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梅月夜

最終更新:2019年10月27日 00:00

harukaze_lab

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管理者のみ編集可
梅月夜
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)井波太吉郎《いなみたきちろう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)老|成田別所《なりたべっしょ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#8字下げ]
-------------------------------------------------------

[#8字下げ]一の一[#「一の一」は中見出し]

「成田から相談を持って来たのだがな」
 井波太吉郎《いなみたきちろう》は客間へ通りながら、努めてなんでもない調子を装いつつ云った。……千之助《せんのすけ》は黙って坐った。
「また陽気が戻ったようじゃないか」
 太吉郎は手を揉みながら部屋の中を見廻した。
「ばかに今日は冷える、焼津の梅はもう咲きはじめたというが、これでは花が涸《しぼ》んでしまうだろう」
 千之助はやはり黙っていた。……花が涸んだっておれの知ったことじゃないという顔だった。
「そこで成田からの話だが」
「…………」
「ここへ家を建増したいと云うんだ、菊枝どのの嫁入りのときの支度にというので、古くから木が買ってあったらしい。それで、ここが狭いからというのではなく、娘になにかしてやりたい親心から菊枝どのの居間だけ建増しをしたいと云うんだ、なにしろ」
 と、太吉郎は笑いながら云った。
「なにしろ国家老の娘が、貴公の言分を通して一紙半銭も持たず、身一つで輿入れするんだからな、このくらいのことは先方の望みどおりにしてやっていいと思うが」
「あの娘は評判よりも美しい」
 千之助は、ふと遠くを見るように眼をあげながらまるでつかぬことを云いだした。
「おれはあの娘を二度見たことがある、いちどは端午《たんご》の節句に招かれたとき、あの娘が庭の池畔で菖蒲の花を剪《き》っていた。かがんだ腰つきや、柔かい円味のある小さな肩や、菖蒲の緑が映って青ずむほど冴えた顔つきが、いま考えても美しいなあと思うほどだった」
 濃い眉と、意志そのもののような一文字の唇とこの二つが千之助の性質を代表していた。常に紛れのない眉宇、明確に所信を示す口許、どんな場合にも動《ゆる》ぎのない、はなはだ性格的な顔である。彼は駿河の国田中藩の馬廻り番頭で三百石を取る、父は高沖六左衛門《たかおきろくざえもん》といって、江戸やしき用人まで勤めたが、七年まえに妻とあい前後して死んだ。六左衛門も古武士型の勤直家であったが、千之助はまた若いうちからそれに輪を掛けたような存在で、当時の、弛廃した寛政気風の連中からは、ひどく煙たがられていた。
「もういちどは道で会った」
 千之助はさらに続けた。
「螢狩りにでも行くらしい、下郎二名と婢《はした》を三人伴れていたが、朝顔を染め出した絽の単衣《ひとえ》と黒い繻子《しゅす》の帯とが、いかにもいい調和で、菖蒲のときとは一段とたちまさった美しさだった」
「これは驚いた、こいつは意外だ。貴公が婦人の姿などに、そんな綿密な観察眼を持っていようとは知らなかったぞ、これはひとつ」
「まったくあの娘は美しいよ、……だから」
 太吉郎の言葉にはかまわず、千之助は歯切れのいい口調であった。
「この庭をとりひろげて、池を掘って花菖蒲を植えて、あたらしく建てた住居から婢の三四人も伴れて、花を剪りに出る姿はさぞ絵のような景色だろう。……まるで眼に見えるようだが。しかし、おれには似合わぬ」
「そういう言いかたは止そう、それでは菊枝どのがいかにも贅沢三昧の人に聞える、問題はただわずかに居間を建増すというだけじゃないか、世間で普通にやっていることだぞ」
「この家にも妻の居間はあるよ、祖母も母もそこで生活してきたんだ。……おれはこの家でもっともそこを神聖な場所だと思っている、高沖の嫁にはその他に居間はない」
「それじゃ建増しはいかんと云うのか」
「初めから云っているとおりだ」
 千之助はにべもなく答えた。
「夏冬の着替え一枚ずつ、帯二本、おれの女房にそれ以上の支度は分が過ぎる、それでよかったら嫁にもらうと、そう伝えてくれ」
 千之助は云いも終らず、卒然と立った。それがあまり不意だったので、太吉郎はびっくりして、坐ったまま体をひらいた。――千之助は大股に行って障子を明けると、
「……誰だ!」
 と鋭く叫んだ。
 その声でもういちど驚いた太吉郎が、振返って見ると、庭前に一人の見馴れぬ若侍が白刄を手に、蒼い顔をして立っていた。……袴の裾が裂けているし、着物には血が滲んでいる。
「お願い、お願いです」
 彼は血走った眼で千之助を見上げながら、嗄《か》れた声で喉いっぱいに叫んだ。
「親の敵を討ちもらし、助勢の人数に追詰められています、命が惜いのではありません。敵を討たずに死ぬのが残念なのです、お見掛け申してのお願い、武士の情にしばらくお匿《かくま》いください」
「心得た、お匿い申す」
 千之助は言下に頷いて、
「そこの横を裏へお廻りなさい。追手は拙者が引受けます」
「かたじけない!」
 若侍の眼が喰入るような感謝の色を表わした。千之助は太吉郎に眼配せをして、大剣を手に庭へ下りた。

[#8字下げ]一の二[#「一の二」は中見出し]

 少しまえから降りだしたらしい、大きな牡丹雪の舞うなかを、急いで裏木戸まで行ってみると、ちょうどいま駈けつけた四人の武士が、木戸口から入ろうとしているところだった。……みんな同家中の、顔馴染みの者だった。
「おお高沖、いまここへ逃げこんだやつがあるはずだ、見なかったか」
「来た、中にいる」
「しめた!」
 春田甚内《はるたじんない》という徒士《かち》組の男が、そう叫びながら押入ろうとするのを、千之助は固く木戸を閉して止めた。
「入ってはいけない」
「え、……なに」
「仔細は知らぬが敵討ちだという、見掛けて頼まれたから拙者が匿まった。理非の明らかになるまで預るからこの場は帰ってくれ」
「高沖それはいかん」
 原久馬《はらきゅうま》という、国家老|成田別所《なりたべっしょ》の甥に当る若者が前へ出て来た。
「あいつはいま町屋の辻で園部《そのべ》と玉沢《たまさわ》を斬っている。もし取逃がしでもしたら一藩の面目問題だ、ぜひともここで引渡してくれ」
「駄目だ、いちど預った以上、理非を糺《ただ》さぬうちは渡すことはできぬ、とにかくここはいちおう引取ってくれ」
「貴公、同藩の好《よしみ》を捨てて他国者を庇うのか」
「同藩の好は道理に眼を瞑《つむ》ることではない、仇討ちといえば武士として軽からぬことだ、なんと云われても渡すことはできぬからそう思ってくれ」
 思切った挨拶なのでみんな気色ばんだ。しかし原久馬がそれを抑えた。そして彼は、にっと皮肉な微笑をうかべながら、
「貴公の武道一点張りは立派だが、高沖」
 と刺すような調子で云った。
「そういつもいつも大義名分が通るとは定っていないぞ、貴公のその正しさが、貴公のために禍とならなければ仕合せだ。……世間は貴公が考えるほど単純ではないからな」
 千之助は黙っていた。久馬は伴れのほうへ、おい帰ろう、と叫んだ。
「では我々は帰る、ただし狼藉者はたしかに貴公へ預けた、もし逃がしでもしたらその責任は引受けるだろうな」
「拙者が預った以上その懸念は無用だ」
「それを聞けば安心だよ」
 久馬はもういちど唇で笑った。
 平然と四人が去るのを見送ってから、木戸に掛金を下ろして千之助は戻って来た。太吉郎はいまのようすを見ていたのであろう。気遣わしげに帰り支度をしながら、
「高沖、貴公みんなを怒らせたぞ」
「怒りたいのはおれだ。それよりいまの男はどうした、傷をしていたようではないか」
「いま嘉門《かもん》が手当てをしているが、大した傷ではないようだ。とにかくおれは久馬を追っかける、事情を話しておかぬと面倒だ」
「成田どのへの返辞も忘れるな」
「はい承知仕りました。なんでも貴公の御意次第、おればかりがつまらぬ役さ」
 太吉郎は急いで帰って行った。
 千之助は家士たちを呼んで、屋敷廻りの見張りを命じてから奥へ行ってみた。……そこではいま家扶の嘉門が傷所の手当てを終ったところであった。傷は三ヶ所あったが、どれも骨には別条のない浅傷《あさで》だった。
 若者は二十八九になる弱々しい体つきで、栄養の悪い蒼白めた顔に、おどおどした神経質な眼を光らせていたが、入って来た千之助を見るとその表情いっぱいに感謝の意を表わした。
「どうぞお楽に、遠慮は無用です」
 千之助は微笑しながら、
「失礼だが話はあとで伺います。決して心配はいりませんから横にでもなって、少し体を休めておいてください。またあとでお眼にかかります」
 そう云ってそこを離れた。
 二人が相対して坐ったのは、もう、灯点《ひとも》し過ぎの頃だった。……外には雪がまだやまず、客間の小窓の障子に、ときおりさらさらと舞いかかる音が聞えた。二時間あまりの休息と温粥《ゆるかゆ》とで、ようやく元気を取戻したらしい若者は、燭台の光にその窶《やつ》れた横顔を照されながら、静かにみのうえを語りだした。
 彼の名は宮松金五郎《みやまつきんごろう》という。
 米沢藩上杉家の浪人、金右衛門《きんえもん》の子で、松代《まつよ》という妹がある。金右衛門は上杉家で徒士目付まで勤めたが、十数年前に主家を去り、江戸へ出て、兄弟の成長を唯一の希望に、貧しい生活を送ってきた。……すると去年の冬のはじめ、金右衛門は京橋八丁堀の街上で、三人伴れの勤番侍に喧嘩を売られ、無法にも彼等のために斬伏せられてしまった。
 知らせを聞いて駈けつけた時、父は辻番小屋に寝かされていた。まだわずかながら意識があって当の相手の名を云った。それから集っていた町内の人々が、喧嘩の始終を精しく話してくれた。相手の三人がひどく酔っていたこと、なかでもっとも年若な男が父を斬ったことなど、見ていた人々の話はみんな同じだった、みんな相手の無法を立証していた。
「して、その三人の相手というのは」
「いずれも御当藩のかたがたでした」
 金五郎はそう云って、静かに千之助を見上げた。

[#8字下げ]二の一[#「二の一」は中見出し]

「右の事実をたしかめましたので」
 と、金五郎は続けた。
「その足で拙者は芝のお上屋敷を訪ね、仔細を申入れたのですが、こちらを浪人者とみてか満足な挨拶もなく、数回掛け合っているうちに、三名のかたがたは御当地へ帰国してしまったのです」
「当人の姓名は分っているのですね」
「他の二人は分りませんが、当の相手は成田銀之丞《なりたぎんのじょう》、父が臨終にはっきり申しましたし、見ていた人々もその男が自らそう名乗るのを聞いていたと云います」
 千之助の眼にふと、原久馬の皮肉な笑いがうかんできた。……貴公の正しさが、貴公の禍とならなければ仕合せだ。そう云った刺すような口ぶりも耳に甦ってきた。
 成田銀之丞とは、国家老成田別所の二男である、千之助はいま別所の娘と婚約の仲だから、やがて義弟になるべき男なのだ。彼は軽卒な質で、これまでにも幾度か酒のうえの喧嘩沙汰があり、数年まえ江戸詰になったのだが、去年の暮、押詰ってから国許へ帰って来ていた。
「それで今日のできごとは……」
「拙者は妹を伴れてすぐに江戸を立ち、正月十日に藤枝へまいって宿を取りました」
 敵の名は分っているが顔を知らなかった、兄弟は代る代る城下へ入ってようすを探っていたが、偶然にも今日、金五郎は町屋の辻で五六人伴れの侍たちと出会った。高声に話しながら行くのを聞くと、敵の名が幾度も出る。
 ――この中にいる。
 そう思うと矢も楯も堪らなくなって、成田銀之丞どのはいるかと声をかけた。すると果してその中から成田はおれだと答える者があった。
 金五郎は前後の思慮を失った。
「拙者は父の意趣を名乗り掛けました。銀之丞は返答もなく抜き合せましたが、それと一緒に、同伴の人々も抜きつれ、助勢だと云って取詰めて来たのです」
 敵討ちだと再三叫んだが、助勢の人々は手を引かなかった。金五郎は自分の軽卒を悔んだ、そして辛くも助勢を二人ほど斬伏せたが、当の銀之丞は早くも逃げ失せ、反対に助勢の人数がふえるありさまなので、もはやこれまでと思って、辱を忍んでその場を逃げて来たのである。
「よく分りました」
 話を聞き終った千之助は、しばらく天井を睨んでいたが、やがて、
「その銀之丞という男はたしかに当藩の者です、及ばずながら御本望を遂げられるよう、御尽力をいたしましょう。……しかし、いま当藩ではお上が御出府中ですから、お許しを願うためにしばらく日数がかかるかと思います。四五日あれば充分かとも思うが」
「とんだ御迷惑をかけて、まことにお詫びのいたしようもございません。申上げたような身上です。どうぞよしなにお頼み申します」
「それから、外へ出てもし間違いでもあるといけませんから、しばらくここにいたほうがいいでしょう、妹さんには拙者からお知らせをしておきます、宿は藤枝のどこですか」
「佐野屋と申して大松の近くです、まことにむさい宿ですが」
 千之助はそれだけ聞くと、安心してよく眠るように云って、自分の居間へ戻った。
 この仇討は尋常のことではむずかしい、千之助はそう思った。相手が国家老の子では、家中の者がみな遠慮をするだろう、おまけに彼はやむなくではあるが助勢の者を二人斬った、助勢に出たのが無法なのは分りきっているが、斬られた者の家族は黙っていないに違いない。こう考えてくると、一介の無力な浪士に過ぎない彼を守るためには、主君の上意を乞う他にてだてはないということになる。
 千之助は上訴状を書いた。そしてすぐに家士|福田茂一郎《ふくだもいちとう》を呼んで委細を申し含め、その場から江戸邸へ急使に立たせた。雪は夜半まで降ってやんだ。
 洗ったような、鮮かに強い朝の陽射しが、三寸あまり積った雪にぎらぎらと輝いている。その庭を前にして金五郎と朝食をとってから、千之助が居間へ入ると間もなく、
「成田さまから御客来でございます」
 と知らせて来た。
 ――来たな。
 と、思ってすぐ出て行った。
 玄関に立っていたのは、意外にも別所の娘菊枝であった。……十八歳の上背のある体つきで、すばらしく美しい顔だちだが、それはどこかしら冷たい、陶器のような美しさだった。
「いいえ、ここで失礼いたします」
 あがれという言葉を遮って、菊枝はじっと式台に立っている千之助を見上げた。
「父には内証で来ましたものですから、用談だけ申上げて帰りたいと存じますの、……でもこう申上げれば、もうお分りくださいますわね」
「昨日のことですか」
「そうですの、あの狼藉者を渡してやっていただきたいと思いまして、……昨日は久馬と、なにか言葉の行違いがございましたそうで、わたくしお願いにあがりました」

[#8字下げ]二の二[#「二の二」は中見出し]

 とり片付けた言葉だった。調子も柔かく、いくらか媚びをさえ見せているが、その態度のなかには、『いやとは云わさぬ』という気持が歴々《ありあり》と見える。
 千之助は苛々してくるのを抑えながら云った。
「失礼ですが昨日の男は狼藉者ではありません。親の仇討ちをしようとした、申せば武士の亀鑑とすべき人物です。また原からどのようなことを聞かれたか知らぬが、べつに言葉の行違いなどはなかったと思います」
「わたくし精しいことはなにも存じませんの、ただ昨日の……その者を渡していただきたいのですわ、それだけお願いにあがりましたの、お渡しくださいますわね」
「それはできません、残念ですがお断りいたします、まことに残念ですが、それは」
「どうしていけませんの」
 娘は千之助の言葉を中途で遮った。まだ装っている優しさは捨てないが、美しい眉は怒りを刻んでいた。
「その男はわたくしの兄の命を覘ったのだそうですし、御家中のかたを二人も傷つけています、御城下を騒がせた罪だけでも、御処分を受けさせるのが至当ですわ」
「銀之丞どのをなぜ覘ったのか、あなたはそれを知っていますか」
「取るにも足らぬ話ですわ」
 菊枝は蔑むように唇を歪めた、
「名もない浪人を誤って斬ったそうですけれど、兄はそのときひどく酔っていたそうですし、まるで覚えがなかったと申しています、どちらにしても高沖さまが顔色を変えてお騒ぎになるほどのことではないと存じますけれど」
「銀之丞どのはそう云いましたか」
 千之助は抑えようのない忿を感じた、
「誤って名もない浪人を斬ったが、泥酔していて覚えがないと、そう云いましたか。……それほど腰抜けとは思わなかった」
「高沖さま、いまなんとおっしゃいまして」
「腰抜けと云いました、人一人を斬って覚えがない、この場になってそんな痴言を云うのは命が惜しいからでしょう、そういう人間を腰抜けと云うのです」
「あなたさまは、兄がその男に斬られるのをお望みですの」
 菊枝は相手を見上げながら、努めて平気な声を作って云った。
「失礼ですけれど兄は、もう間もなく高沖さまの義弟《おとうと》になるはずです、あなたは見も知らぬ浪人者に、義弟を斬らせたいとお思いになりまして」
「義理にしろ、肉親にしろ、拙者は兄弟に卑怯者を持ちたくはありません。もしそういう者が義弟であったとしたら、武士の作法を教えてやります」
 菊枝の美しい顔は蒼くなり、双眸は辱められた怒りのために憎悪の光を帯びた。彼女はきゅっと唇を噛みしめ、昂然と額をあげて千之助を覓《みつ》めていたが、やがて無言で会釈しながら、裾を払うようにして帰って行った。
 千之助の体は震えるような怒りに襲われていた。菊枝の人を見下げた態度、ことに女の身で、兄が人を斬ったことに少しも慚愧《ざんき》の色を見せず、名もない浪人者とか、取るにも足らぬ話とか、驕りきった道理を蹂躙《ふみにじ》ったことが堪らなかった。
 ――おれはあれを妻に持とうとしている。
 馬鹿な! 千之助は大声に叫びたかった。そしていつまでも菊枝の思いあがった容子や、取り片付けた言葉つきや装われた媚びや条理なき言分が頭から去らず、いつまでも不愉快な怒りが胸を重くするので、ふと思いついて藤枝の宿にいるという、金五郎の妹を訪ねる気になった。
 家士たちに屋敷廻りの見張りを厳重にするように云いつけ、金五郎には庭へも出てはならぬと固く約束させて、千之助は家を出た。佐野屋という宿はすぐに分った、木賃宿同様なひどい家で、軒先の溝に雪解の水が音を立てて流れていた。
 案内された部屋は廊下を鍵の手に曲ったいちばん奥で、鼻のつかえそうな中庭に、それでも一本の老梅がふくらんだ蕾《つぼみ》を付けていた。
「宮松金五郎どののお妹さんですね」
 千之助は廊下から声をかけた。
 障子を一枚明けた部屋の中に、一人の娘が坐ってこっちを見ていた。線のはっきりした顔である、頬が豊かで黒眼の大きな潤みを帯びた眸子《ひとみ》が、愛されて育った人柄をよく表わしている。……娘は膝を固くし、そっと片手を懐剣のほうへ滑らせながら、疑わしげに千之助を見上げていた。
「拙者は高沖千之助と申す者です。あなたの兄上は昨日から拙者が預っています、それをお知らせにあがったのですが……」
「兄が。……兄は無事でございますか」
 娘は一瞬べそを掻くような表情をした、千之助はそれを見ると我知らず眼頭が熱くなった。

[#8字下げ]三の一[#「三の一」は中見出し]

 娘はすっかり警戒心を解いた。
 いちばん感じ易い年頃を、貧しい浪人生活のなかに育てられたはずであるのに、言葉の端し端し、挙措動作に云いようのない情の密《こまやか》さと、温いゆたかな感じが溢れていた。美人という顔だちではなかったが、いっぱいに瞠いて人を見るときの、驚いたような眼許に類のない魅力がある、……千之助はその眼差に触れるたびに、ふしぎな愛情が胸へつきあげてくるのを感じた。
「そういう訳で、いま江戸表へ急使を出してあります、乗り継ぎの馬で行けと命じましたから、うまくすると明日の夜か、遅くとも明後日には帰って来るだろうと思います。それまでどうか辛抱していてください」
「御心配をおかけしまして申訳がございません。わたくしが足手まといなものですから、あなたさまにまで御迷惑をおかけいたしまして」
「それもこれもすぐ済みますよ、こういう場合にいくらかでも御助力ができるのは武士の面目です、御本望を遂げられたら、三人でゆっくり祝宴を張りましょう」
 娘はそっと微笑した、信じきっている微笑であった。それから立って行って、茶を淹れて来た。しばらくでも引留めておきたい容子だったし、千之助ももっと話していたかった。しかしやがて別れを告げて立った。
「こんど外出ができるときは、晴のお支度をするときだと思っていてください」
「……ありがとう存じます」
 娘は白いうなじを見せて低く頭を垂れた。
 帳場の者に、若干《いくばく》かの金を預け、くれぐれものことを頼んで宿を出ると、千之助は裏道づたいに城下へ帰って、銀之丞のほうのようすを訊くために井波太吉郎の家を訪れた。……太吉郎は家にいた。千之助と聞いて、玄関へとびだして来た。顔色が変っていた。
「どこへ行っていたんだ」
「……藤枝まで行っていたが、なにか」
「原久馬が斬込んだぞ」
 あっと千之助は声をあげた。
「原久馬と春田甚内、他に徒士組の者が五人、表と裏から貴公の家へ斬込んで」
「宮松は、あの男はどうした」
「……やられた」
 しまったと叫んでとび出そうとする千之助を、足袋《たび》のまま走せ下りた太吉郎が、
「待て、待て高沖」
 と、うしろから抱止めた。
「いま行ってはいかん、嘉門の知らせでようすは拙者がいま見て来た、これから横目へ行って処置を願って来る、貴公はここで待っていろ、いま帰っては危い!」
「なにを待つんだ、なにを待つんだ井波! おれの預った男を斬られたんだぞ、しかもおれが留守の屋敷へ押込んで」
「分っている、だからおれが横目へ訴えて来るよ、貴公が帰っては騒ぎが大きくなるんだ」
「ことここに及んで横目になにができる」
 千之助は拳を震わせながら叫んだ。
「銀之丞は国家老の子だ、それがすべてを決定している、横目などが千人出て来たってことの解決はつきゃしない、おれは……おれはあの男に仇を討たせると約束をした、あの男の妹にもそう誓った、いまおれのなすべきことはただ一つだ」
「高沖、貴公まさか」
「おれは武道の命ずるところを行うんだ、汚された道を浄めるんだ、放せ井波!」
 千之助は大股に出て行った。
 屋敷の近くへ来ると、彼の帰るのを見張っていたらしい人影が、ちらちら見え隠れした。千之助は見向きもせずに庭のほうへ入った、……すぐに家士たちと、家扶の嘉門がとんで来た。
 雪の消えた前庭に、死体は新しい蓆《むしろ》を掛けて横たえてあった。千之助は静かに席をあげて見た。覚悟を決めた、未練の色のない死顔であった、千之助は死体の髪毛をひと握り切ると、懐紙に包んで立上った。
「よしよし、なにも聞くには及ばぬ」
 嘉門が恐る恐る仔細の説明にかかるのを押止めて、
「おまえたちに防ぎ切れなかったのは分っている、留守にした拙者が悪いのだ、あとで少し話すことがあるからみんな部屋へ来てくれ」
 そう云って彼は縁側から上った。
 嘉門と家士たちが揃って部屋へ行くと、千之助は新しい衣服に着替え、継ぎを着け、髪を水髪の大髻《おおたぶさ》に結んで坐っていた。
「拙者はこれから成田どのへまいる」
 みんなが座につくのを待って、千之助は静かに口を切った。
「なにも訊いてはならぬ、拙者が出たらすぐ、みんなこの屋敷から退散してくれ、嘉門には御先祖の位牌を預けるから、菩提寺へまいって知らせを待て。忠次郎はこの近くに隠れていろ、江戸から茂一郎が帰って来たら、井波のところへ行って用向を伝えるように云うのだ。……それから嘉門、ここに些少の金子がある、これをみんなに配分してくれ、拙者に万一のことがあったら、いずれもよき主人を取って、末ながく繁昌するように祈るぞ」
 平伏している家士たちの中に、低く嗚咽の音が聞えた。……千之助はさらに、立退く先を美禰山の宗洞寺と定めて、大剣を手に立上った。
 家士たちは走るように玄関まで送って出ると、式台に平伏して嗚咽のうちに見送った。

[#8字下げ]三の二[#「三の二」は中見出し]

 千之助は成田家の客間に坐っていた。
 主人の成田別所は五十六になる、肥えた血色のいい老人で、鼻の脇に大きな黒子《ほくろ》がある、話に熱中してくると、その黒子を摘んだり撫でたりする。眼蓋の重く脹れた、圧倒的に大きな眼で、肉の厚い唇から出る声は張のある若々しいものだった。
「そうかそうか、……そういうわけか」
 別所は苦い顔で頷いた。
「わしはなにも知らんでなあ、さっき久馬のやつめが来て、なにやらくどくど申しておったがろくに聞きもせでほっておいたんじゃが。……のら者めが江戸でそんな不埒《ふらち》なことをしでかしおったのか」
「それでなにか、そのう」
 右手で黒子を撫でながら、別所はひょいと眼をあげて千之助を見た。
「いまのその、なんとかいう浪人者の死体は、まだそこもとの家に置き放しというわけなのか。ふむ、それはいかんなあ、すぐに誰かやって鄭重に葬らせにゃいかん、早速そうせにゃいかん」
「御家老」
 千之助は作法を冒して、大剣を座の左へ置いていたが、それをぐっと引寄せながら、
「死体の始末はことが済んでからでけっこうだと思います、どうか銀之丞どのに支度をおさせください」
「銀に支度をさせろと、なんの支度じゃ」
「お分りになりませんか!」
 老人は大きな眼で千之助を見戍った。……千之助もその眼を真正面に見返した。老人の背が静かに伸び、肉の厚い下唇がだらっと垂れた、両者の眼は喰合ったまま離れなかった。
「そうせにゃならんか」
 老人はやがて嘆息するように云った。
「どうでも、そうせにゃならんか高沖、……あれはのら者じゃが、そこもとにはやがて義弟ともなるやつじゃ、なんとか法はあるまいか」
「これほどの無道が行われて、御家老はまだ他に手段があるとお考えですか、こんな不法を犯しても、我子を武士として生かしておきたいとお思いですか」
「しかし、しかし、なんでそこもとが、あれを、斬らにゃならんのか、見も知らぬ浪人者のために、なんでそこもとが」
「拙者は金五郎に仇を討たせると誓いました。そして彼は拙者の家で斬られたのです。けれどそういう事情がなくとも、こんな悪業が行われたら拙者は同じことをします。誰のためでもありません。人間の大道を正すために!」
 力を籠めて云いながら、千之助は、左手の襖の蔭で、人の動く微かな気配を耳にとめていた。その気配はいま、音を忍ばせて襖際から去ろうとしている。……千之助はもういちど、「武士の道を明らかにするために」と云いながら静かに立った。
「御家老、無礼をいたします」
 語尾は、跳躍する体から出た。ひと跳びに、襖へ体当りをくれて次の間、あっ、悲鳴とともに振返ったのは菊枝だった、その向うへ、獺《かわうそ》のように逃げて行く銀之丞の背が見えた、
「あれ、待って高沖さま」
 立塞がる娘を突放して追う、廊下から奥の間、銀之丞は窓から庭へ跳んだ。千之助は必至と追い詰めながら、肩衣をはね、大剣の鯉口を切った。
 庭の南側、槇の生垣を押破って、銀之丞は隣り屋敷へ脱がれた。原久馬の家である。
「久馬、出会え久馬」
 嗄れた叫び声が、静かな午後の空気を震わせた、
「高沖が来たぞ、久馬!」
 千之助は生垣を越えた。
 広庭に原久馬と、家士が四五人とびだして来た、銀之丞はわなわなと顫える手でこっちを指さしていた。……千之助は大股に近寄って行った。眼に見えぬ大きな翼のような、緊張した沈黙が庭上を蔽った。
 久馬は千之助の眼を睨みながら、抱込んでいた槍の鞘を静かに突放し、
「銀之丞、卑怯な真似をするなよ」
 そう云って前へ出た。……彼は中村流の槍をよくする、小太刀でも家中指折りの達者だった。千之助は大剣を抜きながら、銀之丞をひたと睨んで進んだ。少しも大股の歩度を緩めなかった。それで前へ出て来た久馬とすぐに直面した。
 絶叫が起り、両者の体が躍った。……久馬は槍の千段を切放されて庭の隅へ跳び、千之助は銀之丞へ大剣をつけて立直った。
「銀之丞、武士らしくしろ」
 久馬が庭の隅から叫んだ。
 銀之丞は刀を持っていなかった。彼はわなわなと戦《おのの》く手で脇差を抜いた。千之助は依然として黙ったまま、真直ぐに近寄って行った。……そのときうしろへ、久馬が白刄を抜いて殺到した。
 ほとんど体当りになったかと見たせつな、千之助の体は左へ大きく外れ、久馬は頸根から血を飛ばしながら、前のめりに顛倒した。それより疾《はや》く、銀之丞はなにか喚きながら広縁へとび上った、しかし千之助は、ひと跳びにはねあがると、彼を廊下の途中で追い詰め、衿髪を掴んでずるずると庭へ引下ろした。
 原家の家士たちは茫然として、家の蔭に震えていた。

[#8字下げ]三の三[#「三の三」は中見出し]

 その翌々日、井波太吉郎は馬を飛ばして美禰山の宗洞寺へ駆《か》けつけた。
 千之助は寺の愚得和尚《ぐとくおしょう》と碁敵である、彼は和尚の隠居所にいた。もう黄昏《たそがれ》のことで、太吉郎が着いたとき、千之助は濡れ縁に腰を掛け、そのうしろで一人の美しい娘が、いま行燈《あんどん》へ火を入れているところだった。
「おい見ろ、みごとに咲いているぞ」
 入って来る太吉郎を見ると、千之助はそう云って庭前を指した。……和尚が『蒼竜』と号《なづ》けた梅の老木が、夕闇のなかに満枝の花を咲かせていた。
「こっちは梅どころじゃないぞ」
 太吉郎は近寄って来た。
「午過ぎに茂一郎が帰って来た、お墨付を戴いて来たから、それをとりあえず老職たちの席へ呈出しておいた」
「老職たちが集ってでもいるのか」
「まるで蜂の巣を突ついたような騒ぎだ。軽部や松居や野口老は、追手を出せとがんばっていたようだ。しかしお墨付が来た以上どうにもなるまい。お蔭でおれは冷汗の掻きどおしだ」
「お墨付はむろん、仇討御免許だろうな」
「おまけに成田どのは差控えとある、貴公がこんな手配をしてあろうとは知らなかったよ、いつ江戸へ使いをやったんだ」
「そんなことはどっちでもいい、それよりひきあわせておこう」
 千之助は振返って娘を招いた。
「これは拙者の朋友で井波と申します、色々と今度も面倒をかけました。……井波、これは、亡くなった宮松どのの妹さんだ」
「……松代と申します」
 娘は両手をついて会釈した。
「このたびは皆さまに御迷惑をおかけいたしまして、本当に申しわけがございませんでした。死んだ兄になり代りまして篤くお礼を申上げます」
「兄上には残念なことをいたしました。さぞ」
 太吉郎はそこで絶句してしまった。
 三人は同じ哀悼の気持で眼を伏せた。……本堂で夕の勤行が始ったらしく、和尚の澄んだ誦経《ずきょう》の声が聞えてきた。わずか四日あまりのあいだに、なんと多くの転変があったことだろう。その烈しさと、辛辣さと、ぬきさしならぬ宿命感は、いま思うとまるで夢のようである。
「それで、貴公これからどうする」
 太吉郎がやがて口を切った。
「宮松どのの菩提所が米沢にあるそうだ。そこへ御尊父と金五郎どのの遺髪を納めに行かれるそうだから、拙者がお付添いをして行こうと思う」
「米沢か。うん、それはいいだろう。米沢まで往復するあいだには、こっちの騒ぎもかたずくだろうから、しかし……」
 云いかけて、太吉郎はなにか口籠った。千之助には彼がなにを云おうとしてやめたか察しがついていた。それで笑いながら、
「花菖蒲のことなら心配はいらないぞ」
と、眼配せをして云った。
「もう成田はなんとも云うはずはない。おれは帰参しても江戸詰めを願うつもりだ、貴公にもこれが世話の焼かせじまいにしたいと思うよ」
「おれもそう願いたいものだ。そしてしばらくなにも心配しないで暮したいよ」
 太吉郎はそう云って笑った。千之助はなお家士たちの始末を頼んで別れを告げた、太吉郎は二人の旅の平安を祈って帰って行った。
「ああ……月が出ました」
 山門まで太吉郎を送って戻った千之助は、梅の老木の側まで来て声をあげた。
「松代どの、来てごらんなさい」
 娘は庭下駄をはいて出て来た。
「まあ……大きなお月さま」
「松林の向うはすぐ海ですから、ここから見る月は格別きれいなんです。幼い頃よく父に伴れられて来て、同じこの梅の木の側で、こうやって見たことを思い出します」
「米沢でも月が美しかったと申します」
 松代は唆《そそ》られるように云った。
「わたしはまだ小さくて覚えておりませんけれど、兄はよくそう申しておりました。お江戸の月はこんなによごれているけれど、米沢では洗ったように美しいのですって。……兄は、よく申しておりました。もういちど米沢の月が見たいと……」
 娘はぐっと喉を詰らせた。千之助は手を伸ばしてそっと娘の肩を抱いた。それだけが頼みの力であるように、娘は小さな円い肩をもたせかけた。
「もうすぐですよ」
 千之助は空を振仰ぎながら云った。
「明日はここを立ちましょう。元気を出すんです。これから新しい日が始まるんだから。……兄上の代りに、二人で米沢の月をよく見て来ましょう」
 松代は泪の溜った眼をいっぱいに瞠きながら、千之助の顔を見上げた。……泪に濡れた豊かな頬のうえに、月光がほのぼのと降りそそいでいた。



底本:「爽快小説集」実業之日本社
   1978(昭和53)年6月25日 初版発行
   1979(昭和54)年7月15日 二版発行
底本の親本:「講談雑誌」
   1941(昭和16)年1月号
初出:「講談雑誌」
   1941(昭和16)年1月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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