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唐船調べ書

最終更新:2019年12月12日 05:30

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唐船調べ書
山本周五郎


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黒田忠之《くろだただゆき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)守|黒田忠之《くろだただゆき》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#8字下げ]


[#8字下げ]一[#「一」は中見出し]

 侍従兼筑前守、四十三万一千石福岡の城守|黒田忠之《くろだただゆき》と、その老臣である栗山大膳《くりやまだいぜん》との主従の紛争というめずらしいしかし不祥な事件が天下をおどろかしたのは寛永十年のことである。真相は秘密のとばりに包まれて今は窺い知るすべもないが、主家を幕府へ訴えた栗山大膳の行動には、おのれの名聞を捨てた忠臣のまことが隠されていたと、多くの史家によって信じられている。ここでは、けれどその顛末を記す必要はない、江戸幕府において数次にわたる審議ののち、まず栗山大膳は南部山城守の領地にお預けとなり、事件はほぼ落着の緒についたが、それでもなお余尽のふすぼりつつある寛永十一年の二月、黒田家の江戸屋敷から、ひとりの青年が福岡へと帰藩した。年は二十七歳名は北条奎一郎《ほうじょうけいいちろう》『ひねくれ者』という評判の高い男であった。
 彼は江戸屋敷で使番のかしらを勤めていたが、こんど博多に船番所が設けられるに当り、その支配を命ぜられて帰ったのである。帰国と就任の挨拶をかねて老臣諸家をまわり、ほっと落着くひまもなく旧友たちの招宴が待ちかまえていて、うむを言わせずつれだしてしまった。場所は御蔵奉行|沢八郎兵衛《さわはちろうべえ》の、那珂川岸にある別墅、集った者は旧知の友達二十余人であった。
「江戸のようすはどうだ、まず、それから聴かせてもらおう」
 盃がひとまわりした頃に、あるじの沢八郎兵衛がそう言った。むろん栗山事件の江戸における評判を聞きたいのである。
「御政治むきのことはなにも知りません」
 奎一郎はにべもなく答え、むっとした顔つきで盃をふくんだ。額の高い一文字眉の、いかにも意志の強そうな顔がそういうときにはちょっと近寄りにくいほど凛乎たるものになる。一座はしらけかかったが、あるじの八郎兵衛がすぐにうまく話頭を変えた。
「これは訊きようが悪かった、わしが聞きたいのは世間ばなしだ。将軍家おひざもとの繁昌、江戸は六十余州の粋をあつめて華奢風流もかくべつだそうな、そこもとにもさぞ土産ばなしがあろう、それを聴かせてくれ」
「なに、さしたる事もございません」
 奎一郎はにこりともせずに言った。
「東都と申してもまだ名ばかり、とっぴろげた原のなかに家屋敷がちらぱらと建ち、川にもろくろく橋は架からずお城ばかりがにょっきりと突っ立っているようなものでございます。眼についたものと申せば、往来いたるところにころげている馬糞だけでございました」
 林数馬《はやしかずま》という若者がぷっとふきだした。それに誘われて一座はいちどに笑い崩れた。『とっぴろげた』とか『にょっきりと突っ立っている』とか、いかにもくさし[#「くさし」に傍点]つけるような言いかたは彼の本領である。
「北条、おまえ相変らずだなあ」
 数馬が笑いながら言った。
「そうだ、そのとおりだ」
 と数馬の言葉に答えた。
「おれは江戸へ出て性質をまるくするつもりだった。諸公がひねくれ者だという、その圭角をとるつもりでいた。けれどもおれは考え直した。おれがおれの本心をさらけだして、それでひねくれ者だと言われることは悪くはないんだ本心を隠してまるくなることは角を撓めて牛を殺すのとおなじことだ、おれはこのままでいいんだ」
「よしわかった、もうそんなことはやめて飲むがいい」
 沢八郎兵衛がなだめるように言った。
「博多の港もこの頃はしきりに唐船がはいるし、大阪あたりの問屋の出店もふえたから、番所支配はなかなかひととおりではないぞ」
「そう言えばまた長崎から張三官《ちょうさんかん》が来たという話ですね」
 数馬が八郎兵衛にむかってそう言った。
「ではまた刀の値があがるな」
「刀の値があがり国威があがる、まったく日本の太刀は無双だからな」
「日本の刀を多く持った者が勝つ、それがもう彼らの信仰になっているそうだ、いまに世界中から買い集めにくるぞ」
「……それはなんの話だ」
 奎一郎が訊いた。数馬がふりかえって、
「明国からしきりに刀を買いにくるんだ、どんな数打ち物でも法外の値段で売れるんだ、まあ番所へはいって実地にみるがいい、近頃胸のすくような景気だぞ」
「明国へ刀が売れる……ふん」
 それがなんだという顔で、奎一郎はむっと横を向いてしまった。

[#8字下げ]二[#「二」は中見出し]

 船番所の機構はもうできていた。役所は俗に『袖の湊』と呼ばれる船着の岸に建てられ、沖の残島と、志賀島、西浦岬の三ヶ所に見張所が設けられた。残島では入港船の検査を主とし、志賀と西浦では抜荷(密貿易)の監視をおもにするのである、そしてこれらの役人や番士たちはすべて船番所の支配に属していた。
 当時もっとも旺《さか》んに海外貿易の行われたるは長崎であるが、そこは早くから江戸幕府の直轄地で、長崎奉行というものがあり、交易にあたってなかなか面倒な手続きが多かった。それでまだ自由港ともいうべき博多が、明や新興の清などの密商たちに利用されるようになり、これに応じて大阪や堺の商人、各船問屋などの店もすさまじい勢でふえたのである、博多の船番所はこの情勢に対して設けられたのだ。
 奎一郎は番所の官舎へ移った。午前中は登城して御蔵方へ詰め、午后からは番所の役宅に出るのである。勤めだしてから数日経ったある日、奉行の沢八郎兵衛に呼ばれた。
「今日、夕刻からちょっと付合ってもらいたいが、都合はどうだ」
「なにか御用でございますか」
「なに私用だ、ちょっとひき合せておきたい者もある……ではあとで迎えをやるから」
 沢八郎兵衛は奎一郎の外叔父に当る、老臣|黒田外記《くろだげき》の娘を妻にしている篤実な人物で、栗山事件にはどちらにも付かず、役目一途に勤めとおしてきた。しかし奎一郎にはその篤実さや、栗山事件の埒外にうまく身を処した態度にあきたらぬものを感じ、好きになれない人だったのである。
 沢からの迎えが来たのは日暮れ前だった。案内に従ってゆくと城下をぬけて姪ヶ浜へ出た。妙見岬を見おろす丘の上に松林をとりまわした別墅風の屋敷があった。武家のものでないことはすぐわかる。
「やあ早いな」
 まず声をかけたのは林数馬であった。海を見晴らす広間に、沢八郎兵衛がすでに来て待っていた。座にはそのほかに四五名の商人風《あきんどふう》の男たちと、給仕の若い美しい女たちがとりもちをしていた。
「さあ御支配はここへここへ」
 酒肴をならべて、もう幾らか酔っているらしい八郎兵衛は、自分の右にあけてある席を叩いてさし招いた。
「まずひきあわせよう、これが船番所支配の北条奎一郎、若いがきかぬ気の豪傑だ、老職などは眼中にないという人物だから、そのつもりで目をかけてもらうがよい」
「はじめまして御意を得ます」
 商人たちは鄭重に、一人ひとり進み出て挨拶をした。大阪の難波屋、津ノ庄、山屋、それらの出店の番頭と、船問屋の丸勝、定由の手代たち、それからこの家のあるじ、博多の豪商|野口弥左衛門《のぐちやざえもん》の六人であった。
 弥左衛門は給仕の女たちの中から、ぬきんでて美しいひとりを呼び、
「むすめの雪《ゆき》でござります」
 と言って奎一郎の接待に坐らせた。それだけでも千人にすぐれたと思われるぬれぬれとした美しい眼を、しかし奎一郎は平然と見すえたきりであった。
 話は入港した唐船のことから、明国へ売れる刀の値段のことに及んだ。奎一郎は黙って、興も無げに盃を口へはこんでいたが、ふと数馬のほうへ、
「先日も刀を売る話が出たようだが」と問いかけた。
「本当に唐船がそんなに刀を買いにくるのか」
「さようでございます」
 弥左衛門がひきとって答えた。
「もっとも買いにきはじめましたのは十年ほど前からでございますが、昨年の霜月あたりからにわかに数が増しまして、近頃では、註文の半分も間に合わぬという有様でございます」
「しかし長崎とちがい、御当地は集荷の都合が宜しゅうございますし、おいおい中国筋の諸侯さまよりもお払下げが出ます模様ゆえ、博多の繁昌はこれからでござります」
 難波屋がそばからそう言うのを、奎一郎は聞き捨てにして数馬へ呼びかけた。
「だがいったいなぜ、なぜ明でそんなに刀を買うんだ」
「それは入用だからだろう」
 数馬はそう答えて、げらげら笑った。

[#8字下げ]三[#「三」は中見出し]

「いや、それはこうでござります」
 弥左衛門がまたひきとって言った。
「数年前より明国は乱世でございまして、四方に内乱が起り、北夷の入寇、清の勃興など、戦争につぐ戦争のため、武器の買いつけが多くなったのだと申します、中でも日本刀は彼らの最も執着するものでございまして、鉄砲や槍などを求めは致しますが、刀を欲しがることはこちらの想像以上でござります」
「それには倭寇とか慶長の征韓役などで、日本刀の斬れ味を彼らが胆に銘じていたためだろう」
 数馬がこんどはまじめな調子で言った。
「先年さるところで、征韓役に戦った伊達家の某士の手記というのをみた。それによると雲霞の如く押寄せて来る敵兵を、こっちは立ったままですぱりすぱりと斬る、あとからあとから来る奴を居立ちのままで片端しから斬る、しまいには労れて、立っていることができなくなったものだから、地面へあぐらをかいたまますぱりすぱりと斬ったそうだ」
 みんなまさかと言いたげに笑った。
「いや嘘ではない、伊達藩士がちゃんとそう書いている」
「先日らい長崎から来ました張三官も申しておりましたが、日本の刀は世界に類のない精巧なもので、明国の人々も神工鬼作と驚嘆しているそうでござります」
「これまでのいかなる品も、これほどの評判をとった例はございません、まことに御国の御威勢を海外に輝かすものと存じまする」
 商人たちの言葉に裏書きをするように、もうかなり酔ったらしい八郎兵衛が言った。
「江戸幕府の礎はきまり、百年泰平となったからは、全国諸侯の武庫からも続々払い下げが始まるであろう、今後も刀の交易を博多で一手に占めるとすれば、藩の財源として軽からぬものとなる。奎どのしっかり頼みますぞ」
「わたくし共も」
 と弥左衛門が低頭して言った。
「御当地ご繁昌のためには利を離れてお働き申します、どうぞ御番所におかれましても宜しくお引立てのほどお願い申上げます」
「おい北条、盃があいているぞ」
 むっとしている奎一郎をとりなすように、数馬がそばから呼びかけた。
「お雪どのに見惚れてばかりいないで少しほしたらどうだ、まだちっとも酔っていないぞ」
 しかし奎一郎はにこりともせず、間もなく手洗にといって席を立った。
 お雪という娘が案内に立ってきた。手洗は口実で、彼は帰るつもりだった。そしてお雪は、まるでそれを見透していたもののように、黙って玄関へ導いて行った。奎一郎は非常に意外だった、豪商の家に育ち、世間を知らぬこの娘の、どこにそのような勘があるのだろう。睫毛のながい眼を伏せ、つつましやかに小腰を跼めた姿は、室の梅にも譬えたい初々しさである。
「唯今あかしの支度をさせまする、しばらくお待ちあそばして」
 玄関へかかるところで、お雪はそう言って右手の部屋へはいったが、すぐに自分で無印の提灯に火をいれて持ってきた。
「失礼をつかまつりました、途中お気をおつけあそばしませ」
 式台へ手をついて、そっと見上げたお雪の清浄な眼が、自分の心にふかく刻みつけられたのを、外へ出て、しばらく行ってから奎一郎はまざまざと感じた。
 ――ばかな。
 彼は夜の途上でつよく頭を振り、道を急いで博多へ帰ると、官舎へは寄らずそのまま役所へはいり、夜詰めの下役を集めて半年いらいの記録をとり出させた。番所の事務が始まったのは前年の秋からで、そのときから輸出入の品目は記録されていたのである。
「みんなで手分けをして、この中から唐船へ売り渡した武器だけ、類別して書抜いてくれ、荷主、買主も忘れずに書くよう、夜中ご苦労ではあるが、是非とも明朝までに調書のできるようたのむ」
 そう命じておいて、こんどは支配助役の蜂屋又兵衛《はちやまたべえ》をその長屋におとずれた。又兵衛は奎一郎が特に推して助役にされた男で、いわば腹心の下役であった。
「とつぜんだが江戸へ行ってもらいたい」
 座へ通るなり奎一郎が言った。又兵衛はべつに驚くようすもなく、しずかに眼をあげながら答えた。
「承知つかまつりました」
「隠密の出府だ、一命にかかわるかも知れぬ、その心得でたのむぞ」
「いつ立ちましょうか」
「明朝未明に堺へゆく船がある、それで行ってもらいたい、用向はこうだ」
 奎一郎はずっと膝を進めた。

[#8字下げ]四[#「四」は中見出し]

 武器売り渡し調書はその翌朝にできあがった。品目は刀剣、槍、鉄砲という順で、刀が圧倒的に多かった。買主は明国が大多分で、長崎の唐年行司(六人の明国人による領事制)の手を経て清へもかなり渡っていた。
「これはいかん」
 彼は調書に眼をとおすなり呟いた。
「こんな事が黙って看《み》過ごされていたとは知らなかった、明国人の物好きぐらいに思っていたが、……早く気付いてよかった」
 彼は調書をかたく文庫にしまい、半刻あまりなにか必至に考えていたが、やがて決然と眉をあげて起った。
「よし断行しよう」
 彼は徹夜したうえにまだ朝食もとっていなかった。しかし出仕してきた下役が揃うと、すぐに支度を替え、五名の者をつれて役所を出た。
 奎一郎はまず、そのとき入港していた三艘の唐船へゆきすでに積込んであった武器を強制収容し、引返してくると各商人の倉庫をまわり、武器だけ纏めて員数を記帳し、番所の封印を付けたうえ、
 ――沙汰あるまで売買禁止、封印に手をつける者は厳罰たるべし。
 と言い渡した。商人たちの驚きはいうまでもなく、しきりに理由を訊ねたが奎一郎はなにも説明しなかった。しかし最後にまわった野口弥左衛門の店ではひともめまぬかれなかった。というのは、弥左衛門は美術品も扱っていたが、そのなかで合戦を描いた絵や屏風など、およそ武者絵に類するものは全部、武器といっしょに封印をしてしまったのである。
「これは如何なる仔細でございますか、この品々の中にはすでに唐船へ売渡しの契約ができたものもございます、仔細お聞かせを願います」
 手代の知らせで駈けつけた弥左衛門は、さすがに顔色を変えて詰寄った。奎一郎はただ番所の機密だから仔細は語れぬと答えただけである。弥左衛門は追いすがって、
「これは御蔵奉行にも御承知のことでござりますか。但しは御番所だけのお指図でござりますか」
「さような事は答える要がない」
「しかし理由も仰せ聞けなく、かようなお取配いは御無体でございましょう」
「黙れ」
 奎一郎は声をはげまして言った。
「緊急と思われる場合、かように臨機の処置をとるための番所支配だ、仔細は追て沙汰する、違背すると屹度《きっと》申しつけるぞ」
 弥左衛門は太い眉をあげ、拳をふるわせながら奎一郎をねめつけていた。
 まるでとつぜん旋風に襲われたように、博多港はかつてみない騒ぎをまきおこした。奎一郎は三ヶ所の見張番所の人数と舟を増し、銃を持って港の出入りを厳戒させ、すべての手配を終って帰ると、はじめて官舎へはいって寝た。
 彼が起き出たのは夕頃だった。御蔵奉行からなんども迎えの使者があったという、彼は明朝登城すると届けを出し、すぐに舟を出して残島、志賀島、西浦岬と、見張番所を精しくみて廻った。手配は充分だった。早舟には櫓がかけてあり、番士の鉄砲には弾丸がこめられ火縄には火がついていた。
「入船は仔細ない、許しなく出船するものはのがすな、手向いしたら撃止めてよし」
 そう命ずる彼の顔は、番士たちに決意を与える不退転の力をもっていた。
 明る朝、登城した彼は、十時の太鼓が鳴ると間もなく白書院へ呼出された。黒田外記はじめ役付き老臣が揃っていた。御蔵行沢八郎兵衛が訊問に当っだが、気の毒なほど狼狽し昂奮していた。
 奎一郎は徹頭徹尾「唯今はなにごとも申上げ兼ねます」と返答を拒んだ。
 黒田外記がもどかしそうにのりだして、
「ただなにも申せぬというだけでは相済まぬぞ、交易を停止し交易の品に封印をするというは軽からぬ事だ、それを老職に諮《はか》りもせず独断でおこなうとは越権だぞ」
 ときめつけた。奎一郎ははじめてきっ[#「きっ」に傍点]と眉をあげた。
「海外交易の事務には、便々たる手続きをとるいとまのない問題がございます、さような場合に緊急機宜の処置をとることは番所支配の権利にて、任役条目にもあきらかに記してございます、憚りながら越権とのお言葉は筋違いと存じます」
「それは条目書の解釈の違いだ、番所を設けられた御趣意は、博多における交易が藩の財源として重大となりつつあるがゆえで、これを助成し繁栄に導くためにこそあれ、防害し衰退させるために設けられたのではないぞ」
「しかし場合によれば」
 と奎一郎は声をはげまして言った。
「一藩の財源を破壊しても、国家の利不利を先にすべきときがございます」
「国家とはどういう国家だ」
「もちろん当藩をもいれて六十余州、日本国ぜんたいをさして申します」
 奎一郎はげんぜんたる態度でそう言った。

[#8字下げ]五[#「五」は中見出し]

 六十余州、日本国ぜんたいという言葉は、列座の老職たちに滑稽な印象しか与えなかった。ことにひねくれ者といわれる奎一郎の口から出ただけ、いかにも現実ばなれのした感じだったに違いない。外記は、はたと膝を打って叫んだ。
「さような空論を聞く要はない、そのほうの仕方は、越権とみとめる、黒田外記老職として、今日限りそのほうに免役謹慎を申渡すぞ」
「その儀はあいなりませんぞ」
 奎一郎は敢然と答えた。
「このたびわたくしが船番所支配を拝命つかまつりましたのは、江戸表にてお上より直々のお沙汰でございました、さればお上より免役のお沙汰なき限り、一命を賭してもお役は退きませぬ。これにてわたくしの申上ぐべきことは尽しました、番所の御用繁多なれば下城をつかまつります、御免」
 堂々たるものだった。あまりに堂々たる態度だったので人々は唖然とそのうしろ姿を見送るばかりだった。
 城をさがって大手へ出たとき、役所からひとりの番士が馬をとばしてくるのに会った。重大な事を密告にきた者があるという、奎一郎は代ってその馬に乗り、鞭をあげて博多へとばした。
 待っていたのは若い娘だった。しかも野口弥左衛門のむすめお雪であった。奎一郎はまったく思いがけぬことで、ちょっと挨拶の言葉もでなかったが、すぐに自分の役部屋へ導いて用件を訊いた。お雪の眼には覚悟をきめた者の烈しい光があった。蒼白めた額をあげ、きっと奎一郎を見あげながら、低いはっきりとした声で言った。
「父が御禁制を犯して、荷を積出そうとしております」
 奎一郎は胸をつかれた。おのれの父を密告するのである、事の真偽よりも、それを決意した娘の凛然たる態度が奎一郎をうった。
「場所を伺いましょう」
「姪ヶ浜へ船をまわしました」
「まだ間に合いますか」
「車で運ぶだけの時刻がございます」
 彼は即座に立った。
「かたじけない」
 そう言って奎一郎は娘の眼をひたと見た。
「弥左衛門どのに傷のつかぬようしたいと思います」
 お雪はなにか言いたげだった。しかし奎一郎は「馬」と叫びながら出て行った。彼は単騎で行った。禁を犯すからには弥左衛門にも決心があるに違いない、僅かばかりの人数を持っていっても無駄だと察したのである。……名島潟は博多港の東にあたる、疾駆して行った奎一郎は、地蔵松原の畷道で、挺たる荷車の列に追いついた。彼は馬上に身を伏せ、一鞭くれて車の列を追いぬくと、馬からとび下りて道のまん中へ仁王立ちになった。
「この車待て、船番所支配北条奎一郎だ、禁制の荷を積出すものは重罪におこなわれるぞ、戻せ!」
 大手をひろげて絶叫した。列の先頭には船夫《かこ》軽子《かるこ》たちを従えて野口弥左衛門がいた。弥左衛門は冷やかに手をあげ
「構わぬ、押切って通れ」
 とわめいた。それで奎一郎はきらりと大剣を抜いた。
「待て、押して通れば斬る!」
 そう叫んだとき、船夫たちの中から銃をあげて狙撃した者があった。だあん! と硝煙がとび火花がはしった。弾丸《たま》は奎一郎の脾腹を射抜いた。彼はあっと叫び、よろよろとうしろへよろめいたが、しかし必死に踏みとまって、
「待て、弥左衛門、言うことがある」
 と苦痛を堪えて叫んだ。
「貴様が日本人ならおれの言葉がわかる筈だ、よく聞け、おまえたちが日本の刀を売るのは、おまえたちの商法だ、しかし、よく考えてみろ、刀は神工鬼作と言われるほど、武器として無比の価値がある。その無比の武器を、制限もなく国外へ売ることが国のために良策だと思うか、明は海をはさんで我国と相対している、いつ干戈を交える時がくるかも知れないのだぞ、慶長の征韓に示した我軍のぬきんでた戦法は、今なお彼らの胆に銘じているという、万一彼らがその戦法をさかしまにして、我が日本へ来寇した場合を考えてみろ」
 舌端から火を発するような一語一語に、人々は凝然と息をのんだ。
「商法は国があってのものだ、億万の利を抛ってもまず国利を護るのが民の道だ。弥左衛門、この道理に誤りがあるか、武者絵、合戦の図からもその国軍の戦法は察せられる。おれはそれを恐れたのだ、……射て、奎一郎ひとりを射殺すのはたやすい事だ、しかし民の道を踏外す罪は……」
 そこまで言って、奎一郎の気力はついに尽きた。彼は前のめりにうち倒れた。

 武器、武者絵の類に対して、幕府から輸出禁止令が発せられたのは、それから間もない寛永十一年五月のことであった。それは奎一郎の発した密使、蜂屋又兵衛が無事に博多へ帰ったのとほとんど同時である。……奎一郎はそのときまだ病床にいた。脾腹にうけた銃瘡が全治していなかったのである。
「唯今帰藩つかまつりました」
 旅装のまま、疲労にやつれた又兵衛が病床の前へ出ると、これも長い病臥でみちがえるほど痩瘠した奎一郎が、骨ばかりになった手をさしのべて言った。
「ご苦労……さぞお疲れだったろう」
「御支配こそ……」
「いや、あなたのおかげだ、かたじけない」
 奎一郎の顔を涙が条をなして流れた。又兵衛も嗚咽した。身命を賭して、おのれの役目を遂行した二人は、最もよくお互いの辛苦がわかるのだ。二人は互いに相手の心労を思って泣いたのであった。
 しずかな足音がして、薬湯を捧げた若い娘がはいってきた。弥左衛門のむすめお雪である。彼女はつつましく客に一礼したのち、薬湯を持って病床のそばへ進み寄った。
「お薬の刻でございます」
 又兵衛はいぶかしそうに奎一郎を見た。奎一郎はめずらしく眩しそうに眼をそらした。禁を破ろうとした弥左衛門が、今では彼を支持するいちばん熱心な人物になった事や、娘のお雪を看病につけるといって承知せず、ついにその好意をうけるに至った始終のことを……彼はどういうように又兵衛に話しだしたらよいかと当惑していた。
 お雪は黙ってつつましく坐っていた。



底本:「痛快小説集」実業之日本社
   1977(昭和52)年11月15日 初版発行
   1980(昭和55)年2月20日 五版発行
底本の親本:「譚海」
   1942(昭和17)年10月号
初出:「譚海」
   1942(昭和17)年10月号
※表題は底本では、「唐船《からふね》調《しら》べ書《がき》」となっています。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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