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転フェイズ⑤

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匿名ユーザー

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「思い出しわ。・・・ルナン、ルナン・クライトス。名前まで地味だから、すっかり忘れていたの」
『北の教会』南西の中庭で、片刃の剣を構えるルナンに対し、‘暴風の女王’が、細い顎に片手を当て、含み笑いを漏らす。
毛皮のコートで身を包んだ全身が、地上より僅かに浮遊していた。
全身を包み込む球状の‘暴風の障壁’。
気流を変化させる事で、飛び道具による攻撃を確実に逸らす、防御結界。
近接戦闘による本人への直接攻撃は有効だが、そのためには、‘暴風の女王’の指先より連続で放たれる‘風弾’‘裂風’をかわさなくてはならない。
奇跡的に間合いを詰められたとしても、自ら操る風により‘暴風の障壁’ごと上空へ浮上してしまう。
-中・遠距離の広範囲型、不得手な近距離は飛行能力により回避する
それが、全身の裂傷と打撲と引き換えにルナンが掴んだ‘暴風の女王’に関する結論だった。

「ルナン、ルナン、ルナン・クライトス」
‘暴風の女王’は、弄ぶかのように、何度もその名前を舌の上で転がす。
「逃げ回るのは、お上手だったわ。‘ウサギ追いゲーム’の相手としては悪くは無かったわよ、
さすが‘元’法王庁第六課課長、そして現『北の教会』の執政代理・・・」
そこで、一度言葉を切り、中庭の石畳の上に足を着く。
そして。
「うるさいんだよ!私が話しているだろ!」
ヒステリックな叫びと共に、天へと向けた両腕から、視認できるほど‘空気の捩れ’が放たれる。
撒き散らかされた硫黄の臭気に混乱したグリフォンの群れの羽音と鳴声が渦巻く上空に向けて放たれた、特大の‘旋風’。
その捩れた大気の上昇気流は、有翼の大型魔獣グリフォンの群れを、さらに上空へ巻き上げた。
突如発生した乱気流により、グリフォンの背に乗っていた騎手が数人、振り落とされ地上へと落下するが、同時に上空に立ち込めていた黄色かかった硝煙を吹き飛ばしていた。

「少しは静かになったわね。さて、話の続きよ」
遠ざかったグリフォンの群れを確認すると、さわやかなそよ風と共に、再びその体が浮き上がる。
「‘再生官’なんて呼ばれているけど、第六課課長時代は、部下四人を一度の任務で死亡させて壊滅状態に陥らせたのは、ただ、‘運が悪かった’せいかしら? でも・・・」
嗜虐的な光を目に宿らせながら、‘暴風の女王’は言葉を続ける。
「『北の教会』まで壊滅させたら、正真正銘の‘能無し’ね」
もう一度、顎に手をあてて、‘暴風の女王’は笑う。
今度は含み笑いではなく、相手を侮辱し挑発する、高笑いだ。
 


 

368: 拾郎:2016/03/24 17:25 No.820
「今の言葉に間違いはない。よく調べているではないか。それならば・・・」
一方のルナンは静かに答える。
その表情には、屈辱も焦りも浮かんでいない。
「当然、俺の能力についても、調べているのだろう?」
その右手に握っていた剣を、正面に向ける。
柄だけで刃はない。
先ほどまであった刃が、消失していた。
「・・・刃はどうした?」
「さあ、ゲームの続きをしよう。
・・・その前に、ルールの確認を、俺の能力‘灰は灰に(アッシュ・トゥ・アッシュ)’の確認をしておこうか」
まるで部下に任務を説明するように、明瞭な口調でルナンは語りかける。
「‘灰は灰に(アッシュ・トゥ・アッシュ)’の能力は、‘灰となったAFの再組成’。
ただ‘再生’するのではなく、‘組み替えて精成する’というのが、ポイントだ」
「刃はどうしたと聞いている!」
「構造を理解したB級AFまでであれば、瞬時に再組成できる。・・・例えば、‘剣’から‘矢’を」
すうっ
柄を持ったルナンの右手が水平にながれる。
シュッ
ルナンの右手側の城壁より突如出現した一本の矢が、‘暴風の女王’の左側面へ向け、飛突する。
‘暴風の障壁’により矢の軌道は変化し、斜め上方へと逸らされるが、‘暴風の女王’の眉間に僅かに皺が刻まれた。
「例えば、‘剣’を‘槍’に」
柄を下から上へ。
ボシュッ
‘暴風の女王’より右前方に五歩離れた位置に、地上より三本の槍が直立した。
「この中庭にはあらかじめ十三種類のAFの灰が撒かれている。立ち位置と角度。この二つ以外にも条件はあるが、‘風の障壁’を貫くAFの再組成は不可能ではない。
ルール説明は以上だ。
女王様がウサギを掴むには、巣穴に手を入れなければならない。
ただし、巣穴にはウサギ以外にも蛇と毒蛇が・・・」

「ごちゃごちゃとうるさいんだよ!」
再び、‘暴風の女王’はヒステリックに叫ぶ。
眉間以外にも目元と口元に皺を刻み、複雑に結んだ髪は逆立っていた。
「、要は全てを吹き飛ばせばいいことだ!灰も、建物も、そしてルナン・クライトス!貴様もな!」
石畳の上に降り立ったその体を中心に、‘旋風’が発生する。
「その通りだ。・・・だが、出来るかな?」
「なぁめえるぅなぁっ!!!」
絶叫と共に解き放たれた‘疾風’が全方向に放出された。
暴力的な圧力を伴った暴風が、南西の中庭に積もった雪や土砂を巻き上げる。
周囲の建物の窓は割れ、扉が吹き飛ぶ。
‘暴風の女王’は、嵐の中心部で高笑いを上げた。
「どうだ、ルナン・クライトス!このまま全て吹き飛し、『北の教会』も崩壊・・・」
「は、させない」
地表を這うような超前傾姿勢で走り寄ったルナンは、右手に握った柄から片刃の刃を伸ばし、‘暴風の女王’の右脇から左胸にかけて、切り裂いた。

「狙っていたのね。・・・私が‘旋風’を使う瞬間を」
「‘広範囲攻撃’を行う際には、必ず着地姿勢をとっていた。接近戦を挑めるのは、この瞬間しかないと思っていた」
「・・・どこまでが、脅し(ブラフ)だったの?」
「‘灰は灰に’の能力説明は本当だ。ただ、この二週間は特A級AFの再組成に掛かりきりでね。正直、今はC級AFの再生も厳しいところだ」
手にした剣を振るうと、仕込刃が柄へと収納され、伸張する。
機械的な仕掛による収縮。
‘矢’も‘槍’も城内戦闘を想定して設置した、ルナンがサインを送る事で罠担当が手作業で発動させる、仕掛罠だ。
「・・・挑発をしていたつもりが、誘い込まれていたのは私の方だったのね」
「準備した対策の一つだ。・・・君が地上に降りる事がなければ、別の方法を使うつもりだった」
-他に言い残す事はないか
仰向けに倒れた‘暴風の女王’に、ルナンは視線で呼びかける。
「・・・一つだけ、私の体は、焼いた後、風に撒いてほしい。・・・‘暴風の女王’が、死んだら土の下なんて、格好がつかないもの」
「・・・分かった」
穏やかな表情で答える‘暴風の女王’の言葉にルナンは頷くと、片刃の剣を振り下ろした。

転フェイズ⑥に続く

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