鐘が鳴る。
鐘が鳴る。
渇いた音を響かせ鐘が鳴る。
クォンタルとイサナが己の生命を極限まで燃焼させて放った最後の奥義の余韻が冷めやらぬ中、鐘の音が鳴り響く。
異端審問官エムレ・ゼラードは、苛立ちと焦燥を横顔に張り付け、『闘神都市』により形成された砦の内部を早足で歩く。
幾何学的な構造ながら、冗談のように古風な『砦』に響く鐘の音が、エムレを更に苛立たせる。
鐘の音は、エムレが首から下げた異端審問印(マグノリア)から響いている。
「今さら・・・」
遅いんだよ!
言葉を飲み込みだ。
悔恨。
後悔。
全ては自分自身に向けられる。
「くそったれ!どうして俺は何時も、誰一人助けられないんだ!?」
どうすれば、良かった?
どうすれば、クォンタルとイサナを救えた?
闘技場の英傑二人に対し、『捨て石』命じた新課長に噛みつけば良かったのか?
待機命令を無視し、飛び出せば良かったのか?
だが、自分は新課長を信じた。
新課長も自分に託したり
その結果が・・・。
後悔する。
後悔する自分自身に嫌気が指す。
誰一人助けられぬ自分自身を嫌悪する。
「・・・てっ!」
不意に額に小さな衝撃。
「髪止め、落としたみたい」
頭上より、聞き慣れた声。
砦の天井近くの幾何学的な梁に腰掛けた少女が、淡々とした口調で呼び掛ける。
「拾ってもらっていい?」
エムレは無言で足元に落ちた小さな金属片がついた髪止めを、アンジェの元へと投げ返す。
「`助かったわ'」
刃を収めた大鎌の先端で、髪止めを絡めとると、梁から梁へと跳び去っていく。
「・・・また、気を使いやがったのか」
呟いた後、エムレは両手で自分の頬を叩く。
「くそったれ!分かっているさ!俺は一人でも多くの手をつかんでやる!そのために俺は・・・」
砦の一角、外部に通じる内壁が内側から開いていく。
エムレは疾走すると、その亀裂に飛び込んだ。
「異端審問官になったんだ!」
飛び込んだ先は、無貌の洗礼者達が溢れる群れ。
その無機質な顔が一斉にエムレを捉え、瞬時に衝撃波を波状に放つ。
「'嘆きの丘`では、世話になったな、木偶人形」
一度は『北の教会』を壊滅寸前まで追い込んだ相手。
聖剣の一撃すら無効とする躯と、学習・強化していく戦闘能力は、聖衣聖騎士エウゼリオが己の命と引き換えにすることで、辛うじて退ける事ができた。
「でもよ、もう正体は割れてんだよ」
壁を蹴り、大きく跳躍しながら、懐より抜いた銃を構える。
エウゼリオの戦闘記録を元に、静老師ケステ・ジヤイムが、置き土産として解明した無貌の洗礼者の正体。
それは、『特化型悪魔』
洗礼者として『奇跡』能力を授かった人間を、AF『銀爪芽』により強制的な『悪魔』化。
自我を磨り潰され、偏った力を持ちながら、強烈な破壊衝動により行動する、異形。
「だけどな、『異端者』相手なら異端審問官は負けないんだよ!」
エムレが構えた銃口から放たれた弾丸が、空間を抉りとるように、射線上の無貌の洗礼者達を消滅させる。
第一種封印弾。
かつて法王庁が定義した「異端」に対する、究極の切り札。
対応型AFの能力を極限まで引き出す半面、製造は困難を極め、課長の許可なく使用する事は禁じられている。
しかし。
「二発目、いくぜぇ!」
異端審問印(マグノリア)より取り出した弾丸を銃に込め、射出。
直後に異端審問印に空の弾丸を装填。
僅か数秒で、第一種封印弾が完成する。
感情を持たないはずの無貌の洗礼者達が僅かにたじろいだ。
同時刻、砦の対角線上で、巨大な十字架状の閃光が走る。
アズールによる強化型エイバムの柱による封印攻撃。
二度、三度。
有無を言わさぬ攻撃が、無貌の洗礼者達を駆逐していく。