2-4 小話「法王庁襲撃編‘No5 鋼翼の執行人’」
前編:
「‘猟犬’、といったか。君のように、‘異端’の力を持ちながら、法王庁の飼犬に甘んじている者を」
漆黒の闇の中、No6‘鋼翼の執行人’は、‘芸術の都’として知られるマルクホーフェンの大劇場に立つ俳優のような仕草で、朗々と発した言葉が、広い地下空間に反響する。
「我々‘逆十字団’の動きを読んで、この墓穴のような場所に潜み、こちらの出方を待っていたのか? 法王庁らしい、合理的な行動だな。命令するのは神の声が聞こえる人、実行するのは血に汚れた牙をもつ犬」
「さっきから、ごちゃごちゃとうるさいんだよ‘異端者’!」
大げさに肩をすくめ、長髪をかき上げる‘鋼翼の執行人’を目掛けて、閃光の鋭さで間合いを詰めたオルティアが、右腕に生やした鉤爪が振り折ろす。
「気に触ったかい? お嬢さん」
‘鋼翼の執行人’は、体重を感じさせぬ動きで後方へ跳ねながら、獣のように変形した右腕を石造りの床にめり込ませたオルティアを、弄るような視線で眺める。
「その力、噂にきいた‘混濁の魔獣’か・・・。さすが‘悪魔’の力を開放した一撃だ。加えて、光が差さぬこの地下空間で、疾風を思わせる敏捷性。‘鈎爪’‘豪腕’‘暗視’・・・。他にもまだ力を隠しているのか? 出し惜しみをしている時間はないぞ、早く見せてみろ!」
「うるさいと言ったのが、聞こえないのか!」
‘鋼翼の執行人’が発した明らかに挑発を目的とした言葉以上に、一部が‘異形’とかした体を品定めするかのような視線にオルティアは反応した。
右腕のみならず、左手にも鉤爪を生やすと、やや癖のある黒髪を逆立てながら、再び男に飛び掛かる。
「ははっ、それでいい。それに先程よりもさらに動きが速い。だが、・・・」
オルティアが左右から交差させるように振るった両腕が、‘鋼翼の執行人’派手な飾帯がついた上着に包まれた細身の体を貫く直前、かざした右腕の袖口から肩に掛けて、内側から突き破るように生えた‘鋼の羽’が、オルティアの放った鉄板さえ貫通する一撃を受け止めた。
「冷静さが微塵も無い」
驚く暇さえ与えず、同様に‘鋼の羽’を生やした左手が、オルティアの体を石床に叩きつけた。
「動きが、読まれている?」
体を起すよりも早く、‘鋼翼の執行人’が腕を振るうと、二本の小剣ほどの‘鋼の羽’が、オルティアの両腕と石床を縫いとめた。
「く!」
「失礼、お嬢さん。君に興味が湧いた。こうしてゆっくりと会話をしたくなったのでね」
苦痛の屈辱の表情を浮かべるオルティアの耳元へ、‘鋼翼の執行人’は、その秀麗な顔に女性を口説くかのような甘い微笑を浮かべながら、顔を寄せた。
その顔に、オルティアは唾を吐きかけるが、さらなる激痛により中断させられた。
「法王庁も、飼犬の躾がなっていないようだな」
‘鋼翼の執行人’が、先程同様の微笑を浮かべながら、両腕に食い込んだ‘鋼の羽’を、痛みが倍増するように捻りを加えながら、さらに深く押し込んだのだ。
「分らぬな。それだけの力と、反骨の魂を持ちながら、何故に‘犬’に甘んじる? ‘獣’は自ら‘獲物’を狩るからこそ、気高く、美しい。鎖に繋がれ‘餌’を与えられ、飼い主の都合で使われるのであれば、それは‘獣’ではなく・・・」
今度は、息が掛かるほど顔を近づける。
「・・・‘家畜’だ。」
「・・・どちらでもない。私は人間だ!」
苦痛に全身を支配されながらも、尚も睨み付けるオルティアの目を見て、‘鋼翼の執行人’は身を捩じらせて笑った。
「ハハハッ!その体で‘ニンゲン’を名乗るか、‘混濁の魔獣’?」
ひとしきり笑うと、縫いとめられたオルティアを見おろした。
「それでは、その異形の体で君は人前に立てるのか?力なきもの達は、君の姿に恐怖を抱かなかったか? 法王庁が、君の力を役立て、感謝の言葉を陳べるのはどんなときだ?」
降り注ぐ、心を抉るような言葉の雨に、オルティアの瞳が僅かに曇る。
‘鋼翼の執行人’は唇の端を吊り上げながらも、さらに凶器となる言葉をはき続ける。
「いい加減認めたらどうだ。お前は我々と同類だ。‘悪魔’の、‘異端’の力を持ちながら、その力を自らの意思で制御が可能な‘選ばれた者’だ」
長髪を振り乱しながら‘鋼翼の執行人’は朗々と謳う。
「君の高貴なその爪で、その身を縛る鎖を砕け! 君の美しきその体を蔑む者を排除しろ! 虚言で隠された君の誇り高き魂も、それを望んでいるはずだ!」
「違う!私はセフィ姉さんを助ける為に、法王庁に協力し、‘異端’と戦うこの道を選んだ! 人間として、姉さんの願いに応えて、自分の意思で選んだ! 戦う時も、自分の意志で戦う! 殺戮や破壊を楽しむ、お前たち‘逆十字団’なんかとは違うんだ!」
オルティアの必死の否定を、‘鋼翼の執行人’はさらに否定する。
「姉を免罪符にするのか!? 法王庁が、いくら祈りをささげても決して助けてくれることのない‘神’を持ち出すのと同じように!」
「違う!」
「ならお前の言葉で、その正当性を説いてみろ! その身の不幸を呪ったところで神はお前を救いはしない! 本当に望んでいることを私の前で告白しろ! そうすれば!」
一度言葉を切ると、オルティアの白い両頬を優しく包み、微熱を帯びた視線と供に囁く様な甘言を送り込む。
「‘逆十字団No6 鋼翼の執行人’である私が、法王庁にそして‘神’に代わって、その願いを適えてやろう」
「黙れ!」
磔になった死刑囚のように、その身を封じられ、オルティアは叫びながらも自問する。
何故だ。
さっき言った事が、答えの全てのはずだ。
小さい頃から、困ったときはいつもセフィ姉さんが助けてくれた。
だから、姉さんが‘獣’の症状が進んだ今、私が助ける番なんだ。
それが答えの全てのはずだ。
私しか姉さんを助けられない。
なのに何故別の答えを探している。
私しか姉さんを・・・。
本当にそう思っているのか?わた・・・。
「うわああー!」
絶叫と供に、オルティアの全身が激しい痙攣に包まれた。
頭を左右に激しく振るオルティアの全身が、異形へと変化を始め、膨張し続ける筋肉に耐え切れず、動きやすさを基準に選んだ衣服が引き裂かれた。
「移植された‘悪魔’の生体組織の自己進化か!? 磨けば光る宝石の原石というわけか。・・・だが」
‘鋼翼の執行人’が放った鋼の羽が、さらに十本近く、オルティアの全身に突き刺さる。
同時に、全身を覆おうとしていた‘獣化’も収まり、オルティアは苦しげに呼吸を乱しながらも気を失った。
「しばらく寝ているんだな、お嬢さん。今度目が覚めるときは、最高の気分で目覚めさせてやる」
後編:
「勝手に連れていってもらっちゃ困るぜ。その女には、俺の刑期と同じ重さの貸しが残っているんだからな」
太い声と供に、通気孔にはめられていた鉄格子を蹴破り、巨漢の男が落下してきた。
鋼のようなその肉体の両腕には、コマンドワードが刻まれた鎖がつけられたままだ。
「野暮用があってな。少し遅れたが、お前さんの相手は、この俺だ。覚悟はいいか、色男?」
息を乱し、全身から汗を噴出しながらの、現れた男、アムンゼン‘鋼翼の執行人’に語りかけた。
「それは、無理な話だ。既に各地で‘逆十字団’の死徒達は、活動を開始している。先程、このお嬢さんと、少々話がすぎた。そろそろ私も遅れを取り戻さなくてはならない」
「やりゃあいいじゃないか、このアムンゼン様を倒せるのならばな」
「身の程しらずが・・・」
不適に笑うアムンゼンに、‘鋼翼の執行人’はつまらないものでも見るように一瞥すると、小さく吐き捨てると、息を吐く。
「馬鹿にかまける時間はない」
同時に猛然と間合いを詰め、鋼の羽を生やした右腕を一閃する。
直後、鈍い銀光が、暗闇を照らす。
「へへ、勉強不足だな色男。ランクA以上の‘罪人’を拘束する‘聖バロスの鎖’ごと俺をぶった切りたいならA級アーティファクトか‘聖剣’でも持ってくるんだな」
‘鋼翼の執行人’の一撃を、両腕を繋ぐ鎖で受けると、その腹に破錠槌のような蹴りを叩き込む。
「ぐっ!」
うめき声と供に後方に吹き飛ぶ‘鋼翼の執行人’に向って、アムンゼンは跳躍する。
「こいつは、そこの馬鹿女の分だ!」
さらに両手を組み合わせた、戦槌のような一撃をその胴体に見舞う。
叩きつけられた‘鋼翼の執行人’の体は、石床をつきやぶり、更なる地下へと繋がる空間に落下する。
「俺にしては、よく場所まで覚えていたもんだ。仕上げは任したぜ‘大物’」
暗闇を見下ろした後、顔をあげると、アムンゼンは気を失ったままのオルティアの方に向った。
「っ!、不覚をとったか!」
‘鋼翼の執行人’が落下した場所は、なだらかな傾斜の続く石壁の通路であった。
着地間際に体勢を整え衝撃を吸収するが、落下に伴いあがった水飛沫が通路に反響する。
「水だと?」
『あなたが今立っている地下通路は、聖都ロンバルディアの予備の排水溝なんですよ。ちなみに先程までいらした巨大な地下空間が予備の貯水槽です』
落ち着いているがどこか幼さを残した声が、石壁に反響して遥か前方から聞こえてきた。
『聖都ロンバルディアの上下水道は、上流のウルベ川の増水やレーテ山脈の雪解けに備えて全て二重構造になっています。だから、普段はカラの水路でも、上段の水路と通じる水門を開けば・・・この通り』
轟音と供に、白い飛沫を弾かせながら前方より大量の水が、馬が疾走するより速い速度で‘鋼翼の執行人’襲い掛かってきた。
「うおおおおー!」
絶叫と供に、‘鋼翼の執行人’は襲い掛かる大量の水に飲み込まれ、押し流される。
『水でも被って反省して下さい』
全てを押し流す水流にかき消されたキルシェの声は、いつもの楽しげなものではなく、僅かに怒りを含んでいた。
―残る死徒は、あと8人
前編:
「‘猟犬’、といったか。君のように、‘異端’の力を持ちながら、法王庁の飼犬に甘んじている者を」
漆黒の闇の中、No6‘鋼翼の執行人’は、‘芸術の都’として知られるマルクホーフェンの大劇場に立つ俳優のような仕草で、朗々と発した言葉が、広い地下空間に反響する。
「我々‘逆十字団’の動きを読んで、この墓穴のような場所に潜み、こちらの出方を待っていたのか? 法王庁らしい、合理的な行動だな。命令するのは神の声が聞こえる人、実行するのは血に汚れた牙をもつ犬」
「さっきから、ごちゃごちゃとうるさいんだよ‘異端者’!」
大げさに肩をすくめ、長髪をかき上げる‘鋼翼の執行人’を目掛けて、閃光の鋭さで間合いを詰めたオルティアが、右腕に生やした鉤爪が振り折ろす。
「気に触ったかい? お嬢さん」
‘鋼翼の執行人’は、体重を感じさせぬ動きで後方へ跳ねながら、獣のように変形した右腕を石造りの床にめり込ませたオルティアを、弄るような視線で眺める。
「その力、噂にきいた‘混濁の魔獣’か・・・。さすが‘悪魔’の力を開放した一撃だ。加えて、光が差さぬこの地下空間で、疾風を思わせる敏捷性。‘鈎爪’‘豪腕’‘暗視’・・・。他にもまだ力を隠しているのか? 出し惜しみをしている時間はないぞ、早く見せてみろ!」
「うるさいと言ったのが、聞こえないのか!」
‘鋼翼の執行人’が発した明らかに挑発を目的とした言葉以上に、一部が‘異形’とかした体を品定めするかのような視線にオルティアは反応した。
右腕のみならず、左手にも鉤爪を生やすと、やや癖のある黒髪を逆立てながら、再び男に飛び掛かる。
「ははっ、それでいい。それに先程よりもさらに動きが速い。だが、・・・」
オルティアが左右から交差させるように振るった両腕が、‘鋼翼の執行人’派手な飾帯がついた上着に包まれた細身の体を貫く直前、かざした右腕の袖口から肩に掛けて、内側から突き破るように生えた‘鋼の羽’が、オルティアの放った鉄板さえ貫通する一撃を受け止めた。
「冷静さが微塵も無い」
驚く暇さえ与えず、同様に‘鋼の羽’を生やした左手が、オルティアの体を石床に叩きつけた。
「動きが、読まれている?」
体を起すよりも早く、‘鋼翼の執行人’が腕を振るうと、二本の小剣ほどの‘鋼の羽’が、オルティアの両腕と石床を縫いとめた。
「く!」
「失礼、お嬢さん。君に興味が湧いた。こうしてゆっくりと会話をしたくなったのでね」
苦痛の屈辱の表情を浮かべるオルティアの耳元へ、‘鋼翼の執行人’は、その秀麗な顔に女性を口説くかのような甘い微笑を浮かべながら、顔を寄せた。
その顔に、オルティアは唾を吐きかけるが、さらなる激痛により中断させられた。
「法王庁も、飼犬の躾がなっていないようだな」
‘鋼翼の執行人’が、先程同様の微笑を浮かべながら、両腕に食い込んだ‘鋼の羽’を、痛みが倍増するように捻りを加えながら、さらに深く押し込んだのだ。
「分らぬな。それだけの力と、反骨の魂を持ちながら、何故に‘犬’に甘んじる? ‘獣’は自ら‘獲物’を狩るからこそ、気高く、美しい。鎖に繋がれ‘餌’を与えられ、飼い主の都合で使われるのであれば、それは‘獣’ではなく・・・」
今度は、息が掛かるほど顔を近づける。
「・・・‘家畜’だ。」
「・・・どちらでもない。私は人間だ!」
苦痛に全身を支配されながらも、尚も睨み付けるオルティアの目を見て、‘鋼翼の執行人’は身を捩じらせて笑った。
「ハハハッ!その体で‘ニンゲン’を名乗るか、‘混濁の魔獣’?」
ひとしきり笑うと、縫いとめられたオルティアを見おろした。
「それでは、その異形の体で君は人前に立てるのか?力なきもの達は、君の姿に恐怖を抱かなかったか? 法王庁が、君の力を役立て、感謝の言葉を陳べるのはどんなときだ?」
降り注ぐ、心を抉るような言葉の雨に、オルティアの瞳が僅かに曇る。
‘鋼翼の執行人’は唇の端を吊り上げながらも、さらに凶器となる言葉をはき続ける。
「いい加減認めたらどうだ。お前は我々と同類だ。‘悪魔’の、‘異端’の力を持ちながら、その力を自らの意思で制御が可能な‘選ばれた者’だ」
長髪を振り乱しながら‘鋼翼の執行人’は朗々と謳う。
「君の高貴なその爪で、その身を縛る鎖を砕け! 君の美しきその体を蔑む者を排除しろ! 虚言で隠された君の誇り高き魂も、それを望んでいるはずだ!」
「違う!私はセフィ姉さんを助ける為に、法王庁に協力し、‘異端’と戦うこの道を選んだ! 人間として、姉さんの願いに応えて、自分の意思で選んだ! 戦う時も、自分の意志で戦う! 殺戮や破壊を楽しむ、お前たち‘逆十字団’なんかとは違うんだ!」
オルティアの必死の否定を、‘鋼翼の執行人’はさらに否定する。
「姉を免罪符にするのか!? 法王庁が、いくら祈りをささげても決して助けてくれることのない‘神’を持ち出すのと同じように!」
「違う!」
「ならお前の言葉で、その正当性を説いてみろ! その身の不幸を呪ったところで神はお前を救いはしない! 本当に望んでいることを私の前で告白しろ! そうすれば!」
一度言葉を切ると、オルティアの白い両頬を優しく包み、微熱を帯びた視線と供に囁く様な甘言を送り込む。
「‘逆十字団No6 鋼翼の執行人’である私が、法王庁にそして‘神’に代わって、その願いを適えてやろう」
「黙れ!」
磔になった死刑囚のように、その身を封じられ、オルティアは叫びながらも自問する。
何故だ。
さっき言った事が、答えの全てのはずだ。
小さい頃から、困ったときはいつもセフィ姉さんが助けてくれた。
だから、姉さんが‘獣’の症状が進んだ今、私が助ける番なんだ。
それが答えの全てのはずだ。
私しか姉さんを助けられない。
なのに何故別の答えを探している。
私しか姉さんを・・・。
本当にそう思っているのか?わた・・・。
「うわああー!」
絶叫と供に、オルティアの全身が激しい痙攣に包まれた。
頭を左右に激しく振るオルティアの全身が、異形へと変化を始め、膨張し続ける筋肉に耐え切れず、動きやすさを基準に選んだ衣服が引き裂かれた。
「移植された‘悪魔’の生体組織の自己進化か!? 磨けば光る宝石の原石というわけか。・・・だが」
‘鋼翼の執行人’が放った鋼の羽が、さらに十本近く、オルティアの全身に突き刺さる。
同時に、全身を覆おうとしていた‘獣化’も収まり、オルティアは苦しげに呼吸を乱しながらも気を失った。
「しばらく寝ているんだな、お嬢さん。今度目が覚めるときは、最高の気分で目覚めさせてやる」
後編:
「勝手に連れていってもらっちゃ困るぜ。その女には、俺の刑期と同じ重さの貸しが残っているんだからな」
太い声と供に、通気孔にはめられていた鉄格子を蹴破り、巨漢の男が落下してきた。
鋼のようなその肉体の両腕には、コマンドワードが刻まれた鎖がつけられたままだ。
「野暮用があってな。少し遅れたが、お前さんの相手は、この俺だ。覚悟はいいか、色男?」
息を乱し、全身から汗を噴出しながらの、現れた男、アムンゼン‘鋼翼の執行人’に語りかけた。
「それは、無理な話だ。既に各地で‘逆十字団’の死徒達は、活動を開始している。先程、このお嬢さんと、少々話がすぎた。そろそろ私も遅れを取り戻さなくてはならない」
「やりゃあいいじゃないか、このアムンゼン様を倒せるのならばな」
「身の程しらずが・・・」
不適に笑うアムンゼンに、‘鋼翼の執行人’はつまらないものでも見るように一瞥すると、小さく吐き捨てると、息を吐く。
「馬鹿にかまける時間はない」
同時に猛然と間合いを詰め、鋼の羽を生やした右腕を一閃する。
直後、鈍い銀光が、暗闇を照らす。
「へへ、勉強不足だな色男。ランクA以上の‘罪人’を拘束する‘聖バロスの鎖’ごと俺をぶった切りたいならA級アーティファクトか‘聖剣’でも持ってくるんだな」
‘鋼翼の執行人’の一撃を、両腕を繋ぐ鎖で受けると、その腹に破錠槌のような蹴りを叩き込む。
「ぐっ!」
うめき声と供に後方に吹き飛ぶ‘鋼翼の執行人’に向って、アムンゼンは跳躍する。
「こいつは、そこの馬鹿女の分だ!」
さらに両手を組み合わせた、戦槌のような一撃をその胴体に見舞う。
叩きつけられた‘鋼翼の執行人’の体は、石床をつきやぶり、更なる地下へと繋がる空間に落下する。
「俺にしては、よく場所まで覚えていたもんだ。仕上げは任したぜ‘大物’」
暗闇を見下ろした後、顔をあげると、アムンゼンは気を失ったままのオルティアの方に向った。
「っ!、不覚をとったか!」
‘鋼翼の執行人’が落下した場所は、なだらかな傾斜の続く石壁の通路であった。
着地間際に体勢を整え衝撃を吸収するが、落下に伴いあがった水飛沫が通路に反響する。
「水だと?」
『あなたが今立っている地下通路は、聖都ロンバルディアの予備の排水溝なんですよ。ちなみに先程までいらした巨大な地下空間が予備の貯水槽です』
落ち着いているがどこか幼さを残した声が、石壁に反響して遥か前方から聞こえてきた。
『聖都ロンバルディアの上下水道は、上流のウルベ川の増水やレーテ山脈の雪解けに備えて全て二重構造になっています。だから、普段はカラの水路でも、上段の水路と通じる水門を開けば・・・この通り』
轟音と供に、白い飛沫を弾かせながら前方より大量の水が、馬が疾走するより速い速度で‘鋼翼の執行人’襲い掛かってきた。
「うおおおおー!」
絶叫と供に、‘鋼翼の執行人’は襲い掛かる大量の水に飲み込まれ、押し流される。
『水でも被って反省して下さい』
全てを押し流す水流にかき消されたキルシェの声は、いつもの楽しげなものではなく、僅かに怒りを含んでいた。
―残る死徒は、あと8人