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  • 暗闇堂の魔神

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暗闇堂の魔神

最終更新:2019年12月20日 10:49

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暗闇堂の魔神
山本周五郎


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)信吉《しんきち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十|哩《マイル》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定]
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#「けものへん+非」、U+7305、468-5]


[#3字下げ]不思議な村[#「不思議な村」は中見出し]

「おい君、これゃ少し変だぞ。道を間違えたらしいぜ」
 信吉《しんきち》は四辺を見廻しながら、「さっきから様子がおかしいと思っていたんだが、すっかり迷い込んじまった。まるで見当がつかない」
「驚いたなあどうも、本当ですか」
 書生の宮川太一《みやがわたいち》は心細そうに見返った。日没の早い渓谷は、すでに黄昏《たそが》れそめて、杉林や深い竹藪《たけやぶ》の根方《ねかた》には、暗い夕闇《ゆうやみ》が流れ始めている。信吉はリュックサックから地図を取出して、暫《しばら》くみつめていたが、
「駄目だ、まるで方角も分らない、ともかくこの渓流について下ってみよう」
「大丈夫ですか、坊ちゃん」
 宮川は肩にかけた採集用の胴乱を揺りあげながら、信吉について歩きだした。
 松室《まつむろ》信吉は東京府立一中の三年生で博物にすぐれた才能をもち、殊《こと》に蘚苔類《こけるい》植物の研究では天才と云《い》われていた。今度も、学校の休暇を利用して書生と二人、鉄道から三十|哩《マイル》も入った人跡未踏の山峡へ、蘚苔類の採集に出掛けて来たのである。ところが今日この渓谷で、珍奇無類の蘚苔を発見した、それは『ゼニゴケ』の一変種で、蛭《ひる》を捕えて喰べるという獰猛《どうもう》な性質をもっているやつ[#「やつ」に傍点]なのだ。蠅《はえ》を捕る蘚苔類は既に古くから知られているが、蛭を捕食する蘚苔というのは驚くべき発見である。信吉は狂喜して採集に熱中したが、そのため遂《つい》に道を踏誤《ふみあやま》ってしまったのであった。
「おや、彼処《あすこ》に灯火《あかり》が見えますぜ」
 宮川が不意に立止まって叫んだ。なるほど、木間越《このまご》しにちらちらと人家の灯《あかり》らしいものが見える。
「ありがたい、彼処《あすこ》で今夜ひと晩泊めて貰《もら》うとしよう」
 二人は勇躍して進んで行くと、渓流に架けた丸木橋のところで、突然一人の男が行手へ立塞《たちふさ》がった。
「何処《どこ》へ行くんだね、お前さん達は」
 熊《くま》の毛皮の胴着を着て、腰に手斧《ておの》をさした髭面《ひげづら》の恐ろしい男である。信吉は叮嚀《ていねい》に帽子を脱いで、
「実は道に迷って困っているんですが、ひと晩御厄介にならせて頂けませんか」
「駄目だ、帰らっしゃれ」
 男はひどく不愛相だ。「いまこの部落は三七日の物忌《ものいみ》で、他処者《よそもの》を入れることはできない、さっさと行ってくれ」
「ほう、おかしな村だな」
 男の様子が余り厳《きびし》いので、信吉は押して頼んでも無駄だと分ったから、会釈《えしゃく》もそこそこに今来た道を引返した。

[#3字下げ]暗闇堂[#「暗闇堂」は中見出し]

「不親切な奴等《やつら》だな、こんな山の中で道に迷っているのに、人情を知らねえ山男だ――ねえ坊ちゃん」
 書生の宮川は、ぷんぷん怒っていた。
「怒ったって仕方がないよ、それより早く野宿の出来そうな場所を捜すとしよう」
 信吉はそう云って元気に歩きだした。
 日はもうすっかり暮れている。峡谷《たにあい》の、狭い空に星がまたたき始め、空気は刻々に冷たく肌にせまる。雑木林をぬけたり、丘を登ったりして一時間ばかり行くと渓谷にのぞんだ小高い台地へ出た。見るとそこには欝蒼《うっそう》と茂った杉の森を背にして、一|宇《う》の古びた神社があった。
「やあ丁度いい、今夜はこの社《やしろ》を借りるとしよう」
 二人は社の中へ入った。勿論《もちろん》そこには人影はなかったが、社殿の内部は綺麗《きれい》に片付いて、拝壇もあるし、内殿の帷《とばり》もある。二人は先《ま》ず隅の方へ荷物を下してゆっくりと手足を伸ばした。
 ひと休みしてから食事をした。終ると直《す》ぐ宮川は横になる、信吉はアルコール|燈《ランプ》を引寄せて今日採集した『蛭喰い蘚苔』の分類を始めたが、やがて彼もまたひどく疲れを覚えて、燈《ランプ》を消して横になった。
 それからどのくらい経《た》ったであろう、ふと信吉は人声を耳にして眼覚めた。社殿の中はさっきと同じ闇である、……起上って耳をすますと、社の前のところで二三人で話しているのが聞える。
「それじゃあお由美、これで帰るだぞ」
「――はい」
「また明日迎えに来るだでな、気を丈夫に持っとれよ」
 そう云うと、お由美と呼ばれた一人は残り、あとの二人は悲しげに去って行った様子である。信吉は不審に思った。この夜更《よふけ》にこんな人もいぬ古い社へ、娘一人を何のために残して行くのであろう。然《しか》も今の様子で聞くと、三人ともひどく悲しそうであった。
(なにか訳があるらしいぞ)
 信吉は立上って静かに櫺子格子《れんじごうし》を開けた。――すると、楷《きざはし》に座っていた十三四になる少女が、恟《ぎょっ》として危《あやう》くとび上りそうになりながら、
「だ、誰です、――」
「いや驚かないで下さい、僕は東京から旅行に来た者です、道に迷ってこのお社に泊っていると、いま貴女方《あなたがた》の声がしたので起きたところなんです」
「旅のお方……?」
 娘はやっと安心したらしく、美しい眼で信吉の姿をみつめていたが、やがて声を顫《ふる》わせながら、「それなら、どうか早く他処《よそ》へおいでなさいませ、ここは恐ろしい処《ところ》です」
「えッ、恐ろしいところって?」
「この社は暗闇堂と云って、人を生贄《いけにえ》に取る悪神様《あくがみさま》が祠《まつ》ってあるのです……現に、私が今年の生贄にされようとしているところです」

[#3字下げ]人身御供《ひとみごくう》[#「人身御供」は中見出し]

「詳しく話して下さい、生贄って何のことです」
 信吉は仰天して訊《たず》ねた。
 やがてその娘は奇々怪々な話を始めた。――この部落は人跡未踏の山間《さんかん》に在って、世間との交通もなく、三十戸ばかりの農民が住んでいた。然るに年々田畑の作物が悪くなるばかりで、部落の人達の困窮はつのる一方だった。
 ところが、五年ほど前、一人の行者がやって来て、神に伺いをたてると、
「暗闇堂の神明様《しんめいさま》に生贄として、毎年十四歳になる娘を人身御供に捧《ささ》げれば、作物がよく稔《みの》ること疑いなし」
 と云う神託《おつげ》があったと云う。――文明から遠ざかっている頑迷な部落民は、その行者の言葉を信じて、毎年一人ずつ、十四になる少女を暗闇堂の悪神へ人身御供に捧げるのであった。
「その人身御供にあがった少女《ひと》はどうなるんですか」
「はい、この社の裏に水の湧《わ》く窪地《くぼち》があるのです、そこに神草《しんそう》と云って水草《みずくさ》のようなものが生えていますが、その神草の中へ入れられるのです、すると、ひと晩のうちに悪神がすっかり生贄を喰べて了《しま》うのです」
「喰べる? 人間を喰べる? そんな馬鹿《ばか》なことがあるものですか」
「それはまだ貴方《あなた》が見ていないからです、人身御供になる者は、七日間このお堂にお籠《こも》りをして、体を潔《きよ》めてから生贄にされるのですが、そのあいだ一日に一回ずつ神草の中へ兎《うさぎ》を投入れるのです」
「兎を――?」
「ええ、すると見ている間に兎が……」
 と云いさして少女は恐ろしさに身を慄《ふる》わせながら口をつぐんだ。
「兎がどうするんですか」
「――神草の中から、悪神様の手が出て、兎を巻込んで了います、そして半日もすると骨だけが出て来るんです」
「じゃあ、人間の生贄もそうなるんですか」
 少女は微《かす》かに頷《うなず》いた。
 ああ! そんな事があって宜《い》いだろうか。昔語《むかしがたり》に、宮本武蔵が武者修業の途中、ある山村に悪い神があり、娘が人身御供にされようとしているのを助ける話がある、しかしそれは何百年も前の伝説だ。如何《いか》に文明から遠い山間|僻地《へきち》とは云え、昭和の御代《みよ》にそんな悪神があり、娘を生贄にするなどと云う迷信が、本当に行われていようとは、考えるだに馬鹿げた事である。しかし……迷信は馬鹿げているが、その生贄を喰べるという事実は嘘《うそ》ではないらしい。
「人間を喰べる、兎を喰べるとすると其処《そこ》には何か怪物が隠れているに違いない、宮本武蔵が退治たという※[#「けものへん+非」、U+7305、468-5]々《ひひ》のような獣《けだもの》かそれとも、また猿か狼《おおかみ》か――」
 信吉はその悪神の正体を見届けてやろう、と固く決心した。
「ねえ、君、それで――貴女は何日《いつ》人身御供にされるのですか?」
「明日の晩十二時です」
「じゃ僕たちはその悪神様という奴の正体を突止めて、貴女をお助けしましょう」
「とんでもない、駄目ですわそんな事、神様がどんなにお怒りになるか分りませんわ」
 お由美は烈《はげ》しく頭《かぶり》を振った。

[#3字下げ]兎の生贄[#「兎の生贄」は中見出し]

 翌《あく》る朝早く、まだ明けきらぬうちに、信吉は宮川を促して暗闇堂を出た。しかし、無論遠くへ行くのではない、心ひそかに悪神退治の秘策を練っていたのである。宮川は心配して、
「坊ちゃん、止《よ》しましょうよ、触らぬ神に祟《たた》り無しって事がありますぜ」
「馬鹿な言《こと》を云うな、下らぬ迷信のために、一人の少女が生命を失おうとしているんだ、これを見捨てて行く奴は人間じゃないぞ」
「だって相手は悪神様なんて云う得体の知れぬ奴じゃありませんか」
「得体が知れなければ知るまでの事さ」
 二人は暗闇堂の横手へ迫った。丁度その時、娘を迎えに来たらしい部落の人たちが四五人、裏手の方に立っていた。
「おい宮川、みつけられぬように注意しろ、きっとあの人たちは、悪神へ兎の生贄を上《あげ》るところに違いない、――見届けてやろう」
 二人は木蔭《こかげ》を伝いながら前へ進んだ。
 社殿の裏に注連縄《しめなわ》を張廻《はりまわ》した五メートル四方ほどの湿地がある。沼というほどでもなく、湧水《わきみず》のする窪地で、燈心草《とうしんぐさ》のような草がみっしり生え、その間に見馴《みな》れぬどす黒い水草のような葉が見えている……ただそれだけだ。
「あんな所に獣《けもの》や人間を喰う怪物が棲《す》んでいるのだろうか――?」
 そう呟《つぶや》きながら見ていると、やがて部落の人たちは、口々に何やら祈祷《きとう》を唱えながら窪地の近くへ寄って来た。先頭にいる老人は、恭《うやうや》しく一匹の白兎を捧げている。
「――荒振神《あらぶるかみ》鎮《しずま》りませ、騒蠅《さばえ》生《な》す神鎮りませ、夜刀神《やどのかみ》鎮りませ、悪厄神《あくやくのかみ》鎮りませ……」
 人たちが高らかに唱え終ると、やがて、先頭にいた老人が、兎をひらりと窪地の中へ投入れたのである。
「何が起るか――※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」
 信吉は身を乗出して見まもった。
 窪地へ投込まれた兎は、ひらりと身を躍らせて跳上《はねあが》った、と、その時である、燈心草のあいだから灰色の気味悪い紐《ひも》のような物が、まるで蛇のようにぬるりと現われるや、吸いつくように兎の脚へからみついた。キキキキキ※[#感嘆符二つ、1-8-75] 兎は鋭く啼《な》きながら身をもがく[#「もがく」に傍点]、と、見よ、灰色の紐はぞろぞろと幾筋も幾筋も現われ、脈を搏《う》つように探りながら、みるみる兎をがんじ搦《がら》めに巻き緊《し》めて、そのまま湿地の中へ引摺《ひきず》り込んで了った。そして、あとは又ひっそりとして草の葉も揺れぬ静けさにかえった。
 何という奇怪な、そして無気味な光景であろう! 信吉も宮川もまるで気を失ったように其処へ立竦《たちすく》んでいた。
「――不思議だ、実に気味が悪い」
「何でしょうあれは、あの蛇みたいな、ぬるぬるした長い紐は……」
 宮川は慄え声で囁《ささや》いたが、突然――
「きゃ――ッ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 と喚《わめ》きながら倒れた。
「どうしたんだ?」
 驚いて信吉が見るとこは[#「こは」に傍点]如何《いか》に? いつの間にか宮川の脚から胴へ、例の蛇のようなものがぬるぬると巻ついているのだ。
 仰天した信吉は、急いで走り寄りざま、それを解放《ときはな》そうとする、といつか横から二本別のが伸びて来て信吉の脚へも絡《から》みついてきた。
「駄目だ、宮川※[#感嘆符二つ、1-8-75] 小刀《ナイフ》で切れッ」
 信吉の声に、夢中で宮川は小刀《ナイフ》を取出す、信吉もズボンの|隠し《ポケット》からジャックナイフを取出して、既にぞろぞろと巻きついて来るやつを切放した。
「――坊ちゃ――んッ」
 悲鳴に振返ると、宮川は既に両手へも巻付かれて、ずるずると窪地の方へ引摺られて行くではないか――しまった[#「しまった」に傍点]! とばかり信吉、
「木の根を掴《つか》め、早くッ」
 と叫びざま、跳びかかって、右手にナイフを振りながら、絡みつこうとする奴を避けながら、必死に宮川の体から怪物を切放す、
「立てッ、早く逃げろ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 喚くと、宮川の手をひっ掴んで、転げるように走りだした。

[#3字下げ]昭和の宮本武蔵[#「昭和の宮本武蔵」は中見出し]

 二人は荷物の置いてある丘の上までひと息に走って来ると、そこへぶっ倒れたまま暫くはぜいぜいと喘《あえ》ぐばかりだった。
 実に危い一瞬であった。一歩を誤《あやま》れば二人は悪神の手に捉《つか》まって死の泥沼へ引込まれなければならなかったのだ。
 宮川は真蒼《まっさお》な顔をして、
「帰りましょう坊ちゃん、あれゃ大変な魔物ですぜ、とても私達の手に負える代物《しろもの》じゃありません」
「僕はやるよ!」
 信吉はしかし断呼《だんこ》として叫んだ、「ここ
まで見届けて今更逃げられるものか、僕はあの怪物の正体をきっと曝露《ばくろ》してみせるんだ」
「――きゃっ!」
 宮川が突然はね上った。またか? と思って信吉が身を起す。
「どうした」
「こ、これ、これを……」
 と指さすのを見ると、宮川の足首に、あの怪しい紐の切端が絡みついてまだぬるぬると蠢動《うごめ》きのたうっている。信吉は手早くリュックサックを開けて、実験箱を取出し、ピンセットで叮嚀《ていねい》に摘《つま》み取った。
「しめた、此奴《こいつ》を研究してやろう。済《す》まないがそこへ洗盤《あらいばん》を出してくれ給《たま》え、それから解剖刀《メス》と顕微鏡、硝子板《ガラスばん》も頼む」
 信吉は洗盤へその紐みたいなものを置いた。長さは約五十|糎《センチ》、色は蝋灰色《ろうかいしょく》で、表面はぬるぬるした粘膜で包まれている、太さは巻煙草《まきたばこ》くらいで、先へゆくほど細くなり、尖端《せんたん》には吸盤のような球状の固《かたま》りがついている。
「何だろう、動物の触角か――それとも蛇の種類か蚯蚓《みみず》のような物か?」
 信吉は先ずメスで縦に裂いた、それから一片を切取って硝子板へ載せ、顕微鏡にかけて見た。
 しばらくすると、信吉の顔色が急に活気づいて来た。そしてその唇には微笑が浮んで来た。
「分りましたか、坊ちゃん」
「分ったよ、分ったよ君!」
 信吉は叫ぶように云って立上った、「どうして今まで気がつかなかったんだろう、実に簡単な物じゃないか」
「何ですか、何物ですか正体は」
「何物かってまあ待て、それより先に研究しなければならぬ事がある。それさえ発見出来ればあの怪物をやっつけられるんだ、僕は必ず奴を退治てみせるよ」
 信吉はにっこり笑うと、再びリュックサックを開き中から五六糎の薬壜《くすりびん》を取出して顕微鏡に向った。
 時は容赦なく経って行く。やがて正午も過ぎ、夕方になった、信吉は硝子板の上の細片へ、五六種の薬を次々と振かけながら研究を続けていたが、やがてすっくと立上って「発見したぞ、怪物と闘う武器を発見したぞ。もうこれで大丈夫だ宮川君、今夜は愈々《いよいよ》大決戦をやるぞ!」
「え……? 大決戦ですって?」
「そうさ、昭和の宮本武蔵が美しき少女を救うために、暗闇堂の悪神と一騎討をするんだ、前代|未聞《みもん》の活絵巻《かつえまき》だぜ、さあ――ひとつ美味《おいし》い食事を拵《こしら》えて貰おうか、時間の来るまで僕はぐっすり眠るよ」
 信吉の両眼は活々《いきいき》と輝いて来た。――果して怪物の正体は何ぞ……?

[#3字下げ]恐怖の活劇[#「恐怖の活劇」は中見出し]

 その夜中――十二時のことであった。
 暗闇堂の裏には篝火《かがりび》が焔々《えんえん》と燃え、三十人あまりの部落民が窪地を取巻いている。中央にはあの少女お由美が、白装束を着て座り、両手を合せ黙然と眼を閉じている。人々の祈祷の声は夜陰の空気を不気味に顫わせながら、啜《すす》り泣くが如《ごと》く杉の森の奥へと消えて行く。
 祈祷が終ると、お由美は老父母に援《たす》けられて立上った。
「お由美よ、誰も怨《うら》むでねえぞ」
「みんな神事《かみごと》だでなあ、前世からの約束に違えねえだ、黙って死んでくれよ」
 老父母は流れる涙を拭《ぬぐ》うことも忘れ、娘にかき口説きながら注連縄を脱《はず》しにかかった。危機正に髪を容《い》れぬ一瞬。
「待って下さい!」と叫んで現われた者がある、人々は仰天して振返った。現われたのは云うまでもない信吉だ、後に宮川もいる。
「待って下さい、これは恐ろしい迷信です、日本に祠られる程の神が、人間の生贄などを喜ぶ筈《はず》はありません、人身御供を食う怪物は神明様ではないのです、僕がその正体を露《あら》わしておめにかけます」
「あ! これそんな乱暴な――※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 と二三人が止めようとして走寄った時、信吉は身を跳《おど》らせて窪地の中へとび込んだ。
「あっ」「あっ! やった※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 人々は息が止まったかとばかり身を乗り出す。
 見よ、信吉が湿地の中へ入るとたん、例の気味悪い触手はぬるりぬるりと魔物の指のように伸びて来て、信吉の体へずるずると絡みかかるではないか。ああ無謀! 見よ信吉の体は瞬《またた》くまにのたうち廻る触手で隙間《すきま》もなく巻緊《まきし》められた。
「ああ可哀《かわい》そうに、もう駄目だ!」
「誰か祈祷をあげろ」
 人々は狂気のように叫び合った。宮川も今はすっかり狼狽《ろうばい》して、
「坊ちゃん、確《しっか》りして下さい」
 と悲鳴をあげるばかりだ。――怪しい触手は遂《つい》に信吉を緊めあげて、ずるずると泥沼の底へ引込むかに見えた、息詰る一|刹那《せつな》、すると不意に、実に思い掛《が》けない変化が起った。信吉がうん[#「うん」に傍点]とひと息、身をもがきながら片手に持った薬壜の中から、白い粉薬を振かけると見るや、今まで犇々《ひしひし》と絡みついていた怪しい紐が、突然! 狂ったように舞い解《ほど》け、ぬるりぬるりと大きく空《くう》にのたうちながら、泥沼の中へ消えて行くではないか!
「宮川――、早く綱を」
「合点です」宮川は生返ったように、用意して来た綱の端を投げる、と、信吉はそのを持ってぐい[#「ぐい」に傍点]と両手を泥沼の中へ突込み、暫く何かしていたが、やがて立上ると、泥まみれの手を大きく振りながら叫んだ。
「さあみんなで引いて下さい、早くしないと駄目です!」
「よし来た、さあみんな引け」
 人々はわっと綱に取りつき、声を合せてえんやえんやと引いた。信吉も窪地からあがって綱頭《つながしら》を取りながら、
「そら、もうひと息、力を緩めずに、そら、もうひと息そらー※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 三十余人が力限りに引くこと二十分ばかりやがてめりめりっ[#「めりめりっ」に傍点]! という地鳴りがしたと思うと綱の先に直径二|米《メートル》もあるかと思われる怪しいひと塊りの物が引抜けて来た。
「宜《よう》し、みんな後《うしろ》へ退って下さい」信吉が叫ぶ、見ると例の長い紐のようなものが、断末魔の蛇のように、うじゃうじゃと無数にのたうち廻っている。
「きゃ――っ」と人々は逃げ出した。しかし信吉は怖《おそ》れる様子もなく、大股《おおまた》に傍へ寄ると、例の陰から白い粉薬を、怪物の中央へばらばらと振りかけ、右手のジャック・ナイフを力任せにぐざ! と何度も突刺した、そして怪しい触手が苦しげに縮んで行くのを見澄して、
「もう大丈夫です、皆さん側《そば》へ寄って見て下さい、これが暗闇堂の悪神の正体です」
 人々は恐る恐る寄って来た。信吉はにっこり笑いながら云った。「お分りになりませんか、これは鮮苔《こけ》です」
 意外な言葉に呆《あき》れる人々へ、信吉は笑いながら説明した。「この谷に蛭を喰う鮮苔のあることを知っているでしょう、これはその蘚苔類の巨《おお》きく変化した奴に過ぎません。これ迄に大きくなるには恐らく何千年と経ったことでしょう、しかし蘚苔は矢張《やは》り鮮苔です、この種類はごく小さなのでも蛭を捕食します。こんな巨物《おおもの》が兎や人間を溶かして了うのに不思議はないでしょう、ごらんなさい、この紐のような物は葉柄《ようへい》から出ている触手で表面には強い酸性の液があります。この触手で巻込み、根窩《ねあな》の液壺《えきつぼ》の中へ入れて溶かすのです」
 呆れて口も塞《ふさ》がらぬ人々の中から娘お由美を救われた老父母の、嬉し《うれ》泣きに泣く声が高く聞えて来た。
「これでもう生贄などする必要がなくなりましたよ」
 信吉はそう云って愉快そうに笑った。人々もわあっ[#「わあっ」に傍点]と森一ぱいに木魂《こだま》させて悦《よろこ》びの歓声をあげた。



底本:「周五郎少年文庫 少年間諜X13号 冒険小説集」新潮文庫、新潮社
   2019(平成31)年1月1日発行
底本の親本:「新少年」
   1936(昭和11)年2月号
初出:「新少年」
   1936(昭和11)年2月号
※表題は底本では、「暗闇堂《くらやみどう》の魔神」となっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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