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キルシェLV99「初弾~救済~」

最終更新:

匿名ユーザー

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体力は、凡人並み。
腕力は、凡人以下。
戦闘技術は、いない方がマシ。
そんな少年が、一つだけ秀でた才があった。
それが、「知」への欲求。
少年が、法王庁の『知の保護・管理集団』とも呼ばれる‘神跡記録官’となったのは、必然だった。

「知」を求め、「知」に育まれ、「知」により多くを得た。
・・・はずだった。
その少年が、理解出来ず、苦悩する。
‐一体何が起こったのか。
‐我が身に何が降りかかったのか。
‐己の幸福を破壊したものがなんなのか。
いずれも、理解できずに苦悩する。
考えても、考えても、霞がかった思考は出口が見えず、同じ位置でさ迷うだけだった。

「分かるはずもない」
ある女が、少年に言った。
「お前は‘分かる’事を‘分かろうとしていない’からな」
女は、冷笑混じりの視線を少年に向ける。
「逃げてるだけだよ。お前は・・・」
そう言い残すと、女は少年の前に二度と現れる事は無かった。
2:拾郎 :
2019/10/22 (Tue) 11:31:44




少年の霞がかった思考が、ピタリと足を止めた。
今までは‘出口’を探していた。
今までは‘逃げ場所’を探していた。
今までは‘目を背けて’いた。
「知」を得るには、『事象を観察』し、『原因・因果を解明』させなければならない。
少年は、己の心の深層に目をむける。
穿たれた‘穴’に目を向ける。
陽光の元で育まれた大切な物が、破壊された‘穴’に目を向ける。
目を背けたく誘惑を吐き気とともに必死で抑えながら、‘穴’を見定める。
深淵の闇に沈む‘穴’の数は、二つ。
一つの‘穴’が、もう一つの‘穴’を飲み込み、さらに拡大し、霧と冷気を巻き散らかしている。
その‘穴’の形は・・・、異形。
人の形でありながら、あらゆる生物の特徴を飲み込み成長を続ける、‘混濁の魔獣’

「ふッ」
思わず、笑みがこぼれる。
‐原因が分れば、たどり着ける。
「ふふふッ」
‐これまでに得た「知」により、必ず辿り着く。
「ふふふッ、はははッ、あははハハハハハ!!!」
穿たれた‘穴’が熱で満ちていく。
灼熱の復讐心が放つ、強烈な熱。
‐ようやく、理解した。
「僕が、必ず、殺す」
自身に認識させるため、敢えて言葉として紡ぐ。
「‘混濁の魔獣’・・・オルティアを」



◇アナザー・マグノリア -キルシェLV99の章-◇
3:拾郎 :
2019/10/22 (Tue) 11:32:43




鍛えて、鍛えて、鍛えて、鍛えて、鍛えて、鍛えて、鍛えた。
その結果得たものが。
凡人よりはマシな体力。
凡人程度の腕力。
そして、付け焼刃程度の戦闘技術。
‘混濁の魔獣’には遠く及ばない。
並みの‘洗礼者’にも苦戦するだろう。
だが・・・。
「・・・これで、いい」
必要条件は満たした。
復讐の世界に足を踏み入れる、最低限の条件を。


自分の最大の武器である「知」を駆使し、あらゆる情報を整理し、手段を探す。
手段を定めると、そのために必要なものを集めるため、交渉し、懇願し、あるいは強奪、または騙し取った。
その結果、多くのものを失ったが、目的のものは得る事が出来た。

鉄塊の思わせる二挺の巨大な銃。
-‘非情の咬牙(クルエル・ファング)-
-‘無慈悲な十字架(クルエル・クロス)’-
かつては敵味方に分かれてい使用されていた同系統のAFだが、本来は‘二挺一対’となる事でその真の能力を発揮する。
使用者の技術とは無関係に、無慈悲に標的を定め、非情に弾丸を撒き散らす。
如何なる高速移動も、遮蔽も、視覚制限も。
標的の行動を瞬時に予測し、また使用者を狙った攻撃も撃ち落とす。
代償として発生するのが、使用者への致命的な精神汚染。
その代償を、腕章型AF‘記憶有現環’へと直結させる。
装着者の装着時の肉体情報を保管し、解放時に復元するAFに精神汚染を‘肩代わり’させる事で、二挺の凶銃を使役する。
腕章が外れる時、あるいは保管能力の限界を超えた時、蓄積された代償は‘無慈悲に’そして‘非情’に少年に襲い掛かる。
だが。
「・・・これで、いい」
かつて将来を嘱望された‘神跡記録官’は、類まれなる‘復讐の銃手’と化し、陰りのある笑みを浮かべた。


最初の一人を殺した後は、後は簡単だった。
二人、三人。
十人、百人。
秩序の崩壊した半島中西部で、‘洗礼者’達を狩り続けた。
如何なる罵倒も、怨嗟も、命乞いも‘無慈悲に’そして‘非情に’打ち抜いていく。
それが求めるただ一つものへ近づく、唯一の手段だ。
-すなわち、‘かつての最愛の仲間’であり‘現在の最大の敵’への復讐。
「・・・これで、いい」
後は、‘最終確認’を残すのみだ。
4:拾郎 :
2019/10/22 (Tue) 13:05:20



-法王庁の崩壊
調停者ベルザインにより引き起こされた未曾有の大混乱は、アスガルド半島の秩序を一変させた。
大混乱に覆われた聖都ロンバルディアで、聖冠騎士団第一団長ナーディアは、秩序回復を試みた。
法王庁の守護を唯一にして最大の任務とする聖冠騎士団にとって、法王庁の消滅はその存在意義を失う事に等しかったが、
ナーディアにとって聖都を去る選択枝はなかった。
やがてロンバルディアに‘洗礼者’達が増え始め、旧時代の象徴である‘法王庁残党狩り’が吹き荒れる。
‘元市民’相手に攻撃命令を出す事を躊躇するナーディアの迷いを余所に、‘洗礼者’達の容赦ない攻撃にされされ、師団は分断され、孤立し、ナーディアも襲いかかる洗礼者たちを前に立ちすくんだ所、手首を捕まれ、路地裏に引きずり込まれた。

聖都ロンバルディア地下・巨大水路
あの暴動の後、ナーディアは複雑に入り組んだ水路の一角に身を寄せていた。
暴徒と化した‘洗礼者’達から、彼女の手を引き救出した青年に匿われた先が、この地下水路だった。
『間に合って良かった』
かつて一年間だけ婚約関係にあった青年からは、当時の少年の面影を見つけるのは難しかった。
明るさ、柔らかさが消え、苦み走った陰影が刻まれている。
-逞しくなった。
-別人のように。
それが素直な感想だった。
『君のご家族も避難させた』
聖都を離れても‘法王庁残党狩り’は、勢いを増しているという。
ナーディアの生家のある第三教区にも青年は足を運び、安全な北部への脱出を手配してくれたと、青年から渡された母からの手紙に書いてあった。
『君のように、ロンバルディアに残された人たちを、助けたい』
青年は、熟知した地下水路を利用し、かつての法王庁関係者を脱出させているという。
自分も手伝うと願い出るナーディアに対し、青年は静かに首を振る。
『ただ、貴方には一つ、頼みたい事がある』

『彼女の姿を見れば、間違いなく攻撃される。脱出の準備が整うまで、彼女の面倒を見てほしい』
それが、青年の頼みであり、ナーディアは承諾した。
地下水路の最深部で、ナーディアは‘彼女’と二人で青年の帰りを待ち続けている。
日の光の差さない地下では時の流れがわかりにくい。
時折、ナーディアは地上へ出て、街の様子を確認し、食糧を調達する。
それでも青年は戻ってこない。
その間にも‘彼女’の容体は刻一刻と悪化し、異形へと変化していく。
5:拾郎 :
2019/10/22 (Tue) 13:16:39




『もしもの時に』
青年から渡したものの名前を、ナーディアは知っていた。
‘聖バロスの鎖’
法王庁が‘罪人’の拘束に使用していた鎖型AF。
「頑張って。もうすぐ、必ずあの人が戻ってくるから!」
苦しみ、暴れる‘彼女’をナーディアは抱きしめ宥めるが、暴力的な力で弾き飛ばされ、石壁に叩きつけられる。
そして‘彼女’は自ら‘聖バロスの鎖’を嵌めた。
なおも苦しみ、暴れ続ける。
限界が近い。
ナーディアは思った。

やがて、その時が来た。
理性を失い、人の姿を失った‘彼女’は、ついに‘聖バロスの鎖’すら破壊する。
「諦めないで!」
ナーディアは両手を広げ、眼前に迫る鉤爪の前に立つ。
「セフィリアさん!」

-セフィリア
-オルティアの姉にして
-もう一人の‘混濁の魔獣’
法王庁崩壊以降、必死で抵抗していたセフィリアは、ついに‘混濁の魔獣’へと飲み込まれた。
-その身体も
-精神も

それでも。
ナーディアは信じている。
彼なら救ってくれる。
オルティアも
セフィリアも。

銃声が、地下空間響いた。

「えっ?」
生暖かい液体が、ナーディアの顔面に降りかかり、生臭い匂いが充満していた。
目の前で、頭部を失った‘混濁の魔獣’が、ゆっくりと仰向けに倒れた。

「遅いよ、・・・遅すぎるよ」
ナーディアは震える声で、巨大な銃身を構える青年を非難した。

「・・・いや」
青年は、煙草に火をつけながら、応える。
「・・・これで、いい」
マッチを水路に投げ捨てると、踵を返した。
「・・・完成だ」

その一言で、ナーディアは全てを理解した。
全ては青年の計画通り。
青年は実証したかったのだ。
極限の精神状態で覚醒した‘混濁の魔獣’を‘殺せる’かを。
己の復讐のために。
‘混濁の魔獣オルティア’を殺すために。

「・・・待ちなさい」
ナーディアの声が地下水路に響く。
「待ちなさい、キルシェ・ランゲッジ!!」
絶叫ともいえるナーディアの残響に応える者は既にいなかった。
6:鷹安 :
2019/10/22 (Tue) 16:50:56

「ストレイトジャケット」のあとがきで、陰鬱ゲージみたいのが溜まらないとストジャは書けないみたいのが書いてあった。
キルシェレベル99も、俺の中ではそんな感じ。
うしとらで言うところの標さん。
単品だとどうしても後味の悪い重い話が続くので、本編のおまけくらいの頻度でないと出せないよね。
でも今は本編が滞りがちだから、ちょろちょろとやってみるのは良いのかも。
7:鷹安 :
2019/10/22 (Tue) 16:57:32

キルシェ99は、本編とは違うダーク・外道な雰囲気なので、まっとうな頃のキルシェを知る人たち目線で表現してくと、なるほどダーク感が出るね。
魔獣を殺せるかどうかの実験に、セフィリアたんを魔獣化させてからぬっころす、なるほどダーク。

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