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転フェイズ④

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転フェイズ④

『北の教会』古城城壁内 北東の中庭 通称「訓練・修練場」
広く石畳が敷き詰められた空間で、二つの巨漢が接近戦を繰り広げていた。

ブォン!
屈めた頭部の真上を、‘岩塊’が通過する。
直後にアズールは、斧刃部が微振動により発光する槍斧型AF‘エイバムの柱’を、‘岩壁’に叩き込む。
アズールの強靭な膂力を持ってしても、両腕が震える程の衝撃。
‘岩壁’は、指の先ほどの欠片を撒き散らかすが、それだけだ。
再び‘岩塊’が頭部に振り下ろされる前に、アズールは地面を蹴り、後退。
仕切り直すと同時に、自分が対峙する‘硬岩’と‘増力’の奇跡を発動させた多重洗礼者を‘見上げた’。
大柄な体格のアズールの、二倍近くの身長。
全身は岩で覆われ、胴より太い手足が伸び、突起物のような頭部は辛うじて目と口が判別できた。
振り回す両腕は戦槌のような重量感を秘め、かすっただけで人間の頭部など果実のように粉砕するだろう。
太く短い足での移動は、外見からは想像できない程、素早い。
まさに、暴れまわる巨大な岩を相手にしているようなものだ。
驚異的な防御力と、驚異的な攻撃力を同時に有する‘岩人’

だが、‘エイバムの柱’を再度構えるアズールには悲壮感はない。
確かに‘岩人’の動きは素早いが、拳による攻撃は、全て大降り。
よけるのは難しい事ではない。
拳を避け、小振り、中振りで振るった‘エイバムの柱’を岩壁のような脇腹に叩きつける。
微振動による‘粉砕’を発動させた‘エイバムの柱’を持ってしても、指先大、拳大程度を‘削りとる’のが精精だが、アズールは何万回かかろうとも、‘エイバムの柱’を振り続ける覚悟だ。
ルナン司祭より作戦を伝えられた際に、覚悟はすぐに決まった。
『北の教会』には、‘エイバムの柱’以上の打撃力を誇るAFは存在しない。
そして、いつもアズールの後方に控え、的確な情報分析を行っていた‘自動人形’も、既に存在しない。
「だから、何度でも振おう!我が腕は、決して折れない鋼の腕なり!」

一方で‘岩人’の動きは、僅か仰け反った後、変化した。
右肩をせり出し、左足は背部より後ろへ。
「‘構えた’だと?」
強靭な防御力と攻撃力にものを言わせ、無造作に暴れるだけだった‘岩人’が、‘構えた’
直後。
打ち出された砲弾のように、‘岩人’が至近距離から突進する。
初速から、最高速に達する突進だ。
「ぬっ!」
横飛びのような姿勢で身を投げ出し、辛うじて身をかわす。
‘岩人’は避けたアズールの背後に位置する訓練用の武具を収めた武器庫へ‘撃ち込まれる’
轟音と共に、城壁と同じ甲武岩で組まれた武器庫が積み木のように崩れ去る。
城壁を破壊した‘高高度からの自由落下’に匹敵する攻撃力。
悠然と、撒きあがる粉塵の中、再度‘構え’る巨大な影を確認すると同時に、アズールは己の失策に気付く。
アズールの背後には古城の本城。
城の中心部には、自らの意思で残留を決めた非戦闘員達がいる。
例えば、薬草師の少女カティ
例えば、介護尼僧ルシエ。
戦闘開始時には、最も安全である城の中心部へ退避しているが、この‘岩男’の突撃力は規格外だ。
-避ければ、彼女たちが危険に晒される

「・・・状況は理解した」
-正面から、迎え撃つ
スッと、両肩の力を抜き、落とす。
‘エイバムの柱’の刃で前方を捉え水平に向けると、両足を大きく広げ、腰を落とす。
握柄の最後部を握り、大きく振りかぶる。
その様は、大地からそびえる不動の巨木。
アズールが、‘渾身の一撃’を放つ際の最適な構え
ミシリ。
アズールの足元で、石畳が軋み音をあげる。
そして。
ドォン!
轟音と共に、‘岩人’が自らの体をアズールに向かって、‘撃ち出す’
「おおおお!」
眼前に迫る巨大な岩塊に対し、アズールは爪先から、膝、腰、腹部、肩、腕へと連動させた力を‘エイバムの柱’へと伝え、‘渾身の一撃’を振り下ろした。


 

363: 拾郎:2016/03/23 14:53 No.815
~ ◇ ~ ◇ ~ ◇ ~

‘力自慢’だが、他に取り得のない、無害な男。
それが、故郷の村にいた時の、アズールの風評だった。
善良だが無愛想、冗談も通じない堅物。
せめて器用さか、要領の良さのどちらかがあれば、職の選択枝も広がったが、生憎大柄な体格にはどちらも詰まっていなかった。
初等学院を出た後は、必然的に土木作業の下働きとなった。

それは、村の教会の改築工事の時に起きた。
教会の尖塔の周囲にくみ上げた足場が崩れた。
崩れ落ちた木材の下で、数人の職人が呻き声を上げていた。
『しっかりしろ!』
駆け寄ったアズールは、幾重に重なった木材を、力まかせに取り除いていく。
『鐘楼が、崩れるぞ!』『逃げろ!』
教会を訪れていた司祭が、叫びながら駆け寄ってくる。
直後、尖塔の頂部に釣られていた大鐘が落下した。
至近距離から落下する巨大な鐘を前にした際、アズールは死を覚悟するよりも早く、反射的に手にした木材を突き上げる。
全身の無駄な力を抜き、残った純粋な力を集約させた、突き。
村中に響く大音量の鐘の音が空気を振るわせた後、十メトルーほど離れた畑に、大鐘がめり込んだ。

『・・・怪我はないか?』
駆け寄ってきた司祭が、両肩で荒い息を吐くアズールに歩み寄る。
三十代半ばの落ち着いた眼差しと優しい声色を持ちながら、どこか厳しさを残した表情。
『後で少しだけ、私の話を聞いて欲しい』

それが、後に師となるイルドルフと、アズールとの出会いであった。

~ ◇ ~ ◇ ~ ◇ ~

衝撃。
‘岩男’の右肩が砕かれ、右手が地面へと落ちる。
大小の破片を飛散させ、細かい亀裂が全身に走った。
一方、‘エイバムの柱’も弾かれ、アズールも大きく仰け反った。
力と力の激突の結果、押し負けた
左足が後ろに泳ぎ、無防備な姿を‘岩男’に晒す。
‘渾身の一撃’を放った代償。
残された選択肢は、確実な死。
振り上げられた‘岩男’の左腕が、アズールの頭上に振り下ろされた。

~ ◇ ~ ◇ ~ ◇ ~

『あの時、お前を異端審問官へ誘ったのは、その体格でも、剛力を見込んだからでもない』
審問官へと昇格し、第七課に配属された後、イルドルフは穏やかな口調で語った。
『お前が誰よりも優しかったから、私はお前に声をかけた。その優しさ故、‘何かを守るとき’、お前の力は極限まで研ぎ澄まされる。
その優しさがお前の武器だ、アズール・バール』

~ ◇ ~ ◇ ~ ◇ ~
後方へと泳いだ左足が、石畳を踏みしめる。
「・・・ここで、退くのか!」
不甲斐ない、自分への叱咤。
仰け反った‘エイバムの柱’を頭上で半回転。
左足を軸に体を入れ替えると、初撃とが左右対称ながら、全く同じ構えとなった。
振り下ろされる左拳は眼中に入れず、砕けた右肩へと振り下ろされる二撃目。
「踏み込め!」
自分への号令と共に、渾身の一撃が放たれた。

全身に亀裂が走り、砂状の粒となり崩れ去った‘岩男’に対し、十字を切ろうとして、アズールは右肩が動かず、激痛を放っている事に築いた。
頭部には届かないが、右肩は砕かれていたらしい。
名前も知らなかった‘岩男’の、せめてもの意地。
左手で十字を切り、短く黙祷すると、アズールは‘エイバムの柱’を握る。
左手一本だろうと、仲間は救える。
‘エイバムの柱’を担ぎ上げると、アズールは力強く走り出した。

転フェイズ⑤に続く

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