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ゴイコチェア

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匿名ユーザー

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メーラレン山脈中腹に広がる死せる都クルア・セルラ。

60年前に異端組織‘神界の霧’が異端審問官により壊滅を迎えた地。
すなわち、‘第一次大聖伐’終焉の地。
以降は‘禁止区域’とされた如何なる者も立ち入る事が禁じられたこの地に、続々と武装した集団が集いつつあった。
皆が長旅で薄汚れ疲弊していたが、その眼光は鋭く全身から覇気が溢れていた。
間もなく発令される聖都奪還作戦、‘第三次大聖伐’への期待と覚悟が、彼等の魂を震わせていた。

 

405:拾郎:2016/05/29 20:26No.913
⑧-2

死せる都クルア・セルラに人が集う。
個人、集団、大部隊と集まるにつれ、有形無形の活力が高まり、重なり、熱せられていく。

中でも銀嶺騎士団の到着は、一際目をひいた。
アスガルドで最も格式ある騎士団は、馬蹄を響かせ、轡を並べ、夕陽に真銀の甲冑を煌めかせながら整然と行進する。
その様は、誰もが持つ'騎士団`そのものであり、力強く華々しい。
だが、彼等が誇るのは伝統と格式のみだけではない。
上位洗礼者ユーバスをその突撃槍で仕留めた実績が、一段と'半島最古の騎士団`の行進に華を添えていた。

ガゼイル銃装隊の設営地では、硝煙と火薬の匂いが立ち込めていた。
常に近代兵器を取り入れ進化する彼等のスタイルは、洗礼者相手に独自の銃剣術を進化させていた。

ガードウィック傭兵団の周囲は、物々しく、殺伐とした空気に満ちていた。
通称、埋葬旅団。
かつては、「金次第では、どんな仕事を引き受ける」と知れ渡った悪名は、今では「報酬を揃えれば、どんな洗礼者も討ち取る」という名声に変わっていた。

金毛羊の群れと、毛皮を着込んだ戦士達。
伝説の少数民族、北の穂先族。
'獣の理(ことわり)`と呼ばれる独自の体術は、雪原を離れても華々しい活躍を見せている。

「美しゅうございます」
一人の男が大袈裟に感嘆する。
凡庸な容姿に、道化の笑み。
劇場の支配人のような、場違いな礼服。
「そして、お見事でございます。よくぞここまでの'生きた戦力`を集結させたものでございます。」
パチパチパチパチ、と白手袋を合わせ乾いた拍手。
「同盟が、そして盟約が決裂しなければ、更に'南の王国`と'古代種の戦士団`が加わっていたのでしょう。歴史上例をみない連合大隊、見とうございました。」
文字通り'国家`の戦力を持っていた'南の王国`と、精霊術を使いこなす'古代種`。
喪われた代償は大きい。

「ですが見事なものでございます。歴史上最大の同盟軍を持ってして大聖伐の発令。
信念。
希望。
勇気。
目に見えないほど、その美しさは増していく・・・。今後、これ程美しゅうものを見ることは無いでしょう」
両手の白手袋の指の間に、五色の玉。
「不肖ながら、ベルザインの子供達(チルドレン)が一人、この'連結`のゴイコチェアより、この素晴らしい光景を見せて頂いた御代を送らせて頂きます」
礼服の道化師は、「眼下」を見下ろす。
死せる都の『上空』に整然と立ち、織り成す刺繍のように集結していく陣形を皆下ろしながら、慇懃な一礼と共に玉を放つ。
「御返しはお気遣いなく」
玉が地上に落下すると同時に閃光、爆音。
集結する軍勢の密集地に、八つの爆発の華が咲く。
「何より、儚きものほど美しゅうござきますからねえ」
道化師の哄笑が、死せる都に響いた。

続く

 

⑧-3

「人の善意とは、伝える事が難しきものでごさまいます。手間隙をかけ、自信を持った贈り物でも、お気に召して頂けるかは、分からない」
大勢の観衆に聞かせるように、'接続`のゴイコチェアは朗々と口上を述べる。
「ですから大切なものは、誠意だと思うのです。凡庸の身であるこの私ながら、この度の御代に誠意だけはかけさせて頂きました」
礼服姿の道化師が立つのは、上空400メトルー。
背筋を伸ばし、一礼をしながら、遥か足元に対して語り続ける。
「先程お楽しみ頂いた品は、三種類の聖留弾の'接続`により、芳醇な爆発がお楽しみ頂けたかと思います。」

ゴイコチェアにより地上に投下された僅か八つの爆留弾によって、集結部隊は大混乱に陥っていた。
爆風と爆煙が舐め尽くされた爆心地には、四散した四肢や頭部、そして臓物が放射状に飛び散っている。
尚も負傷者が多数。
精鋭中の精鋭ともいうべき集結部隊の全域っ、怒声と混乱と悲鳴が飛び交っていた。

「食前酒がお気に召して頂けたようで、何よりでございます。続いてオードブルに参りましょうか。」
組み合わせた両手を広げると、左右の手のひらに、先程の3倍程の大きさの玉が二つづつ。
「`サネトールの虐殺`で知られる対竜爆雷を'接合`させて頂きました。四百年前の年代物ですが、刺激的な風味をお楽しみ頂けるかと思います。では、拝見させて頂きます。絶望が真の絶望に変わる光景を」
慇懃な一礼と共に、投下。
 

 

 
⑧-4

地上で起きた爆発は、400メトルー上空に'立つ`ゴイコチェアまで衝撃と熱波がたたきつけられる。
直前に、かざした手の掌の前面に『断空壁』を展開。
爆発の衝撃を防ぎきる。

聖別能力『接続』。
事象の結果を任意の対象に結ぶ、ゴイコチェアただ一人が有する『奇跡』。
ゴイコチェアは全身に多数のAFの発動効果を『連結』している。
『発動効果』を連結しているので、ゴイコチェアは多数のアーティファクトを持ち歩く必要はない。
また、アーティファクト発動・操作の訓練も才能も必用としない。
任意に自信の部位に『接続』したアーティファクト効果を開放するだけで、要は足りる。
足底の『浮遊瘡』に然り。
右手の『断空壁』に然り。

やがて上空まで吹き荒れた爆風が収まると、黄昏の時代において、最悪の戦略的失敗に数えられるサネトールの惨劇の再現を期待しながら、『断空壁』を解除したゴイコチェアは、足元を見下ろした。

「これは・・・」
地上の光景を覗いた道化師が、驚愕とも失望ともつかない声を漏す。
眼下には、赤く発光するワイヤーにより、幾何学的な模様が地上に描かれていた。
上空から俯瞰すると、巨大な地上絵にも見えるが、ワイヤーの内部は地面が隆起し、あるいは周囲の石材や土砂、櫟がき上げ、人工的な構造物を構成していた。
死せる都クルア・セルラ全体に匹敵する巨大な構造物は、ゴイコチェアが対竜爆雷を投下した直後に出現し、混乱収まらぬ集結部隊をその内部に取り込み、爆雷の直撃を耐え抜いていた。
「無学な私めでは、巷の伝承程度の知識しかございませぬが・・・」
道化師の口許が歪む。
「ロスト・アーティファクト『闘神都市(バトル・シティ)』。環境を最適化する広範囲型AF。・・・なるほど、集結地がこのクルア・セルラであったのは、そういう理由でございましたか」
「'ヘルデ山脈`の'女王の宮殿`にて、エムレ様達が入手された事は存じておりましたが、使いこなす事は不可能だと認識しておりました。大変見事なものでございます。四百年程度の歴史しか持たぬ花火では、伝説のロスト・アーティファクトを相手にするのは失礼極まりない話でございました。」

 

412:拾郎:2016/06/05 23:31No.928
「それでこその皆様!実に素晴らしい、実に美しい!」
道化師の口許の歪みが喜悦に変わる。
「皆様なら、私が全身全霊をかけて用意させて頂いたメインデッシュをお気に召して頂けると、確信させて頂きました。」
踵を慣らすこと二回。
『接続』した『空間経路(パス・ポート)』の発動効果により、地上の構造物の周囲を取り囲むように、無数の空間空洞が開く。
その数は、157。
その空洞一つ一つより、黒装束の人影が現れる。
露出した肌は陶器のような質感の白。
顔面には鼻と口に該当する器官はなく、目には眼球の代わりに虚空を見つめる孔が開いているのみ。
肘、膝は本体とは離れており、雷が放つ電気に似た発光により結ばれている。

「'無貌の洗礼者`157体、メインデッシュとしてお召し上がり頂きたく献上いたします。三ヶ月前の『沈黙の丘』では、聖衣聖騎士エウゼリオ様を持ってして、相討ちという結果でございましたが、伝説に並ぼうとする皆様なら満足して頂けましょう」
「かたては偉大なる夢の都クルア・セルラ。
今は忌まわしき死せる都クルア・セルラ。
この地で儚く散るも、雄々しく散るのもいずれの結末も美しゅうものでございます。不肖ながら、ベルザインの子供達(チルドレン)が一人、'連結`のゴイコチェア、最後まで見届けさせて頂きます」
大袈裟な一礼と共に、無貌の洗礼者の群れが動き始めた。

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