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元歌詞(歌っている個所を太字)

今日も雨だ
雨 のち 雨
ごくろうさま

「これでおしまい」

そっとしまう
浅く 深追いの指

轍歩く
叢雲踏むが如く
静かに
音も立てず

見慣れた端[はた]の明かりの跳んで
顔[あい]染め上げ
音響[おとひびき]もたてず崩れてしまう
この瓦礫の先には
何かあるのかな

何があるのかな

誰か 教えておくれよ

僕はあまり器用な人間じゃあないから
想像をすることが出来ないんだ

ただ

愛したひとが泣いた
愛してくれたひとが泣いていた

指と指 触れてむつんで
擦れあう度に
水位が増している

大空と遊び疲れてさ
落ちては 声上げて
弾けて 残るを仰ぐ

何が言えようか
こんな僕にいったい何が言えようか

さよならをひとつひとつに 願いをさむ
それぞれの夜漕ぎをへて 先に
手のひらに在る 立ち並んで
ゆらり のぼり雨

道行きのほどの灯りか 明け残り(蛍飛び
不安げな顔して
さざ波の音にあわせて消えていく
降り注ぐものと心通わせて

ひとり傘 ひとり黙して ひとり旅

雨宿り
そうか 僕は
雨にもなれず
風にもなれずに
このまま消えていくのだろうな

僕はおそらく
そうやって消えていくのだろう
でも それが僕なのだからしようがない

僕は決して器用な人間ではないので
それが良いことなのか 良くないことなのか
まったく想像もつかないが
ただ ひとつ言えることは
それが僕なのだから しようがない ということだ

ひとが変わることはないからだ
ひとは決して変わらない
変えること自体 馬鹿馬鹿しいように思う
所詮 僕は僕でしかないからだ

今日も雨がきつい日だ
今日も風がきつい日だ
今日も きつい日だ

大空(寒空を泳ぎ疲れてさ
泣きながら落ちてくるのだもの
誰が何を言えようか

愛したひとが泣いていた (泳ぎ疲れて
何も言わずに

外は雨

愛してくれたひとが泣いていた (空へ

今日も きっと 明日も雨

さよならはひとつひとつ 輪郭をなし
それぞれ 確かに 大地となって
手のひらの深みでくすぶる
澱みを受け止める

ささやかに光り 降り注ぐ素朴の
思い託(わ)ぶ逆波(さかなみ)
大切なひと 大切なものがあり
それぞれが水漬(みつ・めつ)くことはない

結果 そうであったとしても
僕にとって
それは耐えることの出来ないことである

小さくなった寄る辺(べ)に
黙して願いの人形の
掲げてひとつ ひとつ

もつれる(ては)ように 逃げるように消える
雲に結いつけて
追いかけて 背中の音 たたみおく

滑稽だろう

でも

そうすることで

明日は
明日こそは
晴れそうな気がしてさ

今日も雨
ずぶぬれ どろだらけ

明日は晴れると良いな





―前提として 追記―


今日も雨

雨のち雨

ずぶぬれ のち どろだらけ

ただ

雨なのだから しようがない
雨なのだから ずぶぬれ どろだらけ もしようがない

こんなとき
僕はあまり器用な人間ではないので 何も言えない
僕はあまり器用な人間ではないので 何も出来ない

ただ

愛したひとを悲しませてはいけない
愛してくれたひとを悲しませてはいけない




意訳(歌唱部分のみ)


そっとしまう
なおも飛び立とうとした浅慮の指を

戦闘機の地すべりの跡を歩く
群雲を踏むように
静かに
音も立てず

見慣れた戦闘機の明かりが外れて
コックピットを照らしている
辺りは静かなのにガラガラと僅かな希望が崩れてしまう
この機体の瓦礫の先には

何があるのかな

愛したひとが泣いた
愛してくれたひとが泣いていた

指と指を触れ合わせて組んで
擦れあわせている間にも
コックピットが海へ沈んで涙が溢れだす

大空を戦闘機で飛ぶのには疲れてさ
墜落してくる兵士が悲鳴を上げて弾ける
僕は生き残ってしまった

戦友たち一人一人に別れを告げながら哀悼する
彼らはそれぞれ暗い夜を漕ぎ続けるのを終えて先へ行った
列は立ち並んだまま僕の順番は巡ってこなかった
雨があがっても空からは墜落してくる

僕の残りの人生を照らすほどの灯りに、この飛んでいる蛍はなるだろうか
不安げな顔をしている
さざ波が寄せて返すのにあわせて点滅している
撃墜されて落水するものと応対するように

生き残ったのは雨宿りにすぎないのかもしれない
撃墜されて殉ずることもできずに
神風になることもできずに
僕は生き残るのだろうか


寒空を戦闘機で飛ぶのには疲れてさ
みんなあんなに悲鳴をあげて落ちてくるのだもの
誰が何を言えようか

愛したひとが泣いていた 泳ぎ疲れて

愛してくれたひとが 空へ

今日も明日も戦は終わらない

別れはゆっくりと輪郭をはっきりさせていき
戦友たちは大地へとかえっていく
あいかわらず僕の順番は巡ってこない
覚悟を決めるしかない

遠くで爆発しては降り注いでくる素朴な命たちの
悲しみ愁いを含んだように波が機体のかけらを運んでくる
戦った者たちにも大切なひと 大切なものがあり
どれひとつとして水没してしまうことなどない

空へ飛ぶと岸辺が小さくなっていく
もう語ることはない屍に向けて
思いを確認していく

お互いの機体がもつれては消えて
雲に隠れては
追いかけて 弾丸を銃声をたたみかける

明日は
戦が終わるような気がしてさ





この歌の主人公の男は戦闘機乗りで、戦に駆られたが撃墜され、かつ戦友たちはそのまま殉死してしまったのに、彼だけは生き残ってしまった、という情景を仮定した。歌詞にある「愛したひと」が単純に恋人であるのか、戦友に愛着を込めてのものなのかは、はっきりとはしない。
  • 浅く 深追いの指
    • 対義結合のレトリック。つまり「浅い」と「深い」という逆の意味をもつ言葉を並べてある、ということ。前の句「そっとしまう」で「しまう」のは「深追いの指」であり、これは男が撃墜されてなお飛び立とうとすることだと見なせる。
  • 轍歩く
    • 轍とは通常「車輪の跡」をさすが、ここでは戦闘機が墜落して地面に激突した跡だと解釈した。戦闘機の車輪の跡だと捉えても差支えない。
  • 見慣れた端の明かりの跳んで
    • 端はその字のとおり「はし」を意味するが、これを戦闘機の端とみるか視界の端とみるかで若干の違いが生じる。「明かり」が「跳ぶ」とあるが、動的に「明かりが跳ぶ(ように動いた)」とせず、「明かりが(すでに)跳んで(いた)」というように完了の意味合いで受け取った。
  • 顔染め上げ
    • 顔を「墜落した戦闘機に乗っている人の顔」とみるか「墜落した戦闘機の顔・頭」とみるかで解釈が変わる。のちに別の句で「顔」という字が再出するので、ここでは後者の「戦闘機の顔・頭」という解釈を採用した。
  • 音響もたてず崩れてしまう
    • ここも若干の対義結合。崩れるときには音がするもので、音が鳴らないのは矛盾する。矛盾しないとすれば「心のなかで崩れる」というケースであり、ここでは破壊された機体が静かに横たわる様子と、それを見て、「もしかすると生きているかもしれない」という希望が砕かれる様子を対にしたものと見なせる。
  • 何があるのかな
    • 歌唱では「何”が”」と歌っているように聞こえるが、歌詞に見られるように前の句には「何”か”あるのかな」ともある。「何”が”あるのかな」という問いには「あれがある、これがある」という答えが期待できるが、「何”か”あるのかな」という問いには「何かある、何もない」という答えぐらいしか期待できない。現実的には「何”が”」と問うほうが自然だが、「何”か”」と問う者の絶望感を表したものともみられる。
  • 愛したひとが泣いた
    • 前述のとおり、「愛したひと」が誰なのか性別・関係性など不明なので、断定は避けておく。また「泣く」というのも、実際に目から涙を流していたのか、海水に濡れていたのか、血を流していたのか、もしくは物理的にではなく精神的に泣いているように見えたものか、解釈は多様に広がっている。
  • 水位が増している
    • かけ言葉だと捉えた。つまり「(涙の)水位が増す」と「(機体が海に沈んで海水の)水位が増す」の意味である。
  • 大空と遊び疲れてさ
    • 男が戦闘機乗りだという解釈は、ここの句での解釈が大きい。戦闘機という解釈を持ち込まないと、ファンタジックな句になりがちである。
  • 弾けて 残るを仰ぐ
    • 「残るを仰ぐ」は「生き残ったことを空を仰いで(=見上げて)戦闘機が飛んだり落ちたりするのを見ながら思う」という意味にとった。
  • さよならをひとつひとつに 願いをさむ
    • 「をさむ」は歴史的仮名遣いで「おさむ(収・納・治・修)」であると思われる。
  • 手のひらに在る 立ち並んで
    • この句は少しあやふやだが、のちにサビで「手のひら」が再出するので、その句とつなげて解釈するのが妥当かと思われる。
  • ゆらり のぼり雨
    • ここも解釈が難しい。「のぼり雨」という語は一般的には見受けられない上に、「のぼる」には「太陽がのぼる(≒晴れる)」という意味があるので、またも対義的になる。ここでは「雨があがる」と「なのに空から降ってくる」という2つの解釈をつなげた。
  • 道行きのほどの灯りか 明け残り(蛍飛び)
    • 歌詞では「明け残り」だが、歌唱では「あけのこり」とは聞こえないので、いささか突飛ではあるが「歌詞表記とは違う歌い方をしている」という可能性を採択した。
  • 雨宿り
    • いくつか前の句で「のぼり雨」が出て以降、何度か雨という語が続けて現れる。ここでの雨は水がふってくる雨というより、撃ち負けて墜落する戦闘機、またそのかけら、なおかつマクロに見て「戦争・いくさ」という意味でも捉えた。なので「雨宿り」は「本来なら同じように撃ち負けて殉死するまで戦うはずだが、つかのま生き残ってしまった」という解釈にした。
  • 風にもなれずに
    • 前の句に合わせて、戦闘機・戦争というワードを絡めて「神風」と解釈した。他の解釈があるなら、そちらでも構わない。
最終更新:2013年09月23日 08:45
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