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忠弥恋日記

最終更新:2019年10月31日 19:56

harukaze_lab

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平八郎聞書
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)水野監物忠善《みずのけんもつただよし》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#8字下げ]
-------------------------------------------------------

[#8字下げ]一[#「一」は中見出し]

 水野監物忠善《みずのけんもつただよし》が三河ノ国岡崎の領主であった頃、その家老に戸田新兵衛《とだしんべえ》という者がいた。
 新兵衛は水野家に数代仕える足軽の子で、十五六歳の頃までは、いるかいないか分らない平凡な少年であったが、それから四五年経つうちに、いつともなく、だんだんとその存在が人の眼につきはじめた。……べつにぬきんでた男振りでもなし、口数も寡《すくな》く、とくにこれという才能があるとも見えないのに、いつかしら、寄合いの席などでは彼の意見が欠くことのできぬものになってきたし、なにかむずかしいもめごとでも起ると、よほど年長の者までが新兵衛に調停をたのむというふうになった。
 彼は二十二歳のとき足軽組頭になり、それから三年してその総支配に抜かれた。――当時、岡崎藩の足軽総支配という役は番頭格で、二百石以上の武士がこれに当っていた。したがって、平足軽から出てその役に抜かれるということは、ほとんど不可能に近いことであって、まったく破格の出世だったのであるが、新兵衛の人柄は少しも『破格』だという感じを与えなかった。
 ――なるほど戸田なら申分あるまい。
 同輩の人々がそう思ったし、上司のあいだでも受けがよく、
 ――あの男ならなにかやりそうだ。
という評判が一致していた。
 総支配には二年在職した。とりたてて記すべき功績もなかったが、彼が在職している期間には、常になにかともめごとのある上士と足軽とのあいだに、いちども諍いごとが起らずに済んだ。それについてとくに取締りをしたとか、心配したとかいう訳ではない、なにも仔細はないのだが、とにかく彼の在職中は珍しく無事だった。
 新兵衛は二十七歳の春、正式に士分に取立てられ、百五十石の書院番になった。そこでも彼は好評をもって迎えられた、そしてその年の夏、物頭を勤める神尾角左衛門《かみおかくざえもん》から望まれてその娘の萩江《はぎえ》と婚約をむすんだ。
 そこまではごく順調であった。数年のあいだに、平足軽から百五十石の書院番になり、物頭の娘と婚約ができたということは、すでに泰平となったその時代には異数の立身である、しかも秀抜な手柄があったわけではなく、いつとなく自然と伸びあがったのだから、その人柄がありふれたものでなかったことは確実であろう。……けれどそれから間もなく、その順調な運命を覆して思いがけぬことが起った。
 寛文五年九月はじめ、新兵衛は主君忠善の命で、彦根藩の井伊家へ使者に立った。……虎次郎《とらじろう》という家僕を供に、岡崎を出て、その日は鳴海で泊り、翌日岐阜、三日めの暮れがたに不破の関跡へかかった。
「これから先は山越しになりますが、どこへお宿を取りましょうか」
「ちょうど宿間になったな」
 新兵衛ははじめからそのつもりだったとみえて、かまわず歩きながら云った。
「しようがない、今夜は月がいいようだから山越しをしてしまおう」
「……大丈夫でございますか」
「御用を急ぐから」
 伊吹を越える峠路にかかるとまったく日が暮れた。幸い月は中天にあったが、つづら折りの道だし樹立に遮られるので、足もとは決して安全とは云えなかった。
 夜の九時頃であった。峠のもっとも迂廻路へかかったとき左手の杉林の中からわらわらと五人ばかりの人々が出て来て、月光の明るい道に立ちふさがった。異様な風態をして、素槍だの刀だの、みんなそれぞれ武器を手にしている。
「旦那さま、賊です」
 家僕が悲鳴のように叫びながら逃げだそうとした。けれども、そのときうしろへも同じほどの人数がとびだして来たので、彼は新兵衛の背後へ小さくなって身を隠した。
「なんだ、貴公たちはなんだ」
 新兵衛は前後を見廻しながら云った。
「貴公の見るとおりだ」
 一人の図抜けた巨漢が答えた。
「しかし山賊でも野盗でもないぞ、みんな志操高潔な武士だ、志操高きがゆえに主取りを好まず、俗塵を避けて山野に武を鍛錬しているのだ。ここはわれらの関所だ」
「ここを夜に入って通る者は」
と別の一人が大地に槍を突立てながら叫んだ。
「たとえ大名、将軍たりとも、われらに貢《みつぎ》しなければならぬ。拒むものは即座に斬って捨てる掟だ。話が分ったら、所持の金子は云うまでもない、衣服大小をここへ脱いで行け」
「それともひと戦やるか」
 喚きたてながら、十余人の賊どもは、武器をひらめかせて前後から詰め寄った。

[#8字下げ]二[#「二」は中見出し]

「しばらく、しばらく待ってくれ」
 新兵衛は手をあげて制した。
「貴公らの申分はよく分ったが、拙者は主君の御用で彦根までまいる途中だ。ここで裸になっては御用を果すことができぬ」
「人にはそれぞれ用があるものだ。ここはそんな斟酌をする関ではないぞ」
「だから相談をしたい」
 新兵衛はふところから金嚢《かねぶくろ》を取り出し、巨漢の手へ渡しながら云った。
「これに二十金ほど入っている。これを渡すから、衣服大小を見逃してもらいたい。もし見逃すことができないなら、せめて御用を果すまで拙者に貸しておいてくれ」
「貸しておく……それはどういうことだ」
「御用を果せばすぐこの道を帰って来る。そのときは衣服大小を渡すと約束しよう」
 賊たちは無遠慮に笑いだした。
「ばかなことを云うやつだ」
 槍を持った男が嘲笑して叫んだ。
「そんな痴言《たわごと》をああそうかと云って、ここで貴様の戻って来るのを便々と待っていられるか、われわれはそんな甘口に乗るほど呆けてはおらん」
「甘口かどうか知らぬ、しかし約束は約束だ」
 新兵衛は力を籠めて云った。
「帰りにはかならず衣服大小を渡す、武士に二言はない」
「やかましい、文句を云わずに身ぐるみ脱いで行け」
「それとも斬って取ろうか」
 またしても賊どもが武器を取り直したとき、頭目と思われる例の巨漢が、
「待て待て、みんなちょっと待て」
と制止しながら前へ出た。
「こんな話は初めてだが、武士に二言はないと云った言葉が面白い。ひとつそれに嘘がないかどうか試してみよう」
「では帰るまで待ってくれるか」
「待とう。しかし念のため断っておくが、約束を破って妙な真似でもすると。この話を天下に触れて笑いものにするぞ」
 新兵衛は静かに笑って頷いた。
 峠を越えて、人家の見える処へ来るまで、家僕はものも云えなかった。新兵衛は黙って歩いていた。そして東から空が白みはじめ、道に人影が動きだすと、家僕はようやく元気を取り戻したように、山賊たちの愚かなことや、その賊どもをうまうまいっぱいくわせた主人の奇智を褒めだした。
「やまだちどもが、あの山中で、今日か明日かと待っている姿を思うと、可笑しくて腹の皮がよじれます。あんな間の抜けたやつらがおりましょうか」
「そんなことをむやみに饒舌《しゃべ》ってはいけない。人に聞かれたら笑い草になる」
 新兵衛はそうたしなめただけだった。
 彦根へ着いて、用を果したのはその翌々日のことであった……彼は用事が済むとその足で帰途についた。むろん道を変えるか、そうでなければ役人に訴えて、警護の人数を同伴するものと思っていた家僕は、訴えた様子もなく、しかも同じ道を帰るのはどうする気かと、主人の心が分らないで大いに疑い惑った。……当の新兵衛はそんなことに頓着せず、ずんずん道を早めて、夜になるのを計ったように、元の峠へとさしかかった。
 十時を過ぎた時分だった。雲に見え隠れする月光を踏んで一昨夜の場所までやって来ると、新兵衛は左手で大剣の鍔元《つばもと》を掴みながら、立停ってしばらくあたりを見廻したのち、
「おーい、おーい」
と声をはりあげて呼んだ。
「やまだちどのはおらぬか。一昨夜ことを通った者だ。やまだちどのはおらぬか」
「……旦那さま、そんな乱暴なことを」
 家僕が、仰天して止めようとしたとき、右手の杉林の奥から「おう」と、答える声がして、松の火が、ちらちらと道のほうへ下りて来た。……例の巨漢を先に十人あまり、こんども用心ぶかく主従の前後を取り巻いた。
「よう、これはこれは先夜のごじん」
「約束を果しに来た。御用も終ったから、衣類大小を渡して行く、受け取ってくれ」
「なるほど二言のない仕方だ、もらおう」
 巨漢はなかば呆れ、なかば感に入った様子で、しかし油断なく新兵衛の動作を見戍《みまも》った。こちらは無造作に大小を脱って渡し、くるくると衣類もぬぎ捨てた。「ひとつ頼みがある。供の者だけは勘弁してやってくれぬか」
「ならん。だいいち主人が裸になったのに、下郎が着物を着て歩くというのは義理に欠ける、一緒に裸になれ」
 家僕も裸になった。二人とも、下帯ひとつのまったくの裸である。巨漢はそれを見ると、
「気の毒という気持は捨てたわれらだが、約束を守った褒美に肌着だけ返そう。持って行け」
 そう云って、肌着二枚投げてよこした。……主従がそれを着て、夜の道を立去って行くと、巨漢はしばらくそのうしろ姿を、見送っていたが、やがて溜息をつくように呟いた。
「世の中は広い。妙な人間がいるものだ」

[#8字下げ]三[#「三」は中見出し]

 他言はならぬと、固く口止めをしておいたが、いつか家僕がもらしたとみえて、その時は間もなく、岡崎家中に弘まった。そして、それまでの好評がいっぺんに逆転した。
 ――武士たるものが、なんということだ。
 ――ひと太刀も合わせず命乞いをしたそうではないか。
 ――やはり素性が素性だからな。
 かつていちども人の口に出たことのない彼の素性が、そのときはじめて、前方へ押し出されてきた。
 ――足軽はやはり足軽だよ。
 ――かっこうだけは出世しても、魂までは武士になりきれなかった。
 ――いいみせしめだ。
 新兵衛は黙っていた。弁明もしないし、べつに恥ずる様子もなかった。……するとある日、神尾角左衛門が訪ねて来た。
 用件は噂のことだった。
「世評があまりやかましいので訊《き》きに来た。いったい、噂は事実なのか、おそらく嘘であろうと思うが」
「いやほとんど事実です」
 新兵衛が、さすがに少し困惑したように答えるのを聞いて、角左衛門は額のあたりを赤くした。
「そうか。当人の口から事実だと云うなら間違いはあるまい、しかし、どうしてそんなばかな真似をした。所存のほどを訊こう」
「べつに仔細はありません。お上の御用を仰せ付かった体ゆえ争いを避けただけです」
 新兵衛は静かに云った。
「御用を果すまでは、わたくしの体でわたくしの自由にはなりません。しかし争いを避けるには帰りに衣服大小を渡すと約束せざるを得なかったのです」
「それで約束を果したというのか、相手もあろうにやまだちどもに!」
「たとえ相手が山賊野盗でも、いったん約束したことは反古《ほご》にはできません。わたくしは武士の義理を守っただけです」
「臭い[#「臭い」に傍点]……」
 角左衛門は眉をしかめて云った。
「いかにも武士臭い言葉だ。そういう臭みなことを口にするようでは、真の武道はとても分らぬだろう。改めて云うが、娘との婚約は一応ないものにしてもらうぞ」
「お望みなれば……致しかたがありません」
 新兵衛は予期していたように静かに頭を下げて承知した。
 世評はさらに悪くなった。人々には彼の態度が、いかにも武士を衒《てら》っているように見えてきた。『武士の義理を守った』という言葉は理にかなっているが、またあまりに理にかない過ぎていた。角左衛門が云ったように『臭み』がある。それが評判をますます悪くすることになった。
 その年の霜月、高代権太夫《たかしろごんだゆう》と名乗る武芸者が来て、岡崎家中の士に試合を挑んだ。
 藩主忠善は自ら小野派一刀流の極意を極めたほどの人で、平常武道をもっとも重んじていたから快く城中に招いて試合を許した。ところが高代権太夫は意外に強く、三日にわたって八人と立合いことごとくこれを打負かしてしまった。試合が済んでから数日、彼は城下の宿に滞在してなにかを待っていた。恐らく召抱えの使者があるのを待っていたのであろう。しかし城からはなんの挨拶もなかったので、彼は大手の高札場へ左のような意味の文字を書き遺したうえ、東国へ向って出立した。
[#ここから2字下げ]
 申し遺すこと
当藩主、監物侯は、高名なる武人と聞き及んだが、士を鑑《み》るの眼なく、したがって家中に人物なし、嗤《わら》うべき哉。
 寬文五年霜月[#地から2字上げ]高代権太夫
[#ここで字下げ終わり]
 その貼紙はすぐ藩主の手許へ差出された。怒るだろうと思った忠善は、それを見ると案の定と云いたげな顔で、
「この程度の人間であろうと思っていた、詰らぬやつだ、捨てておけ」
 そう云って紙片を裂き捨てたきりだった。
 高代権太夫は、忠善がその貼紙を見ればきっと怒ると思った。怒って討手を向けると思っていた、そうしたら一人残らず斬って立退こうと考えていたのである。しかし討手の来るようすがないので、少し拍子抜けのした気持で道を進めて行った。すると日暮れ少しまえ、御油《ごゆ》の宿へかかろうとするところで、
「もしもし高代どの」
と右手のほうで呼びかける者があった。立停って見ると、一人の若い武士が、並木の松の蔭に馬を繋いで待っていた。
「なんだ、岡崎家の者か」
「そうです」
「討手だな」
 権太夫はぐっと刀を掴んだ、相手は静かに道へ出て来た。戸田新兵衛であった。
「いや討手ではない」
 新兵衛は微笑しながら云った。
「城中の試合に出られなかったので、後学のため一本お教えを受けに来た。お願いできようか」

[#8字下げ]四[#「四」は中見出し]

「殊勝な心懸けだ、いかにも立合ってやろう」
 権太夫は相手の心を見透したように。
「だが得物は真剣だがよいか」
「望むところだ。この松の向うに、ちょうどよい場所をみつけておいた。そこで願おう」
「どこであろうと拙者に文句はない」
 新兵衛はくるっと踵を返して、すたすたと並木の蔭へ入っていく。なるほど四五間さきに広い草原があった。……権太夫ははじめから討手だと信じていたし、かならず助勢の人数が来ているものと考えたので、新兵衛が草原へかかるあいだに距離を縮め、
「さあここだ」
と相手が振返る。真向へ、絶叫しながら強襲の不意打ちを入れた。
 即妙必殺の一刀だった。けれど新兵衛もまた、はじめ彼に背を向けて歩きだしたときから、その一刀のくることは期していた。だから、絶叫とともに打ちこんだ権太夫の太刀は、紙一重の差で空を截り、新兵衛は右へ跳躍しながら大剣を抜いていた。
 権太夫はすぐ立直って中段に構えた。両者の間十五六尺、新兵衛は青眼にとって、呼吸をしずめながら相手の眼を見た。
 そのまま両方とも動かなくなった。ずいぶん長いことそのままだった。むろん、そのあいだにも精神と精神とは火花を散らして闘っていた。どんなに微細な気息のやぶれも敗因となる。五感は絞れるだけ引き絞った弓弦のように緊張し、吐く息は熱火のようだった。
 そういう状態がいつまでも続くものではない。ついに張切ったものの裂ける時がきた。どちらが仕掛けたのか分らない。まったく同音に、えいという叫びが起り、両方の体が相手のほうへと神速な跳躍をした。
 二本の白刃がきらりと電光を飛ばした。そして新兵衛が二三間あまり走って向直ったとき、権太夫は、体をへし折られたようなかたちで、草の中に顛倒していた。
「あっぱれ、でかしたぞ」
 不意にうしろで叫ぶ声がしたので、新兵衛は反射的に刀を構えて振返ったが、とたんに持った大剣を投げだして草の上に両手を下ろした。……近寄って来たのは、意外にも監物忠善その人であった。
「みごとな勝負だった。よくした」
 忠善は並ならぬ機嫌で云った。
「じつは余が討止めるつもりで、家中へは密々に追って来たのだが、ひと足の差でそのほうに取られた。それにしても、あの不意打ちをよく躱したものだな」
「未熟な技で御目を汚し、まことに恐れ入りまする」
「だが新兵衛」
 忠善はじっと新兵衛の面をながめて、
「これほどの腕を持ち、しかも今日まだ誰にも知らせぬだけのゆかしい心得がありながら、角左にはなぜあのようなことを申した」
「……はっ」
「武士が武道を表看板にするのは、茶人がいかにも茶人めかすと同様に、はたの眼には笑止なものだそうではないか……角左に申した言葉は道理に違いない。だがそれを口にする武道臭さは抜けぬといかんぞ」
「まことに心至らぬ致しかたでございました。神尾どのに心底を問い詰められ、外聞にもれるとは存ぜず、浅慮の恥を曝《さら》して申訳がござりませぬ。……なれど」
 新兵衛は静かに面をあげて
「一言申し上げたいことがございます」
「聞こう、申してみい」
「世間の評にも聞き、唯今お上よりもお言葉でございましたが、わたくしは今後もできるだけ武士臭い武人になろうと心得ております」
「……どういう訳だ」
「味噌の味噌臭きと、武士の武士臭きと、ふたつながら古くより人の嫌うものとされております。わたくしもそう存じておりました。臭みのない武士になろうと心懸けたこともございます。なれど……数年前ある書き物を手に入れまして、にわかに眼が明きました」
「その書き物とはなんだ」
「それにはかような一節がございました」
 新兵衛は眼をなかば閉じて、力のある、低い声で誦うように云った。
「……昔よりの説に、武士の武士臭きと、味噌の味噌臭きといけぬものなりと、下劣の諺にもいうなれど、まずは、脇よりみてのことにてやあらん。定めて公家か町人の評判なるべし。武士はなるほど武士臭く、味噌はなるほど味噌臭くあれかしとぞ思う。武士はなに臭くてよからんや。公家臭からんか出家臭からんか、職人臭からんか、むしろ百姓臭くてよからんか。味噌もなまぐさくも、こえ臭くも、血臭くても、腐り臭くても何かよからん。ただ味噌臭きがよかるべし。右の武士は武士臭くてよからぬという説……」
「待て、新兵衛待て」忠善は急に遮って云った。
「その文章、なに人の書いた物だ」
「はっ、本多平八郎《ほんだへいはちろう》どのの聞書にて、東照神君《とうしょうしんくん》のお言葉を、そのまま筆録されたものだとございます」
「そうか――神君のお言葉か」
 忠善は非常な衝動を受けたもののように、ややしばらくじっと空をみつめていた。……その胸中にどんな想いが去来したことであろう。やがて深く嘆息をもらすと、
「よく聞かせてくれた。余も眼が明いたぞ」
としみ入るように云った。
「武士はなるほど武士臭く、百姓はなるほど百姓臭くあるべきだ。臭みを無くせば元も失う。臭みなど恐れては真の道に入ることはできぬ。……新兵衛、まだそのあとを覚えておるか」
「たどたどしゅうはございますが、覚えております」
「続けてくれ、聞こう」
 忠善は草の上に正坐した。新兵衛は身を正し、低い力の籠った声で暗誦を続けた。
「……右の武士は武士臭くてよからぬという説は、武士きらうのものがふと云い出したる言なるべし。さようの者はふんどしを除きてさようおくれたし。これ平生畳の上の習いにて肝心の大切の時は、そのようなる心にて強きことは中々ならぬものなり」
 すでに日はとっぷりと暮れた。六尺ほど隔てて相対した主従の顔も夕闇のなかで朧にかすんできた。しかし、忠善は時の移ることも忘れて、一言も聴きのがすまじと聴いていたし、新兵衛の声もますます熱を帯びてゆくばかりだった。
「……天地を尽くしても、武士の有らんかぎりはこの道理すたることなし。常の心懸けということ、これを措いて多からず。たとえて手近の証拠をあげていえば……」
 平八郎聞書はなお続く、空には美しく星が輝きはじめていた。



底本:「強豪小説集」実業之日本社
   1978(昭和53)年3月25日 初版発行
   1979(昭和54)年8月15日 四刷発行
底本の親本:「島原伝来記」
   1942(昭和17)年刊
初出:「島原伝来記」
   1942(昭和17)年刊
※表題は底本では、「平八郎聞書《へいはちろうききがき》」となっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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