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小話「No11 No12」

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匿名ユーザー

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「やれやれ・・・法王庁も人員不足ですかねぇ」
男はそう呟くと、眼鏡の中央を押し上げた。
「人員不足なのは法王庁だけではナイ。我々もダ」
周囲は、血と呻き声とにまみれていた。
その加害者の物である、固い重厚な声が眼鏡の男に答えた。
「そうですねぇ。一桁(シングル)ナンバーの大部分が敗北、撤退ですから」
「そうダ。だが、奴らにはまだ戦力が有ル」
足下で呻いていた神父を、苛立ちと共に巨躯の男は踏みつけた。
「くははははっ・・・大丈夫ですよ。たまたま入った順番が遅かっただけで、我々は今のナンバーですが、本来はシングルナンバーレベルです。その二人が残っていれば問題はありません。ねぇ、No12?」
「フン! 砂上の楼閣になど興味はナイ」
ずしり、と響くような足音を立てながらNo12『大地砕き(アースクラッシャー)』は先へと進む。
「法王庁は法王を中心に成り立っているのです。つまりその中心が砕ければ、真に力が残っている者が残る。つまりは我々がこの半島を支配出来るというわけですよ」
そこそこに端正な顔を、いびつに歪めて笑う男――死徒No11――は眼鏡の中心を押し上げた。

彼らは機を伺っていた。
シングルナンバーと主たる審問官たちが闘う機を。

「貴様ら! そこを動くな!」
新たに現れた神父たちに、No11は愉しそうな笑みを浮かべる。
「ふふふふふっ・・・今度は私がやりますよ。邪魔はしないで下さいね」
「あまり苦しめるナ。俺たちの目的は・・・」
苦々しく言う『大地砕き』に、No11は笑った。
「ええ。分かっています。すぐ終わりますよ」
男が両手をかざすと、錬成陣が浮かび上がる。
片方は大気中の水分を具現化する錬成陣。
もう片方はその水の性質を変化させる錬成陣。
二つが合わさり、濁った霧が生まれる。
「さぁ、味わって下さいね。この私『死水術師(バッドトリップ)』のもてなしを」
「ぐっ・・・ああああああっ・・・・・」
毒の霧に神父たちは苦しみ、もがき始めた。


今、この二人を止められる者は存在しない。
主立った審問官、神父はシングルナンバーとの戦闘に赴いており、残った人材では『死徒』を止める事は出来ない。
二人は法王庁の入口へと辿り着いた。


月も隠れ、薄明かりすらも届かない闇の中に立つ影がある。
「一人・・・カ?」
「おやおや・・・逃げ遅れたんですかねぇ?」
巨躯と長身の影は、眼前の影へと目を向ける。

中肉中背。
顔に刻まれた皺はいくらかあるものの、法衣の下の鍛えられた肉体はかつて死線を潜り抜けて来たと思わせるに充分な身体だ。
だがその肉体の最盛期は過ぎており、法王庁においてはデスク派に属すると推測される。
そのひ弱そうな男の、だが張りのある突き刺すような声が二人に答える。

「ここは、貴様らのような屑が踏み入ってよい場所ではない」
直接過ぎる言葉に、『死水術師』の頬と眉がわずかに上がる。
「ほぉ? 身の程を知らないのか、それとも相手の力量を計れないないのか・・・どちらにしても万死に値する発言ですよ」
「・・・・・」
『大地砕き』の方は、冷静に周囲を見回す。
たった一人で二人の『死徒』を相手にするような馬鹿は審問官にもいないだろう、との考えからだ。
だが、周囲に伏せてある戦力は見あたらない。
法衣の男は、なおも続ける。
「貴様らのような屑でも、せめて祈れ。楽に死ねますように、と。
せいぜいもがき、後悔しろ・・・慈悲をお与え下さいと」
温度といったものを感じさせない男の言葉に、『死水術師』がキレた。
「その言葉、自分で味わいなさいっ!!」
最大級の威力で錬成された水の槍が、一斉に法衣の男へと向かう。
「チッ」
同時に『大地砕き』も、両腕に仕込んだアーティファクトを発動させ、水の槍に轟音を添える。
法衣の男は避けない。
槍はそのまま男へと命中し、爆砕する。
水飛沫が派手に上がり、周囲に一時的な霧を発生させる。
「ははははっ・・・躱す暇もありませんでしたか? まぁ、どうせ避けられたとしても自動追尾するん・・・」
『死水術師』の言葉は途中で途切れた。
霧が晴れた時、その男はまだ立っていたから。
いつどうやって設置したというのか、男の前には巨大な柩が立っている。
「水遊びはもう充分か? 満足したらとっとと絶えろ、異端者ども」
法王庁の切り札とも言える『異端審問官』以上の能力を持つ『死徒』。
その二人の『死徒』を前に圧倒的な余裕と圧力を加えるこの男を何と形容すべきか。

「はん、自分で自分の柩を用意しているというわけですか!」
「ヌウウウウッ!!」
地を蹴り、その巨躯に似合わぬスピードで『大地砕き』が跳躍する。
「残務整理が残っている。手間をかけさせるな」
法衣の男の声と同時に、柩の蓋が開く。
中から現れたのは、人形だ。
匠たちが多くの労力と精神を削り、作り上げた最高傑作。
ドレスを纏う、人にしては大柄な、人形にしては小柄な影が舞い降りる。
(からくり人形カ? そんな物で俺を止められるものか!)
『大地砕き』の両手と『人形』の両手とが、がっしりと組み合う。
そのまま力と力とが均衡する。

人形は確かに強力な武器となる。
だが、それは・・・
「人形使いですか!? 自慢の人形は確かに強いかもしれません。ですが、それを操作しているのはただの人間。隙だらけですよ、術者の方はねぇ!!」
『死水術師』の腕から濁った水が吐き出され、巨大な水の弾丸となり、無防備な法衣の男へと・・・
向かう前に、水の弾丸が爆ぜた。
もっと詳しく説明すれば、その中心部分のみが別の力により貫通させられていた。
『死水術師』が最後に見た光景は、無力だと思われていた男が銃口を向けている姿だった。
「ばか・・・な・・・・・・」
状況を認識出来ない余裕の表情と、認められない驚愕の表情を合わせた表情のまま、『死水術師』は崩れる。
「どうして異端者は、どいつもこいつも同じ過ちを繰り返すのか? いや、同じ過ちを繰り返すからこそ、異端者なのか」
独り言のように法衣の男は呟いた。

人形のヴェールに包まれた瞳が紅く輝いた。
『大地砕き』はそんな印象を抱いた。
次の瞬間、彼の両腕が嫌な音を立てて折れた。
今までどんな闘いにおいても、決して本人を裏切った事のなかった両腕が、今悲鳴を上げ屈した。
「グ、ギ・・・アアアアア」
「黙れ」
『大地砕き』が絶叫の全てを上げる間もなく、男の銃弾が眉間を貫いた。
呆気なく二人の『死徒』は殲滅させられた。


『彼女』には決して止めを刺させない。
『異端者を殺す』という、汚れ役は全て自分が執行すると決めているから。
自己欺瞞、自己満足、矛盾、整合性の欠如。
彼女を模して作られていても、それは彼女ではない。
彼の記憶の中のように、笑わない。
泣かない。
怒らない。
考えない。
喜ばない。
それでも彼は、彼女には手を汚して貰いたくなかった。


治療班の足音が聞こえる。
法衣の男、――法王庁第8課課長ライナス・バルグ――は、自らの執務へと戻る。
『異端者の殲滅』は、未だ果たされていないから。

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