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小話「異端審議長 シモン・クレメンス」

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「ああ、恐ろしい」
シモン・クレメンスは全身を覆う外套の下から、‘巨神’を見上げる。
平静かつ真摯な表情で呟く。
「これほどまでに、御心の布教に努めたが・・・」
両手を上げると、外套が風になびく。
「未だに、哀れな盲信が存在する事が恐ろしい」

『黙れ、神の犬め!』
巨神が吼え、大気が震えた。
右腕の装甲が左右に割れ、大口径の銃身がシモン・クレメンスを捕らえる。
『貴様さえいなければ、法王庁など烏合の衆にすぎん!』
『偽りの支配に満ちたアスガルドを、我らガランテ神族の手に取り返す!』
自身に向けられた十二門の銃口に対し、シモン・クレメンスは穏やかに諭す。
「悲しむな、哀れな子羊達よ。救いは必ず訪れる」

『撃て!』
号砲が、白銀の斜面を震わせた。
射出されたのは、真銀製貫通弾(ミスリル・ブリッド)。
‘黄昏の時代’の中期以降に上位巨神に装填された、上級弾。
至近距離で使用すれば、‘竜’の装甲すら貫通する。
シモン・クレメンスは、炸裂した弾丸に撒き散らされる、雪と土砂の中に掻き消えた。
   
「取りなさい、流れる血は祝福の証である」
短い聖句と共に、シモンの体が跳躍する。
銀髪に、年齢を感じさせない若々しい鼻梁と目元。
きつく結ばれた口元。
そして吹き飛ばされた外套の下から露になった上半身、鋼の様に引き締まり、無傷のままだ。
いや、無傷と言えるのか。
その全身は無数の古傷で覆われていた。
腕、首の刃傷。
脇腹の弾痕。
そして胸から腹へと一際大きく刻まれた十字傷。
「我が祈りは・・・」
『殺せ、神の犬を殺せ!』
頭上へと跳躍したシモン・クレメンスに巨神が振りかぶった超重量武器が殺到する。


「我が祈りは、聖光なり」
   
シモンの全身が震えた。
頭部から。
両手から。
全身の古傷と銃創から、光の束が噴出する。

『があああ!!!』
シモンに殺到した巨神のうち、三対が有機結合をした顔面を覆い、崩れ落ちた。
シモンの全身から噴出す‘聖光’に中てられ、装甲の表面が瞬時に剥げ上がる。
ナタリア鋼を鍛え形成れた装甲が、強烈な陽光の元に晒された白紙のように、ポロポロと劣化していく。

『下がれ!』
崩れ落ちる味方の機影を盾に、9体の巨神は円形状に広がる。
『距離を取り、撃ちまくれ!』
雄雄しく叫ぶが、シモンの姿をまともに見ることすら、ままならない。
神々しい光は、空気のうねりを呼び、大気を共鳴させている。
その音は荘厳な協奏曲にも似ている。
機神と一体になった身でですら、これだけの影響を受けている。
生身であれば、一瞬で心身喪失状態に陥ったであろう。
全身を蝕んでいく‘神への畏怖’に必死で抵抗する。

これが、異端審議長シモン・クレメンスの‘聖光’。
歴史上、いかなる聖人も聖別者も持ち得なかった‘最も神に近い力’。
法王庁の頂点に位置し、異端審問局十三課を束ねる‘閃震殻’シモン・クレメンスの奇跡の力。

数体の巨神が、武器を捨て、膝をついた。
祈るが如く、頭部を垂れている。
-奪われた祖国の奪取
-同胞達に託された無念
-脈々と受け継がれてきたガランテ神族の誇り
その全てが、目の前の一人の男を殺せば、手に入る。
百年に渡る暗沌から抜け出せる。
だが、シモンの発する‘聖光’は、その強固な思いすら、打ち消していく。

『ふざけるな!こんな結末があってたまるか!』
絶叫と共に、銃口をシモンに向け、標準を定めずひたすら撃つ。
泣き喚く子供の様な銃声に対し、シモンは手を掲げ、‘聖光’をその手のひらに集約させる。
「悲しむな、子羊達よ。救いは必ず訪れる」
聖句と共に、集約した‘聖光’が放射状に広がる。
やがて、十二体の巨神は全て膝をつき、頭部を下げていた。

 

足元に落ちていたボロボロの外套を拾うと、シモンは歩き始める。
その体は、まだ微かに発光している。
巨神は微動だにしない。
従順な巡礼者のように頭を下げ、膝をつく巨神の間を、シモンを静然と歩く。
やがて、山頂付近にガランテ神族が生活していた住居跡に辿り着くと、扉に手をかざす。
鍵が崩れ落ち、扉は内側に倒れる。
住居-軍事施設であり、研究施設でもある-に足を踏み入れるといくつもの扉を開け、最深部を目指す。
中には、いくつもの貴重な‘黄昏の時代’の遺失物があるが、シモンは目もくれずひたすら最深部に向け歩き続ける。

「おお、これが!」
最深部に設置された巨大な棺桶の前で、シモンの口から感嘆の声が漏れる。
微かに息を切らせると、棺の蓋に両手を当てる。
‘聖光’と共に、蓋が崩れ落ちると、シモンは中を覗き込む。
「‘飼い葉桶の中の救いの御子’か。・・・予言通りだ」
棺の中で眠り続けていた赤ん坊を前に、シモンは呟いた。
抱え上げると、赤ん坊は激しく泣き始める。
シモンの全身はまだ微かに発光しているが、‘聖光’を物ともせず、泣き続ける。
「ほほう。まずは・・・」
赤ん坊を自らの外套で包むと、シモンは踵を返す。
「名前をつけてやらねばな。ゆこう‘御子’よ」
シモンの顔に、満足気な笑みが広がる。
異端審議長になってから見せた事のない、優しく穏やかな笑みだ。

「聖都がお前を待っている」

375 名前:拾郎 :10/12/02 01:48:12 ID:AavRyLwL
    補足:異端審議長シモン・クレメンス

    とりあえずラスボスっぽく設定してみました。

    なるべくチートに。
    なるべく裏がありそうな感じに。

    余白は残してあるので、気がむいたら色付けしてみよう

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