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小話:接触編

最終更新:

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集


人と竜。
混ざりあった異形の生命体。
強靭な生命力。
鉄の鱗。
圧倒的な力。
かつて「竜」と呼ばれた戦略兵器を、人型大に縮小した竜人(ドラコニアン)
地上の全てを蹂躙する最強の存在。
ベルザインによる新時代で、支配の頂点に君臨すべき存在。

複数の竜人が、攻撃対象を左右から挟撃する。
背中の翅を二段階に展開させ加速。
両手の鋭爪で伸長。
対象の首筋を射抜く

「・・・なんだよ」
襲いかかる凶爪の前にして、男の失望に似た呟き。
同時に、縫い止められたかのように、竜人の動きが止まる。
厳密には止まっていない。
男が全方位に展開した不可視かつ絶体の壁が、二段階加速と爪の衝撃を完全に受け止めている。
尚も突破しようと出力を上げ翼を拡張させる竜人達に、僅かに視線を送る。
「この適度のものなのか。」
男が呟くと、最高硬度に鍛え上げられた鋼鱗の装甲を持つ竜人が、内側から爆ぜた。
「ボクもつまらないものを作ったものだね。」
胴体から真っ二つになり、尚も四肢を痙攣させる竜人を見下ろし、調停者ベルザインは、物憂げに呟いた。

座標固定。
質量変換。
相次元反射。
言葉にすれば、これだけの事だ。
ポイントは並列起動。
改良を重ねた「嘆きの壁」は、あらゆる攻撃を跳ね返す。
試験結果の通りの完成度だった。
だが、ベルザインの顔を覆う物憂げな表情は晴れる事はない。
自身も分かっていた事だ。
稼働実験というよりは、憂さ晴らしで暴れてみただけだ。
何も解決するはずがない。


ベルザイン自身、自分の性分は理解している。
自信でルールを決め 、ペナルティを設定し、技と難易度を上げる。
積極的に楽しめるように自分を仕向けなければ、ベルザインが楽しめるものなど、この世に存在しない。
全ては、自分の理解と予想の範囲内の出来事だからだ。

ベルザインは、自分を理解している。
だから、失われたものの大きさを理解している。
僅かながら、自分の予想を越える可能性を持ったもの。
即ち、ベルザインが純粋に楽しめる可能性を持ったもの。
その最後の一つが、今日失われた。

「マクシミリアン、ロベール、イルドルフ。そして、君まで死んでしまった今、誰がこのボクの退屈を殺してくれるんだい、ライナス・バルク?」

~ライナス・バルグの死亡~
この事実を元に、最後の物語が動き出す

382:鷹安:2016/05/15 14:36No.875
>381
!?
時系列的には、いつごろのエピソード?

 

383:拾郎:2016/05/15 22:54No.877


王都の城壁にかかった夕日が、市内の陰影を色濃く写し出す。
半壊、焼失した区画が、全域の三割。
死傷者は非戦闘市民、難民を含めて二千名近く。
王国が誇る特務三将が一人、`扇裂将'ジョズエ・ラハートの行方も未だに不明のままだ。
半年前に「南の王国」を襲った未曾有の大災厄の影響は、復興ままならぬ王都に色濃く残嗜を残していた。

夕暮れの王都の裏路地を、簡素な外套を纏った壮年の偉丈夫が歩く。
広い肩幅に揃えられた口髭。
僅か五年で混乱の半島南部をまとめあげた獣心王、ローフェルマルス。
`信仰の為に、信仰を棄てた'元異端審問官。
自身が圧倒的な戦闘能力を有しているとはいえ、一国の最高権力者が護衛も付けず、混迷が続く王都を歩いていく。

正確には、護衛はいた。
足早に進む獣心王の後を、静かに、そして自然体についていく男が一人。
中背の体格に、これといった特徴のない顔立ち。
元暗殺者。
かつて所属した暗殺組織において、最高実力者に与えられる称号`死神'に最も近いと言われた、`銀の雨'ファースティー。
その男が獣心王の影のように、いや、足音のように付き従う。

人を殺す事で、自分が生きる意味を得る。
それが暗殺者として育てられたファースティーの価値観だった。
ある事件を切っ掛けに、暗殺組織を抜けてからは、中途半端な生活を続けた。
前歴を、能力を隠して市制に溶け込もうとした。
だが、ファースティー自信の本性がその生き方を拒絶した。
暗殺者として研ぎ澄まされた感性は、納めるべき鞘を突き破り何度もその刃を剥き出しにした。
「だが、これでいい」
ファースティーは頷く。
相方に導かれ、獣心王と出逢い、初めて自分の人を殺す能力が、人を守る事に使える事に気づかされた。
獣心王を一人を守ることは、更に多くの人々を守る事に繋がる。
半年前の災厄も、指三本と引き換えに獣心王を守りきれたからこそ、「南の王国」は崩壊せず、堪えることが出来た。
その為にはもう少し、あれほど自身が忌み嫌った暗殺者であり続ける事ができる。

王都の外れ、共同墓地。
半年前の犠牲者が大勢葬られた真新しい墓。
墓石が間に合わず、木の枝を交差させただけの簡素な墓が永遠と続いている。

墓地に足を踏み入れたローフェルマルスが、姿を替える。
獣心王から平凡な容姿の少女へと。
少女の名前は`仮面'の聖別者、マリー・メイズ。
一年前に死亡したローフェルマルスの代役を演じ続ける存在。
ファースティーが守りきると誓った存在。
平凡な感覚と王道の気概を同居させる存在。

「約束です。私は「私」として、ここに参りました。・・・そろそろ、真実をお話しください」
マリー・メイズが呼び掛けた言葉は、ファースティーに向けられたものではなかった。
墓石に背を預け、煙草を吹かす男が一人。
「半年前の事件の真相。なぜ、「南の王国」が、ベルザインの子供たち(チルドレン)に襲撃されたのか?なぜ、「北の教会」は、我々を裏切ったのか?約束通り、答えなさい'筆記官クリスタ`、いえ・・・」
マリー・メイズの表情に「王道」の意思が浮かぶ。
「元異端審問局第三課課長ロイドリッツ・ヴァレンタイン」


「この煙草を吸い終わるまで、待ってくれるかい?」
まばらに浮かんだ無精髭と、肩まで延びた髪をかき上げながらロイドリッツは紫煙を吐いた。
警戒するマリー・メイズとファースティーに対し、肩を竦めてみせる。
「俺も事の真相に気づいたのは、ついさっきなんだ。正直、まだ整理がついていない。だから、1本だけ吸わせてくれ」
弔い酒ならぬ、弔い煙草を。
「・・・ライナス・バルグのために」

 

384:拾郎:2016/05/15 23:02No.878
>>382

>時系列
キールベインが鉄道騎士団と出会ってから一年後。
空中要塞から九ヶ月後。
北の教会によるロンバルディア奪還の直前。

辻褄が合わなければ(皆さんの設定に馴染まなければ)、「二周目以降の、何巡目かの話」ということになる予定。

 

385:拾郎:2016/05/15 23:54No.879


「北の教会」の武器工房。
北の教会の、いや法王庁の歴史をみても類を見ない、異様なAFが完成した。
かつてはエイバムの柱と呼ばれた槍斧型AF。
従来でも重量級AFとして分類されていたが、更なる大型化への改装を経た姿は、巨大な十字架そのもののシルエットだ。
「無茶苦茶だ。・・・人が、扱えるものじゃない」
圧倒的な威圧感の前に、ロメロ・バステンは掠れた声で呟いた。
自身が斧型AFを使用しているからこそ、理解できる。
重量AFの破壊力と隙の大きさは表裏一体だ。
持ち上げられるだけでは、意味がない。
「心配は無用だ。エイバムの柱は、審問官に昇格した時からの付き合いだ。バランスさえとれれば、問題ない」
「アズールさん!まだ、傷が塞がって・・・」
「この形状なら、「零系封印弾」の使用にも耐えられよう。ジルボルトの最後の頼みも漸く果たせると言うものだ」
「・・・その零系を使えば、アズールさんだって、ふっ飛んじまうんだろう?」
「・・・かもしれぬな」
「待ってくれよ。アズールさんが俺に戦い方を教えてくれなければ、俺は今でも見習いのままだったぜ。何より、「素人だから、仕方ない」「見習いでも十分だ」と甘えたままだったはずだ。・・・俺はまだ、恩返しをしていない」
「そんな事はない。十分に返してもらった」
アズールは、巨大な十字架を担ぎ上げると、歩き出す。
最後の召集命令が出ている。
そこで、第三次大聖伐が発令されるのだろう。
「アズールさん!」
「楽しかったぞ、後進を育ていく姿を見守るのは。イルドルフ司祭の気持ちが少しだけ理解させて貰った。」
ロメロの必死の声が背中に投げかかるが、アズールは歩みを止めることはない。

-決して折れぬ鋼を持て

かつて、アズールがライナスより投げ掛けられた言葉だ。
十字架も、弟子の思いも背負って進む。
信念を持って進む。
アズールにとって、ライナス・バルグの言葉は、間違いなく成長を与えるものだった。

 

386:拾郎:2016/05/16 23:45No.880


頭痛と吐き気。
この数日間悩まされてきたが、今日は特に酷い。
この大事な時期に、体調不良を知られたくはないので、旋寮院には行っていない。
長年の経験から薬草には詳しいので、自分で煎じた薬湯を飲み続けているが、効果はない。

あと、数時間後には、「北の教会」最後の聖掟となる第三次大聖伐が発令される。
長かった。
ここまでたどり着くには本当に長かった。
空中要塞の攻略。
南の王国との同盟と、破棄。
反乱者の粛清。
赤該咳の流行。
ケステ・ジャイムの逝去。
ベルザインの襲撃による積層型多重錬成印の崩壊と、`赤布の錬金術師'の喪失。
そして、ライナス・バルクへの異端審問と、死。

予定通りの事もあれば、予定外の事もあった。
だが、全てを乗り越え、「北の教会」は最後の一撃を放とうとしている。
指導者たるライナス・バルグは、己の死すら、最終目的へ至るための手札の一つにしていた。
自分は、常にその為の準備をしていた。
自分は、常にライナス・バルグを支えていた。

頭痛と吐き気が更に悪化する。
朦朧とする意識が、通常の思考力では至ることのない、ある領域へと導く。

ライナスの死後、「北の教会」が存続し、この日が迎えられるのは、自分が責務を果たしたからだと言っていいだろう。
完璧主義にして秘密主義だったライナスが、遣るべき事を、自分にだけ伝えていたからだ。
そうだ、ライナスは自分を最も信頼していた。
誰よりも、自分の能力を認めていた。
自分ですら、信用していなかった、この俺を。
まて、何を考えている?

そこで、堪えきれず、嘔吐した。
自分を苦しめているものの正体に気づいたからだ
‘生前’のライナス・バルグと最後の会話を交わしたのは、この俺だ。
最後の言葉を聞いたのは俺だ。
俺は、失望しているのか?
ライナスが、俺を次期指導者に指名しなかった事に。
俺は、嫉妬しているのか?
「彼」が、新たな指導者となった事に。
世界の命運を前にして、俺は何を考えている?

必死で否定するが、それでも吐き気は収まらなず、吐瀉物にまみれ、のたうち回った。


死せるライナス・バルグが、いけるルナン・クライトスを苦しめる。

 

387:拾郎:2016/05/16 23:48No.881
たぶん、⑦くらいまで続く

 

388:拾郎:2016/05/17 23:49No.882


エムレ・ゼラードは自負がある。
十六年の人生の中で、常に選択肢は自分で選んできたという自負がある。
時には感情に任せて、時にはちっぽけなプライドのために、愚かな選択もした。
だが、決めたのは他人ではなく自分だ。
だから、選択の結果に対する後悔はない。
「先生」に導かれて、異端者の道も歩んだ時も。
「クソ親父」の頼みで、猟犬となった時も。
そして、法王庁崩壊後、「北の教会」で正規の異端審問官となった時も。
キールベインが使用していた銃型AFを引き継ぎ、最後の聖掟となる「第三次大聖伐」において、第一班の先陣役を任された時も。
常に、自分の意思で決断してきた。
だから、選択の結果に対する後悔はない。

そんなエムレでも、「まさか」と思うときがある。
確かに、アルジェの「出撃の前に決着をつけよう」という誘いに承諾したのは自分だ。
`白き腕'の二つ名を持ち、`魂食の鎌'を自在に駆る、卓越した戦闘力を持つ少女。
そんなアルジェに一方的に噛みついた。
「レベルが低すぎる」という感想を隠そうともしない、アルジェの視線を許せるほど、大人ではなかった。
演習、そして実戦でも事あるごとに衝突したが、次第にその回数は減っていった。
アルジェがエムレを認めた事もあるが、エムレもアルジェを理解した事が大きい。
最近では、プライベートでも会話するほど落ち着いていたため、アルジェから「決着をつけよう」と誘われた事は意外であったが、承諾した。
「いいぜ、意地という奴を見せてやる」
「その言葉、忘れるな」

そして、約束の時間、約束の場所。
アルジェはいなかった。
代わりに迎えたのは、尼僧服に医療用エプロン姿の薬草師の少女だった。
怪我の多いエムレを都度治療し、時には個人的な会話を交わすこともあった旋寮班の少女が頬を紅潮させ浮かべている表情を見て、エムレは「まさか」と口走る。
「・・・あの、人形女に気を使われるとはな」

少し離れた場所で、`魂食の鎌'を肩にかけた少女は呟く。
「見せるんだろう?・・・男のなんとやらを」

 

389:拾郎:2016/05/17 23:50No.883
今回はヌルい話

あと2回は暗めの話になる予定

 

390:拾郎:2016/05/18 00:03No.884
分かりにくいと思うけど、
「ライナス死亡後、それぞれの立場で何があったかを振り返りながら、第三次大聖伐発令シーンに収束する」
という流れの話。

 

391:拾郎:2016/05/19 17:59No.888
あまりに雑だったので、書き直し

⑤ver2

エムレ・ゼラードは自負がある。
十六年の人生の中で、常に選択肢は自分で選んできたという自負がある。
時には感情に任せて、時にはちっぽけなプライドのために賢いとは言えない選択もした。
だが、選択は他人から強制されたものではなく、自分の決断だ。
だから、選択の結果に対する後悔はない。
「先生」に導かれて、異端者の道も歩んだ時も。
「クソ親父」の頼みで、法王庁の‘罪人’となった時も。
法王庁崩壊後、「北の教会」で異端審問官見習いとして、調停者ベルザインに対する絶望的な抵抗活動も。
間もなく発令される「第三次大聖伐」にて要となる第一隊を託す、と伝えられた時も。
常に、自分の意思で決断してきた。
だから、選択の結果に対する後悔はない。
あるはずがない。

そんな矜持を持つエムレでも、「まさか」と思うときがある。
例えば昨夜、アンジェの「最後の出撃の前に、‘決着’をつけよう」と誘われた時は、すくなからず「まさか」と思った。
ライナス・バルグ死亡後の「北の教会」において、アンジェは三強の一角に挙げられる存在だ。
A級AF`魂食の鎌(テスティレンス・サイズ)'を手足の如く自在に操る、卓越した戦闘力を持つ少女。
引き絞られた肢体が秘めた卓越した身体能力と、天性のAF適応才能を秘めた‘白き腕’に、であった当初のエムレは一方的に噛みつき、勝負を挑んだ。
結果、二週間は立ち上がれない重症を負った。
実力差は理解していた。
アンジェが天才だという事も、自分が凡人である事も理解していた。
だが、無表情ながら「レベルが低すぎる」という感想を隠そうともしないアルジェの視線を、‘強くなる’という決意を秘めて修練を続けていたエムレは許容できなかった。

その後も演習、あるいは聖務執行中でも顔を合わせれば衝突したが、次第にその回数は減少していく。
同時に当初は無表情で口数が少なかったアンジェは、少しづつ歳相応の表情を見せるようになっていった。
最近では、他愛のない会話を交わす程度の落ち着いていた仲になっていたため、アンジェから「‘決着’をつけよう」と誘われた事は意外であったが、承諾した。
初めてであったのは一年ほど前だが、不思議な懐かしさがある。
今にして思えば、あの事のエムレは自分の弱さに対する劣等感はない。
それも含めて自分であるという事に気づいた。
気づかせてくれる人たちがいた。
だから、今の自分がアンジェと立ち会えば、今の自分が持っている物を全て出しきれるかもしれない。
「いいぜ、男の意地と矜持いう奴を見せてやる」
不遜な笑みを浮かべて見せるエムレを、アンジェは最近少しづつ見せるようになった薄く小さな笑みを浮かべ、応えた。
「・・・その言葉、忘れないでね」

そして、今。
‘決着’をつける約束の時間、約束の場所。
アルジェはいなかった。
代わりに迎えたのは、尼僧服に医療用エプロン姿の薬草師の少女だった。
その性格・戦闘スタイルから怪我の多いエムレが旋寮院に担ぎ込まれる度に治療し、最終的には「まるでエムレ専属担当だ」と同期のロメロにからかわれた。
時には個人的な会話を交わすこともあったの少女が、頬を紅潮させ浮かべている表情を見て、エムレは「まさか」と口走る。
「・・・あの、人形女に気を使われるとは」

少し離れた場所で、二人がぎこちない会話を始めたのを確認すると、アルジェは‘決着’の結末を見届ける事なく背を向け、歩き出す。
体の一部のように常に持ち運んでいる‘魂食の鎌(テスティレンス・サイズ)は、今日は所持していない。
「見せてあげなよ。男の意地と、・・・なんとやらを」
 肩にかかる髪を抑えて歩き去る後ろ姿からは、普通の少女と変わらない華奢な影が伸びていた。

 

 

392:拾郎:2016/05/19 23:58No.893

 

394:拾郎:2016/05/20 19:33No.895
⑥続き

隔離病棟の入り口で、フランク・ラパードは預けていた荷物を受け取る。
強靭な肩幅に合わせた特注の肩当。
分厚い胸板を覆う鎖帷子。
通常の二倍の重量で製鉄された槍。
鋼糸の弦が張られた弓と矢筒。
そして、銀の聖印。
一度だけ振り返ると、白煉瓦の壁で囲まれた治療院から退出する。



法王庁崩壊以降、キスリングは「北の教会」に身を寄せ、失われた‘アニエスの遺産’の研究に取り組んでいた。
既存のあらゆる錬金術の流派と異なる時空錬成‘時間遡航’。
法王庁残党が絶望的な戦力差を覆し、ベルザインを討つための最後の切り札。
ライナス・バルグが用意したかつての異端錬金術師の地下研究所に籠り、助手の自動人形(オートマター)と共に、キスリングはひたすら‘師’の遺産の研究を続けた。
断片的な資料を重ね合わせ‘時間遡航’の発動した際には、‘智賢人’と言われたケステ・ジャイムをも驚嘆させた。
だが、理論上「法王庁崩壊前夜」までの‘時間遡航’が可能とされた直後、あの‘ベルザインの襲撃’により多くが失われた。
その一つが、キスリングの‘時間遡航’に関する全ての記憶

「そんなもんさ」
フランク・ラパードは呟く。
自身も大敗を喫し、再生に多くの時間を費やした。
最大限の努力を長年続けても、最後は紙一重で全てを失うかもしれない。
だが、絶望的な状況でも命は助かったのだ。
「それで、十分なんだよ」
‘時間遡航’の喪失は、唯一にして最大の‘切り札’を失った事を意味する。
それでも、ライナス・バルグの死亡により指導者を引き継いだ、新たな第八課課長は‘大聖伐’を発令する。
フランク・ラパードはそれを無謀とは思わない。
フランク自身が経験したかつての‘大聖伐’も、紙一重の連続だった。

「そうだろう、なあ、アニエス」
かつての同僚に、同意を求めるように呼びかける。
キスリングはアニエスの思い出をたくさん語ってくれた。
長い年月をかけて、アニエスの思いを知る事ができた。
だからこそ、恩は返さなければならない。

‘第三次大聖伐’への発令に備えて、「北の教会」集合地に向かう。

「いい顔しているナ、色男」
「何かいい事あったのかイ?」
集合地の手前で異形の影がフランク・ラパードを迎えた。
「旦那方には適わないさ」
森の中で待ち受けていた双頭の蜥蜴人、ボリエ・ディコンとパディー・ディコンに、フランク・ラパードは大仰に肩を竦めてみせた。

続く

 


 

 

399:拾郎:2016/05/24 17:28No.905


知覚能力の向上。
人間の限界を越え、獣の領域を越え、更なる先へ。
たった一つの聖石は、リーベンに超感覚を与えた。
視覚が。
聴覚が。
嗅覚が。
詳細にして、膨大な情報を送る。
常人であれば、多すぎる情報量に脳の処理が追い付かず神経が焼ききれるが、リーベンは与えられる情報に対し冷静かつ瞬時に判断し、行動する事が出来た。

事実、その森に足を踏み入れるのと同時に、見張りを認識した。
見張りは随所でリーベンを監視しており、リーベンが古代樹の元にたどり着く頃には、十三人まで増えていた。
しなる枝の先端に。
そよぐ葉の間に。
遥かな幹の上に。
武装した古代種(エルゥ)の戦士達が目を光らせ、リーベンの一挙一動を監視しているのが分かる。
彼等が最も隠潜を得意とする森において、子どものかくれんぼのように、その潜伏場所が分かる。
僅な呼吸音。
衣擦れ。
汗の匂い。
幹の軋む音。
皮膚が発する熱。
リーベンの超感覚は、その全てを捉え、彼等の状況を把握する事が出来た。

-その程度でいいのか?

「盟約は果たされた」
古代樹の下まで足を進めたリーベンに、頭上より声が響く。
以前であれば、「何処からともなく」としてしか認識出来なかったが、今はその場所がはっきりと分かる。
次期'長老`を担う、エルゥの戦士長ウィートセラが立つ古代樹の場所が分かる。
「古き血は、新たな血により清められた。汝らは盟約に従い、我らの若木に対する償いを、盲目の鷹を刈り取る事で償った。最早、我らと汝らの間に柵はない。再び交わる事は許されない。・・・去れ!」

-その程度でいいのか?

「・・・新たな盟約を結びたい」
「何だと?」
リーベンの返答に、戦士長ウィートセラが僅かに眉を潜めるのが分かった。
「我ら『北の教会』が、最後の聖戦を達成するために、あなた方が所有する'永劫の苗`を借り受けたい」
「正気か!?」
リーベンを囲むように潜伏している戦士達も武器を握り直した。

-その程度でいいのか?

「`魂の苗'が、あなた方にとって神聖で重要である事は重々承知している。・・・故に盟約を締結するに伴い、代償を用意した」
リーベンは淡々と続ける
「何を、どれだけの代償を持って、我らの秘宝にその薄汚い手を伸ばそうというのか!?」
「・・』あなた方全員の生命と引き換えに」
「貴様!、`短命種'風情が!」
古代種語における侮蔑用語を叫ぶと、ウィートセラは専用に削り出された弓をつがえた。

古代種が「北の教会」の古城に現れたのが一年前。
持ち込まれた依頼を解決した後も、交流は続いた。
友情を感じた時期もあった。
肩を並べて戦った時期もあった。
だが、あの赤骸咳事件をきっかけに、両者の交流は断絶した。
リーベンも関係の修復を試みた時期もあった。
しかし、激化し、そして悪化する状況は、リーベンに一つの選択を迫った。
『聖石』の体内による、聖人化を。

「その程度でいいのか?」
ついには、押さえて続けてきた思いが、言葉として口から出た。
ライナス・バルグは死んだ。
だが、ライナス・バルグがリーベンに課した使命はまだ生きている。
「渡してくれ'魂の苗`を。・・・俺はあなた方を殺したくは無い。」


ちょっとだけ続く

 

400:拾郎:2016/05/25 19:08No.906
― 何をしている、俺は?
間近に迫った刃を、体捌きのみで躱しながら、リーベンは考える。

相手にしているのは、十三人の古代種(エルゥ)の戦士。
怒りに触れた野生の獣のような眼で、特徴的な武具を振りかざし、襲い掛かってくる。
‘森の中でエルゥとの戦いを選択するのは、蝋燭の灯で夜の闇に挑むのに等しい’
リーベンの出身地である半島中央部の山岳地帯に伝わる口伝だ。
その口伝が事実である事を、リーベンは知っている。
無知故に彼らの聖地に足を踏み入れた商隊が。
欲故に彼らに挑んだ傭兵団が。
‘森の裁き’により、無残な屍をさらすのを、狩人時代のリーベンは見てきた。


‐狩人?そう、俺は狩人だ。
法王庁崩壊に伴う秩序の崩壊により、リーベンが静かに暮らす集落にも洗礼者達により襲撃された。
リーベンは故郷を取り戻すために「北の教会」に合流し、異端審問官達と調停者ベルザインを崇める洗礼者達と戦った。
そこに迷いはなかった。
自分と同じく故郷を追われ、自分とは異なり不条理と戦う術を持たない難民の為に弓を弾くのは、リーベンの誇りと一致した。

‐では、俺は今、誰と戦っている?
答えは、古代種。
洗礼者ではない。
略奪者ではない。
奪おうとしているのは、リーベン自身だ。

‐なぜ、俺が奪うのだ?
答えは、必要だから。
‘時間遡航’を失った「北の教会」が、ベルザインを倒すべく新たな切り札を手に入れるために。

‐それでも、なぜ俺が奪うのだ!?
答えは、その為の力があるから。
‘聖石’に適合した唯一の存在だからだ。

『‘断る理由’を探す方が難しい』
‘最初の猟犬’によりもたらされた聖石を手にしたライナス・バルグは、呼び出したリーベンに対して言った。
『この聖石は、お前にのみに適合する。お前が断れば、ただの石ほどの価値しかない。聖石がお前を望んだ。なぜなら・・・』

「やめろ!やめろ!やめろ!」
リーベンは叫ぶ。
古代種の戦士達の流麗な攻撃を、認識するのと同時に、刹那の判断で反撃を開始する。
‘聖石’がもたらした圧倒的な知覚能力は、リーベンに無意識化の反撃を可能にしていた。
一人、また一人と戦士達が倒れる。
なおも攻撃を続ける古代種達にやめろと叫ぶ
無意識に反撃をする自分に対しやめろと叫ぶ。
胸に埋め込まれた聖石を外そうと叩くが、聖石は更に強靭な光を放つ。
ならば。

ザシュッ

「・・・汝は」
戦士長ウィートセラの驚愕の声が間近から聞こえた。
「調停者より故郷を取り戻すまでは、死ぬわけにはいかない。ここであなた方を殲滅する訳にもいかない。・・・だから、これでいい」
自ら両目を潰したリーベンは、血の涙を流しながら穏やかな笑みを浮かべた。

ザシュッ

同様の音がリーベンの聴覚が捉える。
「何を!?」
視覚は失っても、リーベンに残された四感は、何が起きたかを認識できた。
それでも、叫ばずにはいられなかった。
「汝の思いは確かに受け取った。‘魂の苗’は渡せぬが、‘戦士長の両目’であれば代用は果せよう」
リーベンの掌に、ぬめった球体が二つ、握らされる。
「さらばだ、かつての友。二度とは会えぬだろうが、別れの挨拶はしない。よいな?」
戦士長ウィートセラは、リーベンの頬にわずかに触れると、生き残った戦士達をつれ立ち去った。

リーベンは僅かに躊躇ったが、‘彼女’が立ち去った方向に背を向け、歩き出す。
胸の聖石は、失った視力を補うべく、リーベンの四感を更に鋭敏化させている。
まるで更なる戦いに駆り立てるごとく。
それを悲しいとは思わない。
それを誇らしいとは思わない。
強いて言えば、宿命なのだろう。

かつて、ライナス・バルグはリーベンに語った。
『お前が聖石を選ぶのではない。聖石がお前を望んだのだ。なぜならお前の血を聖石が欲している。』
‘鉄翼鷹’の眼光がリーベンを射抜いた。
『‘義神腕’アダスタの血に連なる、お前の血をな』

⑧に続く

 

401:拾郎:2016/05/25 22:31No.907
「雑過ぎたから後で書き直すわ~」と言っておけば、許される風潮。

 

402:拾郎:2016/05/25 22:55No.908
「リーベンはアダスタと何らかの関係あり」というのは、登場させた時から決めてました。
・半島中部山岳出身
・堀の深い顔立ち
・ストイックな性格
何か面白い繋がりが思い付けばいいなぁ、とぼんやり考えていましたが、結局血縁者というありきたりな設定に落ち着く。

再筆するときは、「絶対殺すマン」となってしまった苦悩と合わせて掘り下げてみたい。

 

403:拾郎:2016/05/25 22:57No.909
ともあれ次の⑧で完結や(崩壊編最終章の第1フェイズが)。

大聖伐の発令シーンやで~。

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