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小話「青銅の魔女」

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匿名ユーザー

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「どんな獲物だって、必ず捕まえてみせるさ。相手は神様じゃねぇ、同じ人間なんだからよ」
- あるA級 賞金首ハンター ?


「ったくよお!・・・とんだ無駄足だ!」
「はぁ・・・すみません」
「謝ってんじゃねえ!!」
おっとりと謝る尼僧に、苛立たしげな男、ティーダは怒鳴った。
酒場でそこそこの金を払って得た情報『法王庁からの莫大な額の賞金首がいる』というのが、どうやら嘘だったらしいからだ。
ティーダが警戒しながらその場所を探って、見つけたのは古ぼけた教会。
だが、その中に居たのは一人の若い尼僧と子供たちだけだった。
男の言葉が脳裏に思い起こされる。
『額が額だけに、かなり凶悪な賞金首だ』
C級クラスとは言え、アーティファクトを所有しているティーダは完全に肩透かしを食らった気分だった。
(こいつらのどこが凶悪だ!? 話を盛るのもいい加減にしろ!)
腹いせに金品でも頂こうかと思えば何も無く、むしろここに食料を恵んでやったほどだ。
おまけに、
「もう夜も遅いですから、泊まっていって下さいな」
などと尼僧が微笑み、子供たちまでもそれに同調した。
(ただじゃ帰れねえ、きっと何か金品を隠してるに違いねえ!)
男は自らの精神的安定を保つため、ありもしない宝を探すことにした。


一週間が過ぎた。
男があると信じていた金品などは当然、無かった。
「今日も私たちに食事を与えて下さり、ありがとうございます」
「・・・ありがとうございます」
神への祈りを済ませ、貧しい食事を取る。
子供たちの騒がしい声と、尼僧の笑い声。
「リーゼ姉ちゃん! 今日、裏の森で木の実を見つけたよぉ!」
「そう? 偉いわね。どんな木の実なの?」
「うんとねぇ・・・」
貧しいながらも、本当の家族のような雰囲気だった。
そして、いつの間にかその中に溶け込もうとしている自分を見つけ、ティーダは頭を振る。
(いやいやいや! 俺はこんな所で終わるような人間じゃねえ!)
俺は有名な賞金首ハンターになる男なのだ、ティーダは自分にそう言い聞かせる。
もっとも第三者から見れば、教会の子供たちの為に薪を割っている姿などはどこから見ても、この環境に溶け込んでいる状態なのだが。


教会の尼僧、リーゼは優しくおっとりした女性だった。
彼女が笑うと、子供たちもつられて笑った。
子供が泣いていても、彼女が歌えば子供たちは泣くもの忘れ、大人しく聞いていた。

一度子供が盗みをしてきた事があった。
貧しさに耐えかねてか、リーゼの為になのかは分からない。
彼女は怒らなかった。
だが、とても悲しい顔をした。
それは子供にとって、怒られるよりも辛いことだったのか、それ以後その子供は盗みをしなくなった。

とにかくこの教会兼孤児院は、若い尼僧を中心として回っていた。
明日の保証など無い、いつ死ぬか分からない状態であったが、そこには“平穏”があった。
子供たちの誰もが、そしてティーダまでもが、この生活がずっと続くと思っていた。

 

その日は唐突に訪れた。
「ここがその賞金首が居るところか? まさか、お前か?」
十数人もの屈強な賞金稼ぎたちが、教会に現れた。
ティーダは首を振る。
「あんたらも、ガセネタ掴まされたみたいだな。ここにゃあ、そんな大層な奴ぁいねえ。
居るのは若い尼僧とガキどもばかりだ」
子供たちはティーダの背後に隠れ、足にしがみついている。
「なんだと!? 高い金払って、わざわざ来たってのに、何もないだと!?」
「ああ、ちなみに金目のもんも、からっきしだ」
数週間前の自分を思いだし、ティーダは肩をすくめる。
だが、その男たちはティーダと同じ考えには至らなかった。
「ちっ・・・こうなりゃあ、その尼僧さんに慰めて貰わなきゃなんねえな!」
「腹いせだ。今後間違えないように、きっちり始末しといてやるか」
「情報屋をしめるのは、ここを焼き払った後だな」
口々に勝手な事を喚き、男たちは殺気立った
「お、おい、無茶な事は止め・・・」
「るせぇんだよ!」
止めようとしたティーダの言葉は、男の言葉と拳に遮られた。
気を失うティーダが考えたのは、
『偶然にも尼僧が買い出しに行っていて不在だったのは幸せだったかもしれない』
ということだった。

 

戻ってきた尼僧の目に写ったのは、燃えさかる教会だった。
彼女の手から、パンを入れた篭が落ち、残雪に埋もれた。
「あっ・・・・・あああ・・・・」
「よぉ、待ってたぜ、尼僧のねーちゃんよ!」
「ひゅう! こいつはいい女だ!」
賞金稼ぎらしき男たちが、野太い笑い声を上げる。
「に・・げろ・・・・リー・・・ゼ・・・ぐふっ!」
体中を殴られ、ロープで体を拘束されていたティーダが蹴られた。
「子供たちは・・・教会は・・・私の・・生き甲斐は・・・?」
リーゼががっくりと膝を落とす。
「がははははっ! 喜びな! あんたの重荷を無くしてやったぜ! ガキの世話なんてやってらんないだろう?」
「ぎゃはははは! 礼ならそう大したもんはいらねえよ! 俺たちにほんの少しサービスしてくれりゃあいいんだ!」
男たちの下品な笑い声が響いた。
尼僧の暗く沈んだ表情は、影になっていて見えない。
ただ、小さい呟きだけが漏れた。
「・・・ぱり・・・所詮、咎人は咎人だと・・・・しゃるのですか・・・?」
「壊れたか? ちっ、まぁいい。それより死なれると楽しめねえ、押さえとけ」
背後に回った男が、リーゼを捕まえた。
髪を掴んで引き立たせる。
「死ぬなよぉ? 死んでもいいが、俺たちへのサービスが終わった後にしな」
「恨むなら、ガセネタを流した法王庁と情報屋を恨みなよ!」
彼女のその瞳に、ティーダの姿が写し込まれた。
「さようなら・・・ティーダさん・・・ずっと・・・ずっと、リーゼでいたかった・・・」
リーゼは最後にそう呟いた。


◇◇◇


ティーダはその匂いで気が付いた。
鉄を含む、何度嗅いでも慣れないその匂い。
ゆっくりと視界が広がった。
雪で覆われ白いはずの大地は、半分以上が赤く染まっていた。
「こ・・・これは・・・?」
ティーダが顔だけを巡らせる。

どさり、と何かが倒れる音とびちゃびちゃという、何かが流れる音。
「!?・・・うっ、うわああああ!」
何度もそういった状況を見てきたティーダでさえ、目を覆いたくなるような惨状だった。
生きたまま首を引き千切られ、捨てられた死体。
大木に両手両足を縫いつけられ、少しずつ切り刻まれた死体。
両手両足だけを潰され、芋虫のように這い蹲っていたであろう死体。
そして、今、最後の得物を仕留め、満足そうな笑みを浮かべる赤黒い尼僧の姿。

尼僧の顔のパーツは間違いなくリーゼのものだった。
だが、その表情の作り方は全くの別人だった。
「きゃは、きゃははははは!! 弱っちいのに、プライドだけは一人前に振る舞うからよぉ!」
血染めの修道服に、恍惚とした表情を浮かべる女がそこに立っていた。
燃えさかる炎の紅に、返り血の赤、そして彼女自身の上気した紅が互いに異なる色合いで存在していた。
「リーゼ?・・・君は・・・?」
ティーダの言葉に、女が振り返る。
「リーゼぇ? 今は居ないわよ。今のあたしは、ロッテ。彷徨える逆十字団、死徒No10、『破滅の魔女』。まぁ、今は正式な一桁(シングル)Noになったのかもしれないけどねぇ。一桁Noどもがおっ死んでさ、きゃは、きゃははははは!!」
けたけたと笑う彼女に、以前の面影は無い。
いや、同じ顔であるが故に、その表情の違いがはっきりする。

彼女こそが、法王庁に莫大な賞金をかけられた存在だったのだ。

がっくりと倒れ伏すティーダの耳元で、金属音が響いた。
「なっ・・・」
彼女は賞金首から奪ったであろう、銃口をティーダへと向けている。
「きゃははっ! やっぱり平等でなくっちゃね。すべからく平等な苦痛を。
平等な痛みを! 平等な絶望を! 平等な死を!!」
ティーダは、ぎゅっと目を閉じる。
だが、次の瞬間に諦めに似た感情へと思い至った。
(どうせ、俺は死ぬんだ!)
きっ、と銃口へと顔を向ける。
「んんっ? 何か言いたい事でもあるの?」
赤くその身を染めても、彼女は美麗だった。
形の良い唇が、不吉に歪む。
「リーゼ、お前さんがやった事は無駄じゃない! 少なくとも、俺や教会の子供たちはお前さんに救われた!」
「・・・あたしはリーゼじゃ無いって言ったでしょう?」
僅かに苛立たしげに、彼女が答えた。
「リーゼ、目を覚ませ! そりゃあ、この世界は生きていくには辛い事が多い! けど、だからって逃げてちゃあ、何も始まらない!」
「五月蠅いわね。よく聞きなさい、リーゼに騙された愚かな男。リーゼという人格は、法王庁があたしを繋ぎ止める為に作った偽りの人格なのよ。他人に従順な、他人に都合の良い、牙を抜かれた畜生なの!」
リーゼはあからさまに不機嫌な表情を浮かべ、銃口を近づける。
「それでもよ・・・お前さんと居た、このちょっとの間は良かった。ガキんちょどもだって同じ気持ちだったはずだ。例え騙されてたとしたって・・・満足さ」
「・・・・・・」
ティーダは脱力する。
「お前さんがリーゼじゃないってんなら、彼女に伝えてくれ・・・『ありがとう』ってな」
どれだけの事を伝えられたかは分からない。
だが、ティーダは伝えたい事は伝えたつもりだ。
だが・・・
「・・・・・いのよ」
彼女がぽつりと何かを呟いた。
「?・・・・・ぐああああっ!!」
銃声が響き、ティーダの右肩に灼熱の針が突き刺さった。
「うるさいって、言ってんのよ! べらべらべらべら好き勝手、偉そうに!」
次いで銃声とティーダの苦痛の声が上がる。
左脚を撃ち抜かれたようだ。
男の顔に脂汗が浮かび、その身体が仰け反る。
髪を引っ掴まれ、顎の下に銃口が当てられる。
「そんなにリーゼが好きなら、そのリーゼに殺されなさいよ!」
狂気に顔を歪ませ、喚く彼女に、ティーダは笑った。
「へへっ・・・俺の命をくれてやるんだから、この後は絶対にリーゼに戻れよな・・・」
「っ!! だまれえええええぇぇぇぇぇぇ!!」
銃声が響いた。

◇◇◇

「ふぅん、それでお前さんは、この女を捜してるってわけかい?」
陽気も陰気も怒声も歓声も全てをひっくるめた喧噪の中、話し声が聞こえる。
言われた男は黙って頷き、左手でグラスを煽った。
「知らねえな。・・・悪いが、噂さえ聞いたことがねぇ」
絵師に描かせたであろう若い女性の肖像画を、酒を飲む男に返す。
「そうか・・・邪魔したな」
男は酒代をテーブルに置くと、ゆっくりと立ち上がる。
その左足を引きずるように、ゆっくりと歩き出す。
「この広い半島の中で、人を一人見つけるなんて無理だろ?」
男の背中に声がかけられた。
男はわずかに振り向き、笑いながら言った。
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ? 賞金首ハンターのティーダ様だぜ? 狙った獲物は必ず捕まえてんだよ!」
(何年かかろうと、必ず捕まえてやる・・・待ってろ、リーゼ)
男は酒場を後にした。

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