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  • 廃灯台の怪鳥

harukaze_lab @ ウィキ

廃灯台の怪鳥

最終更新:2019年11月01日 04:11

harukaze_lab

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管理者のみ編集可
廃灯台の怪鳥
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)微《かす》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十|呎《フィート》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)※[#感嘆符疑問符、1-8-78]
-------------------------------------------------------

[#3字下げ]見よその頸には怪鳥の爪痕が![#「見よその頸には怪鳥の爪痕が!」は中見出し]

「きゃーッ」
 遠くの方から、幾つかの反響を呼び起しつつ、微《かす》かに長く人の叫び声が聞えて来た。
 寝台《ベッド》に横《よこた》わったまま、枕卓子《サイド・テーブル》の上の洋灯《ランプ》の光で雑誌を読んでいた桂子は恟《ぎょっ》としながら頭を擡《もた》げた。――岸を噛む怒濤が悪魔の咆叫《ほえさけ》ぶように、深夜の空に凄《すさま》じく轟いているほかは、ひっそりと寝鎮《ねしずま》った建物の中に、何の物音もしていない。
「変ねえ、いま慥《たし》かに人の声が……」
 呟《つぶや》きかけた時、今度こそ確《はっ》きりと、それも胸を抉《えぐ》られるような怖ろしい声で、
「きゃーッ」と云《い》う悲鳴が聞えて来た。
 遠い方から曲り曲って来た声だ。慥《たしか》に塔の上からである。桂子は慄然《ぞっ》としながら寝台《ベッド》をとび下りると、父の部屋へ馳せつけて力任せに扉《ドア》を叩いた。
「お父さま、大変よ、お父さま」
「……どうしたんだ」
「起きて頂戴、早くッ」
 寝衣《ねまき》の上へ寛衣《ガウン》を引掛《ひっか》けながら、宗像博士《むなかたはかせ》を先に、助手の新田進《にったすすむ》も洋灯《ランプ》を持ってとび出して来た。
「何だ、どうしたんだ」
「いま、上の方できゃあッ[#「きゃあッ」に傍点]て云う声がしたの、二度もしたのよ。何か変った事があったに違いないわ、見に行ってよ」
「そうか、兎《と》に角《かく》行ってみよう」
 即座に、洋灯《ランプ》を持った新田を先頭に、博士と桂子の三人は階段の方へ馳せつけた。
 此処《ここ》は千葉県の外房海岸。俗に「不帰浜《かえらずはま》」という岩石峭立する荒磯から、二百ヤードほど距《はな》れた小島にある廃灯台であった。――高さ百五十|呎《フィート》の塔と二棟の附属建物は、既に使用されなくなってから二十年。殆《ほとん》ど廃墟も同様になっていたのを、一週間ほど前から宗方博士一行が借受《かりう》けているのだ。
 宗方博士は海水中の敷生物研究では日本有数の権威者で今度この近海に発生した夜光虫の研究をするため、三人の助手と令嬢を伴《つ》れて移って来たのであった。――今宵は丁度《ちょうど》八日め、助手の一人吉井禎吉を不寝観測番に残して、みんな寝についてから三時間、午前一時少し過ぎた時にこの事件が起ったのである。
 三人は殆ど息もつかずに螺旋階段を馳登《かけのぼ》った。頂上は旧《もと》の発光室を改造した夜行虫観測所で、幾種類もの観測鏡や特殊の分光器などが備付《そなえつ》けてある。――登って来た三人は、薄暗い洋灯《ランプ》の光の下に、血まみれになって倒れている吉井助手の姿をみつけて、
「あっ!」と其処《そこ》へ立竦《たちすく》んだ。
 しかし新田進は直《す》ぐに走寄《はしりよ》り、呻《うめ》いている吉井を抱起《だきおこ》して傷口を検《しら》べた。白い上衣《うわぎ》の胸まで、絞るほどの血だ。傷は頸の両側にあり、奇怪な事には、それが三つ宛《ずつ》、まるで長い爪を突立《つきた》てたような形になっていた。――出血はひどいが生命《いのち》に別状はなさ相《そう》だ。新田は寛衣《ガウン》の裾を引裂《ひきさ》いて手早く繃帯《ほうたい》をしながら、
「吉井、おい、確《しっか》りしろ」
「…………」
「僕だ、先生もいらしってるぞ、吉井ッ」
 耳許で叫ぶと、吉井はふっ[#「ふっ」に傍点]と眼を明《あ》けたが、とたんに右手をあげて壁の一部を指《ゆびさ》しながら、
「あ、あれ、あの鳥が……」
 と怖ろしそうに、もつれる舌で云いかけたまま再びぐたりと気絶して了《しま》った。
 三人は指示《さししめ》された処を見やった。その壁の一部には、もう羽根もまばらになった怪鳥の剥製が飾付《かざりつ》けてある。――左右に広げた翼は凡《およ》そ二|米突《メートル》に余り、全身真黒な羽毛に包まれ、鷲のような鋭い爪のある両足を踏《ふみ》ひらいている。是《これ》は博士たちが来た時すでに飾付けてあったもので、何十年となく年古《としふ》りているし、一体なんの鳥なのか全く分らない。鷲でもなく鷹でもなく、云ってみれば前世紀の猛鳥という感じである。
「お、お父さま!」
 桂子が突然叫んだ。
「あの鳥の爪に血が……」
「えっ※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」
 新田が洋灯《ランプ》をさしつけた。見よ、怪鳥の爪が生々しく血に染《そま》っているではないか、――三人は愕然として息をのんだ。
 高さ百五十|呎《フィート》の廃灯台の絶頂、塔の外側はなんの足懸りもない絶壁だ。内部はたった一本の螺旋階段、犯人の出入る隙は何処《どこ》にもない。鼠の隠れる場所もない室内で人が殺されかかった。――壁に懸けられた怪鳥の爪は、吉井助手の頸の傷痕にぴったりと当篏《あてはま》る。然《しか》もその爪は血まみれであった。……恐るべき怪事件の幕はどう展開するか?

[#3字下げ]えッ、それではこの灯台でもう四人も怪死したのか![#「えッ、それではこの灯台でもう四人も怪死したのか!」は中見出し]

「大丈夫、命は取止《とりと》めます」
 金森博士は手当を終って、ベランダの方へ出て来ながら云った。
 翌《あく》る日の朝である。危急の知らせに時を移さず、地元の川名村から馳《か》けつけて来た村医金森博士は、夜の明けるまで殆ど附切《つききり》で手当をしていたが、どうやら大丈夫と見極めがついたのであろう、みんなの待っている処へ大股に出て来た。
「本当に助かりましょうな」
「命だけは受合《うけあ》います。然《しか》し……否、先《ま》ずその珈琲《コーヒー》を一杯頂きましょうか。それから少し皆さんにお話があります」
 桂子は手早く珈琲《コーヒー》を注《つ》ぎ、尚《なお》数滴のウイスキイを加えて差出《さしだ》した。――金森村医は煙草《たばこ》に火をつけ、さも旨そうに珈琲《コーヒー》を啜《すす》りながら、暫《しばら》く海の方を見やっていたが、
「吉井君はどうして怪我《けが》をしたのか、多分お分りではないと思うが、どうですか宗方さん」
「それなんです」
 宗方博士は困惑を隠さずに云った。
「何しろ外側はあの通りなんの手掛りもない絶壁ですし、中は螺旋階段一本で、何処《どこ》にも犯人の隠れる場所はありません。第一なんのために吉井を殺そうとしたのか、それからして想像もつかぬのです」
「恐らくそうだろうと思いました」
「え? ――そう思ったと仰有《おっしゃ》るんですか」
「宗方さん」
 金森村医は煙草の煙を見やりながら、
「私は同じ事件に逢っています。是は今度が初めてではない。この灯台が廃止されて野山岬の方へ移されたのも、つまり斯《こ》うした事件が原因をなして居るんです」
「お話の意味がよく分りません」
「つまり斯うなんです」
 金森村医は喫《す》いさしの煙草を投げて向直《むきなお》った。
「二十年ほど前のことです。或夜この灯台の灯を慕って一羽の名も知れぬ怪鳥が舞込《まいこ》んで来ました。当時|此処《ここ》に田口という若い看守がいましたが、この男が怪鳥をみつけて拳銃《ピストル》で射殺し、剥製にして壁へ飾付けたのです」
「今もあるあの鳥ですね」
「そうです」
 金森村医は暫く眼を閉じていたが、やがて低い声で続けた。
「不思議な事件はその夜から起りました。昨夜と同じように、その田口という男が発光室で喉を掻切《かきき》られて死んでいたのです。犯人は何処《どこ》からも忍込《しのびこ》めません。傷口は、……吉井君のと寸分違わずです。然も、――死ぬ間際に田口は『あの鳥が』と云って、例の剥製の怪鳥を指《ゆびさ》しました」
「そのとき鳥の爪に血が附いていはしませんでした?」
 桂子が怖ろしそうに訊いた。
「附いていました。と云うより血みどろだったと云うべきでしょう。――警官が来て二週間あまりも捜査しましたが、結局……訳の分らぬ怪事件として打切《うちき》られて了《しま》いました。ところが、それから間もなく、左様、ひと月も経った頃でしょうか、今度は灯台長の川村という老人が、全く同じような死方《しにかた》をしたのです」
「つまり、それも原因は分らず了《じま》いなのですね」
「そうです、その後の二人も」
「…………」
 四人も、四人も怪死したのか? 聴いていた宗方博士をはじめ、みんな遉《さすが》に顔色を変えたが、――新田進がふと金森村医を見ながら、
「そのお話をつづめると、剥製の怪鳥が動きだして人を殺す、と云う事になりそうですが、貴方《あなた》はそれをお信じになっているのですか」
「私は御覧の通り貧しい科学者で、試験管の中で実証される事実でない限り何物をも信じません。無論……剥製の鳥が化けて出るなどとという事も信じようとは思いません。然し、――一言みなさんに御忠告をします。どうか早くこの島をお立退き下さい」
 そう云って金森村医は立上った。
「私は今度で五度まで同じ事件を見ました。この眼で見たのです。灯台も引移りました。貴方《あなた》がたも立退かれるのが安全です。――では是で失礼致します」
「――――」
 金森村医は鞄《かばん》を持って出て行った。
 みんな黙ってその後姿を見送っていたが、新田進はふと金森村医の掛けていた椅子《いす》の下に、見慣れぬ紙片《かみきれ》が落ちているのをみつけて、跼《かが》みながら拾上《ひろいあ》げた。
「それなあに?」
「金森さんが落して行ったらしいです」
 云いながら見ると、それはヘリウム瓦斯《ガス》の受取書であった。
「桂子、吉井を看ておやり」
 宗方博士が椅子から立ちながら云った。
「私は仕事にかかる、今夜あたりから夜光虫は活溌に運動を始めるだろう、諸君も頑張って呉《く》れ給え、――私は怪鳥の伝説などは信じない積《つもり》だ、諸君も頼む」

[#3字下げ]動き出した怪鳥、第二の事件起る[#「動き出した怪鳥、第二の事件起る」は中見出し]

 宗方博士の強い研究心に動かされて、新田進は深く心に決するところが有った。
 ――剥製の怪鳥が祟る、そんな馬鹿な事が有る筈《はず》はない、是には何か隠れた秘密があるんだ。己《おれ》はそれを突止めてやる――。
 そう覚悟して、研究の合間をみては灯台の周囲を入念に捜査し始めた。――然し何物も発見されなかった。空|翔《かけ》る翼でもない限り、百五十|呎《フィート》の塔の外側を登る事は出来ない。またどんなに素早くやったところで、誰にも発見されずに螺旋階段を上下する事も出来ないのだ。
「分らん、こんな不思議な事は有得《ありえ》ない、話だけ聞いたら恐らく僕自身でも嘘だと思うだろう、然し事実犯罪は行われたのだ。人間一人が殺されかかったのだ。――あの頸の傷は剥製の怪鳥の爪と合うし、その爪は血まみれだった。つまり、つまりあの怪鳥が吉井を殺しかかったと考えるより他に、どうしても説明がつかない」
 新田青年は遂《つい》に匙《さじ》を投げた。
 そして丁度一週間めの夜半、第二の事件が起ったのである。然も今度は新田進がその犠牲者であった。――其《その》夜、観測当番に当った新田は、例の頂上の部屋に陣取って熱心に仕事を続けていた。
 博士の言葉通り、夜光虫の活動は益々|旺《さか》んになって、海面は見渡す限り、波の動きに順《したが》って明滅する蛍光で青白く輝き、観測鏡で覗くと更《さら》にその濃淡強弱の交錯がまるで無数の宝玉の砕片を振撒《ふりま》くかの様に見える。――初《はじめ》のうちは、例の壁の怪鳥に気を取られ、時々そっと振返って見ていたが、遂にそれも忘れて、殆ど夢中で観測に没頭していた。
 午前二時頃であったろう。少し前から吹きだした東風が次第に強くなって、遥か百五十|呎《フィート》下の岩を噛む波の音が、深夜の空に凄じく咆え始めた。……すると全く不意に、ガタンと激しい音がして、歩廊《プラット・ホーム》へ出る扉《ドア》が開き、どっと吹込《ふきこ》んで来た風に煽《あお》られて卓子《テーブル》の上の洋灯《ランプ》が消えた。
「ひどい風だな」
 覗いていた観測鏡を措《お》いてそう呟きながら振返った時、新田は電気に撃たれたように其処《そこ》へ立竦んだ。……見よ、壁に懸けられた怪鳥が、翼をいっぱいに拡げながら今にも襲いかからん姿勢で、眼前二|呎《フィート》の処に突立っているではないか。
「ギャアギャアギャア」
 奇怪な叫声《さけびごえ》と共に凄じい羽叩《はばた》きをする。
「あっ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 新田は椅子から跳上《はねあが》った。然しその時、怪鳥は両の翼で彼を押包《おしつつ》み、新田は喉へ冷たいものか鋭く掴みかかるのを感じたまま椅子と共に反《のけ》ざまに顛倒《てんとう》した。
 それからどのくらいの時間が経ったであろうか、ひどい渇きと烈《はげし》い頭痛を感じながら、ふっ[#「ふっ」に傍点]と眼を開いた新田は、直ぐ眼前《めのまえ》に心配そうな三つの顔を見出した。宗方博士と、令嬢と、助手の北村である。……洋灯《ランプ》の光も明るく、自分は寝台《ベッド》に寝かされているのだ。
 ――どうしたのだろう。
 初めは夢を見ている気持だった。然し直ぐあの怖ろしい出来事を思出して慄然と息をのんだ。――博士は乗出《のりだ》すようにしながら、
「どうだ、気がついたか」
「……先生!」
「もう大丈夫だよ、傷も大した事はない。虫が知らせたとでも云うのだろう。北村と一緒に様子を見に登って行ったのが間に合ったのだ。喉が痛むかね」
 新田はそっと手をやってみた。頸が確りと繃帯で巻かれ、消毒剤の匂《におい》が強く鼻をうつ、然しひどく頭痛がするだけで別に気分に変《かわり》はなかった。
「ああ起きない方が宜《い》いよ」
「大丈夫です」
 新田は静かに半身を起して、
「済みませんが水を一杯下さい」
「あたしが持って来てあげるわ」
 桂子が走るように行って、洋盃《コップ》になみなみと水を汲んで来た。
「有難う」
 新田がひと息に飲干《のみほ》すのを見ながら、宗方博士は力抜けのした声で、
「吉井の傷も大分|好《い》いようだから、明日は此処《ここ》を引揚げるとしよう。科学が伝説に負けて了《しま》った。残念だがこれ以上諸君を危険に曝《さら》す訳には行かん」
「僕は反対します、先生」
 新田が静かに云った。
「どうして反対だ。現に君は怪鳥に襲われ、危く殺されかかったではないか」
「そうです。僕は怪鳥の動きだすのを見ました。恐ろしい叫び声も聞きました。襲いかかられて傷も受けました。いま思っても恐怖で体が竦みます……然し、然し僕には信じられない。こんな奇怪な事が有る筈はないと思います。僕は真実を突止めたいのです。例《たと》え僕一人でも踏止《ふみとどま》ってやります」
 新田は拳を固めて云った。

[#3字下げ]新田快青年の活躍、発見された白い粉[#「新田快青年の活躍、発見された白い粉」は中見出し]

「よく云った、新田君!」
 博士はっと新田の手を握りながら、
「私も立退くのは心外なのだ。こんな怪談めいた事件に負けて、折角《せっかく》の研究を中止するのは科学者として最大の恥辱だ。私も君と一緒に此処《ここ》へ残ろう」
「あたしだって帰りはしないことよ」
「無論、僕もいます!」
 桂子も北村も堅い決意を示しながら云った。――新田は微笑して、
「斯う気が揃えば何よりです。それでは少し眠りますからどうか皆さんもお引取り下さい。気分も直りましたから」
「そうか、では我々ももうひと眠りしよう」
 そう云って博士たちは出て行った。
 新田青年は再び寝台《ベッド》に横《よこた》わり、静かな気持で事件を考え直してみた。――幾ら考えても、然しそれは謎のまた謎である。
 ――慥《たしか》にあの怪鳥が立っていた。そして翼をひろげて跳掛《とびかか》って来た。奇怪な叫び声もはっきり耳に残っている。だが、二十年も前に射殺され剥製にされた物が動きだす筈はない。絶対に有得べからざる事だ。
 新田青年はそっと起上《おきあが》った。
 ――宜《よ》し、先ずそれを慥《たしか》めてやろう!
 彼は洋灯《ランプ》を持ってそっと部屋を出た。
 跫音《あしおと》を忍ばせながら螺旋階段を登って、観測室へ入った。壁には例の怪鳥がちゃんと懸っている。両翼は飾釘で壁へ確りと止められてあるし、踏ひらいた脚も真鍮の環《わ》で堅く緊着《しばりつ》けられている。
 ――例えこの怪鳥が祟るとしても、是では断じて壁から放《はな》れる事は出来ない。
 ――とすると?
 吉井を襲い、彼を襲った物は他にある筈だ。壁に懸けられた怪鳥の他に、彼等を襲ったもう一羽の怪鳥……。
 ――待てよ。
 新田は椅子に掛けて考えた。
 ――あれは果して怪鳥だったろうか、風で扉《ドア》が開いた、洋灯《ランプ》が消えた、闇の中で両の翼を拡げたあの姿、慥《たしか》に壁の怪鳥と思ったが、今思うと……そうだ、そうだ、奴は床に立っていた。
 新田は弾かれたように立上った。
 彼は洋灯《ランプ》を手に取って、仔細に床の上を検べ始めた。そして怪鳥の立っていたと思われる処から、小さな銭蘚苔《ぜにごけ》の固《かたま》りが落ちているのをみつけた。彼は叮嚀《ていねい》にそれを拾って紙に包み、更に猥なく室内を検べた上、扉《ドア》を開けて歩廊《プラット・ホーム》へ出た。既に東天は明け始めている――この島と五十|米突《メートル》の間隔で左手に突出した岬には、松が一面に茂っていて、その樹間《このま》から紅《あか》らみかかる東の空が絵のように見える。
「……おや!」
 新田はふと[#「ふと」に傍点]立停まって足許を見た。歩廊《プラット・ホーム》の板敷の上にまたしても銭蘚苔《ぜにごけ》の小さい片《きれ》が落ちていたのだ。
 彼は低く呻いた。何事か頭に閃《ひら》めいて来たらしい。その眸子《ひとみ》は昵《じっ》と、眼下に突出している岬のあたりを覓《みつ》め、右手の指は鉄の柵を急《せわ》しく叩きだした。――然しそれも暫くのことで、やがて身を翻えすと、元気な足取で螺旋階段を下へ降りて行った。
「謎は三つだ。銭蘚苔《ぜにごけ》と、怪鳥と、それから――翼、空翔ける怪鳥の翼!」
 そう呟きながら……。
 朝食の後で新田は、傷の手当をしに行くと云って地元の村へ出掛けて行った。事実彼は村医金森博士を訪ね、傷の手当をして貰った。そのとき、博士は彼等がまだ立退かなかった事を怒り、ぐずぐずしていると博士も令嬢も怪鳥のために殺されて了《しま》うぞと、自分の事のように熱心に忠告した。
 金森村医の許を辞した新田は、何処《どこ》でどう活躍したのか日暮れ近くになって島へ戻って来た。案じていた博士たちは、どうしたのかと色々|訊《き》いたが、新田はただ、
「もう二日ほど待って下さい」と答える許《ばかり》だった。
「そうすれば、何も彼《か》も説明します。ほんの二三日です」
 その翌日も彼は村へ出掛けて行った。
 ――そして夕方近くに帰って来ると、今度は島の中を、まるで猟犬が獲物を追うように走り廻り、使わずに抛《ほう》ってある附属建物の中では三時間あまりも何かごそごそと捜査していた。
 彼が夕食に戻ったのは午後八時を過ぎていた。すっかり元気になって、逞しい顔には微笑さえ浮《うか》んでいる。
「どうした、何か発見したのか」
「大体の見当はっきました」
 新田はにこりと笑って、
「先生、是を何だと思います」
 そう云いながら、紙に包んだ白い粉を差出した。――博士は手に取って調べ、指の尖《さき》につけて舐めたが、直ぐ吐出《はきだ》しながら、
「コカインじゃないか」
「そうでしょう、僕もそう睨みました」
「どうしたのだ、こんな物を」
「向うの空家《あきや》の地下に貯蔵してあるのを発見したんです。つまり……是が怪鳥事件の原因なんです」

[#3字下げ]深夜二時、三人は怪鳥の出現を待った[#「深夜二時、三人は怪鳥の出現を待った」は中見出し]

 それから五日めの深夜であった。
 あの夜から毎晩、四人は螺旋階段にひそんで、怪鳥の現われるのを待伏《まちぶ》せた。怪鳥は空から来る、新田はそう断言した。博士にも北村にも信じられなかったが、新田は確信ありげに繰返《くりかえ》し断言した。
「だってそうでしょう」と彼は微笑しながら云うのだ。
「鳥が地面から這上《はいあが》る訳はありませんからね。それにしては少し高過ぎますよ」
「然し、本当に怪鳥が来るのか」
「来ます、必ず来るんです。もう直ぐ先生の眼でそれを御覧になれます」
 新田は猟銃を持っていた。――観測室には北村が頑張っている。海面には相変らず夜光虫の活動が旺《さか》んで、夢のようにおぼろなその青白い光が、この場面を一層妖しいものにしていた。
 五日めの、丁度午前二時頃であった。静かだった空に強い東風が吹きはじめると、
「先生、注意して下さい。この風が怪鳥の来る前触れです。僕がこの猟銃を射ったら、直ぐ観測室へ踏込んで下さい」
「――宜し」
「桂子さんは其処《そこ》を動かずに」
 そう云って、新田は小窓を開け、猟銃の先を空へ向けて身構えた。
 深夜二時、夜光虫の輝く海に取囲まれた島、廃墟のような古灯台の絶頂で、殺人怪鳥の現われるのを待つ、この妖しくも奇怪な情景は忘れられぬものだった。――桂子は遉《さすが》に心弱い少女のこととて、次第に昂まる恐怖を抑えきれず、階段に跼《かが》んだまま身を震わせていた。
「先生、来ました」新田が云うと共に、
 だあん[#「だあん」に傍点]ッ――。
 耳を聾する銃声、もう一発! 同時に観測室でばたん[#「ばたん」に傍点]と扉《ドア》の開く音、それより疾《はや》く、宗方博士は脱兎の如く其処《そこ》へ踏込んで行った。――と其処《そこ》には、怪鳥が二|米《メートル》余もある翼をひろげ、恐ろしい叫び声をあげながら北村に襲いかかろうとしている。博士は思わずあっ[#「あっ」に傍点]と立竦んだが、直ぐに右手の拳銃《ピストル》をあげて、
 がん[#「がん」に傍点]!
 と一発狙撃した。
「射ってはいけません」
 喚きながら新田が馳せつける。
 その刹那……怪鳥は身を翻えして、開いている扉《ドア》から外へとび出した。
「逃がすな、早く捉えろ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 叫びながら三人が追って出る。
 とたんに怪鳥は、鉄柵を乗越え、飛礫《つぶて》のように海上めがけて身を投じた。
 ひイ――という無気味な声が、遥かに遥かに下へ消えるのを、三人は茫然として聞いた。
「残念でした……是れで万事終りです」
 新田が嘆息するように云った。
「罪はその出たところへ返りました。行って死体の始末をしてあげましょう――金森博士の死体を」
「なに金森博士※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」
「そうです、怪鳥の正体は金森医師です」
「なんのためだ? 信じられん」
 宗方博士は不審な面持《おももち》で新田を覓《みつ》めた。
「金森博士はコカインの密輸出をやっていたのです。この島が貯蔵所でした。それで我々を此処《ここ》から立退かせるために、こんな怪談を仕組んだのです。――現場を押えて改心を勧めようと思ったのですが、矢張《やは》り博士としては生きていられなかったのでしょう」
「だが、どうしてこの高い場所へ来ることが出来たのか」
「怪鳥は空から来ると申上げました」
 新田は静かに説明した。
「博士は空から来たのです」
「――分らん」
「吉井君の手当をしに来た時、博士は落物《おとしもの》をして行きました。それはヘリウム瓦斯《ガス》の受取書でした。なんのためにヘリウム瓦斯《ガス》が必要でしょう? 気球《バルーン》なのです。気球《バルーン》を使ったのです」
 みんなは意外な真相にあっ[#「あっ」に傍点]と目を瞠《みは》った。
「怪鳥の去った後に、銭蘚苔《ぜにごけ》の細片が落ちていました。僕はそれを中心に捜査を進めたのです。そしてあの岬の松林の中に、同じ蘚苔《こけ》と、人の足跡をみつけました。博士は其処《そこ》で気球《バルーン》に瓦斯《ガス》を詰め、怪鳥の仮装をしたうえ、強い東風を待って灯台へやって来たのです。――さっき僕が猟銃で射ったのはその気球《バルーン》でした。博士はそれを知って、遂に自殺を敢行したのです」
「ではあの吉井の傷は」
「博士の死体を検べてみましょう、恐らく両手に拵《こしら》え爪を嵌めているでしょうから。……ただ警察へは知れぬように心配してあげましょう。悪事は悪事として、博士も医者としては一流の人物でした」
 三人は黙祷するように頭を垂れた。――哀れ己の罪に死んだ金森博士。その死体をのんだ海は、夜光虫の青白い光を輝かせながら、弔うもののようにとうとうと岩を噛んでいた。



底本:「山本周五郎探偵小説全集 第四巻 海洋冒険譚」作品社
   2008(平成20)年1月15日第1刷発行
底本の親本:「少年少女譚海」
   1938(昭和13)年7月
初出:「少年少女譚海」
   1938(昭和13)年7月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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