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宇治の一日

最終更新:2020年01月10日 11:59

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宇治の一日
徳田秋声


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)家《うち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|緒《しよ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#「酉+慍のつくり」、第3水準1-92-88]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)叔父さん/\

濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」



 井村は或日の朝、三四日前から来て泊つてゐる嫂の弟に当る人の家《うち》を出て、その次男の芳次郎と同道で、宇治に同行する約束のあつた芳次郎の兄の良太郎を訪ねた。
 どうせ何処へ行つても、期待を裏切られることは判《わか》つてゐた。京都にしても奈良にしても、須磨や明石にしても、歴史と古美術とに趣味をもつことのできない彼には、迚《とて》も気分が合《あ》はなかつた。しかし此の小旅行のうちに其等《それら》の土地を一とわたり瞥見しておきたかつた。
「宇治へおいでゝしたら私も同行しませう。」良太郎は父の家で久しぶりで井村に逢つて其の約束をした。
 井村は彼を子供の折に知つてゐたが、大きくなつてから二度ばかり彼の父の支店へ来たついでに遊びに来たりして、叔父さん/\と呼ばれてゐた。良太郎は二年ほど前に高商《かうしやう》を出て、外洋航路の船の事務長などしてゐたが、母と折合のわるい妻のために陸へ上つて、天満の方に別居生活を営んでゐるのであつた。
 井村は良太郎のほかに、其の土地に現住の二組の若い夫婦から叔父さん/\と呼ばれるやうな関係にあつた。彼等は良太郎の妹夫婦若しくは、従兄夫婦であつた。つひ近頃まで学生であつた彼等は、いつの間《ま》にか揃つて結婚生活に入つてゐた。
 井村は良太郎等の父に誘はれて、文楽へ行つた晩から、新築のその二階へ来《き》て、づつと泊《とま》つてゐるのであつた。逗留してゐる地方の支店長と一|緒《しよ》になることもあつたし、顧客先の旦那やその愛妾なぞと、一つ座敷で晩餐《ばんさん》を食べることもあつた。晩餐がすむと、主人は下のひつそりとした座敷で、店員などと勝負事を遊んだりした。何うかすると主人は助《す》けに来てゐる妾に命じて、客をつれ出して芝居見物をおごつたりした。二階は始終旅館のやうに賑はつてゐた。でも井村がおちついて筆を執るやうな部屋に事《こと》かくやうなことはなかつた。そして土地流に、誰も彼もせか/\してゐたが、良太郎だけはそのどつしりした体のやうに、どこか態度が悠揚としてゐた。井村は外の二組と共に、彼の新世帯をもちよつと見舞はなければならなかつた。
「やれ洋服を作つたとか、やれマンドリンを買うたとか、何とか彼とかいうて金をもつていきよる。月々の世帯かつて未だにこつちが持出しや。」
 父は口《くち》でこぼしてゐたが、それがまた大きな得意でもあつた。
「叔父さんに是非|訊《き》かんならんことがある言うて、文子がお手のすくのを待つてゐますのんや。」
 主婦は良太郎夫婦の噂《うわさ》や、自分の立場などを話したりする折に、追つき女学校を出ようとしてゐる末の娘の辞を取次いだが、その文子は容易に二階にゐる井村に近《ちか》よつては来《こ》なかつた。彼は時々《とき/″\》下《した》で発育ざかりの彼女の姿を瞥見《べつけん》した。彼女は素朴《そぼく》な風《ふう》をしてゐた。白粉気などは少しもなかつた。
「叔父さんに訊くことと云《い》ふのは、何んなことだらう」などゝ、井村は揶揄ふやうに訊《き》いた。
 彼女はどこか可愛らしい大きい目《め》に微笑をたゞへながら、
「そら叔父さん、訊《き》きたいこと聞いていたゞきたいことが沢山おますさかえ。大阪かて新しい女が沢山をりますがな。」
「新しい女なぞ、阿母さん嫌いや」と、母は顔を顰《しか》めてゐたが、井村に向つて、
「この人は東京へ行て、もつと学問がしたいのやさうです。姉さんのやうに結婚しても詰らん言ふてな。」
 最近に嫁をもらつてから、遽かに良太郎に離れていかれた彼女は、文子の近頃の気分にも危惧を感じないではゐられないらしかつた。
 井村はしかし其の話に深く立入る機会もなくて過ぎた。
 井村は同志社の経済部にゐる芳次郎の案内で、電車で天満の良太郎の家を訪ねた。其辺一体は彼がこの土地を放浪してゐた時代に、よく出歩いたところだけに、何となく懐《なつ》かしく感ぜられた。町の形もまるで見違へるほどに変《かは》つてもゐなかつた。
 良太郎の家は、上も下も硝子戸で立囲《たてかこ》まれた、狭い地面を極度《きよくど》の小器用さで利用された都会的住宅の一つであつた。そして井村が芳次郎と一|緒《しよ》にあがつて、妻君の琴や良太郎のマンドリンなどのおかれた座敷へ通《とほ》つて、しばらく休んでゐると、そこへ彼自身の兄か訪《たづ》ねて来た。
「ほう、こゝへ来てゐるのか。」兄は弟の顔を見て、慈愛に充ちた相恰を崩しながら、良太郎夫婦としばらくお産の話しなどしてゐた。
 気がついてみると、良太郎の妻も姙娠《みもち》であつたが、井村の兄の家の嫁――それは良太郎の妹にあたる――も、今一つ良太郎の従兄にあたる青年の嫁も同じく姙娠であつた。良太郎の妹は三人|目《め》であつたが、良太郎と従兄の妻とは孰《どちら》も初産であつた。
 暫らくすると、兄は包みをほどいて、一つのボール箱を出してそこへおきながら、
「これを取つておいてもらはんと、折角の弟の志が無《む》になるから」と微声で言つて良太郎夫婦にすゝめた。
「そんな心配してもらうては困《こま》ります。それはやはり持つて帰つて下さい。」良太郎も井村の前を憚るやうに言《い》ふのであつた。
 井村には一寸|感《かん》づけなかつたが、直にわかつて来た。それは彼が嫂や若い三人の嫁だちのためにと言つて、妻から托《あづ》かつて来た下駄の一つで、何かの行違いか、良太郎の勘定損ひかのために、良太郎の嫁の分が不足した、それを兄が自分の嫁の分を代りに提供《ていきやう》して、井村の妻の好意を表示しようとするものらしかつた。後でほゞ想像のついたことだつたが、良太郎の母の手に托された良太郎の嫁の分が、途中で余人《よじん》の手に渡されてしまつたのであつた。
「足りなければ、家《うち》へさう行つてやりませう。」井村は言つた。
「何《な》に、そんな必要はありやせん。これで十分ぢや。」兄は打消《うちけ》した。
 井村は良太郎兄弟と、やがてそこを出た。
「こゝは二階が二室もあいてゐますから、父の家《うち》なぞごた/\したところにゐられる必要はありません。幾日でも来てゐて下さい。」良太郎は家を出かけにも、くれ/″\も言ふのであつた。
 三|人《にん》はひどく混雑する天満から電車に乗つた。初夏の頃で、町には軽い砂が立つてゐた。空は煤烟に濁つてゐたけれど、麗らかに晴れてゐた。水に沿ふた電車の沿道の光景は、市内とちがつて、まるで想像のつかないほど変つてゐた。電車のなかも可也込んでゐた。まだ扇子を使ふほどではなかつたけれど、人いきれで※[#「酉+慍のつくり」、第3水準1-92-88]《む》れるやうであつた。良太郎は大抵沈黙してゐたかはりに、制服制帽の弟の芳次郎はよく話《はな》した。京都の寄宿生活や、東京から時々講演にやつて来る芸術家の噂や、婦人|界《かい》の動静や、そんなことについて絶えず語つた。目をあげてみると、その辺一体の郊外の発展《はつてん》は意想の外であつた。どこのステイシヨンへいつても、人《ひと》が一|杯《ぱい》であつた。町がそれから其へと聯絡してゐた。
 中青島とか云ふところから、井村たちは別の線に乗りかへた。そして初夏の風にそよぐ青田や、岸辺に猫柳などの芽の伸びた流れや、新緑につゝまれた丘や森を背景にした村邑や、松原の垠《はてし》なくつゞいた古戦場や、古い寺院の塔などを眺めながら、やがて宇治へ着《つ》いた。何処を見ても青嵐が煙《けむ》つてゐるやうに見えた。
 宇治川の流が直に井村の眼前に現はれた。そして其《それ》と同時《どうじ》に宇治といふ土地の気分が、此旅行中今まで受けたことのない爽快《さうくわい》な感じを彼に与へた。泪々《べき/″\》として川幅一杯に碧く流れてゐる早い水勢も比較的荒くて好かつた。鬱蒼とした両岸の緑も深かつた。川上に見える山にも陰影の深さがあつた。
「これは好いな。」井村は橋の中程へ来たところで、立停《たちどま》つてしばらく四辺を見廻はしながら呟いた。
「嵐山より少し景色が大きくて荒いだけ宜《よろ》しいな。」良太郎も言つた。
「こゝなら暫らく居てもいゝね。」井村はさう言つて、またぶら/\歩き出した。少年の頃愛読した日本外史の宇治川先陣などの事蹟を彼は想出してゐた。
 橋を渡つてから、井村たちは旅館や料理屋などのある町《まち》を通つて、名高い鳳凰堂を見るべく、ぶら/\歩いて行つたが、井村には建築を鑑賞するだけの予備智識がなかつた。そして風雨に洗ひ晒された本堂や、翼廊やの均勢的に配合された優美な建造物を、外面から望観した後、寺院の方へと道を辿つて、そこで少しばかりの廃頽した装飾画などを見ながら、お茶を飲んで暫く涼んでゐた。そして其処を出てから、水のほとりへ出て、土手を遡《さかのぼ》つてゐた。遊覧客の麦稈帽や傘の影が、到るところの新緑の蔭に見られた。井村はこゝへ能く遊びに来る友人の幸福を羨みながら、行く/\青緑色に淀んだ水の流れや、暗欝な色に包まれた川上の山の姿などを飽《あ》かず眺めてゐた。そして空腹と渇とを感じて来たところで、水辺の或る料亭の石段を上つて行つた。
 その家は、母家の外に幾箇《いくつ》もの瀟洒な離室《はなれ》を、路次庭の繁みのあひだに、飛び/\に持つてゐた。井村たちは直ぐ手近にある其の一つに案内されて、飛石づたいに庭木のあひだを潜つて行つた。そして羽織などぬいで、風を入れながら通した料理の来るのを待つてゐた。
「こゝは料理だけか知《し》ら。泊《と》めないだらうな」なーどゝ、井村は窓から庭木ごしにみえる、奥まつたところにある同じやうな部屋の様子などを覗ひながら言つた。
「さあ、何うでしやろ。」良太郎は曖昧な返事をしてゐた。
 飲料や二三品の上方風《かみがたふう》の料理が、忙しさうにしてゐる女中によつて、暫らく待つてから運ばれた。芳次郎は勿論、良太郎もまだそんなお茶屋へなぞ余り足を入れないらしかつた。猪口も殆んど口にしなかつた。
 井村は良太郎に逢つたら、色々話したいことが溜《たま》つてゐるやうな気《き》がしてゐた。良太郎の妹を養女として、それに養子を迎へて、近い将来に三人目の孫が産れようとしてゐる兄の家庭――たとへば兄夫婦と養子と、養女と養子との関係や気持、生活状態、まだそこに其《そ》のまゝになつてゐる井村自身を初め家族の籍のこと、それは早晩分けなければならないものではあつたけれど、老いた兄を寂しがらせるやうな気がしたのと、一つは血統の絶えるのか残惜しくて、今度も兄や嫂に一と話《はなし》しようと思ひながら、嫂《あね》や良太郎の父の意志でなされたことなら、それも彼等としては至当《しとう》のことだと云《い》ふ気がして……それかと言つて、更めて籍をぬくのも気まづいやうにも思はれて、まだ口へも出さずにゐる、それも聡明で公平な良太郎にだけでも話しておきたいと考へながら、そして又良太郎自身もそれについて、いくらか責任を感じてゐはしないかと云ふ忖度もあつたりしたために、何となく各々《めいめい》の生活に触れて行くのを惧れるやうな風で、妙に硬張《こはば》つたやうな気分になつたり、打釈けようとすればするほど、双方《さうはう》の態度《たいど》が余所々々しくなつたりするのであつた。で、また自然彼自身の結婚生活、鬱勃とした慾求に燃えたつてゐながら、やはり其の姉と同じやうに、平凡な結婚生活に落着かせられさうな文子などの問題にも触れて行くのが臆劫《おつくう》であつた。
「一郎さんもう中学卒業でつしやろ。」良太郎はふとした機会に、井村の長男の消息を訊きなどした。
「さう、来年だね。」
「何か御希望ですか。」
「それが一向|判然《はんぜん》しないのでね。」
「自然文学がお好きでつしやろ。」
「さうね、今時の中学生のことだからね。しかし当にはならんよ。」井村は苦笑してゐた。
「みよ子さんが生きてゐられたら、今年幾歳にお成りですか。」
「十六かね」と井村は溜息をつくやうに言つた。
「ほう、惜しいこつてしたね。叔母さんお力落しでせうといつも従兄なぞと其の噂《うはさ》をしてをるんです。」
「有難う。あれもみよ子を亡くしてから、少し耄《ぼ》けて来ましてね。」
「さうでつしやろな。」
 いくらかしみ/″\して来たが、やつぱり他人行儀であつた。
「さあ、ぽつ/\出ますかね。」井村はさう言つて羽織を肩へかけた。
 三人はまた水辺へおりて行つた。そして渡場のあるところまで下つて、そこから舟に乗《の》つた。興勝寺を見たり、対岸を歩いたりしたかつた。
 どんよりした雨雲が空に垂《た》れさがつてはゐたが、そしてその影が時々、青々した草のうへや、水の流れに落ちたりしたが、日はかん/\照りつけてゐた。綺麗な水草の生えた砂のきら/\した小さい洲のやうなものに堰かれて、水がその辺では、底の小石の見えすくやうな美しさで、ちよろ/\漣を立てゝ流れてゐた。舟がその辺を徐ろに離れて行つた。舟には俳諧師じみた風流人の一行が乗合せてゐて、懐《ふとこ》ろからノートなど取出して、何やら苦吟してゐた。
 するうち江戸川を聯想させるやうな、青々した深い流れの中流へ、舟は出て来た。そこからは遠く重なり合つてゐる山の間から出て来る川上の水が、迥かに見渡された。流れは迅くて、しかも江戸川ほどの寂しさを感じさせなかつた。明い親しい感じであつた。
 井村たちは舟を乗棄てゝから、岩を切開いたらしい、両側から枝葉を差交はしてゐる、隧道のやうな長い涼しい道を辿つて行つた。爽かな風が木立のあひだから流れて来た。竹があつたり、楓かあつたりした。
 物綺麗《ものぎれい》に掃除の行きとゞいたこの禅宗のお寺の境内には、燃えるやうな躑躅が咲いてゐた。禅寺らしい崇厳味や幽寂味には乏しかつたけれど、得かたい風光だと思はれた。
 三人はそこを出てから、流を左に眺めて広い道を下つて行つた。宇治川水電の発電所からの水が渦をまいて落ちてゐたり、閑静な住宅か別荘かゞあつたりした。名物の瀬戸ものを売つてゐる家などもあつた。
 井村は尽頭まで来て、そこでお茶の小壺を買ひなどしてから、黄檗の方へ歩いて行つた。
 黄檗までは可也の距離があつた。茶園や茶を作る家などが、時々目の前に現はれたが、その辺は一体に、陰鬱に荒れた森が深くて、暗い竹藪などがじめ/\してゐた。夏草が盛夏のやうに蓬々と伸びて、白い砂をかぶつてゐた。
 黄檗では、時の総理大臣や名士の寄附金を掲出した大小五つ六つの高札が目を惹いたほか、高僧の手蹟に成つた山門の篆額や柱懸などが到るところに見出された。こゝも想像したほどの背景と寂びとに乏しかつたけれど、京や奈良などで見る寺院よりも、何のくらゐすがくしい感《かん》じを与へたか分らなかつた。
 井村たちは山門内の池のほとりで、売物の絵葉書など買ひながら、茶店の縁台に腰をおろして疲れを休めた。
 そこを出たときには、日もやゝかげりかけて、ステイシヨンのあたりは、関西一体の空気《くうき》がもつてゐる慵い気分に荒んで、井村は何となく不快を感じた。
 中青島で、京都へ帰る芳次郎に別れて、井村は良太郎と天満行の電車に乗つた。

 井村は良太郎の細君に迎へられて、埃をはらいながら上へあがつてから、やがて良太郎と風呂に入つた。彼女は立居《たちゐ》がやゝ苦しさうに見《み》えた。
 井村は良太郎が取出して見せる、異邦の写真帖を繰ひろげて、彼の説明に耳傾けつゝ、夕飯の食卓に向つた。もう電気がついてゐた。
 それから別室で籘椅子にもたれながら、八時頃まで雑談に時を移してゐたが、お互の内部生活に触れるやうなことはなかつた。
「こゝ宜しおまつしやろ。」
 二階えh寝にあがつたとき、良太郎夫婦も上つて来て、懇ろに彼の逗留をすゝめた。
 臥床についた時分、廂に雨の音がしはじめた。一日の行楽に疲れた井村は、快いこの雨を耳にしながら、やがてうと/\と眠に陥《お》ちた。

 翌朝井村は身重の細君を煩はすのを虞れて、二人の好意に背いて、雨を冒して兄の家まで帰つた。[#地付き](大正10[#「10」は縦中横]年7月「中央公論」)


底本:「徳田秋聲全集第14巻」八木書店
   2000(平成12)年7月18日初版発行
底本の親本:「中央公論」
   1921(大正10)年7月
初出:「中央公論」
   1921(大正10)年7月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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徳田秋声
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