ネタバレあり。
概評
ソリッドシチュエーションホラー。やっぱりSAWあたりを真似たんかな。ストーリーは、B級ないしC級。
密室をつくりだすのは完璧だったけど、ストーリー展開があまりおもしろくない。いわゆる「次々と人が死んでいく」タイプだけど、ミステリっぽい推理はなく、目立った心理戦もなく、単純に時間を経るごとに人がどんどん死んでいくだけ。伏線の張り方も巧いとは思えず、読めるものは多い。小説も持ってはいるが、映画見たなら読まなくて充分。
ストーリー
トリックもこれといったものはなく、ストーリーの重点は「犯人なんかいなかった。ガードが殺した」という疑心暗鬼を引きおこす起点と、ヒロインの須和名祥子が暗鬼館を運営する組織の一員だったという伏線に絞られる感じ。犯人がいないから動機やトリックは当然なくなる。せいぜい祥子が主人公の凶器をすりかえたり、岩井(最初に投獄された男)を監獄から出したり、アクセス数を増やすために余計なことをする……というトリックといっていいものかわからない伏線行動をとったぐらい。
小説では最初の暗鬼館に入る前の、主人公がヒロインと出会うシーンだけ読んだんだけど、完全にヒロインが黒幕的存在なのはすぐわかった。むしろそう了解させるようにわかりやすくキャラ設定してたのかもしれないけど、どうなんだろう。「あー、このキャラ、ヒロインなんでしょ? 最後あたりまで生き残るんでしょ?」っていう直観というか仕掛けられた了解というか、アレって結構すごいよね。記号的といえばそうなんだけど、瞬間的にパッとわかっちゃう。もちろんそう了解させた上で裏切ることもできるから、キャラ附けってやっぱ捨てちゃダメなんだね。
ところで暗鬼館でも異質な存在って、ガードだけだよね。他の人間たちは人間というだけで異質ではないし(祥子も黒幕的存在ではあるけど、まだガードほど異質ではない)、そう考えると、組織の人間がもっと作為くわえてれば過激な殺人劇になっただろうに、ただ監視するってのは微妙だな。ゲームを視聴してる客に、純粋に隔離された環境での惨劇を楽しんでもらうってコンセプトなのかもしれないけど。
あとガードが犯人を収容した唯一のシーン(俺は当初、探偵が犯人を決めて監獄に入れるってのを何回も繰り返すと勝手に思い込んでた)、あれもお粗末だよね。収容される側の武田真治の演技も、ガードのアームが全然腕に食い込んでない違和感に負けてたし(;・∀・) あのシーンもさ、独断であろうが犯人に決められてしまえば否応なく”殺される”とか”体を欠損させられる”とか過激にしたほうがよかったんでね? あの独房に連れて行かれるシーン見たとき、「あ、コイツもう死んだな」と思ったもん。でも実際は生きてた。肩すかしだったんだよね。ひょっとしたら作者はそうしたかったけど、祥子がわざと投獄された男を逃がして、オーラスで主人公と戦わせるっていう”最後の見所”をつくるために、ガードに殺させなかったのかもしれない。結局、暗鬼館での惨劇、この物語での悲劇っていうのは、馬鹿馬鹿しくもガードに勝手に殺されたヤツのせいで皆が疑心暗鬼になって殺人を起こし始めた……ってのが全てでしょ? もうちょっとどうにかならなかったのかなあ、と思っちまうよね。疑心暗鬼で殺人が起こるってのは異常なんだけど、やっぱりああいうシチュエーションでは武田真治の演じる岩井のような「ネジのブッ飛んだ狂気」ってのがほしかったんだよね。
最後に主人公が賞金を投げ捨てるシーンあるけど、あれってどうなんだろうね。賞金を貰えば殺人劇をある意味では肯定して死んだ人間を侮辱することになりそうだし、かといって捨てたところ死んだ人間は生き返らないしむしろあの金はただの紙束と化して死んだ人間は完全な犬死にになるってことだし。なんかあの金の入ったバッグ投げ捨てるシーンが、「あの組織に反駁することはできないけど、せめて金ぐらいは捨ててやるッ!」て浅はかさを感じたんだけど、それは演出のせいなんかな? それとも俺が勝手に「このシナリオならその程度だろ」と判断しちゃったんかな?
キャスティングや演技
あいかわらず藤原竜也は大味。舞台俳優だから、という安直な理由も、他の俳優と比べて違いを見れば納得できる。ヒロイン須和名祥子を演じる綾瀬はるか……演技の面でも容姿の面でも、完全に格下キャラの関水美夜を演じる石原さとみに食われてる。逆の配役にしたほうがよかったろうけど、綾瀬はるかに演技力求められないからしかたなかったのかも。
演技という点では、素人の目から見ても、上に挙げた石原さとみと武田真治が際立っていた(巧いかはまた別)。武田真治のラストの発狂シーンは、それなりにブッ飛んでてよかったと思う。若干の白々しさは残ってたけど。
渕佐和子を演じる片平なぎさ(オバサン)と安東吉也を演じる北大路欣也(最後まで生き残るオッサン)は、さすがに両者ともベテラン俳優ということで、主役やヒロインを食うように前に出ることなく、それぞれの役を全うしてる、って感じだった。
橘若菜を演じる平山あや……は、いかんともしがたい。斧で殴り殺して首掻っ切って自殺するシーン、あれもうちょっと撮り方なかったんかな? 斧で殴り殺すカットは、殴られる方の俳優の頭を完全に隠してて悲鳴もないから臨場感ないし、首掻っ切るカットは、ブシャッグチャグチャッていうSEだけで(しかも頚動脈切手死ぬってさ、もっと大量出血せにゃならんから絶命するまでにタイムラグあんじゃね?)なんか嘘っぽい感触。
まとめ
つまるところ、俺の期待値が高すぎたんだろうと思う。ところが予想以上につまらなかった……これがすべて。
最終更新:2011年12月28日 10:34