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地下尖塔編:後編

最終更新:

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
【書き直し:後編】


「ははっ、凄いね」
最下層の扉を潜ったベルザインは、子供のような感想を漏らした。

大聖堂に匹敵する広大な円筒状の空間、
壁面に埋め込まれた蒼灯石が発する淡い光に照らされた空間は、均等な感覚で足場が三層に渡って組まれている。
床材・壁材には、錬成印の安定化を促進するヤドリ木製の木材が使用されており、最下層に固定化された幾何学状の三重円錬成印と合わせて、円筒の内側すべてが、巨大な錬成陣として機能する構造となっている。

「量子傾性学を、君たちは‘錬金術’と呼んでいたかな。
ここまで、精密に使いこなすなんてね」
ベルザインが手にした‘本’の表面に、無数の文字が浮かび上がり、
目視で確認した情報を瞬時に翻訳・記録。
大脳皮質の知識保存領域へと転送する。

「第一陣錬成で空間形成、第二陣で反転させ、‘門’を広げる」
円筒全体の錬成陣に視線を送り、翻訳された情報を分析し言葉にする。
隣に立つ女性に聞こえるように。
「第三錬成で、空間座標を指定。ただし、座標の指定は時間軸にも及ぶ。
・・・付加錬成式はすっとばしたけど、基礎構造だけ抜き取れば、こんなところかな?」
「ご明察の通りです。流石ですね、‘調停者’ベルザイン」
真紅の導師服に身を包んだ女性が、眼鏡を抑えて頷く。
「これは、凄いよ。天才、と言っていいかもね。
‘ボクの時代’を含めて、‘時間遡航(タイム・ベント)’を完成させた人間はいなかった。
理論上はまだしも、実用段階まで漕ぎつけるなんてね。
君は旧世紀も含めての、歴史に名を刻んだよ、キスリング導師」
「大した事では、ありません。」
頭部を覆うフードの留め具を外すと、やや彩色を失った金髪が眼鏡に掛かる。
その姿は彼女の師を連想させた。
「私の師が、アニエス様が基礎理論は完成させていましたから。
‘時越えの錬金術師’の遺産を、私は再現したに過ぎません」
「・・・謙遜だよ。
それより、研究はまだ続けるんだろ?
この‘積層型多重錬成陣’を稼働させるには、まだまだ外部エネルギーが必要だね。
君が望むなら、ボクの研究施設を提供するけど」
‘アニエス’の名前が出た際に、ベルザインは細い眉を僅かに動かしたが、既に元の口調に戻る。
「お断りします」
「君が、自分から扉を開けて、この錬成陣をボクに見せてくれたのは、受け入れてくれたものだと思ったんだけどなぁ。
いい話だと思うけど?
君にとっても、ボクにとってもね」
「断る理由は二つあります」
キスリングは微笑みを浮かべて答える。
「一つ。貴方の提案を飲む事は、反吐を飲む事と同一です」
ベルザインの細い眉が、今度ははっきりと動いた。
「二つ。私は‘時越えの錬金術師’ではありませんが、‘時間稼ぎ’は出来ました」
「・・・何だって?」
ベルザインは振り返る。
キスリングの戦闘能力は、ベルザインの脅威にならないと判断していた。
では、この背後に生じた敵性反応は・・・。

「今です!フランク・ラパード!」
 
8:拾郎:
2019/11/13 (Wed) 18:14:02
 
迸る閃光。
そして、残光。
わずかに遅れて、フランクの巨躰が石床に落下した残響。

背後から襲いかかったフランクだが
ベルザインは振り向きもせず、強烈な閃光を放ち、強襲するフランクに直撃させた。

「‘寄生植物’が全身に繁殖する前に、自分の腕を引きちぎった精神力は褒めてあげるけど・・・」
‘本’と連動した索敵・分析用の‘見えざる眼’は起動中だ。
座標は、この空間における最大の脅威であるフランクに固定。
‘見えざる目’は、ベルザインの網膜に分析結果の情報が投影し、危険を察知した際には迎撃用の‘物言わぬ口’が同時起動する。
結果は、
-音響反応、確認 生体組織の炭化による崩壊音のみ。

「‘死角からの物理攻撃’程度では、ボクに対する不意打ちにはならないよ」
-熱源反応、確認 穿たれた胸部を中心に生命活動の停止による温度低下。

「・・・‘時間稼ぎ’の結果は満足かな、キスリング君?」
-生体反応、確認 反応無し。
すなわち、フランク・ラパートの心臓は完全に停止した。

「見た目は怖いですけど・・・、フランクさんは優しいんです」
首元まで下げていたフードで再び頭部を覆いながら、キスリングは答える。
まるで喪に服すかのように。
「誰にでも、同じように接する事ができる方で、私に会うたびにいつも冗談や軽口ばかり話してくれて・・・ですから」
フードの奥で、キスリングの眼鏡が冷たい光を放つ。
「満足しています。・・・彼が望んだ結果になって」

同時に。
‘見えざる眼’が緊急起動。
情報の多さにリミットがかかり、優先度の高い‘警告’を投影。
‘警告’-熱源発生発生、なおも上昇中
‘警告’-丙種量子傾性反応あり
‘警告’-予測損傷率7%に上昇
「なんだ!?」
その警告量の多さに、ベルザインの網膜は真っ赤に染まる。

『知らなかったのか、ベルザイン』
穿たれた胸の奥で、停止していた心臓が力強く鼓動を再開。
押し出された血液が、新たに血管を、筋組織を再生する。

『俺に移植された二対の魔獣はな、・・・戦闘力向上のためじゃない。』
曲がった足で石床を踏み込むと、骨折箇所は瞬時に接合。
『‘封印’なんだよ・・・お行儀の悪い‘三体目’を目覚めさせないためのな』
脚部は、高密度の骨格更に延長し、その上から強靭な筋組織が、さらには銀色に輝く外費覆っていく。

『‘封印’は、俺を含めた‘三体’の生命活動が停止しなければ、解かれない。
遊び相手を探していたんだろ?
 ・・・俺が紹介してやるよ、ベルザイン。俺の命と引き換えにな。
 ・・・しっかり遊んでやりな、甘えたがりの‘三体目、とな』
炭化した体皮が剥がれ落ち、その下から強靭な肉体を覆う甲皮が鈍く光る。
その姿は、魔獣というより‘騎士’に似ていた。

ー異形の鎧を纏し歪な騎士。

「なるほど、‘混濁の魔獣’が自生したんだ。
 廃棄品が生き延びていたも不思議じゃない。
 ・・・こんなところにお目にかかるとは思わなかったけどね」

‘だから、面白い’
いつもの笑みが、ベルザインの頬に浮かぶ。
9:拾郎:
2019/11/20 (Wed) 23:18:54
 
③ネーム掲載

「そろそろ'答え合わせ,の時間にしようか」
三体目の魔獣:両腕を無造作に振るうと、様々な遠距離攻撃
ベルザイン:広大な円筒空間を自在に飛び回り、三体目の魔獣の攻撃を回避

「君の能力を一言で言えば、'元素変換,。・・・この斬撃波も、異常な再生能力も、周囲の元素を'賢者の石,に匹敵するレベルの変換で生み出している。・・・混濁の魔獣が『自分を作り替えることで、進化する能力』に対して、君は、『周囲を作り替えることで、適応する能力』、当たっているかな?」
範囲攻撃がベルザインを捉える。
ベルザイン周囲の障壁に弾かれる。

「まさに'凄まじい,能力だけど、重大な欠点がある。『環境を適応させた』後、君は永い冬眠に入ってしまう。
一度眠りについた君は、宿主の重大な損壊が発生するまで眠り続ける。
・・・次の目覚めはいつになるかな?」
ベルザイン、‘本’の操作により、『氷の監獄』を発動させ、静凄の魔獣を包囲する。
「では、次の朝までごきげんよう」
氷の監獄が、収縮し、三体目の魔獣を閉じ込た


「そろそろ、答え合わせの時間でよろしいですか?」
一連の流れを見ていたキスリング。
「・・・何の答え合わせかな?」
「貴方の能力ですよ、調停者ベルザイン」
「聞こうか」
「'世界創造,に使われたという24AF。あるいはその復元技術」
「・・・復元じゃない。ボクが携帯可能な領域まで再設計したんだ」

・飛行は、重力制御
・植物化は、生態制御
・光条は、気外通信
・防御障壁は、大気制御
・そして‘本’をそれらを束ねる制御システム

「どちらにせよ私達から見れば、遺失技術ですが、意外ですね。
混乱による調和を謳う調停者様が、随分と堅実な技術をお使いになのですね」
「ようやく分かったよ。・・・優秀だけど、可愛いげのないところは、アニエスそっくりだ」
「買いかぶりです。アニエス様なら・・・」
キスリング:右手で錬成印
「もっと上手に仕込みます」
氷の監獄に亀裂が走る。
厳密には、キスリングの時空錬成により発生した『空間の断裂』により、三体目の魔獣、復活。
 
 
13:拾郎:
2019/12/15 (Sun) 19:14:37
 
③変更案

強襲を仕掛けた三体目の魔獣に対し、ベルザインの選択は
-‘裁きの雷’-起動。

‘本’から照射された三枚『発光する紙面』がベルザインを中心に三角形を描く
その中心にから放出された極小の負粒子が、三段階の圧縮作用により、瞬時に加速。
空気摩擦により発光し、‘光の奔流’となる。
接触したあらゆる物質の原子活動を停止させる閃光は、物質的な防御ではいかなる強度を誇ろうと、防ぐ事はできない。
‘裁き’を受けた対象は、原子結合の停止により、同質量の‘塩の柱’と化す。
神話の時代-外宇宙星間航海時代-において、絶大な効力を発揮し、現在においては、ベルザインのみが使用可能とする、絶対の攻撃手段。
有機体がこの一撃を防ぎきった記録は、星間航海時代に遡っても存在しない。
 
―はずだった。

‘三体目の魔獣’が前方にかざした右手。
瞬時に原子活動を停止させる ‘裁きの雷’を、右手一本で受け止める。
―形相変換システムの起動を確認
―圧縮率97%
‘見えざる目’が転写する解析情報が、ベルザインの片頬を歪ませる。
「こちらの攻撃を直接変換している、ねえ。でも・・・」
直後に更に出力を上げて放出した二撃目、三撃目の‘裁きの雷’が‘三体目の魔獣’を直撃。
「どんなに優秀な変換効率でも、過負荷の限界値を越えれば、回路破綻(バースト)するしかないよね?」

‘三体目の魔獣’の掲げた右手と、‘裁きの雷’が接触した空間に虹色の光芒が発生する。
一瞬ながらも強烈な光は、周囲の陰影を反転させ、‘魔獣’の本影を飲み込んだ。
全身が光の中に消え、直後に虹色の光芒も消える。
同時に-
‘魔獣が走る。
騎士甲冑にた全身を一瞬、軋ませた後。
その右足が一歩を踏み出し-
加速する。

「‘音響加速’だって?」
相手の初動をとらえ切れず、迎撃反応が僅かに遅れる。
戦闘用知覚領域を作動させているベルザインが、‘後手に回った’。
あの‘湖畔の英霊’との至近戦闘でさえ、‘見切り’が可能だった。

それが、今。
鋼鉄の弾丸と化した‘静凄の魔獣’は、受動防御による全方位に張り巡らせた電磁障壁と接触するが、虹色の光芒を撒き散らせた後、突破。
反応が遅れたベルザインの右胸に、
-拳を叩き込む。

「こ、こいつ!」

『中間戦域-緊急確保』
-重力制御システム-稼働
‘見えざる目’が、強制起動させた重力制御システムにより、ベルザインの体は‘三体目の魔獣’の拳を掠め、空中へと急速浮上。
中空に‘立ち’、自分の右胸を撫でる。

「このボクに一撃を与えた事は素直にほめておくよ。だけど・・・」
耐衝撃緩衝能力を備えた長衣をものともせず、ベルザインの体表は抉られ、胸部に埋め込んだ‘竜水晶’が剥き出しになっている。
-自己修復システム-起動
「キミの手札はこれで終わり。これからはボクの番で異論はないかい?」
ベルザインの頬には笑みが張り付いたままだ。
だが、その口調は対峙前に比べて明白に早口になっている。

緑淡色の発光を放つ‘竜水晶’を押し戻しながら、ベルザインは無軌道浮遊。
‘三体目の魔獣’と一定の距離を確保する。
「異常なまでの容量を誇る形相変換能力と、反応速度か。強化外骨格か、半物質再生機あたりが種明かしかい?・・・教えてくれなくてもいいよ。こちらで推測する、楽しみが増えるからね」
右手と左手での前に‘発光する紙面’が浮上し、、‘圧縮波’と‘重振動’を同時起動。
僅かに目を細め笑うと、眼下の‘静凄の魔獣’を見下ろす
「さあて、何から試そう・・・」

その時、僅かに身を沈めた‘三体目の魔獣’が。
-跳躍する。

「!?」
‘圧縮波’と‘重振動’で迎撃するが、対象を一瞬で破壊する一撃は、鋼鉄の表面に虹色の光芒を発生させたのみ。
重加速によりかろうじて回避。
同時に、‘三体目の魔獣’は、円筒空間の壁を蹴り、空中で方向転換。
無軌道移動をするベルザインに追いすがる。

「・・・‘腕ずもう’がしたいのかい!」
重力制御を強制解除したベルザイン地上へと落下。
上空から追いすがる‘静凄の魔獣’に対して、全防御壁を最大稼働
‘三体目の魔獣’は、虹色の光芒を放ち、ベルザインを目指す

「さあ、存分に力比べと行こうじゃないか」
―電磁障壁、展開
―重力障壁、展開
―空間変異障壁、展開
ベルザインの戦術思考に反応した‘見えざる目’が、三重の防御壁を稼働。
‘三体目の魔獣’が領域に到達すると同時に、各防御壁の出力を最大域に上昇。
いずれも触れるだけで、対象を破壊する防御壁に、‘三体目の魔獣’が上空から最大速で突入する。
三重の防御壁を突破する時間は、僅かに数秒。

その数秒で。
「力比べはキミの勝ちだけど・・・」

ベルザインは有効手段を検索し、仮想意識領域がでシュミレーション。
有効性を算出後、即座に実行。
「種明かしは見せてもった」

勝利を確信する。
「ボクの勝ちだね」

‘三体目の魔獣’の拳が眼前に迫り、
-そして、止まった。
14:拾郎:
2019/12/21 (Sat) 18:00:54
 
>>13の続き

「‘形相変換’は、君にとって食事と同じ。
自身の存在維持に不可欠な活動だ。
言い換えれば、キミは形相変換が可能な場所でしか存在できない
ところがボク達の世界にはキミの存在を許すほどの高濃度の形相変換が発生しない
つまりキミは‘ボク達の世界’では存在できない・・・はずだった」
微動だにしない‘三体目の魔獣’の胸部装甲を、ベルザインは軽く撫でる。

「本来なら‘餓死’するしかないキミだけど、フランク・ラパードとの融合により、強制的に‘冬眠’状態にあった。常態的に大質量の形相変換が必要な相手と対峙する時のみ、君は覚醒する。例えば、このボクみたいなね」
いかなる攻撃を受けてもヒビ一つ入らなかった装甲が、その一撫でパラパラと崩れ落ちる。

「確かに、‘箱舟人’であるボクが使う技術は、‘形相変換’が応用されている。
・・・特に疑似24AFの発動には‘形相変換’が不可欠だ
キミにとっては、最高の餌でだろうし、キミはボクに対しての‘一回だけ使える、最大の切り札’だけど、残念だね。ほら・・・」
自身の襟元を捲ると、再生途中の右胸元を見せつける。
傷口から‘竜水晶’は覗いていたが、緑黄色の発光は停止していた。
「餌になる形相変換がなければ、君の活動能力は著しく制限され・・・、さらに」
はがれ落ちた胸部装甲の隙間より、右袖口より取り出した薬瓶の封を切ると‘賦活’酵素を注入。
かつて殲滅軍師と呼ばれていた時代には、‘死者蘇生の秘薬’と呼ばれた‘賦活’酵素により、フランク自身の体組織が再生していく。
異形の騎士の外部装甲は剥がれ落ち、対照的にフランクの生身の体がされていく。

「フランク・ラパードが覚醒すれば、彼の生命活動が優先され‘キミ’は
、また眠りにつく。・・・おそらく、次は目覚めることはない。
おやすみ、お別れだ」
大きく全身を脈動させ、‘フランク・ラパードの姿に戻っていく‘三体目の魔獣’に対し、ベルザインは微笑みを浮かべ語り掛ける。

「とはいえ、キミの活動には敬意を表するよ。このボクを、少しだけ驚かせた事にね。
だから、最後にキミの本当の名前を教えてあげるよ」

「‘ブレイブ・ソウル’。・・・次は‘キミの世界’で目覚める事を祈ってねむるんだね」
異形の騎士、‘ブレイブ・ソウル’の全身に虹色の光芒が躍り、やがて消えた。
 
15:拾郎:
2020/02/01 (Sat) 19:58:19
 

「時々、思う事がある」
 ベルザインは冷たい床材の上に崩れ落ちたにフランク・ラパートに視線を落とす。
 最早、その姿は‘異形の騎士’とはかけ反れたものだ。
 分厚い胸板。
 逞しい上腕部。
 最強の戦士として相応しい肉体だが、あくまで‘人間’としての最強だ。
 今は意識を喪失しているが、仮に覚醒しても最早ベルザインにとっての脅威ではない。
 ‘三体目の魔獣’は、‘ブレイブ・ソウル’は、この世界では目覚めることはないのだから。

「・・・‘友’とはなんだろう、とね。
互いに並び立ち、高め合う存在を‘友’と呼ぶと仮定すれば、ボクは‘友’を持つ事は叶わない。
・・・マキシミリアン。
・・・アニエス。
・・・イルドルフ。
・・・ライナス・バルグ。
そして、フランク・ラパード。
かつて、ボクに新たな刺激と好奇心を与えてくれる存在はいたが、誰もがボクに並ぶ事は無かった」

ベルザインは静かに目を閉じると、自身の脈拍数を確認。
胸元に埋め込んだ‘竜水晶’に、自身の全機能を再接続。
一度停止させたベルザインの‘箱舟人’としての能力が再起動するまで、約30秒。

「誰もが、ボクを一人にする。
 一度でいい。
 心の底から、その存在を認め、敬意を払う‘友’が欲しい。
 ボクの魂に、真の燃焼を与えて欲しい」

唯一無比の存在であるが故に、孤独。
全知不老であるが故に、欠損。
ベルザインの独白は、全て本心から出たものだ。
ライナス・バルグ。
フランク・ラパード。
ベルザイン自身が、その才能を認め、‘友’となる可能性に僅かな希望を見出し、そして失った。
その喪失感は、自身の予想を超え、孤独へと誘う。

「でも同情はいらないよ」

振り向きざま、右腕を一閃。
強化されたベルザインの身体能力は、‘竜水晶’の力を使用しなくても、常人の動きをはるかに凌ぐ。
背後から斬撃を見舞った相手の左胸を強打する。

「ボクは、‘今がチャンス’‘この瞬間に全てをかける’なんて思いで向かって来てくれる相手をね、叩き潰すのも・・・」
「かっ・・ハッ!」
「嫌いじゃないんだよ」
呼吸にならない呼吸を吐き出し崩れ落ちる相手に対し、ベルザインは口端を釣り上げ、目を細める。

「理解してくれたかい、キールベイン君」
16:拾郎:
2020/02/16 (Sun) 18:04:37
 
>>15続き


混濁していく視界の中で、ベルザインの浮かべた笑みだけが、はっきりと認識できた。
決して長剣の扱いは得意ではない。
だからこそ、最高のタイミングを狙った。
いや、最高のタイミングを待った。
-冷たく横たわる、物言わぬライナス・バルグと対面し、爆発寸前の感情を抑え
-フランク・ラパードの切り札、‘第三の魔獣’の解放を前に、加勢したい気持ちを抑え
その先にある、ベルザインが竜水晶を停止し、あらゆる能力を低下させる、千歳一隅のチャンスを待った。
だが。

「理解してくれたかい、キールベイン君」
-この圧倒的な実力差を
-キミたちがこれ程切り札を積み重ねても、ボクには遠く及ばない事を
ベルザインの嘲笑は、はっきりと語っていた。

~ ◇ ~ ◇  ~ ◇ ~

『で、その話、理解したのかよ、キールベイン』
何時の会話かは、覚えていない。
確か、異端審問官に任命されて間もないの頃だ。
初めての聖務で、同行してくれた、あの人との会話だ。
異端討伐の内容が、当初の想定より遥かに大きくなって、‘聖務放棄’の入電があった時だ。
異端審問局が定める聖務規程についての条文が長々とならんでいたが、

『一言でいえば、‘お前には無理だ’‘手を出すな’って事だ
・・・正直、俺もそう思うぜ。
他にも道があるはずだ。
逃げても仕方がない。
でも、お前は進もうとする
なぜだ?」
図太い輪郭を縁取る無精ひげを撫で上げ、からかう様な口調とは対照的に、その視線の億には、諭す様な静けさがあった。

-きっと、真面目で優しい人なんだな。
そう思ったのを覚えている。

-麓の村でのもらったスープが、とても暖かかったからです。
確か、そんな回答だった。
小さな幸せを生み出し与えられる人たちを、守りたい。
そんな思いから出た言葉だったが、回答としては不明瞭で、不十分だったはず。
-だが
無精ひげの下で、図太い笑みが広がる。
無骨の外見どおりの粗野な笑い。
だが、不思議と気持ちのいい笑みだった。

『なら、こう返してやれ・・・』
 
電報の返信機をキールベインから奪いとると、男は勝手に入力を始めた

~ ◇ ~ ◇ ~ ◇ ~


「理解するかよ!クソッタレ!」
震える膝を前へ踏み出し、
崩れ落ちる自身の上体を支え、
‘聖ナタリアの剣’の柄に巻かれた‘記憶形状環’を剥ぐ。
記憶した生体情報を再現する‘記憶形状環’は、かつてはアディール・ノウの若かりし肉体を記憶し、開放と同時に老体となったアディールに、全盛期の肉体を‘転写’した。
-今、‘転写’されるのは
真っ赤にやけた閃光が、地下空間を照らす。

-‘炎熱’の洗礼者ジグ・ブライドの絶技‘獄炎舞’。

解放された熱量は、キールベインが右手に構える‘聖ナタリアの剣’の刀身にて吸収される。
‘熱’を収束・増幅させる‘鉄道騎士団’に受け継がれた刀剣は、我が意を得たりと言わんばかりに赤く、赤く輝きをましてい。
 
「だけど、ね」
完全に想定内だよ。
ベルザインは、‘見えざる眼’が転写する解析結果に、薄く笑う
凡人が凡AFを積み込んだところで、凡手しか打てない。

‘聖ナタリアの剣’を構えるキールベインの右手に一条の線が浮かびあがると、その笑みが固まった。

「・・・そんなはずはない」
脅威レベルは、‘ブレイブ・ソウル’と比較すれば、遥かに格下だ。
だが、『あるはずのないもの』の存在が、ベルザインの判断を鈍らせた。
思考がその存在を否定する。
だが‘見えざる目’は、仮想意識領域での検索結果を、表示する。
ー‘マトレイヤの紋章’

‘AFを増幅させるAF’は、‘聖ナタリアの剣’の機能を増幅させ、刀身より地下空間を焦がす、灼熱の炎の本流に、ベルザインは我に返る。
必死で‘竜水晶’を再起動させ、防御壁の展開。
形成される大気の重化層が目の前に迫る刀身をはじく、はずだった。

ー間に合わない
ベルザインの防御壁の展開が、わずかに早い。
-だけど、諦めない
全身に全ての精神を乗せて、一檄を打ち込む、
同時に、剣を握る右手が、キールベインの意志とは無関係に、僅かに動いた。

―やればできるじゃねえかよ
-だけどな、もうちょい、上だ

防御壁が形成される最後の瞬間、わずかな隙間を灼熱の刀身が貫く、

「・・・ありがとうございます、ザックさん」
17:拾郎:
2020/02/16 (Sun) 21:44:05
 
「これは・・・いい状況とは言えないなぁ」

キールベインが放った業火の閃光は、ベルザインの左顔面から左脇腹から肩口まで一閃。
竜水晶'の稼働状況には問題ないが・・・。

「いや、よく考えるとマズいよね」

'竜水晶'に問題はない。
にも拘わらず、機能制限があるのは、脳に損傷を受けたためか
直後に、補助思考デバイスが、『身体に深刻な損傷を受けた』と判断。
ベルザインの身体を『上位執行者形態』へと緊急転移させ・・・

「困る。それは困る。今は「執行者」になるタイミングじゃない。ボクは今のままやりたいことは沢山残っている」

左目を抑え、'思考補助デバイス’の機能停止を図る。
だが、『身体の深刻な損傷』がある以上、生命活動の保護が優先されてしまう。

「仕方ない、撤収するよ
'退場の時間だ'」

足元に落ちた‘本’が、コマンドワードに反応、空間座標を送信。
直後に、『方舟』内の転移門と現座標が連結。
二対の‘光る紙面’が、ベルザインの背後の空に投射され、扉のような空間の裂け目が出現する。

「今日はサヨナラだ。まあ・・・楽しかったよ。」
「お帰りになるのですか、調停者様。
私でよければ、もう少しだけお相手致しますのに」

「心配りは感謝するけど・・・」
キスリングが両掌に発動させた錬成印に視線を送りながら、ベルザインは空間に揺らぐ扉の内側へと後退する
「また後で遊ぼうか
・・・・今日の予定はもう済んだしね」
横たわるライナスに視線を移し、笑みを浮かべるが、崩壊した頬はうまく動かない、
「だから・・・」
補助思考デバイスを抑制しつつ、‘本’を発動。
キスリングの眼前に出現した‘光紙面’が、キスリングの額に触れ、消える。
「!?」
脳裏に僅かな衝撃。だが、それだけだ:
「心配ない、次に遊ぶ約束をしただけだよ・・・まあね」、
口許に歪んだ笑みを貼り付け、空間の暗闇に、消えた
 
18:拾郎:
2020/02/24 (Mon) 15:08:23
 
 
19:拾郎:
2020/02/24 (Mon) 15:42:01
 
ピシッ!

ベルザインが虚空へと消えた後、地下空間に軋音が響いた。
ベルザインが使用した‘転移’により、空間が強制的に『繋がり」『開き』そして『閉じた』。
密閉された袋から空気を吸い出すが如く、地下空間が内側に向かって収縮を始める際に発する軋音だ。
間もなく、この地下空間は空気が抜けた箱のように、崩壊するだろう。

「はっ、うっ」
キスリングは膝をつき、深い息を吐き出す。
ベルザインと対峙していた極度の緊張から解放された反動で、全身が虚脱し力が入らない
空間が歪む前に脱出しなければ、と思うが思考がまとまらない
霞がかった頭の中で、不明瞭な思考を繰り返す。

―ベルザインが
 引いた
 逃げた
 逃がした?
 逃げてくれた?
 助かった
 私は生きてる
 死なずにすんだ

―違う
 ベルザインを討たなくてはならなかった
 『時間遡航(タイムベント)作戦』は、ベルザインに露呈した
 こちらの最後の切り札を知られてしまった
 知られた以上は、この場で決着をつけなければならなかった。

-ライナス課長を失った
 絶対的な指導力と冷徹な判断力により、『北の教会』をまとめ上げていたカリスマを失った
 この先どうなる?
 『ー』はどうなる?
 『北の教会』はどうなる?
 アスガルドの未来はどうなる?
 
-ベルザインは逃がしてはいけなかった
 刺し違えても止めなければならなかった
 ライナス課長も
 フランクさんも
 キールベイン審問官も命を懸けた
 私が死んでも
 ベルザインは、逃がしてはいけなかった

「・・・なのに私は」
-助かって、安心している
 
20:拾郎:
2020/02/24 (Mon) 16:15:16
 
「大丈夫ですか、キスリング導師?」

混迷していたキスリングに、手が差し出される。
焼けこけた神父服姿の青年は、‘聖ナタリアの剣’を杖代わりにし、火傷まみれの右手を伸ばす。

「・・・キールベイン審問官。私は・・・」
「僕を助けてくれました。お礼を言わせてください」
キールベインの言葉に、キスリングはハッと顔を上げる。
「貴方がいなければ、僕は何も出来ずに終わっていました。ありがとうございます」
キスリングの手を取り立ち上がらせると、キールベインは頷く。
「‘次’は頑張ります。だから、また力を貸して下さい」

「・・・そうね」
 キスリングは外れかけていた眼鏡を掛けなおす。
「‘次’は頑張りましょう。・・・大丈夫、一人で歩けるわ」
霧のかかっていた思考が明瞭となる。
一面の荒れ果てた荒野が現れるが、進むべき方向は分かる。
今は、それでいい。

身体のダメージと地下空間の崩壊までの時間を考慮し、キスリングは地上へと‘転移’する事を選択した。
横たわるフランク・ラパードの巨体を中心に、錬成印を展開。
キールベインと共にその内側に身を寄せ合うように、収まる。
錬成陣の奥の暗闇には、冷たくなったライナス・バルグとその傍らで傅く‘湖畔の英霊’
ライナスとの精神同調が停止した‘湖畔の英霊’は、急速な劣化が始まり、その仮面の表面はパラパラと崩れ始めていた。
砂状となった破片が、仮面の頬を滑っていく。

ーあなたが、泣いているのなら
主の棺を前に静かに泣く従者にも似た光景に、キスリングは静かに頭を下げる。
ー私は泣かないわ

「ありがとうございました、ライナス課長。イルドルフ課長と僕たちを見守っていて下さい」
錬成陣の光芒が完成し、三人を地上へと運ぶ。
後には、完全な暗闇が残された。




調停者ベルザインの襲来は、『地下尖塔の崩壊』と『ライナス・バルグの死』という結末で幕を閉じた。
『北の教会』にとって、『最悪の結末』と言う者もいる。
だが、それでも希望を持ち、先に進もうとする者達もいる。
閉ざされた扉を開けるべく、歩き続ける。

-アナザー・マグノリア 第一部・フェーズ2 完

崩壊が続く、地下空間
その暗闇に、赤い光が灯る。
やがて赤い光は脈動へと変わっていく。

ある者は知っている。
ベルザインの襲来は、『北の教会』にとって『最悪の日』ではない。
真の『最悪の日』は、その直後に訪れる事を。

―フェーズ3 へと続く
 
 
③校正案


プロットの良い点
・『おしゃべりベルザインさん』としてのキャラ立ち。
ほぼ、状況を一人で解説してくれる。
・意外にレスバトルが強かった『覚悟を決めたキスリング』
『アニエスの残した書物による知識の継承』を背景に、ベルザインさんと互角のレスバトル展開が可能である事が判明。

プロットの課題
・それっぽいバトル描写
『S級AFによる戦闘』を感じさせる、戦闘演出描写とこじつけ解説が必要。
・'三体目の魔獣,のキャラ付、能力、戦闘描写
『'最初にして最強の猟犬,であるフランク・ラパードの戦闘フォームは、自身に同化した'三番目の魔獣,を封印するものだった』
『開放された第三の魔獣による攻撃は、ベルザインにも通用する』
という設定を説得力のあるものに。

プロットの厳しい点
・昔から言ってるけど、一画面に三人以上を動かすのはむずかしい(笑
 

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