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マグノリア@Wiki
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マグノリア@Wiki

接触編:後編

最終更新:

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
404:拾郎:2016/05/27 19:07No.910
メーラレン山脈中腹に広がる死せる都クルア・セルラ。

60年前に異端組織‘神界の霧’が異端審問官により壊滅を迎えた地。
すなわち、‘第一次大聖伐’終焉の地。
以降は‘禁止区域’とされた如何なる者も立ち入る事が禁じられたこの地に、続々と武装した集団が集いつつあった。
皆が長旅で薄汚れ疲弊していたが、その眼光は鋭く全身から覇気が溢れていた。
間もなく発令される聖都奪還作戦、‘第三次大聖伐’への期待と覚悟が、彼等の魂を震わせていた。

 

405:拾郎:2016/05/29 20:26No.913
⑧-2

死せる都クルア・セルラに人が集う。
個人、集団、大部隊と集まるにつれ、有形無形の活力が高まり、重なり、熱せられていく。

中でも銀嶺騎士団の到着は、一際目をひいた。
アスガルドで最も格式ある騎士団は、馬蹄を響かせ、轡を並べ、夕陽に真銀の甲冑を煌めかせながら整然と行進する。
その様は、誰もが持つ'騎士団`そのものであり、力強く華々しい。
だが、彼等が誇るのは伝統と格式のみだけではない。
上位洗礼者ユーバスをその突撃槍で仕留めた実績が、一段と'半島最古の騎士団`の行進に華を添えていた。

ガゼイル銃装隊の設営地では、硝煙と火薬の匂いが立ち込めていた。
常に近代兵器を取り入れ進化する彼等のスタイルは、洗礼者相手に独自の銃剣術を進化させていた。

ガードウィック傭兵団の周囲は、物々しく、殺伐とした空気に満ちていた。
通称、埋葬旅団。
かつては、「金次第では、どんな仕事を引き受ける」と知れ渡った悪名は、今では「報酬を揃えれば、どんな洗礼者も討ち取る」という名声に変わっていた。

金毛羊の群れと、毛皮を着込んだ戦士達。
伝説の少数民族、北の穂先族。
'獣の理(ことわり)`と呼ばれる独自の体術は、雪原を離れても華々しい活躍を見せている。

「美しゅうございます」
一人の男が大袈裟に感嘆する。
凡庸な容姿に、道化の笑み。
劇場の支配人のような、場違いな礼服。
「そして、お見事でございます。よくぞここまでの'生きた戦力`を集結させたものでございます。」
パチパチパチパチ、と白手袋を合わせ乾いた拍手。
「同盟が、そして盟約が決裂しなければ、更に'南の王国`と'古代種の戦士団`が加わっていたのでしょう。歴史上例をみない連合大隊、見とうございました。」
文字通り'国家`の戦力を持っていた'南の王国`と、精霊術を使いこなす'古代種`。
喪われた代償は大きい。

「ですが見事なものでございます。歴史上最大の同盟軍を持ってして大聖伐の発令。
信念。
希望。
勇気。
目に見えないほど、その美しさは増していく・・・。今後、これ程美しゅうものを見ることは無いでしょう」
両手の白手袋の指の間に、五色の玉。
「不肖ながら、ベルザインの子供達(チルドレン)が一人、この'連結`のゴイコチェアより、この素晴らしい光景を見せて頂いた御代を送らせて頂きます」
礼服の道化師は、「眼下」を見下ろす。
死せる都の『上空』に整然と立ち、織り成す刺繍のように集結していく陣形を皆下ろしながら、慇懃な一礼と共に玉を放つ。
「御返しはお気遣いなく」
玉が地上に落下すると同時に閃光、爆音。
集結する軍勢の密集地に、八つの爆発の華が咲く。
「何より、儚きものほど美しゅうござきますからねえ」
道化師の哄笑が、死せる都に響いた。

続く

 

406:拾郎:2016/05/29 22:41No.914
道化師キャラの動かしやすさよ

 

407::2016/05/31 22:46No.918
それっぽい連中が景気良くやられた

 

408:拾郎:2016/06/05 00:03No.924
⑧-3

「人の善意とは、伝える事が難しきものでごさまいます。手間隙をかけ、自信を持った贈り物でも、お気に召して頂けるかは、分からない」
大勢の観衆に聞かせるように、'接続`のゴイコチェアは朗々と口上を述べる。
「ですから大切なものは、誠意だと思うのです。凡庸の身であるこの私ながら、この度の御代に誠意だけはかけさせて頂きました」
礼服姿の道化師が立つのは、上空400メトルー。
背筋を伸ばし、一礼をしながら、遥か足元に対して語り続ける。
「先程お楽しみ頂いた品は、三種類の聖留弾の'接続`により、芳醇な爆発がお楽しみ頂けたかと思います。」

ゴイコチェアにより地上に投下された僅か八つの爆留弾によって、集結部隊は大混乱に陥っていた。
爆風と爆煙が舐め尽くされた爆心地には、四散した四肢や頭部、そして臓物が放射状に飛び散っている。
尚も負傷者が多数。
精鋭中の精鋭ともいうべき集結部隊の全域っ、怒声と混乱と悲鳴が飛び交っていた。

「食前酒がお気に召して頂けたようで、何よりでございます。続いてオードブルに参りましょうか。」
組み合わせた両手を広げると、左右の手のひらに、先程の3倍程の大きさの玉が二つづつ。
「`サネトールの虐殺`で知られる対竜爆雷を'接合`させて頂きました。四百年前の年代物ですが、刺激的な風味をお楽しみ頂けるかと思います。では、拝見させて頂きます。絶望が真の絶望に変わる光景を」
慇懃な一礼と共に、投下。
 

 

409:拾郎:2016/06/05 00:48No.925
マジか

書き込みと同時に、⑧-4が消えるなんて。

グッバイ、ワイの50分

 

410:拾郎:2016/06/05 00:51No.926
復旧できないみたいです。

ふて寝や。

 

411:拾郎:2016/06/05 23:11No.927
⑧-4(泣く泣く再生)

地上で起きた爆発は、400メトルー上空に'立つ`ゴイコチェアまで衝撃と熱波がたたきつけられる。
直前に、かざした手の掌の前面に『断空壁』を展開。
爆発の衝撃を防ぎきる。

聖別能力『接続』。
事象の結果を任意の対象に結ぶ、ゴイコチェアただ一人が有する『奇跡』。
ゴイコチェアは全身に多数のAFの発動効果を『連結』している。
『発動効果』を連結しているので、ゴイコチェアは多数のアーティファクトを持ち歩く必要はない。
また、アーティファクト発動・操作の訓練も才能も必用としない。
任意に自信の部位に『接続』したアーティファクト効果を開放するだけで、要は足りる。
足底の『浮遊瘡』に然り。
右手の『断空壁』に然り。

やがて上空まで吹き荒れた爆風が収まると、黄昏の時代において、最悪の戦略的失敗に数えられるサネトールの惨劇の再現を期待しながら、『断空壁』を解除したゴイコチェアは、足元を見下ろした。

「これは・・・」
地上の光景を覗いた道化師が、驚愕とも失望ともつかない声を漏す。
眼下には、赤く発光するワイヤーにより、幾何学的な模様が地上に描かれていた。
上空から俯瞰すると、巨大な地上絵にも見えるが、ワイヤーの内部は地面が隆起し、あるいは周囲の石材や土砂、櫟がき上げ、人工的な構造物を構成していた。
死せる都クルア・セルラ全体に匹敵する巨大な構造物は、ゴイコチェアが対竜爆雷を投下した直後に出現し、混乱収まらぬ集結部隊をその内部に取り込み、爆雷の直撃を耐え抜いていた。
「無学な私めでは、巷の伝承程度の知識しかございませぬが・・・」
道化師の口許が歪む。
「ロスト・アーティファクト『闘神都市(バトル・シティ)』。環境を最適化する広範囲型AF。・・・なるほど、集結地がこのクルア・セルラであったのは、そういう理由でございましたか」
「'ヘルデ山脈`の'女王の宮殿`にて、エムレ様達が入手された事は存じておりましたが、使いこなす事は不可能だと認識しておりました。大変見事なものでございます。四百年程度の歴史しか持たぬ花火では、伝説のロスト・アーティファクトを相手にするのは失礼極まりない話でございました。」

 

412:拾郎:2016/06/05 23:31No.928
「それでこその皆様!実に素晴らしい、実に美しい!」
道化師の口許の歪みが喜悦に変わる。
「皆様なら、私が全身全霊をかけて用意させて頂いたメインデッシュをお気に召して頂けると、確信させて頂きました。」
踵を慣らすこと二回。
『接続』した『空間経路(パス・ポート)』の発動効果により、地上の構造物の周囲を取り囲むように、無数の空間空洞が開く。
その数は、157。
その空洞一つ一つより、黒装束の人影が現れる。
露出した肌は陶器のような質感の白。
顔面には鼻と口に該当する器官はなく、目には眼球の代わりに虚空を見つめる孔が開いているのみ。
肘、膝は本体とは離れており、雷が放つ電気に似た発光により結ばれている。

「'無貌の洗礼者`157体、メインデッシュとしてお召し上がり頂きたく献上いたします。三ヶ月前の『沈黙の丘』では、聖衣聖騎士エウゼリオ様を持ってして、相討ちという結果でございましたが、伝説に並ぼうとする皆様なら満足して頂けましょう」
「かたては偉大なる夢の都クルア・セルラ。
今は忌まわしき死せる都クルア・セルラ。
この地で儚く散るも、雄々しく散るのもいずれの結末も美しゅうものでございます。不肖ながら、ベルザインの子供達(チルドレン)が一人、'連結`のゴイコチェア、最後まで見届けさせて頂きます」
大袈裟な一礼と共に、無貌の洗礼者の群れが動き始めた。

 

413:拾郎:2016/06/05 23:33No.929
消えた内容とは別物になったけど、気持ちが萎えないうちに書いておく。

後日見直して、ヤバイと思えば「後で書き直す予定」

 

414::2016/06/06 00:07No.930
「承認」

 

415:鷹安:2016/06/09 20:23No.931
連載時とコミックスで、書き下ろし修正がある感じだよね。
信者は修正前版と修正後版を所有するという。

>無貌の洗礼者157体
こいつは鉛イラストのアレだよね! よし、俺得。

 

416:拾郎:2016/06/13 00:20No.932
8-⑤

壁が崩れた。
攻める側が守る側が篭る壁を崩す。
強固な壁の一点に、複数の力を束ねる事で破壊する。
古来より戦場で何度も行われてきた光景だ。
だが、有史以来、ロスト・アーティファクト『戦神都市(バトル・シティ)』により構築された城壁が崩された事は初めての事だ。
壁に照射されていた全く同じ振動数の衝撃波が無数の束となり、唸り、共鳴する事で産み出された数百倍の破壊力が、『歴史』を凌駕した瞬間だ。
壁を取り囲んだ『無貌の洗礼者』達は、衝撃波の射出を停止すると、自分達が穿った城壁の穴に吸い込まれるように移動を開始する。
陶器のような無機質な顔には、表情というべきものを一才浮かぶものはない。
歓声も、殺気も発することなく、膝下の『脚』を蠕動させ、無言の侵攻を開始する。


城壁の内部は幾何学的な紋様が組合わさった六角形の空間であった。
穿たれた穴に意外は、内部移動の為の扉も廊下も無い、完全な閉鎖空間。
上空からの攻撃に対する防御を優先した『闘神都市』の緊急展開の為、内部構造までは把握しきれなかったためか、取り残された人間が二人。
押し寄せる『無貌の洗礼者』達にとっては、まさに袋のネズミであったが、二人の会話は何処か余裕が残されていた。

「見ろよ、お客さんだ。ダッセー格好だな」
一人は不適な笑みを浮かべた、燃えるような赤髪の女。
長身に纏った外套を押し上げる厚い肩幅からは、桁外れの膂力を秘めていることが分かる。
「おまけに、お前以上に愛想のないツラだ」
手甲を嵌めた左手で、傍らの男の首に手を回す。

「・・・」
男は無言で、女が絡めた手を外す。
女より更に長身だが、かなりの痩躯であった。
しかし、頼りない印象はなく、陰鬱な表情と相まって、寧ろ抜き身の刀に似た危険さを漂わせている男だった。

「思い出すよなぁ、決勝前に急遽組まれたタッグ戦。誰かさんが足を引っ張らなければ、ヴァイス・エンデミオンの首はあたしのものだったのに」
「お前が・・・」
男は伸ばした黒髪の間から除く眉間を僅かに歪めて反論する。
「勝ちを譲ったのだろう。あの男の復讐のために。最初から俺一人で出ていれば、負けはしなかった」
「あ~あ、言ったね。言っちゃったね。そこまで言った以上、覚悟は出来ているんだろうね」
「無論・・・」
腰から下げた長剣の鞘に手をかける。
「当に出来ている。・・・地下闘技場が崩落したあの日から」
「上等!」
叫ぶと同時に、赤髪の女は外套をはねあげると、欠損した右腕の根本に埋め込まれた金の腕輪から白い奔流が放たれる。
直後に形成される光輝く『栄光の腕(グローリー・アーム)』
「派手にいこうぜ!派手に!」

黒髪の男が抜いた剣より、すすり泣くような振動音が放たれる。
そして、刀身を白い湯気に似た煙が渦巻く。
「行こう、エンブロイ・エッジよ。・・・我が『悪意』のままに」

溢れでる『無貌の洗礼者』達に対して、赤と黒の闘争本能が突貫する。

一人は『隻腕のクォンタル』。
笑い、足掻き続けることで、片腕で幾つもの大切なものを掴み、幾つかの大切なものをつかみ損ねてきた女傑。

一人は『白き幽鬼イサナ・ク=ジョン』
数奇な運命に導かれ、逆らう事で、無明の奈落へ落ちることを拒み続ける男。

奇妙な縁で結ばれた二人だからこそ、理解していた。
これが最後の戦いであることを。

 

417:拾郎:2016/06/17 20:02No.935
この二人はこのシーンで使い潰す覚悟で出したんやが、執筆の時間が空いてしまったら、生存ルートもありかな?と思ってきてしまったンゴ。

派手に散る方が、インパクトはあると思うんやが・・・。

 

418:拾郎:2016/06/19 23:03No.937
⑧-6
「一つ、聞いておく」
「今さら、何よ?」
「何故、この任務を承った?『作戦参加者の死が、勝利への第一歩』と説明されたこの任務を?」
「・・・本当に、今さらだな。地下闘技場が無くなったんだから、ダラダラ生き続けるのも面倒かな、って思っただけよ」
「・・・生きる事は、罪ではあるまい」
「まーね。・・・本当は、断れなかったのさ。新『八課課長』の頼み方が、何と言うかさ」
「ニール殿に似ていたから、か?」
「・・・あんたこそ、『強さを極める事が、我が真理』だったんだろ?最後に生き方を曲げちまっていいのかい?」
「微塵も曲げてはいない」
大きく開いた首筋の裂傷から流れる血は、色白のイサナの顔色を、蒼白の領域まで変えていた。
だが、手にした波状の刃を持つ魔剣エンブロイ・エッジを握る拳を更に硬く握りしめ、迫る『無貌の洗礼者』の群れを霞む眼で見据えながら、『白き幽鬼』は子供のような笑みを浮かべた。
「『誰かを守る強さ』もまた真理、と気付いただけだ」
「あんたの話で感心したのは初めてだね」
クォンタルは、額に貼り付いた前髪を掻き上げようとして、苦笑する。
左腕も、ついさっき'無貌の洗礼者`の一体にくれてやった所だ。
右肩に装着したAFにより光の奔流を固定化した『栄光の腕』に、全ての意識を集中させる。

「じゃあな、また何処かで」
別れの言葉は言わない。
確実に死を迎える事になろうとも、再会の約束をする。
それが、地下闘技場での掟だった。
「ああ、必ず」

そして、最終奥義。

『エンブロイ・エッジ・アマタ(天打)!』
幾重にも重なった衝撃波が、閃光と共に波状に広がる。
『静寂歯車(サイレント・ギア)!』
高速域まで回転させた『栄光の腕』より放たれた円輪が、眩い輝きを放つ。


「素晴らしい、実に素晴らしい!」
遥か上空から、『闘神都市』の一角で放たれた閃光を見下ろしながら、'結合`のゴイコチェアは高らかに叫んだ。
「決して勝てることのない、約束された敗北を受け入れ、散っていく美学!見事な美しさでございます!実に儚き美しさでございます!」
体を捩りながらも道化師は笑い続けた。
だから、その強化されたはずの聴覚は聴くことはなかった。
-地上に鳴り響いた、終わりと始まりを告げる鐘の音を。

 

419:拾郎:2016/06/19 23:05No.938
迷ったけど、使い潰す事にしました。
『敗者の美学』はマグの華、やし。

 

420:鷹安:2016/06/21 23:26No.939
EP5は、特に(旧法王庁サイドの)滅びの美学が演出できるので、良いと思う。

とは言えやり過ぎると、
「はいはい、どうせタイムベントか夢オチだろ、ワロスワロス」と見切られるので、バランスを取りつつって感じかな。

ちなみに北の協会を襲撃した洗礼者の一人が、ジャンルイジの生首を持っているイラストを描いたが、次のシーンで「はっ!?」 と、飛び起き「・・・夢か」という展開にもつなげられますので。
死亡は、まだ確定してません。

 

421:拾郎:2016/06/23 00:32No.940

⑧-7

鐘が鳴る。
鐘が鳴る。
渇いた音を響かせ鐘が鳴る。
クォンタルとイサナが己の生命を極限まで燃焼させて放った最後の奥義の余韻が冷めやらぬ中、鐘の音が鳴り響く。

異端審問官エムレ・ゼラードは、苛立ちと焦燥を横顔に張り付け、『闘神都市』により形成された砦の内部を早足で歩く。
幾何学的な構造ながら、冗談のように古風な『砦』に響く鐘の音が、エムレを更に苛立たせる。
鐘の音は、エムレが首から下げた異端審問印(マグノリア)から響いている。
「今さら・・・」
遅いんだよ!
言葉を飲み込みだ。
悔恨。
後悔。
全ては自分自身に向けられる。
「くそったれ!どうして俺は何時も、誰一人助けられないんだ!?」
どうすれば、良かった?
どうすれば、クォンタルとイサナを救えた?
闘技場の英傑二人に対し、『捨て石』命じた新課長に噛みつけば良かったのか?
待機命令を無視し、飛び出せば良かったのか?
だが、自分は新課長を信じた。
新課長も自分に託したり
その結果が・・・。
後悔する。
後悔する自分自身に嫌気が指す。
誰一人助けられぬ自分自身を嫌悪する。

「・・・てっ!」
不意に額に小さな衝撃。
「髪止め、落としたみたい」
頭上より、聞き慣れた声。
砦の天井近くの幾何学的な梁に腰掛けた少女が、淡々とした口調で呼び掛ける。
「拾ってもらっていい?」
エムレは無言で足元に落ちた小さな金属片がついた髪止めを、アンジェの元へと投げ返す。
「`助かったわ'」
刃を収めた大鎌の先端で、髪止めを絡めとると、梁から梁へと跳び去っていく。

「・・・また、気を使いやがったのか」
呟いた後、エムレは両手で自分の頬を叩く。
「くそったれ!分かっているさ!俺は一人でも多くの手をつかんでやる!そのために俺は・・・」
砦の一角、外部に通じる内壁が内側から開いていく。
エムレは疾走すると、その亀裂に飛び込んだ。
「異端審問官になったんだ!」

飛び込んだ先は、無貌の洗礼者達が溢れる群れ。
その無機質な顔が一斉にエムレを捉え、瞬時に衝撃波を波状に放つ。
「'嘆きの丘`では、世話になったな、木偶人形」
一度は『北の教会』を壊滅寸前まで追い込んだ相手。
聖剣の一撃すら無効とする躯と、学習・強化していく戦闘能力は、聖衣聖騎士エウゼリオが己の命と引き換えにすることで、辛うじて退ける事ができた。
「でもよ、もう正体は割れてんだよ」
壁を蹴り、大きく跳躍しながら、懐より抜いた銃を構える。
エウゼリオの戦闘記録を元に、静老師ケステ・ジヤイムが、置き土産として解明した無貌の洗礼者の正体。
それは、『特化型悪魔』
洗礼者として『奇跡』能力を授かった人間を、AF『銀爪芽』により強制的な『悪魔』化。
自我を磨り潰され、偏った力を持ちながら、強烈な破壊衝動により行動する、異形。

「だけどな、『異端者』相手なら異端審問官は負けないんだよ!」
エムレが構えた銃口から放たれた弾丸が、空間を抉りとるように、射線上の無貌の洗礼者達を消滅させる。
第一種封印弾。
かつて法王庁が定義した「異端」に対する、究極の切り札。
対応型AFの能力を極限まで引き出す半面、製造は困難を極め、課長の許可なく使用する事は禁じられている。
しかし。
「二発目、いくぜぇ!」
異端審問印(マグノリア)より取り出した弾丸を銃に込め、射出。
直後に異端審問印に空の弾丸を装填。
僅か数秒で、第一種封印弾が完成する。
感情を持たないはずの無貌の洗礼者達が僅かにたじろいだ。

同時刻、砦の対角線上で、巨大な十字架状の閃光が走る。
アズールによる強化型エイバムの柱による封印攻撃。
二度、三度。
有無を言わさぬ攻撃が、無貌の洗礼者達を駆逐していく。

~◇~◇~◇~◇~


「『沈黙の鐘』は、全ての異端審問印に封印弾作成能力を授けます」
第八課課長は手にした小型の鐘を掲げた。
眼鏡を押し上げ、淡々とした口調で宣言する
「この鐘が鳴り響くのは、史上三度目。
特級災害時と判断された時のみ異端審問局課長の3分の2以上の可決により発動が許可されます」

鐘の表面に浮かびあがる数字は、異端審問印と連動した、Ⅱ、Ⅲ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅷ、Ⅸ、Ⅹ、Ⅻ。
そして、リーベンが持ち帰った‘古代種の瞳’により疑似発動したⅦ。

「‘沈黙の鐘’の発動、・・・すなわち‘大聖伐’の発令」

ライナス・バルグと同じ、あの言葉をつぶやく
「・・・始めます、‘異端審問’を」



【前提】:異端審問官は、『沈黙の鐘』の発動効果により、『必殺技ゲージ常に満タン状態(異端審問印により充電可能)』になっている。
ただし
・そもそも生き残っている異端審問官(&現存する異端審問印)が少ない
・『沈黙の鐘』の効果時間は、きわめて限定的

⑧-8
切り込み役を務めたエムレ。
無貌の洗礼者達を後退させつつあるが、流石に疲労が見える。
僅かな判断ミスにより、劣性に。
そこに援軍登場。
援軍は、『ただ一人』だが、エムレは勝利を確信する。


⑧-9
上空:礼服の道化師が憐れむ。
「一度お見せした手品で、何度もお喜び頂けるとは思っておりませんでした。悪魔の弱点である核を体内で自由に動かせるのが、種明かしでございます。ご明察でございました」
「ですが対応策は、悪手極まりない。
確かに封印攻撃による力押しであれば、悪魔化した洗礼者など、容易に倒すことができましょう。
ですが、リーベン様がお持ち帰りになられた『古代種の瞳』で稼働させた『沈黙の鐘』の効果時間は、精々12時間といったところでしょうか。
『北の教会』の皆様が大聖伐を発動させる目的は、あくまで「調停者様の打倒」であったはず。」
「この死せる都クルラ・セルラから聖都まで早馬でも2日。
一矢報いる覚悟にしろ、僅かな可能性に掛けるにしろ、空前絶後の策をお持ちにしろ、
唯一の切り札をこのような形で使いきってしまうとは・・」

踵を二度鳴らし、『接続』したAF効果を調整。
足元への爆撃を再開。

「ライナス・バルグであれば、決して起こさぬ失策でございます。そうでしょう、北の教会統括にして第八課の新課長、キールベイン様?」


もうちょっと続く
このペースなら、あっさり終わりそう。
 
425:拾郎:2016/06/24 06:37No.944
『ライナスの死後、新たな課長となったキールベイン』というシーンがやりたかったマン
 
426:拾郎:2016/06/24 15:58No.945
⑧-9
前提:『接合』のゴイコチェア。
ベルザインの子供達の一人。
礼服姿の道化師。
洗礼能力は、自身の部位の‘接触’を伴う動作と、任意のAF能力効果を『接合』すること。
例:手を叩く→真空波、ステップを踏む→高速機動
過去には、不意打ち、闇討ち、騙し討ちと『北の教会』にたいして奸計を用いてきた。


③ゴイコチェアvsキールベイン
無呼吸攻撃ともいうべき、『接合』したAF効果の連続発動。
雨の様に降りかかる攻撃が、紙一重で回避したキールベインのコートを抉る。
「お見事、そして美しゅうございます。」
眼下で必死で回避するキールベインに対し、踊るように体の各部の『接合』効果を発動させながら、余裕の笑み。
「ですがキールベイン様、そろそろ終幕の時間でございます。」
銃による散発的な反撃を道化師、対AF用の防除壁の発動により防ぐ。
「終幕でございます。ライナス・バルグの死亡以来、貴方の事は観察させていただいております。少々、いやかなり荷が重いかと思いましたが、よくぞ崩壊寸前であった『北の教会』を建て直されました。ですが、最後であなたは打つ手を誤った。敗軍の将は美しく散るのが、古来からの流儀」
道化師、強力AF発動。
「さあ、最後に相応しい血の華を咲かせるのです!」

「最後ではありません・・・始まりです」

道化師の左右から、二本の矢が突き刺さる。
AF防御結界の影響を受けない、通常の木製の矢。
「なん、だと?私の知覚範囲にも・・・」
「捉えられるはずがない。千メルテ以上の遠方からの攻撃を」

射手の一人はリーベン。
聖石を埋め込んだ、'聖アストラルのアダスタ`と同じ血を引くもの。
極限まで研ぎ澄まされた知覚と、対応させた肉体が、古代種の弓矢を使いこなす。

射手の一人はフランク・ラパード。
'最初にして最高の猟犬`
'初代十二指課課長`
'五十年振りに目覚めた男`
その肉体に封印された‘獣’の力を限定解放。
右肩に浮かび上がった‘鷹の頭部’が長遠距離の獲物を捕らえ、‘四本の腕’が超重量のバリスタを軽々と引き絞る。

「最初から・・・この私を狙って」
激しい痛みにより‘接触’もままならない。
‘浮遊’の解除により落下、地面に激突する瞬間に辛うじて再発動させたが、その頭部を待ち受けていた別の男につかまれる。
まずい。
とにかく、逃げなくては。
無我夢中となり、緊急脱出ようの‘接触’を発動。

「狙っていたのは、貴方が空間経路(パス)を開く瞬間です。・・・聖都に通じるパスを」

道化師、体が動かない事に気づく。
喋るどころか、指一本動かせず、瞬きすらできない。
ー体が乗っ取られた?
「以前、お前は言っていたナ」
「僕達の『融合』は、君の『結合』の下位互換だっテ」
ワニ登場。
その右手に掴んだゴイコチェアの頭部に優しく語り掛ける、
「今、君と僕らは『融合』していル」
「心配はいらなイ。これ以上、なにもしない。お前は『何もしなくていい』んダ。呼吸と心拍は我らが負担しよウ」
「心配はいらなイ。お前はただ経路(パス)を開き続けていればいイ。」

「これより、『聖都奪還』を開始します」
キールベインの号令と共に、『闘神都市』により形成された砦が、その構造を大きく変化させる。
上空に開いた経路(パス)に架かる巨大な凱旋橋のような形状となると、その袂に待機してきた整列した集結部隊に命令する。
「進軍!」
地鳴りのような歓声が死せる都を震わせる

先陣を切るのは、銀嶺騎士団。
馬蹄を響かせ勇壮な隊列が経路(パス)へ続く凱旋橋を駆け上がる。
改修ヘルメス機関による蒸気音が突撃笛のように鳴り響かせ、鉄道騎士団の自艘列車が続く。
さらには、北の穂先族の駆る金毛熊の群れが、ガゼイル銃装隊が、ガードウイッグ傭兵隊が、集結した無数の部隊が軍団旗を翻し、疾走する。
更には個人で、あるいは数人で戦い続けてきた者達も、様々な武装を纏い、次々と経路(パス)へと突入していく。

「お先に!」
「・・・世話になったな」
「今日から神様を信じることにするぜ!」
短く、思いの込められた言葉を残し、虚空へと消えていく。

「さあ、僕達も行こう」
キールベインは眼鏡を右手で押さえ、経路(パス)の彼方を見据える
「終わりの、そして始まりの戦いに」

 

発動編につづく

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