?」
「今、準備しています」
「止めろ!自分でやる!」
腫れた頬を更に赤くするジグと、エムレのやり取りは更に続いたが、キールベインは残された黒布の中に、光る金属塊があることに気がついた。
見間違えるはずはない。
一世代前の形状だが。
「異端・・・審問印」
「こぼれ落ちたもの、捨てられたものを、私はただ拾い集めるのです」
転位した先の空間で、蝕(エクリプス)は仮面に手を伸ばしながら呟いた。
封印弾を防ぎきった直後、蝕(エクリプス)はキールベインよりも更に面白い存在を認識した。
特定の他人を思うという、意味ではキールベインを遥かに凌駕している。
「覚えておいてください、ジグ・ブライト」
仮面の下には、穏やかな笑みが広がっていた。
- 313: 拾郎:2016/03/07 23:59 No.680
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仮面被せちゃうとほとんど別キャラになってしまいますが、ヴィ略様に語らせるのが楽しい(笑)
尺が長くなり過ぎて、予定の6割をカットしました。
予定では、三人を個別に追い詰めて、言葉攻めを浴びせていた(笑)
カットした分は、別話でたっぷり披露してくれるのでしょう。特にジグたんに。