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起フェイズ②

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起フェイズ②

上空に浮遊する空中要塞が引き起こす気流の乱れが引き起こす、激しい風泣きが執務室の厚い石壁を通しても伝わる。

「・・・いよいよか」
ルナン・クライトスは、僅かに不安を浮かべた顔で天上を見上げ、十字を切る。
『ウルライヒの空中要塞』
その圧倒的な戦歴は、『北の教会』にいても轟いていた。
その分、対策は立てた。
だが、空中対地上。
アスガルドの歴史を紐解いても例を見ない戦陣に、布陣の正解は無く、不安を隠すことは出来なかった。
「成すべき事はすべて完了した。あとは手筈通りに、実行する」
自分に言い聞かせるように、呟く。
不安を見せてはいけない。
前線で指揮を執るのは自分だ。
司令塔が僅かでも不安を見せれば、直ちに自軍へと伝播してしまう。
「ルナン・クライトス司祭」
深呼吸をして扉に手をかけたルナンを、落ちついた低い声が呼び止める。
「・・・二年前の‘百人の洗礼者’がこの『北の教会』を襲撃した際に、貴公が言った言葉を覚えているか?」
黒壇の重厚な執務机の奥で、ライナスが繊細な彫刻が施された杯を弄んでいたライナスの唐突な問いかけに、ルナンは戸惑いながら答える。
「・・・はい。確か‘ようやく芽を出した畑を荒らさせはしない’と」
文字通り、ルナンが荒れた中庭で育てている畑の事を言ったつもりだ。
同時に、『北の教会』に集いつつある若い人材の事も指していた。
「二年の月日は根を張り、葉を茂らせるに十分な時間だ。・・・この程度の風で、茎が折れる事はない」
「・・・はい」
ルナンは思う。
不器用な言葉だ。
空の杯に視線を向けたままだが、ライナスはこう言いたいのだろう。
『お前が育てた仲間を信じろ』、と。
「・・・ライナス司祭も園芸に興味があるとは、心得ませんでした。‘明日’から、私の畑にお越しいただけますか」
湧き上がる笑みを堪えて、ルナンは精一杯真面目ぶった顔で尋ねる。
「・・・他人の趣味に干渉するほど、野暮ではない」
予想とおりの言葉に、思わず噴出す。
「では、お待ちしておりますよ、‘明日’、中庭で」
一礼をすると、ルナンは執務室を出る。
先ほどまでの不安は無い。
あとは。
やるだけだ。

ルナンを見送ったライナスは、杯を机においた。
-A級AF「追憶の杯」
-能力は「潜在能力の委譲」
譲渡する能力により、効果時間は大きく異なるが、いずれにせよ「追憶の杯」は一度使用すれば、二度と使用する事は出来ない。
ライナスが、‘よく知る者’から本人の能力が込められた「追憶の杯」を入手したのが五年前、使用したのは半年前。
その能力は、残り僅かとは言え、現在も継続中だ。
「・・・さて」
鉄杖を持って立ち上がる。
「始めようか、‘異端審問’を」
銀フレームの眼鏡の奥で、猛禽のような眼光が光った。

承フェイズに続く

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