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マグノリア@Wiki

「Ver.3]

最終更新:

匿名ユーザー

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半島を南北に分断するヘルデ山脈は、‘アスガルド半島の天井’とも呼ばれる、半島屈指の山岳地帯でもある。

古の女王の名前を冠した山脈は、常に吹き荒れる強風と豪雪でも知られ、白く美しい化粧を纏っている。


切り立った断崖に迫り出した岩場に不動の姿勢で起立し、‘剛剣喰らい’は、遥か足元の渓谷を縫うように延びるアスガルド鉄道を、静かに見下ろしている。

ヘルデ山脈の最高峰である‘女王の頂’から吹き付けられ風雪は、‘剛剣喰らい’の身を包む甲冑を通り過ぎるたびに、子供の悲鳴のような音をたてる。

先刻の戦闘で、甲冑が大きく破損し、一際‘悲鳴’が大きく聞こえる。

ドベルク人の名匠が鍛えた漆黒の甲冑を始めて装着した頃は、その音を聞くたびに心の奥が疼いた。

‘剛剣喰らい’が片目片腕を失った一夜を、己の誇りであった聖騎士という職業を蔑むだけの対象になった、七年前の‘あの日’を思い出すからだ。

だが、今は疼きも乾いた。

風の音どころか、本物の悲鳴を聞こうが、己の任務を実行できる。

残された左目は、劫火と流血に彩られた光景だろうと冷徹に見捉え、残された右腕は、己の前に立ち塞がるもの全てに剣を振るうことが出来る。

それが‘聖騎士’であったボルツ・ボグスが完全に死に、‘逆十字団死徒’である‘No9・剛剣喰らい’が今を生きている証拠なのだろう。


「・・・大した破壊力だ」

数刻前の戦闘を思い出し、‘剛剣喰らい’は小さく息を吐いた。

異端審問官相手に勝利した意義のある戦いであったが、勝利の代償として受けた損傷は、余韻に浸るには大きすぎた。

左手に構えていた重アーティファクト『憤怒の盾』は、異端審問官が最後に放った『第一種封印弾』の直撃を受け止め、砂糖菓子のように砕け散った。

‘竜の息吹(ドラゴンブレス)’でさえも防ぎきる楯だったが、構えていた左腕を甲篭手ごと吹き飛ばし、左腕は肘より先から、ひしゃげた義手の骨格と筋繊維代わりのワイヤーが垂れ下がっていた。

全身を包む『甲冑』の表面にも無数の亀裂が入っており、受け止めた衝撃がいかに大きいものであったかを‘剛剣喰らい’に語っていた。

『甲冑』の背面から伸びる二本のフレームを‘装甲’として使用する‘防御形態(バジリスク・フォーム)’も、稼動状況が著しく低下している。

フレームを‘腕’として使用する‘強襲形態(ヒュドラ・フォーム)’に戻しても、作動不良な‘腕’では無用な死角を作るだけだと判断し、右腕の剣を振るい自らフレームを切断する。

「結局、誰も止められなかったという事だ」

視界を狭めるひしゃげた兜を焼け焦げた地面に投げ捨てると、冷厳とした空気が張り詰める銀世界に向かって呟いた。

自分がこれからやろうとしている事が、アスガルド半島の根底を大きく揺るがす事は、自覚している。

それが、正しい事とは‘自身も思っていないが、‘剛剣喰らい’の決断は変わらない。

自分を止める最後の可能性で異端審問官は、‘剣’の一撃により鮮血を撒き散らしながら谷底にへと落下した。

‘逆十字団死徒’となり、七年。

立ちふさがるものを全て切り捨ててきた。

もはや立ちふさがる者は誰もいない。

後は、眼下の渓谷を通過するアスガルド鉄道に最後の剣を振るえば、全てが終わる。

 

「やっと、追いついたぜ。・・・」

雪原から頭を覗かせた岩場の上に立つと、ザック・プレバンスは谷底を見下ろしていた黒甲冑の男に向けられた。

雪の積もった尾根を勢いよく駆け上がってきたため、防寒具も兼ねた皮鎧の下の鋼を思わせる巨躯は、加熱されている。

右腕には、岩のような拳で本来は両手持ち用の大剣を軽々と握り、左腕には巻きつけるように大型のハンドガンが固定されている。

接近戦用と遠距離用の重量武器を同時に使いこなし、一個人で一個中隊並みの戦力の所有。

それが、本来は死刑囚であったザック・プレバンスが、法王庁より‘罪人’として存在の意義を見出された理由だ。

「・・・質問に対する返答は肯定だ。後数分後に、この岩場の真下を法王庁の特別車両が通過する。‘聖櫃’を貨載し、‘聖都ロンバルディア’に直行する特別列車が、俺に破壊される為にな」

薄暗い光を放つ‘剛剣喰らい’の隻眼が、剣を構えなおすザックへと向けられる。

煤けた甲冑の表面を、谷底から吹き上げる風雪が斑に染める。

「そして今夜、聖都に‘彷徨える逆十字団’が終結する。欺瞞に満ちた偽りの‘十字印’を掲げるだけの法王庁に、我々が‘逆十字’を刻む」

「そうかい、やりたきゃ勝手にやりな」

‘剛剣喰らい’宣戦布告に、ザックはゆっくりと大剣を構えることでこたえる。

「・・・列車が通過するまで、手前が立っていられたらな!!」

‘剛剣喰らい’の隻眼は、ザックの全身から噴出す闘気を捕えるのと同時に、ザックの大剣が、雪風を切り裂きながら‘剛剣喰らい’に迫った。

 

中編:

胸部装甲に逆十字が刻まれた黒い甲冑の前で、‘剛剣喰らい’は右腕に構えた剣で、ザックのグレートソードによる一撃を受け止めた。

重厚な金属音と、鈍い火花が風雪に散り響く。

「良い響きだ」

山鳥の囀りに耳を傾けるように、‘剛剣喰らい’は隻眼を細めた。

「我流であろうが、踏み込みも間合いも申し分ない。実践で鍛えられた‘本物’のようだな。・・・久しぶりに喰いごたえのある‘剛剣’だ。だが・・・」

隻腕を一閃すると、ザックの巨体があっけないほどに吹き飛び、風雪吹き荒れる雪原に叩きつけられる。

鍔競り合いに弾かれた際、‘剛剣喰らい’の剣先が、ザックの皮鎧を紙のように切り裂き、噴出した鮮血が雪原を赤く染める。

「クッ!」

「惜しむべきは、剣筋に感情の乱れが入っていることだ。お前の剣筋は直線に走る野牛の動きのように、読みやすい」

「かすり傷一つ付けたくらいで、調子に乗るんじゃねぇ!」

全身に絡んだ雪を撒き散らしながら、ザックは跳ね起き、叫んだ。

「どうやら・・・」

対照的に‘剛剣喰らい’は落ち着いた冷徹な声を出す。

「先ほどの異端審問官の死が、貴様を動揺させているようだな」

‘剛剣喰らい’が吐き出した言葉に、剣を握るザックの腕が揺れた。

押さえつけていた感情が、大きく揺れる。

「キールベインと名乗ったあの異端審問官を、俺が切り伏せ谷底へと蹴落としたのは、谷の対岸にいた貴様も見ていたはずだ。・・・谷を迂回し尾根伝いに、俺を追いかけてきたようだが、無駄足だったな」

「決め付けんじゃねぇ!」

力によってねじ伏せようとするザックの斬撃を、力を持って押さえ込む。

銀光が風に散り、ザックは再び後方へ弾き飛ばされる。

「無駄だ。全てが無駄だ。・・・異端審問官と対峙しようと‘逆十字団’は、止まらない。‘第一種封印弾’を持ってしても‘剛剣喰らい’は、止まらない。・・・今更貴様が俺の前に立ち、何が出来る?」

「黙れ!」

焼けるような叫びを肺の奥から絞り出すと、ザックは左腕のガントレットに固定された鈍い輝きを放つハンドガンを構える。

鈍く輝く剣呑な銃口を向けられても、‘剛剣喰らい’は尚も悠然と言葉を続ける。

「主を殺された‘罪人’が、‘異端審問官’に代わり‘異端者’を討つつもりか?・・・それこそ無駄な行為だ。お前の行為を評価する人間は、最早この世にいない」

「黙れと言っているだろうがぁ!!!」

絶叫と供に左腕に構えた固定式ハンドガンを‘剛剣喰らい’に向け、引き金を引き絞る。

‘個人装備用の大砲’とも呼ばれる大火力が生み出す反動を、強靭な腕力で捻じ伏せながら、劇鉄を引き続ける。

巨大な回転弾装から薬莢が排出し続けながら、ザックは叫ぶ。

「あのガキが、キールが死ぬ訳ないだろ!」

「事実は受け入れず、か・・・」

発射される弾丸を、一呼吸ごとに切り裂きながら、‘剛剣喰らい’は、呟く。

連続的な爆音が、ヘルデ山脈の頂を震わせるが、爆風と爆炎は、‘剛剣喰らい’の右腕が繰り出す高密度の剣圧と剣風により、‘剛剣喰らい’の前方で切り裂かれる。


「大した絆だ。そして愚かしい」

着弾による煙が薄れる中、雪原を飛び出した黒甲冑が、ザックに肉薄する。

「くっ!?」

砲撃の間髪を縫い、一瞬で間合いの内側に入り込まれたザックは、後方に向かって跳ねながらも、反射的に大剣を突き出す。

‘剛剣喰らい’は、突き出された剣に構わず前進し、ザックの間合いの内側に進入する。

剣先が黒甲冑の表面を削り、不快な金属音が反響した。

「情による馴れ合いでは、この歪んだ世界は救えん。腐敗を取り除いても、火災を消化しても、変革すべき本質が変わらなくては無意味だ」

間合いの内側で、‘剛剣喰らい’は右腕を一閃した。

至近距離での一撃には、反撃も回避も不可能となる。

「それが何だって言うんだ!」

叫びながらザックは振り下ろされた剣に、自分から左腕を叩きつけた。

左腕に手甲ごと固定されたハンドガンが、無数の金属片となり散乱する。

「分からぬか!?腐らすものは腐らせ、焼くものは焼く!その後で初めて新世界の誕生が可能になる!‘逆十字’を掲げる事で、法王庁がこの世界に満たした欺瞞と偽りが一掃される!」

剣戟を防いだ直後にザックが見せた一瞬の隙を、‘剛剣喰らい’は見逃さなかった。

鉄靴の先端が、ザックの皮鎧を蹴り飛ばす。

「グッ!」

切り裂かれた胸から、一際大きく鮮血が飛び散り、‘剛剣喰らい’の黒甲冑を汚した。

肺の上に直接叩き込まれた衝撃に、ザックは大きく咳き込んだ。

ザックの上体が大きく揺らぐが、ザックが再び倒れることはなかった。

全身を支配する痛みをねじ伏せ、浴びせ続けられる‘剛剣喰らい’の言葉に逆らうように、右足を前方へ踏み込む。

「だからよ・・・」

「むっ!?」

またに一歩踏み込んだザックに対し、‘剛剣喰らい’は逆胴の一撃を見舞う。

だが、ザックが右腕に構えた大剣が、必殺のはずの一撃を受け止める。

「それが・・・」

さらに一歩、ザックが踏み込む。

互いの刃が交わる支点は固く咬み合ったままであったが、‘剛剣喰らい’の隻腕に微震が走った。

(この男!?)

危険を察知した闘争本能が、‘剛剣喰らい’に再びザックの胴目掛けて蹴りを出させる。

鉄靴の先端を腹部に食い込ませながらも、ザックは踏み込みを止めない。

「貴様は!?」

「それが何だって言うんだ!!」

最後の踏み込みと同時に放たれたザックの左拳が、‘剛剣喰らい’の頬に叩き込まれた。

「お前等の理想が、野望がなんだろうと、キールは‘絶対に止める’と言った」

大きく後方に殴り飛ばされた‘剛剣喰らい’の前に立つと、倒れたままの‘剛剣喰らい’に向かって言い放つ。

「‘剛剣喰らい’!‘お前を止める’とあの馬鹿は言ったんだよ!」

 

「なるほど。それが、貴様のタフネスさの理由か・・・」

裂けた口の端から流れる血を、手の甲で拭いながら立ち上がると‘剛剣喰らい’は、大きく後方へと跳躍した。

「もう少し、剣を交えていたい気もするが・・・時間だ」

風に乗り、列車の汽笛と駆動音が響いた。

その音を合図に、‘剛剣喰らい’は首から吊るした‘逆十字印’を口に銜えると、右手に握った剣の柄へと接続する。

「何だ?」

訝しげに眉をひそめるザックに、‘剛剣喰らい’は剣鍔が外れ、赤黒い炎が刀身全体を包まれていく剣を掲げながら応えた。

「A級アーティファクト‘粛閃の剣’。・・・元は‘黄昏の時代’に作成された巨神専用アーティファクトだ。リミッターを解除することで、刀身に圧縮されたカデル砂状銀が微振動を開始し、巨神の打撃力で対象に叩きつけることで、‘グングニル’に匹敵する爆発が引き起こされる。‘聖ナタリア鋼’が外装に使用された法王庁特別車両と言えど、‘粛閃の剣’の直撃と、列車の動力炉である‘ヘルメス機関’を誘爆には耐えられまい。・・・特別貨物の‘聖櫃’ごと、爆心地より半径五百メートルはクレーターになる」

「・・・‘巨神’並みの打撃力がなければ、使えないんだろうが」

「そのための、断崖に面したこの高台だ。高さ百メートルからの落下速度に加え、列車との接触の瞬間に、俺が‘粛閃の剣’を一点に叩きつける」

‘剛剣喰らい’の隻眼は、徐々に近づいてくるアスガルド鉄道を捕えていた。

その静かな視線に、ザックは‘剛剣喰らい’の胸中を悟る。

「てめえ、・・・最初から死ぬ気だったな」

「この命は七年前に捨てた。‘剛剣喰らい’が最後に喰らう剛剣は、法王庁の根底を揺るがす‘聖櫃’であり、法王庁そのものだ」

‘剛剣喰らい’は、微かに笑ったようだ。

アスガルド鉄道の汽笛が、大きく渓谷に響く。

「さらばだ。貴様との仕合は久しぶりに面白い時間だったぞ」

「ふざけるんじゃねえ!」

強風に逆らいながら、ザックは黒甲冑の背を向けた‘剛剣喰らい’に向かって駆け出す。

しかし、大きく伸ばしたザックの右腕が黒甲冑を掴む直前に、‘剛剣喰らい’は静かに虚空へ跳躍した。

 

後編:

一瞬の浮遊感の後、重力に引かれるままの強力な加速が、‘剛剣喰らい’の体を包む。
甲冑を高速で通り過ぎる風が、子供の悲鳴のような音を立てる。
その中に、自分を呼び止める声を‘剛剣喰らい’は聞いた。
『ボルツ様』
『ボルツ様。どこへ行くの?』
七年前の‘あの夜’と同じように、複数の子供たちがボルツを呼び止めた。
あどけない表情を残した子供たちに、あの日は本当の事を告げられなかった。
無邪気に笑う子供たちに、自分が聖騎士団より派遣された‘異端者’の監視役’であったことを告げられなかった。
そして、自分に向けられた笑顔が、聖騎士の地位と名誉を捨てる事を決断させ、自らの‘団長殺し’に行く事を告げられなかった。
あの日は、何一つ本当の事を告げられなかった。
だから今日は、本当のことを言う。
「お前たちに救いの手を差し伸べなかった法王庁に‘逆十字’を掲げた後・・・お前たちの元へ行く」
耳元で唸る風の音が、一際強くなった。
『ダメだよ、ボルツ様!』
『私たちは幸せだった』
『ボルツ様が僕たちに優しさをくれた。だから幸せだった』
「黙れ!」
全身に叩きつけられる強風の中、‘剛剣喰らい’は叫んだ。
自分は優しさなど与えていない。
ただ、‘任務’を遂行していただけだ。
だから必要なのだ。
存在しない神に代わって、自らの手で下される‘贖罪’が。
『ダメだよ、ボルツ様!』
『私たちのために、これ以上他の人を傷つけないで』
『僕たちのために、これ以上ボルツ様が傷つかないで』
子供たちの声が、‘剛剣喰らい’を激しく揺さぶる。
「それでも俺は!」
隻眼が捉えていたアスガルド鉄道が、視界の中で僅かに歪んだ。
赤黒い炎を上げる‘粛閃の剣’を、子供たちの声を振り払うように振りかぶる。
後は、落下と同時に剣を振り下ろすだけで終わる。
それだけだ。
だが、初めて人を斬った時のように剣を握る腕が、いや全身が震えていた。
「うおおおお!!!」
『ダメだよ、ボルツ様!』
『そんな事は・・・』
「止めるんだ!‘ボルツ・ボグス’!!!」
そして、一発の銃弾と、純然たる意志の込められた叫びが、‘剛剣喰らい’に放たれた。

‘第三種封印弾’に込められた風術式連金印は、発砲と同時に開放された。
落下直前の‘剛剣喰らい’の肉体は、銃声と供に放たれた強烈な下風により、落下の速度をそぎ落とされる。
それでも、落下の衝撃は相当のものだ。
特別車両の雪の積もった装甲車両の上に叩きつけられ、黒甲冑が弾け跳ぶ。
「ぐおっ!」
「あなたは!」
硝煙が上がる銃を、斬撃により切り裂かれ血で汚れた神父服に仕舞いながら、キールベインは風除けに使用していた煙突の背後から飛び出し‘剛剣喰らい’の前にたった。
「こんな形で終わる人じゃないでしょう、‘ボルツ・ボグス’!」

キールベインは、待っていた。
谷底に落とされたとき一発目の‘第三種封印弾’を使用し、落下のダメージを軽減したとは言え、先の‘剛剣喰らい’との戦闘で追った負傷は、重症の域まで達している。
自分の体が、異端審問官として十分な戦闘行為に耐えられないのは、自覚していた。
それでも通過する特別車両に飛び乗ったのは、‘このとき’を待っていたからだ。

「貴様は!?」
目の前に現れたキールベインに、うつ伏せの姿勢のまま倒れた‘剛剣喰らい’は、隻眼を大きく見開いた。
先ほどの戦闘で、自身が負わせた複数の斬撃による傷は、神父服を鮮血で染め、‘剛剣喰らい’自身のダメージより深いの明白だった。
立っているだけでも信じがたいが、銃を仕舞ったキールベインが口にした言葉は、さらに信じられない言葉だった。
「その剣を、渡してください」
いまだ右腕に‘粛閃の剣’を握ったボルツに、キールベインは手を伸ばした。
「あなたは、こんな間違った終わり方をする人じゃない」
(馬鹿だ、コイツは)
顔を伏せると、‘剛剣喰らい’は吐き捨てた。
この期に及んで。
この期に及んで、まだ‘戦う前’と同じ事を言っている。
いいだろう。
‘粛閃の剣’を使い、聖櫃を破壊する奥の手は残してある。
その前に、立ち上がると同時に、今度こそ、この異端審問官を切り伏せる。
今度こそ。
今度こそ、俺は。
「なぜなら、あなたは・・・」
尚も何かをキールベインが言いかけたとき、突風が倒れ伏せた‘剛剣喰らい’の上を吹きぬけた。
‘剛剣喰らい’の目の前で、キールベインは列車の外、すなわち谷底へと吹き飛ばされる。

反射的に‘剛剣喰らい’は立ち上がり、キールベインに向かって走った。
‘剛剣喰らい’に残された腕は、一本。
その腕に残された‘粛閃の剣’を投げ捨てると、キールベインに向かって手を伸ばす。
今度こそ。
今度こそ、俺は。
「死なせはしない!」
列車の淵でキールベインが伸ばした腕を掴むと、‘剛剣喰らい’は叫んだ。

右腕に、ずっしりとした重みが伝わってくる。
七年間、掴むことの出来なかった重みだ。
強風に煽られる体を強引に、列車の上に引き釣り込むと、‘剛剣喰らい’は大の字に倒れた。
「なぜだ!畜生!!」
冷徹な表情をかな繰り捨て、叫んだ。
‘剛剣喰らい’は、子供のように叫んだ。
分からなかった。
最後の最後で、‘粛閃の剣’を捨て、敵である異端審問官を助けた。
その理由が分からなかった。
「俺は、‘逆十字団死徒’だ!決して止まらない‘剛剣喰らい’だ!その俺がなんでだよ、畜生!」
「なぜなら、あなたは・・・」
答える声は、すぐ傍だった。
「‘ボルツ・ボグス’は、優しい人だから、です」
「‘ボルツ・ボグス’。・・・俺の名前だ」
「心に傷を負った‘剛剣喰らい’は、他の誰にも止められなくても、‘ボルツ・ボグス’には、止められたんですよ」
キールベインの言葉に、‘剛剣喰らい’は静かに首から提げた‘逆十字印’に右腕を伸ばす。
「この俺の、負けだ」
‘逆十字印’を引きちぎると、‘ボルツ・ボグス’は、小さく呟き、ゆっくりと目を閉じた。


―残る死徒は、あと3人

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