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転フェイズ③

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転フェイズ③

戦略だの戦術だの、難しい話は要らない。
要は誰が一番先に、ライナス・バルグを捕らえるか。
複数の戦力が投下され、複数の反撃が行われているが、
ライナス・バルグさえ捉えれば、それで終わり。
大将首落とされた籠城軍など、あとは略奪と殲滅の対象と、相場は決まっている。
そして、'首狩り`の役目は、自分おいて他ならない。
`感染'の奇跡を発動させた精神で、ガザルドはそう考える。
雪原最強と呼ばれる白き巨獣を、三体同時に意のままに操りながら、ガザルドの精神は冷静であった。
`湖畔の英霊'は、二体目のイエティを向かわせただけで、防戦一方の動きに徹している。
敢えて、三体目はライナス・バルグの自動人形には向かわせない。
必ず近くに潜伏している本体を、ライナス・バルグを捕らえる方が先決だ。
『高い戦闘能力を持つ他者を、精神感応で操作する』という点で、ガザルドの能力はライナス・バルグに近似している。
本体付近に攻撃を受ければ、操作にも必ず影響が出る。
-さあ、どこにいる、ライナス・バルグ!
一際高い咆哮をあげると、長い手を振り上げ、巨獣は城壁に向かい跳躍する。
落下と同時に拳を叩き下ろせば、大激震が城壁を襲う。
-城壁の内側に隠れていれば、動揺せずにはいられまい。


 

357:拾郎:2016/03/22 17:22No.809
続き

跳躍した巨躯が振り上げた両手が城壁に叩きつけられる直前、光輝く『楯』が巨躯を受け止めた。
成人男性の五倍に匹敵する身長が纏う筋量と全身を覆う毛皮を含めれば、体重は馬二十頭にも相当するはずだが、『楯』はイエティの巨体を支え続けている。
イエティと一体化したガザルドは、動転して『楯』を何度も殴りつけるが、爪の厚さほども軋む事はなかった。
「・・・無駄だよ。‘聖鉄楯’の防御力は、アディール様のお墨付きだ。・・・それに見習い共に‘手本’を見せないといかんしな」
城壁の上で、拠点防衛型AF‘聖鉄楯’を展開させている元第二課所属審問官ラーガンは、奥歯を軋ませながら呻く。
「俺のAFは、発動させると‘バレバレ’なのが欠点でな。・・・待っていたぞ、‘跳んでくれる’瞬間を」
空中なら、警戒され回避される事もない。
そして。
「・・・後は頼みました」
‘聖鉄楯’の展開を解除。
巨体が地上に向かい、自由落下。
「・・・‘灼熱伯’殿」
直後。
城壁より赤銅色の塊が飛び出していく。
灼熱の溶鉱炉の様に輝く鎧の熱と光が、掲げた長剣に集約する。
人間を遥かに凌駕する敏捷性を誇るイエティと言えども、空中では回避は不可能。
とっさに身を守った丸太のような両腕とともに、裂帛の叫びと共に振り下ろされた長剣は、その巨体を両断した。

「・・・まずは一匹」
新たに打ち直した‘聖ナタリアの鎧’を纏った‘灼熱伯’キンラーセンは、その口髭を揺らすと、‘動輪剣’を振り払った。
358:拾郎:2016/03/22 17:23No.810
続き

‘感染’の影響は、ガザルド本人にも影響を与える。
自分の精神の‘三分の一’が、死亡する感覚。
-慌てるな
ガザルドが自分に言い聞かせる。
-まだ、俺の‘命’は二つある
言い聞かせるが、二体のイエティは、焼き斬られた死骸を前に、僅かに後ずさる。
火を恐れるイエティの本能か。
ガザルド自身の恐れか。
ボウッ
その背後に炎の壁が出現する。
-ひっ!
AFでも錬金術でもない、油に火をつけた単純な炎の壁だが、動揺したガザルドは、炎の壁を避けるように、二体のイエティを左右に散らす。

「ハッ!『北の教会』は手形も通行料を要らないけどよ!」
威勢のいい濁声と共に、炎の壁が跳ね上がる。
防寒シートを被り、全身に枯葉と獣の匂いを擦り付け、雪原に潜伏していた男-ギムオン・ラウダ-が、‘油を這わせた鎖’を空中に向け放った。
「‘ただ飯食い’だけは許さねえぜ!」
炎を纏った鎖が、一体のイエティを絡み取る。
イエティが暴れる度に火油が飛び散り、逆立てた前髪や修道士服を焦がすが、グムオンは構わず右腕に装着したAF‘慈悲無き輪胴’を発動させる。
ギュイイイイン!
雪原に脳髄まで響く金属音を撒き散らかしながら、巻き取り胴(リール)の円状ドラムを回転させ、巨獣を絡め取った鎖を巻き上げる。
「どおらぁぁぁ!」
超重力級の獲物が撒きついた鎖を、歯を食いしばり、脂汗を浮かべ、右腕の腱が切れる音を聞きながら、地上に叩きつける。
「喰った分だけ、駄賃を払いやがれ!」

同時に、銃声。
銃型AFケルベロスより放たれた第二種特化弾‘火炎炸裂弾’は、イエティの毛皮と筋肉に弾かれる事もなく、貫く事もなく、体内に侵入し炸裂した。
雪原の大木に、岩盤に、肉片が散らばる。
「おい!・・・つり銭が多き過ぎるぜ、エムレ・ゼラード!」
自らも返り血を浴びたギムオンが、城壁の上で銃を構えるエムレに声を荒げる。
「やかましい!だから俺は手伝いは要らないって言ったんだ」
鎖を城壁に引っ掛けると、リールを巻き上げ城壁へ上るギムオンに、エムレは怒鳴り返す。
「へっ」
城壁を登りきったギムオンが片手を上げると、エムレも右腕を挙げた。

「ふんっ!」
バシッン!
舌打ちと掌が交差するのは、同時であった。
359:拾郎:2016/03/22 17:25No.811
-おかしい
-こんな事は、許されない
残り一つとなった‘命’。
分が悪い。
‘聖鉄楯’と‘灼熱伯’と‘鎖使い’と‘炸裂弾’
イエティと言えども、一体でこれらを相手にするのは、分が悪い。
すぐに‘感染’を解除し、このイエティは投機するべきだ。
だが、ガザルドは‘安全’と、‘欲望’の間で揺れ動いている。
目の前には、明らかに動きの悪くなった‘湖畔の英霊’
平手で叩きつければ、細細工の体は分解するだろう。
-ライナス・バルグの自動人形を潰した。
それだけでも大きな恩賞に値するはずだ。
洗礼長エルロイドも。
天空伯ウルライヒも。
調停者ベルザインさえも。
最大の賛辞を持って、迎えるはずだ。
-後一撃だけ。後、一撃で終わる。
-そうすれば、この危険な領域における‘感染’は解除する
-手柄を上げ、逃げ切れる
最終的には‘欲望’が勝利した。
雪上を走り、全体重を乗せた掌底を‘湖畔の英霊’に叩きつける直前に、

「ようやく、動いていいのかしら」

‘湖畔の英霊’が喋った。
-えっ
直後、‘湖畔の英霊’が身につけていた仮面と、手にした‘槍’の穂先が外れる。
‘槍’の先端から展開された‘光の刃’が振り下ろされる光景が、洗礼者ガザルドが、この世で見た最後の光景となった。

転フェイズ④に続く

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