
1-1 「異端審問官」
■ 背景:
街の中央にそびえる時計塔が、重厚な鐘の音を遠く離れた墓地にまで響きかせた。
その音と同時に異端者は、手にした封印アーティファクトの銃口を君に向ける。
「もう一度言ってみろ、哀れな神の下僕め!」
広大な墓地を舐め回すように異端者が構えたアーティファクトの銃口から吐き出された火炎が、咄嗟に身をかわした君の神父服を焦がす。
「苦しみから、貧困から、法王庁は!神は救ってくれるのか!?」
連続して吐き出される火炎を交わす度に、君がかけた銀の異端審問印が揺れる。
「救いのないこの世界だからこそ、俺はこの力を手に入れた。貴様らが‘異端’と呼ぶこの力をな!」
‘黄昏の時代’の中期遺跡から発掘されたアーティファクトが、厳重な警備を突破され強奪されたとの報告があったのは、三日前だ。
直後に法王庁は、異端者追撃と封印アーティファクト奪還の‘聖務’を発令した。
十三の異端審問部署を束ねる異端審議会は、第三課にその任が託し、そして君に‘聖務’が下った。
「多くの犠牲者を出し、他者を踏みにじる力を手に入れた事がそんなに誇らしいか!?」
二撃、三撃と吐き出される火炎をかわしながら、君は叫ぶ。
異端者によって襲撃された教会には、埋葬もままならない焼け焦げた死体が無数に放置されていた。
君が手にしたアーティファクトに力がこもる。
君が異端審問官印を授けられてからの付き合いである剣型ア-ティファクトは、君の叫びに呼応するかのように力強く輝いた。
「他者を踏みにじるのは法王庁も同じではないか!飢えた羊の全てを救えるとでもいうのか、傲慢な神の下僕め!」
一瞬の間があった。
異端者の嘲笑と供に、封印アーティファクトから吐き出された広範囲の火炎が君を飲み込んだ。
信頼できるものも、必要とするものもなく、ただ、飢えと寒さから身を守るだけで精一杯だった少年時代。
君を助けてくれたのは、後に師となる神父が差し出してくれた一枚のパンと、擦り切れたマントだった。
だからこそ、君は信じている。
「飢えに苦しむ全ての羊を救えなくても、飢える羊を一匹でも少なくする事はできる!」
君が振り払った剣が、紅蓮の炎を切り裂く。
今の君は、飢えと寒さに震えていた幼子ではない。
自分の進むべき道と、修練により培った力と、そして仲間がいる。
今の君は、異端審問官だ。
君は力強く焼け焦げた地面を蹴った。
「異端審問官め!!」
「‘汝の魂に、救済の来訪を!’」
聖句と供に、君は手にした剣を振るった。
■
解説:
『異端』を裁くため、アスガルド半島全土へ派遣される法王庁のエージェント、それが異端審問官です。
「竜」「巨人」「異端錬金術」「悪魔」に代表される「異端」は、いずれも強大な力を持ち、通常の騎士団では対処しきれないケースがほとんどです。
異端審問官は、『「異端」を見つけ出し、最大限速やかに裁く事』を唯一にして最大の使命としています。
その強大な戦闘能力と超法規的権限により、法王庁内外を問わず、『独善を実行する法王庁の犬』、『哀れな神の下僕』と見られ、畏敬と同時に蔑視が向けられることも少なくありません。
『背景』に出てきた異端審問官は、僅かな迷いを持ちながらも自分の理念のため「異端審問」を実行していたようですが、あなたが異端審問官である理由は何でしょうか?
信仰深い良家に生まれ、法王庁の直属とも言える異端審問官になる事が最良の信仰だ、と父に教わったからでしょうか?
「異端」に大切なものを奪われ、異端審問官になる事があなたの乾きを癒す最善の方法だったのでしょうか?
蔑まれていた過去を、異端審問官に対する周囲の怯える視線から生まれる優越感で消そうとしているからでしょうか?
いずれにせよ異端審問官は、やがて「異端審問」の中に自分の目的や理念を覆すような真実を見るかもしれません。
そしてその後、どのような道をあなたは選ぶのでしょうか?
この辺りがアーキタイプとしての「異端審問官」、そして「異端審問官RPG」の醍醐味のひとつです。
◇‘聖務’の流れ
異端審問官の任務である「異端審問」は、以下の三つの過程に分別されます。
1. 拝命:
法王庁が入手した情報を元に、所属長を通して異端狩の内
容が伝達される。
必要なアイテム、同行者等も紹介される。
2. 探索:
実際に現場に赴き、異端に関する情報を収集。
3. 異端審問:
異端者と接触。異端裁判のため、法王庁までの同行を求める。
異端者抵抗の場合は、『簡易審問』を実施し、その場で審問結果を下す。
◇異端審問印
異端審問官の証である銀の聖印です。
表面には精巧な‘泰山木の花(マグノリア)’が掘り込まれています。
公的な機関(協会、行政機関、騎士団等)には、異端審問印を持つものに対し、協力が義務付けられています。
◇
祝福武器(アーティファクト)
法王庁ならびに法王庁関係機関以外では製造・所有・使用が禁じられている「カテゴリーB」以上の祝福武器(アーティファクト)です。
異端審問官に任命された際、所属組織である異端審議会より異端審問印と供に渡されます。
祝福武器の形状と性能は、個別差が大きいことでしられています。
参考:
『特殊精選された弾丸(封印弾)を撃ちだすことが可能な銃』が多いようです。
注)
異端審問官を選択した場合は、AF作成ルール(第5章:ルールサマリー参照)に従って、所有するAFを決定してください(作成AFポイント‘カテゴリーB’以内)。
◇協力者:
異端狩りの内容によっては、異端審問官の聖務に様々な同行者が随行する事は珍しくありません。
・戦闘力:他の異端審問官、‘罪人’‘猟犬’(法王庁勅命)
・錬金術、「奇跡」:錬金術師(錬金術師協会に派遣を依頼)、使徒
知識:神蹟記録官
上記以外にも、異端審問官が「現場の判断」や「個人的な頼み」として協力を求めるケースがあります。
過去の実績等を評価し、異端審問官が固有のメンバーを伴って‘聖務’に赴くの法王庁が認証するケースも多いようです。