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承フェイズ『ロイドリッツ』

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王都の城壁にかかった夕日が、市内の陰影を色濃く写し出す。
半壊、焼失した区画が、全域の三割。
死傷者は非戦闘市民、難民を含めて二千名近く。
王国が誇る特務三将が一人、`扇裂将'ジョズエ・ラハートの行方も未だに不明のままだ。
半年前に「南の王国」を襲った未曾有の大災厄の影響は、復興ままならぬ王都に色濃く残嗜を残していた。

夕暮れの王都の裏路地を、簡素な外套を纏った壮年の偉丈夫が歩く。
広い肩幅に揃えられた口髭。
僅か五年で混乱の半島南部をまとめあげた獣心王、ローフェルマルス。
`信仰の為に、信仰を棄てた'元異端審問官。
自身が圧倒的な戦闘能力を有しているとはいえ、一国の最高権力者が護衛も付けず、混迷が続く王都を歩いていく。

正確には、護衛はいた。
足早に進む獣心王の後を、静かに、そして自然体についていく男が一人。
中背の体格に、これといった特徴のない顔立ち。
元暗殺者。
かつて所属した暗殺組織において、最高実力者に与えられる称号`死神'に最も近いと言われた、`銀の雨'ファースティー。
その男が獣心王の影のように、いや、足音のように付き従う。

人を殺す事で、自分が生きる意味を得る。
それが暗殺者として育てられたファースティーの価値観だった。
ある事件を切っ掛けに、暗殺組織を抜けてからは、中途半端な生活を続けた。
前歴を、能力を隠して市制に溶け込もうとした。
だが、ファースティー自信の本性がその生き方を拒絶した。
暗殺者として研ぎ澄まされた感性は、納めるべき鞘を突き破り何度もその刃を剥き出しにした。
「だが、これでいい」
ファースティーは頷く。
相方に導かれ、獣心王と出逢い、初めて自分の人を殺す能力が、人を守る事に使える事に気づかされた。
獣心王を一人を守ることは、更に多くの人々を守る事に繋がる。
半年前の災厄も、指三本と引き換えに獣心王を守りきれたからこそ、「南の王国」は崩壊せず、堪えることが出来た。
その為にはもう少し、あれほど自身が忌み嫌った暗殺者であり続ける事ができる。

王都の外れ、共同墓地。
半年前の犠牲者が大勢葬られた真新しい墓。
墓石が間に合わず、木の枝を交差させただけの簡素な墓が永遠と続いている。

墓地に足を踏み入れたローフェルマルスが、姿を替える。
獣心王から平凡な容姿の少女へと。
少女の名前は`仮面'の聖別者、マリー・メイズ。
一年前に死亡したローフェルマルスの代役を演じ続ける存在。
ファースティーが守りきると誓った存在。
平凡な感覚と王道の気概を同居させる存在。

「約束です。私は「私」として、ここに参りました。・・・そろそろ、真実をお話しください」
マリー・メイズが呼び掛けた言葉は、ファースティーに向けられたものではなかった。
墓石に背を預け、煙草を吹かす男が一人。
「半年前の事件の真相。なぜ、「南の王国」が、ベルザインの子供たち(チルドレン)に襲撃されたのか?なぜ、「北の教会」は、我々を裏切ったのか?約束通り、答えなさい'筆記官クリスタ`、いえ・・・」
マリー・メイズの表情に「王道」の意思が浮かぶ。
「元異端審問局第三課課長ロイドリッツ・ヴァレンタイン」


「この煙草を吸い終わるまで、待ってくれるかい?」
まばらに浮かんだ無精髭と、肩まで延びた髪をかき上げながらロイドリッツは紫煙を吐いた。
警戒するマリー・メイズとファースティーに対し、肩を竦めてみせる。
「俺も事の真相に気づいたのは、ついさっきなんだ。正直、まだ整理がついていない。だから、1本だけ吸わせてくれ」
弔い酒ならぬ、弔い煙草を。
「・・・ライナス・バルグのために」

 

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