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⑤エムレ・ゼラード

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匿名ユーザー

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⑤ver2

エムレ・ゼラードは自負がある。
十六年の人生の中で、常に選択肢は自分で選んできたという自負がある。
時には感情に任せて、時にはちっぽけなプライドのために賢いとは言えない選択もした。
だが、選択は他人から強制されたものではなく、自分の決断だ。
だから、選択の結果に対する後悔はない。
「先生」に導かれて、異端者の道も歩んだ時も。
「クソ親父」の頼みで、法王庁の‘罪人’となった時も。
法王庁崩壊後、「北の教会」で異端審問官見習いとして、調停者ベルザインに対する絶望的な抵抗活動も。
間もなく発令される「第三次大聖伐」にて要となる第一隊を託す、と伝えられた時も。
常に、自分の意思で決断してきた。
だから、選択の結果に対する後悔はない。
あるはずがない。

そんな矜持を持つエムレでも、「まさか」と思うときがある。
例えば昨夜、アンジェの「最後の出撃の前に、‘決着’をつけよう」と誘われた時は、すくなからず「まさか」と思った。
ライナス・バルグ死亡後の「北の教会」において、アンジェは三強の一角に挙げられる存在だ。
A級AF`魂食の鎌(テスティレンス・サイズ)'を手足の如く自在に操る、卓越した戦闘力を持つ少女。
引き絞られた肢体が秘めた卓越した身体能力と、天性のAF適応才能を秘めた‘白き腕’に、であった当初のエムレは一方的に噛みつき、勝負を挑んだ。
結果、二週間は立ち上がれない重症を負った。
実力差は理解していた。
アンジェが天才だという事も、自分が凡人である事も理解していた。
だが、無表情ながら「レベルが低すぎる」という感想を隠そうともしないアルジェの視線を、‘強くなる’という決意を秘めて修練を続けていたエムレは許容できなかった。

その後も演習、あるいは聖務執行中でも顔を合わせれば衝突したが、次第にその回数は減少していく。
同時に当初は無表情で口数が少なかったアンジェは、少しづつ歳相応の表情を見せるようになっていった。
最近では、他愛のない会話を交わす程度の落ち着いていた仲になっていたため、アンジェから「‘決着’をつけよう」と誘われた事は意外であったが、承諾した。
初めてであったのは一年ほど前だが、不思議な懐かしさがある。
今にして思えば、あの事のエムレは自分の弱さに対する劣等感はない。
それも含めて自分であるという事に気づいた。
気づかせてくれる人たちがいた。
だから、今の自分がアンジェと立ち会えば、今の自分が持っている物を全て出しきれるかもしれない。
「いいぜ、男の意地と矜持いう奴を見せてやる」
不遜な笑みを浮かべて見せるエムレを、アンジェは最近少しづつ見せるようになった薄く小さな笑みを浮かべ、応えた。
「・・・その言葉、忘れないでね」

そして、今。
‘決着’をつける約束の時間、約束の場所。
アルジェはいなかった。
代わりに迎えたのは、尼僧服に医療用エプロン姿の薬草師の少女だった。
その性格・戦闘スタイルから怪我の多いエムレが旋寮院に担ぎ込まれる度に治療し、最終的には「まるでエムレ専属担当だ」と同期のロメロにからかわれた。
時には個人的な会話を交わすこともあったの少女が、頬を紅潮させ浮かべている表情を見て、エムレは「まさか」と口走る。
「・・・あの、人形女に気を使われるとは」

少し離れた場所で、二人がぎこちない会話を始めたのを確認すると、アルジェは‘決着’の結末を見届ける事なく背を向け、歩き出す。
体の一部のように常に持ち運んでいる‘魂食の鎌(テスティレンス・サイズ)は、今日は所持していない。
「見せてあげなよ。男の意地と、・・・なんとやらを」
肩にかかる髪を抑えて歩き去る後ろ姿からは、普通の少女と変わらない華奢な影が伸びていた。

 

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