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承フェイズ②

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洗礼者ガザルドが授かった奇跡、‘感染’
一言で言えば、‘他人の精神に、自分の精神を被せる’能力だ。
‘他人を意のままに操る能力’と言ってもいい。
事実、ガザルドと同様に‘感染’を授かった数少ない洗礼者達は、その欲望を様々な形で叶えていた。
だが、ガザルドの‘感染’は、精神的影響は与えるものの、‘意のままに操る’とまではいかなかった。
先天的な才能の不足か。
精神的な自信の欠如か。
本来が、特別な才能があった訳ではない。
洗礼前は、うだつの上がらない瓦職人だ。
‘強さがルール’となった街で、ガザルドはその最下層に追いやられた。
だから、路地裏でゴロツキ達につまらない因縁をつけられ、憂さ晴らしのためだけに、殴られる。
『侘びの仕方も知らねえのかよ』
幾度となく繰り返された、嘲りの声。
‘感染’を発動させるが、いつもの通り無反応。
腹部を殴られ、地べたに這い蹲るガザルドの頭部を押さえつける、靴。
『もっと頭を下げるんだよ、こうやってな!』
靴にのしかかる体重。
広がる嘲笑の輪。
‘死ね!’
屈辱の中、ガザルドは胸の内で念じだ。
‘死ね!死ね!死ね!’
ひたすら強く、黒く、念じた。
‘こいつら全員、今すぐ死ね!’
ガザルドが、自分の‘奇跡’を目の当たりにするのは、直後の事だった。

『があああ!』
情けない悲鳴と共に、頭上の圧迫感が退く。
『うわああ!』
『なんだぁ』
悲鳴の輪が広がる。
そして、獰猛な唸り声。
体を起こしたガザルドは、状況を理解する。
一匹の、野犬。
路地裏の奥で、ゴミを漁っていた中型犬が、ゴロツキ達に次々と襲い掛かっている。
その牙と。
その爪で。
‘人間はナイフ一本を持った程度では、野性を剥き出しにした犬にも劣る’
野犬は逃げようとする男達の足に噛み付き、転倒した直後の喉元を狙う。
そうか
ガザルドは理解した。
「・・・目を抉れ」
声に出して呟く。
直後、倒れた男の首に噛み付いたまま、前脚の爪が泣け叫ぶ男の目を抉った。

‘感染’は、人間よりも‘獣’に有効。
その事実に気付いたガザルドは、あらゆる動物で試した。
牛、馬、猿、白鳥、蛇、狼、猪、熊。
いずれも覿面に効果を発揮し、ガザルドの手足のように、いや手足以上に自由に動いた。
『貴方の‘感染’で試してもらいたいものがあるの』
ある日、ガザルドの前に現れた気品漂う美女、エルロイド・リーベンバークが微笑みと共に要望した。
そして、ガザルドはエルロイドの部下となった。

着地。
両手を広げ。
両足を僅かに曲げて。
うつ伏せに。
着地した場所は雪を被った岩盤であったが、問題ない。
衝撃を完全に吸収する。
射抜かれた右肩の筋肉を締める。
出血は止まる。
二十メトルーほど離れた城壁の上から、連続した発砲音。
命中。
小石が当たる程度の衝撃。
無造作に傍らの大木を引き抜く。
投擲。
城壁へと命中。
轟音の後、沈黙。

「・・・あの日、私はガザルドにこう尋ねたのです。」
眼下で広がる動揺の体を見せる『北の教会』を楽しげに見下ろすウルライヒの背に、エルロイドは慇懃に報告する。
「‘感染’が、‘獣’に有効であるのならば、‘魔獣’にも有効ではないのか、と」

「‘イエティ’だと」
振動の収まった西側城壁の上で、指揮をまかされた異端審問官ラーガンは、天から落下してきた魔獣を見て、呻く。
半島北部に生息する、巨大な魔獣。
遭遇頻度は稀だが、その討伐には完全武装の騎士団が導入される程だ。
身長は成人男子4~5人分に匹敵する7~8メトルー。
異様に長い両腕を振り上げれば、城壁の縁に届きそうなサイズだ。
雪上や森林でも俊敏に動き回り、分厚い毛皮の防御力は、先ほど銃士隊による一斉射撃を防いで見せた通りだ。
何よりも巨体が繰り出す、その怪力。
大木を引き抜き投げる、という行為を無造作にやってのける化け物だ。
接近戦は論外だろう。
とは言え、通常弾が無効なのは、先ほどの結果が証明している。
迷っている余裕はないが・・・。
「何?」
直後に。
ラーガンの背後から駆けてきた人影が、城壁の先端よりイエティに向かって、跳躍する。

「ほう」
空中要塞で、‘天覧’していたウルライヒが、息を吐いた。
感心したような、侮蔑したかのような吐息だ。
「いきなり、切り札を切ったか」

「あれが・・・」
城壁の守備隊についていた、ロメロ・バステンが、戦斧を握りしめながら呟く。
噂は聞いていた。
何度も何度も聞いていた。
だが、‘実物’を見るのは初めだ。
巨獣イエティの前に優雅に舞い降りた人影。
皹の入った白い仮面。
冠を模したヘッドガード
ドレスのようにはためく防刃服。
修復不能といわれた右手には短矢射出装置と一体化したガントレット。
左手には先端が発光する長槍。
ライナス・バルグの自動人形。
失われた十体の屍を越え、最後までライナスに寄り添う‘最強の女王’
すなわち。
「・・・‘湖畔の英霊’」

承フェイズ③に続く

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