ヴィクトリア・カノン

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Canon of Mystic London

“この倫敦(ロンドン)に祝福を。家々は未だ眠りより覚めず、あらゆるものが静寂の中に横たわっている”
​───────1802年、W.ワーズワース『ウェストミンスター橋にて』より

概要

 タクティカル祓魔師が日夜、蔓延る“界異(かいい)”から命を賭して護り抜いている“現世(うつしよ)”。
 この貴ぶべき現世(うつしよ)のどこかに……謎に満ち、時が澱み、霧の烟る(ロンドン)があった。

 大英帝国・内務省強行退魔局───通称、“キョータイ”。
 その責務は、時の流れが歪んだこの都の秩序を守ること。
 そして、彼方より秩序を超え来たる崩壊異変───通称“壊異(カイイ)”を祓うこと。

 近代科学の粋を凝らした“砕具(ギア)”を携え、人造絹糸と浄気のチカラで仕立てられた“骸套(コート)”に袖を通せし彼らは、“女王陛下(ヴィクトリア)”の名のもとに霧の都(ロンドン)を疾駆する。

 浄気機関Locomotiveを組み込んだガジェットと科学技術で“沸魔”を遂行せし彼らを、帝都市民は敬意を込めて"ロコモーティブ沸魔師"と呼んだ。

 しかし、この都で壊異を祓うのは彼ら沸魔師だけではない。19世紀末を謎と共に歩む者───怪事件の裏で人知れず闇と戦う怪人(ダークヒーロー)、沸魔師たちが事件に諮る名探偵(ホームズ)たち。

 そして、この都を脅かすのは壊異だけではない。黎明の時代が落とす暗い影へ、立ち込める濃霧と共に溶ける者───屍を統べし高貴なる穢れの血統(ロード)、呪詛犯罪者が教えを乞う犯罪王(ナポレオン)たち。

 謎も、時も、霧も、すべて───この瓦斯(ガス)灯揺らめく倫敦(ロンドン)と共にあるのだ。

世界観について

 タクティカル祓魔師コア世界観における現世のどこか、おそらく幽世に近い場所に、19世紀末ヴィクトリア朝のまま“時が流れなくなった”ロンドンがある、という世界観で創作活動を行うカノンです。

 このヴィクトリア・ロンドンは現世に存在する“現代のイギリスの首都ロンドン”やとは別物で、文化や価値観、都市や人々の様相が19世紀末のまま止まっている、一種の異世界です。
 なぜそうなってしまったのかは不明ですが、少なくとも、あの文字盤が隠された霧烟る時計塔は関係しているかもしれません。

 現在、ヴィクトリア・ロンドンは時が止まっているわけではなく、時がほとんど流れなくなっている状態です。現実での時の流れを川に喩えるなら、渦をまく溜池のようになっているのです。ゆえに、19世紀当時では考えられない科学技術の発展や未知の物質、当時は異国のものだったはずの人物や見識、はてには現世からの来訪者まで、多岐に渡り登場しても構いません。
 もちろん19世紀末らしい雰囲気を壊さない程度に!

 ヴィクトリア・ロンドンの住人たちは基本的にこの異世界からは出られません。しかし、なんらかの壊異に巻き込まれて現世に行ってしまうことは多々あるかと思います。逆もまた然り、現世からやって来てしまうこともあるでしょう。
 互いに転移して帰還の方法を模索する“交換留学”なんてストーリーも展開できるかもしれません。

独自用語

強行退魔局(Keepers of Yonder's Order,Tactical Agency for Investigation/KYOTAI)


 通称『キョータイ』。
 英国内における崩壊異変、通称『壊異(カイイ)』の発生予防と除去を専門とする内務省管轄の独立外局(エージェンシー)。ほかの外局と同じく、女王陛下以外のすべての上位組織の管理・指示系統から外れている。

 壊異(カイイ)と相対しその沸滅(フツメツ)を担う沸魔師(エクソシスト)たちで編成される実働部隊を有し、ロンドン市内の壊異に対処する。

 キョータイはスコットランドヤード(ロンドン警視庁)の巡回管区を参考にした、A~Zまでの管区および、ウェストミンスター区タクティカ・ロードのロコモ・ハウス本部が割り当てられた27の沸魔班で編成される。
 金融街であるザ・シティのみキョータイの管区ではなく、独自の沸魔隊が設置されている。

崩壊異変(Kryptos And Inside Invisible/KAII)

 霧の都と幽世を隔てる秩序を超越してこちら側に顕現せし超常的現象、幽霊、怪物、都市伝説の総称。通称で壊異(カイイ)と呼ばれる。
 タクティカル祓魔師コア用語の界異とほぼ同義。

 物理的な攻撃手段は意味をなさず、浄気をはじめとする特別な砕具や儀式、呪術を用いなければならない。

 その存在規模、脅威度はキョータイにおいてⅠ~Ⅴの号級で区分されるが、まだ壊異に関する研究は体系化されていないため、表記がバラついたり該当号級が見当たらない壊異も多数存在する。

沸魔師(Locomotive Exorcist)

 壊異との直接戦闘に際し、浄気機関を伴う砕具(ギア)を使用して“沸滅(フツメツ)”に従事する者を指す。

 主に強行退魔局の職員を指すが、民間で沸滅を行うものも沸魔師(エクソシスト)と呼ばれる。英国慣習法(コモン・ロー)に明確な表記がないため、ロンドンっ子は好きなように呼ぶのだ。

浄気(スチーム)

 蒸気に似た気体状の物質。ロンドンの霧を忌み火で浄留すると発生する。
 この気体が撒かれた場所は、タクティカル祓魔師の扱う結界と同じく限定的に存在が曖昧になる。つまり、浄気が蔓延している場所では壊異に対して物理的な干渉が可能なため、キョータイが支給する攻性砕具は基本的に浄気を発生させることができる浄気機関を内蔵していることが多い。
 通常の蒸気と同じようにその発生を動力(エネルギー)にしたり、浄気そのものに効果を付与して扱ったりと、様々な応用が効く。
 浄気を纏わせたりくぐらせた物質は一定時間、壊異に対する接触力をもつ。これを繰り返してこの効果を定着させることを修沸という。

煙擬(エンギ)

 人間、または穢血などの知的な壊異によって使役される壊異のこと。

砕具(ギア)(Great Exorcism Artifacts/GEAr)

骸套(コート)


 修沸された人工絹糸で編まれており、着用者を穢れから保護する上着。
 技術途上で制作された代物であるため、現代のタクティカル祓魔師が使用する狩衣(ジャケット)に比べるとその防穢効果は著しく低い。汚れや経年劣化で壊れることはしょっちゅう、そして破損費用の負担は給金から天引きである。
 作戦や任務の危険度に応じて装備クラス(ドレスコード)『重装』(ホワイト・タイ)『軽装』(ブラック・タイ)があり、軽装の際の上着は鍼士服(テイラード)と呼ばれる。季節によってタクティカルに使い分けることもある。

 命を預けるには心もとないが、強行退魔局の沸魔師にとっての標準装備(ユニフォーム)である。

汽缶手釦(カフリンクス)


 浄気を噴き出す汽缶(ボイラー)を小型化し、腕や腰などに装着した砕具。
 注連鋼縄(ワイヤー)のように実体を持って攻撃したり壊異との戦闘に用いられることが出来ないが、即席で浄気を周囲にばらまくことが出来る。

気動吊帯(ブレイシーズ)


 鍼士服や砕具の重量調整、また自身の機動力向上のために装着される浄気仕掛けのサスペンダー。
 イギリスの科学者ケイバーさんが発明した禁域産の素材“ケイバーライト”で織り込まれているらしく、身体や砕具自体を軽くすることが出来る。
 戦術機動(タクティカルマニューバ)という身体操作訓練がなかった時代に辛うじて漕ぎつけた外付けの回避方法である。

形代時計(トゥールビヨン)


 物理法則を超越する効果を宿した懐中時計。時間を遡行させ、所有者の破滅を17回までなかったことにできる。時計の針が逆行するのが破滅回避の合図。
 たとえ新しい形代時計に替えたとしても、一度消費した回数が増えることはない。使用回数が尽きると時計盤の針が動かなくなる。壊れたわけではなく、使用者以外の人物に渡れば再び時計は動き出す。
 特殊かつ複雑な内部構造を持つ精密機器であり、物理的な衝撃に弱く非常に壊れやすいという弱点を持つ
 時計は正常に動作しているので普段使いもできるが、年月日付(カレンダー)のメーターが常に曇って見えづらくなっている。

黒不仗(アンブレラ)


 浄気を纏っていない状態でも壊異に作用する近接武装。コウモリ傘のような見た目。ヴィクトリア・ロンドンには物質化した穢れを忌み火で鋳造する技術が未発達のため、穢れを塗布した薄い金属板を重ね合わせている
 穢れによる悪影響がまだ周知されていないので、骸套(コート)を纏わずにこの砕具(ギア)を使用し続けた結果、のちに障骸と呼ばれる後遺症に苦しめられることとなる沸魔師は非常に多い。普通の傘として使って穢れによる体調不良になることも。
 大英博物館には江戸幕府、明治政府から寄贈されたと思しき黒不浄が何振りか保管されている。

聖釘(ネイル)

 秩序という糸の中にまじった、異変という名の黒い糸を縫い止める留め金。

 打ち込むことで壊異の行動を阻害できる鉄の釘。幾重にも渡る修沸を経ており、存在が曖昧なモノに対して直接攻撃を加えることができる。
 黒不仗(アンブレラ)よりも圧倒的に安全性が高く、たとえ一撃が弱くても聖釘(ネイル)浄気式釘打ち機(ネイルカービン)を主武装に選ぶ沸魔師は多い。
 より大型の聖杭(パイル)も存在し、こちらはより強力な壊異に直接打ち込む際に使用される。

浄気式釘撃ち機(ネイルカービン)


 浄気機関が内蔵された、浄気圧で聖釘(ネイル)を打ち出す射出機。有効な射程距離はかなり短い。
 遠隔砕具は登場してからまだ日が浅く、まだまだ技術は発展途上だが、現在キョータイでは物質化した穢れを使った弾丸を研究中であるそうだ。
 なお、この浄気式釘撃ち機(ネイルカービン)聖釘(ネイル)ごと巨大化させたものが、聖銛(ハープーン)と呼ばれる捕鯨用の大型砕具となる。普通船に乗せ、大型の壊異に対して使うものであり、素手で持ち運ぶのはちょっと正気を疑ってよい。

浄溜弾(フラスコ)


 割ることで周囲に浄気幕を張る煙幕手榴弾。
 フラスコ型のガラス管内部には圧縮された浄気が充満しており、コルク栓越しに多少の加護を帯びさせることもできるので、ちょっとした目眩しや足止めにも使える
 加護出力の高い人間は、低号級の壊異ならばこの砕具のみで沸滅もできるだろう。

名吹(キャラバッシュ)


 パイプ型の砕具。
 管部分のダイヤルをいじれば発生させる煙の種類が調節でき、白い煙ならば使用者を壊異から隠す隠密(ステルス)装置に、黒い煙ならば使用者に壊異を引きつける疑似餌(トラップ)装置となる
 前者の場合は咥え、後者の場合は地面に刺して使用する。間違って黒煙を吸って惨事となるケースが後を絶たないため改善が期待されている。

防穢手巾(ポケットチーフ)


 穢れを抑えるよう修沸されたハンカチのこと。
 証拠品を掴む時や咄嗟の口元の保護、鼻を噛む、淑女(レディ)へ贈るなどの用途に使える。

耐穢血清(イコル)


 穢血(ヴァンパイア)の感染を抑える血清。実のところ効力は完全とは言えない。

穿光手提灯(フラッシュランタン)

 穢鯨油を灯油にしたブルズアイランタンの一種。黒い覆いと集光硝子を活用することで一方向に光を投射することが出来る。
 壊異から採れた穢れを帯びし鯨油が燃料であるため、その保管や運用には穢れによる汚染の可能性が結構ある。またランタンである都合上下手に大きく振ったり土砂降りの雨だと消えてしまうこともよくある。ちょっと不便。

軌道塞祀殿(サイシデン)

 浄気機関で駆動する全身鎧、およびその各部パーツのこと。厳密には80インチ(およそ2m)ほどの全身を覆う浄気仕掛けの駆動鎧の事を指すが、腕部パーツや脚部パーツのみを独立させて装備する場合も一括して軌道塞祀殿(サイシデン)とよばれる。
 壊異から採った穢れた鯨骨やその他禁域性の素材を以て組み上げられた比較的最新の砕具であり、15フィート(およそ4m50cm)程度の長さの修沸された鋼鉄製の棒、枝叉(ブランチ)と矛先に取り付ける槍の穂型の葬杭(スピアヘッド)を装備して戦闘することが多い。
 その重量やパーツの多さなどから1個当たりの製造コストは極めて高く、キョータイ局員でも配備されている者は少ない。逆に大英帝国随一の金融街であるシティ・オブ・ロンドンの督促衛士(キャッチポール)たちは様々な素材・様々なクラシカル祈祷が施された葬杭(スピアヘッド)を複数装備させたうえでこの巨大な浄気鎧を衛士たちに普及させることが出来る程度には予算が多く、キョータイ所属沸魔師の一部からはやっかみも込めて金持ちの道楽とまで言われている。
 なお、未だロコモーティブ発展途上国である極東の島国のKARAKURI(カラクリ)の一種として、その浄気機関技術の未発達さからより大きく肥大化した軌道塞祀殿(サイシデン)が開発されているとも噂されるが、詳細は不明。

無厭火薬(ムエンカヤク)聖銀弾(シルバーバレット)

 英国陸軍の一部部隊で用いられていると噂の新型弾薬。
 第1次ボーア戦争の教訓により開発された砕具の一つであり、粉末化した加護を炸裂させる形式で穢れの影響を抑え、銃口周囲に術式発動を補助する結界を貼ることで魔術と火力の両立を果たした。
 聖銀弾(シルバーバレット)は古くから用いられる伝統的な祭具であり、近年は薬莢や雷管を備えることで長射程と高い命中精度を誇れるようになっている。

刻炭(コクタン)

 禍跡燃霊(かせきねんりょう)の一種。穢れや怨念のようなものが浄気に当てられ、固化したものを忌火と錬金術でコークスにしたもの。形代時計(トゥールビヨン)の動力源の他、浄気機関の動力源などなど様々な用途に用いられる。コークスになっていなかったり忌火での脱穢処理が施されていないなどの手抜き品……もとい、黙炭(モクタン)咳炭(セキタン)と呼ばれる粗悪品もあり、粗雑で安いため下町の工場が使用していることも多い。

禍熱爆薬(ダイナマイト)

 ノルウェー生まれの死の商人アルフレッドが開発した超禍熱爆薬。浄溜弾(フラスコ)でも一部用いられている「霊的反応による過剰な発熱とそれに伴う熱暴走現象」……“禍熱”を、直接周囲丸ごと爆発させる方向で特化させた爆薬である。
 主に土木工事の他、しばしば王党派の暗殺に用いられる。具体的にはロシア皇帝とか。
 ただしその性質上、沸魔師が街中で扱うにはあまりに過剰な被害を及ぼすため、呪詛犯罪者が時たま用いる程度しか目にすることはないだろう。
 アメリカでは蒸気圧を用いた炸薬入り聖杭投射砲――通称“ダイナマイト砲”を開発し、最新鋭巡洋艦に搭載しているらしいとの情報もある。

禁域(ロンドン)(The Mistic London)

 グレーターロンドンの範囲に概ね相当する形で広がるロンドン。霧と蒸気に包まれており、19世紀末ごろの文明レベルとスチームパンクな感じの技術力が広まっている。
 住民は鉄道などで外に出ることが出来るが、語ることの出来る範囲内でしか語られない。その外側は基本的に19世紀ごろの文明であることが多い。同じく既に崩壊したはずのロシア帝国や清国、トランスヴァール共和国および明治政府の日本がロンドンと大英帝国の外側に存在すると言及されることもあり、地理的な意味での「外」というものは基本的にないとみて良いらしい。かといって西暦2020-2040年代という“未来”から人員が紛れ込む事例もあるらしく、詳細は不明。
 ロンドン全体が一種の異界であると現代からは見られているが、その正体がマヨヒガの一種であるのか、イギリスの首都ロンドンの地下に広がる特殊な禁域であるのか、それとも19世紀末に実際に存在したロンドンなのか、いまだに解明されていない。

ロンドン地図


疑式儀術(エニグマ)(Energy of Non-Imprisoned Grammer and Minutes Archetype/ENIGMA)

"非解決事件の文脈および詳細に起因するエネルギー類型"
 霧の都、ロンドンの中では「謎」が儀式的に形を持つ。恐らく現代では「大気中を漂う加護やら霊力やらに焼き付いた残留思念」みたいな感じで解明されているモノであり、物質化の試みも多分無くはない。
 謎は凶器だったり犯人だったり犯行動機だったり犯行手順と様々。これらを核として、「犯行が的確に機能し続ける」という効力を展開する。
 実のところ形を形をもつというか取り憑くのに近く、事件が継続される限りその宿主は大なり小なり強くなる。継続され続けると"未解決事件"が界異として勝手に動き出す。
 ――――浄気機関とは、霧の街ロンドンとは、人間側に利する「界異もヒトも覆い隠してわからなくする」効果とともに、穢血や呪詛犯罪者などに利する「殺人事件という儀式を構築しやすくなった"場"」でもあるのだ。
 儀式として成立してしまった「機能し続ける犯行」をその核となる謎を解き明かすことによって破綻させ、その犯人を絶対の殺人者たらしめる大きなバフを引きはがすことで、沸滅しやすくする。それが探偵たちの戦い方である。

 付帯事項として、キョータイ或いはスコットランドヤードによって――それを敷設している人間は誰も見たことがないが――事件が引き起こされた地域には、その範囲を指定するように地面や床に白線が引かれる

探偵

 沸魔師たちのうち、「謎を紐解く儀式」によって沸滅を果たす者たちの俗称。独自の科学捜査技術や七つ道具(ガジェット)を用い、部分的にキョータイを越える操作能力と持ち前の情報収集及び推理力を駆使して壊異を追い詰める。
 その手法は様々で「犯行方法を収集し、術理として発揮する」「かつて別の事件に用いられた煙擬を確保し使役する」「蒸気機械の砕具を用いる」などなど……だいぶ実戦的な沸魔師よりの探偵もいる。

識法系統(ディテクト)

 探偵(ディテクティブ)と呼ばれる沸魔師たちが無意識的に用いる式法系統。疑似権能或いは概念再定義型に類似する。
 一種の儀式的な様式に則った現象であり、推理を基に「犯人はあなただ」と指名することにより、対象に“弱点を作り出す”事が出来る。その弱点がなんであるかは沸魔師本人の犯人への理解度に依存するため、あまり推理せずに発動した場合「ミカンが食べられない」とか「実は妻に尻に敷かれている」とかの戦闘に全く関係のない弱点が発生することもある。
 沸滅を容易にする、だいぶ重要な儀式であるが――現代ではあまり使われることがない、クラシカルとタクティカルの間の過渡期のすべであった。

穢血の脅威

 19世紀末の大英帝国は、そして霧の都ロンドンは様々な犯罪者や壊異と共に界異/穢血が跳梁跋扈していた時代である。人間に極めて酷似した風体に人間と近い思考力で以て人間社会を真っ向から否定しにかかるヴァンパイアは、当時の祓魔師にとって大きな脅威であった。
 ロンドンにおいては労働組合やギャング、悪徳貴族や新興商人、軍人などに擬態して潜んでいることが多く、人間社会を毀損するため……および、ただ生存し、成長し、同胞を増やすためだけに人を殺すことも多々ある。
 中にはボーア戦争やアフガン戦争、エジプト出征や古くはクリミア戦争・南北戦争などの歴史的事件によって穢血に感染した元人間のヴァンパイアも多く存在するらしく、各々の信念と穢血の本能に従って数多の事件をひきおこしている。
 ロンドンにおける……或いは当時の穢血における最大にして直接的な脅威とは、“貴顕”と呼ばれるロードとその一門である貴族・準貴族位の穢血たちである。

勢力

沸魔師たち

 人類を守る為に戦う沸魔師たち。キョータイを筆頭として英国政府、もしくはロンドン市に所属する者も多いが、「町と市井を守りながら壊異を祓うキョータイ」「シティ・オブ・ロンドンの金融マンしか守らない督促衛士(キャッチポール)」「異端者(プロテスタント)が何人死のうとも穢血を狩る十字軍」など、その組織によって微妙な方針の違いがある。

・内務省強行退魔局(Keepers of Yonder's Order,Tactical Agency for Investigation/KYOTAI)
 通称キョータイ
 大英帝国における沸魔師たちの元締めであり、27の班で構成される。
 初代フッツマー子爵なる人物が発明した様々な砕具で武装しており、色んな所で戦闘したりしているらしい。

名称 管区名 発生した主な事件 管区内の主な名所
本部 ウェストミンスター区タクティカ・ロード N/A キョータイ本部のみ
A班 ホワイトホール管区 1887年女王陛下暗殺未遂事件“ジュビリー・プロット” バッキンガム宮殿
B班 チェルシー管区 ブルースパーティントン設計書事件 チェルシーの高級住宅街
地下鉄サウスケンジントン駅
C班 セント・ジェームズ管区 独身貴族事件 セント・ジェームズ・パーク
サヴィル・ロー通り
D班 メリルボーン管区 ロンドン動物園(リージェンツ・パーク)
E班 ホルボーン管区 ナサニエルの箱事件 大英博物館
ロンドン総合大学
コヴェント・オペラ・ハウス
F班 パディントン管区 三破風館事件 パディントン駅
G班 フィンズベリー管区 高級パブ“ザ・ソールズベリー”
H班 ホワイトチャペル管区 切り裂きジャック事件 ライムハウス中華街
エンパイア・シャトー・ホテル・ロンドン
“ペオニアの園”
I班 管区無し ロンドン中を飛び回る難事件担当部署 特になし
J班 ベスナル・グリーン管区 ロンドン・バーカーズ強盗団事件 スピタルフィールズのスラム街
K班 ボー管区 西インドドック
L班 ランベス管区 ランベスの毒殺魔事件 ウォータールー駅
M班 サザーク管区 バーローの毒殺魔事件 ザ・クラウン・パブハウス
サザーク大聖堂
N班 イズリントン管区 イズリントン刑務所
O班 N/A N/A N/A
P班 キャンバーウェル管区 R・ホワイト社レモネード工場
Q班 N/A N/A N/A
R班 グリニッジ管区 僧坊荘園事件 王立魔術師協会本部
王立造兵廠
S班 ハムステッド管区 サザーランド公カントリーハウス
T班 ハマースミス管区 リリック・ハマースミス劇場
聖ヴィンセント醸造所
U班 テムズ川管区 テムズ川の流域
V班 ワンズワース管区 ワンズワース・パトニー社石炭ガス工場
ヤング・アンド・カンパニーズ社ラム醸造所
ワンズワース刑務所
W班 クラパム管区 六つのナポレオン事件 クラパム別荘地
X班 キルバーン管区
Y班 ハイゲート管区 エンフィールド造兵廠
プリンス・オブ・カーマーゼン近衛連隊司令部
Z班 ヘルシング班 ヴァン・ヘルシング教授の穢血殲滅部署 特になし

・ロンドン商工会議所督促衛士(キャッチポール)
 浄気仕掛けの大鎧……軌道塞祀殿(サイシデン)に身を包んだ借金取立人。シティ・オブ・ロンドン市内における沸魔担当組織であり、主な活動拠点はロンドン塔やロンドン埠頭の近辺。
 元は督促人であり、税や借金の取り立てを名目として呪詛犯罪者や悪徳貴族への強制捜査を行っていたことに由来する。
 ロンドン市の他ロスチャイルド家やロイズ・シンジゲート、様々な銀行や証券会社の支援を受けており、高価な高出力浄気機関と鯨骨製合板、そうして装備者の強靭な肉体で構成された軌道塞祀殿(サイシデン)枝叉(ブランチ)によって武装している。枝叉(ブランチ)の矛先に様々な材質と構造を持つ葬杭(スピアヘッド)をたびたび装着・換装することで、様々な界異と術に対抗できるようにした大金持ち部隊である。
 その金持ち性は、殆ど常に取立従士(ギャンビット)と呼ばれる数人の沸魔師たちを引き連れていることからもわかるだろう。
 その性質上シティ・オブ・ロンドンの内部からあまり出ない代わり、シティ・オブ・ロンドンの中ではキョータイをも凌ぐ権威を持つ。しばしばキョータイと足を蹴りあっているらしい。
・政府諜報機関ケントゥリオ
 イギリス政府内に所在する秘密の諜報部隊。16世紀にウォルシンガム卿によって作られた幾つもの諜報機関の1つであるとされる。19世紀末は未だMI5もMI6も存在しない時期であり、当時政府内には多数の諜報機関が乱立していたと言われる。スコットランドヤードのアイルランド特別部もそのうちの一つであり、百人隊長(ケントゥリオ)と称される組織もその一つである。
 本部所在地はようとして知れないが、シティ・オブ・ロンドン市内の駐英インド帝国高等弁務官事務所にその一部部署が存在するとも言われる。
 主な仕事は諜報活動全般。ロシア帝国の元従軍司祭を沸滅する、軍内部の王党派を拘束する、最新鋭潜水艦の設計図の行方を追う、ドイツ帝国のスパイを出し抜く等の任務をこなしてきた。防諜もやるし諜報もやるし拷問、情報奪取、破壊工作から盗聴までなんでもありな秘密の諜報組織であると推察される。
 10本の指になぞらえた一流のスパイのコードネームが知られており、「キングス・インデックス」「クイーンズ・ミドル」「クイーンズ・リトル」等合計10名のスパイが所属しているらしい。
 主に壊異との戦いよりも情報収集、謎の解決よりも情報工作を行う傾向がある。そのため壊異の特異な術に出し抜かれたり探偵の推理力に後れを取ったりと散々であるが、手先の器用さと祖国と陛下を守る覚悟の強さ、そうしてどこにでも出没する神出鬼没さでは沸魔師にも探偵にも勝る。
・王立魔術師連合協会
 英国のクラシカル祓魔師や魔術師、錬金術師が集まり設立された組織。
 主な生産工場はウーリッジの王立造兵廠に近い場所にあるとされ、英国陸軍ロイヤル・ソールズベリー連隊への関与も示唆される。
 “四元素”と呼ばれる概念を利用した魔術を得意とし、それらと砕具を用いて壊異と戦う他、錬金術を利用して無厭火薬(ムエンカヤク)刻炭(コクタン)、聖銀弾の製造、銃器職人に勝るとも劣らない技術力で銃型の砕具の開発に取り組んでおり、浄気機関の開発を通じて日々新型の開発と改良に心血を注いでいる。
 当時の主流であるクラシカル手法に特化した極めて優秀な魔術使いたちであり、キョータイや督促衛士のアドバイザーになって口を出すことも多い。逆にバチカン等別個の祓魔師からは毛嫌いされる傾向にある。
・聖ディートフリート騎士団ロンドン遠征隊
 ドイツ発祥の騎士修道会。古くから存在する騎士団であり、特筆するべきはフロイラインと呼ばれる修道女騎士たちの存在。フロイラインは「女性として生きることを捨てた、生涯未婚の修道女騎士」であり、麗しさ、高貴さ、そして貞節さを胸に、光剣とフロイラインなソードスタイルを以て戦う者である。
 中でも19世紀末、ドイツ帝国国内での祓魔作戦に一区切りついたためロンドンに派遣された部隊であり、ザ・シティ内のテンプル地区に本部を構えている。
 穢血との対決においては貴重な正面戦力である。
第13次遊動気艦十字軍(クルセイダー)
 フランスやドイツ、はたまたアメリカの技術者たちがこぞって開発を進めていた飛行船。当時最新鋭の科学技術の粋をかき集め、浄気混合浮揚ガスによって飛行する鋼鉄の飛行戦艦(ツェッペリン)により、はるかバチカンから飛来してきた穢血討伐の専門家――クラシカル司祭たちである。
 現在はサザーク大聖堂、およびタワーブリッジを母港としている。
 指導者はジョン枢機卿。英国国教会からカトリックに改宗した穢血討伐および不信仰者狩りの最右翼であるらしい。


怪人(ダークヒーロー)

 大英帝国政府と女王陛下の命令を受けることなく、独自の欲求を以て祓魔に勤しむ者ども。例えば好奇心、例えば愛国心、例えば忠義、例えば闘争心……個々人の欲望に従った結果、たまたまロンドンを守る結果となる結果になることも多い。

・ベイカー(ストリート)221B
 ロンドン北西部に所在するアパート。
 住人の一人が使役するマヨヒガによって内部空間がアリの巣のように拡がっており、建物の外観の何十倍もの広さを持っている。
 この空間には名探偵(ホームズ)たちが各々事務所を開いており、それぞれの個性が象徴された221Bを構えている。ちなみに空間の広さに比例してその瓦斯(ガス)代はとんでもない額のため、家賃は全員がそれぞれ分担して払っているとのこと。
テムズ川流域水上捕鯨猟団『ワイルドハント』
 浄気船『ピークォド号』を駆り、グレーター・ロンドン内テムズ川流域を主な縄張りとする非認可祓魔組織(パイレーツ)。グレーター・ロンドンの水上であればどこにでも現れ寄港するが、母港と定めているのはボー管区の西インドドック”付近であるとされる。
 船長、ジュレス・“キャプテン”エイハブ以下十数名の団員と、何頭かの猟犬型ならびに鴉型界異で構成される小規模な沸魔組織であり、返し付きに改造された聖釘……聖銛(ハープーン)と、それを射出するための浄気式銛撃ち機、修沸された糸で編まれた各種網を主武装とし、水上、水中を行動範囲に含む壊異を獲物に定めている。
 特に4号級界異「エンリケの船、或いはマゼランの白鯨」をはじめとし、度々現れる魚型壊異……総称して“鯨”を仕留めることを第一としている。
 “鯨”から採れる穢鯨油は穿光手提灯(フラッシュランタン)のオイルの他、軌道塞祀殿(サイシデン)の潤滑油、禍熱爆薬(ダイナマイト)の原料になったりするらしい。
・聖ヴィンセント醸造所
 ハムステッドに所在する酒造場。元は修道院であったらしく、聖ヴィンセントとはその時の名残。古くはエリザベス女王の時代からジンやワインを作っている。
 その正体は中世ヨーロッパに存在した「聖赤修道会」の末裔。悪魔からの呪いによって穢れた心臓に作り替えられてしまったクラシカル祓魔師たちであり、自らの血を用いた“血成祓魔術”なる術を用いる。
・大英博物館秘術品展示室(The Blaggish Museum)
 大英博物館の呪具使い達。呪具や壊異を捕獲する蒐集人(コレクター)と呪具を用いる学芸員(キュレーター)に分かれているようであり、他の組織の保持する破具や呪具、はたまた煙擬や沸魔師本人ですらも収蔵品の一部であるとみなして襲ってくる。
・プリンス・オブ・カーマーゼン近衛連隊
 英国陸軍の正規部隊。所在地はエンフィールド。近隣にあるエンフィールド造兵廠の警備とロンドンにおける首都防衛戦闘のために配備された部隊であり、徐々に迫る世界大戦に備えて創設された。
 連隊長のカーマーゼン公○○将軍には後ろ暗い噂も多く、英国政府からも行く末を危惧されている。
・サザーランド公カントリーハウス
 大貴族、サザーランド公によって育て上げられた歴戦の使用人(メイド)たち。
 ロンドン北部に所在する別荘地、通称サザーランド公カントリーハウスを本拠地として、サザーランド公の命令によりさまざまな場所に動くらしい。
・“アザミの烙印”同胞団
 伝統的で牧歌的な生活を営むかたわら、絶対王政への復古を目論む“祓魔師”集団。穏健派のロンドン派、強硬派のエディンバラ派などの内部対立があるようだ。
 構成員は“アザミの烙印”と呼ばれる特別な焼印を施され、身体能力が強化される。
・秘密クラブ『アルセーヌ』
 アルセーヌ・ルパンを名乗りロンドンの夜を駆ける者たちに送られる秘密クラブへの招待状。その行先がこの会員制クラブだという。
・怪盗ギルド『クロイツ』
 怪人(ダークヒーロー)強盗、すなわち怪盗たちの組合(ギルド)
 独自の誇りや規律を持っており、それらのルールと矜持に反する“怪盗らしからぬ”者は罰が与えられるという。

犯罪王(ナポレオン)

 現代では呪詛犯罪者とも伝えられる、ギャングやマフィアや秘密結社や反政府勢力の総称。
 厳密には“犯罪界のナポレオン”という呼ばれ方らしいが、略して――そうして大英帝国を脅かした彼のコルシカ生まれになぞらえて、ナポレオンと呼ばれる。


・エンパイア・シャトー・ホテル・ロンドン
 ロンドンはホワイトチャペル近辺に所在するホテル。厳密にはタワーブリッジ前店であり、イーストエンドとの境目付近にある。その立地上英国紳士向けとはいえず、むしろ後ろ暗い者たちが公然と出入りすることが多い。
 支配人は中国人移民の胡莽杵(フー・マンチュー)という毒使い。チャイニーズ・センニンであるともキョンシーであるとも少女であるとも老爺であるとも言われる。
・ペオニアの園
 中世の時代、魔女狩りから逃れた“魔女”……魔術師達の寄り集まった密輸組織。
 ホワイトチャペルの一角に盗品窟(フラッシュ・ハウス)を構え、あらゆる犯罪者から密輸品、盗難品を受け取ってそれらの販売を行い莫大な利益を獲得している。
 取り扱い商品はアヘンから霊薬、違法砕具、密輸入された金や銀、時には情報などなど。なんでも販売する何でも屋。

知的壊異

 ヒトに混ざり、知恵を持ち、人類社会を毀損する壊異たち。
 人類に対して極めて敵対的であり、おぞましい術を息でもするかのように用いる。極めて厳重に備えよう。

貴顕たる“穢血”の血統
 穢血と呼ばれる界異のなかでも最上位に位置する「ロード」の1体、大家令“貴顕”の一門。十分な式法を保持する貴族のみから構成され、最低三号級以上の存在等級と死霊学術と呼ばれる彼らにとっての“生体科学”を用いるつわものぞろい。更に狡猾にも知恵を巡らせ武器を保持することも多々あり、疑式儀術(エニグマ)によるバフを加えることで存在等級以上にだいぶ強さに拍車がかかっている。
 推定崇神級界異である“貴顕”卿のほか、五号級界異に相当する4人の公爵、凡そ四号級界異に相当する15人の侯爵……と続いており、その総数は海外でちまちま活動している個体たちを含めるとだいぶ多い。とはいえ「すべての人間は血袋以下の存在であり、穢血であっても貴族しか同胞と認めない」という極端にもほどがある対人間強硬姿勢から人間の数多の祓魔組織・祓魔師たちとは敵対関係にある。
 特にトランシルヴァニアにおいて全くの生身で伯爵“竜頭”を殺したヴァン・ヘルシング教授や同じく伯爵“朱華”を殺したヴォルテンベルグ卿、自らの執念深さと知能のみで男爵“寡夫”を追い詰めたオーブリー氏などがキョータイのZ班……通称“血死隊”に所属していることから、Z班とは見つけ次第殺しあう仲となっている。
 貴族のみならずアフガニスタンやエジプトなど戦地で見つけた見込みのありそうな兵士や将軍を穢血に変えたり、死体に血をしみこませて準貴族の穢血に作り替えたりと、使い捨ての手駒程度にジェントリや平民階級を使うことは多い。本当に備えよう。
・ロンディニウム・オートマタ
 霧の町、ロンドンのいたるところで見られる、己の「役割」を続ける機械系壊異達の総称。通称「オートマタ」。
 彼らの戦闘力は個体ごとにバラバラで、五号級相当の機体もいれば、一号級程のモノも存在し、一部は人語を理解し言葉を発する個体も存在する。
 特に重要であるとされる“霧煙る時計台”の他、大英博物館や大英図書館、果てはホワイトチャペルの下水道まで様々なところにいる。たくさんいる。
 かといって人に融和的であるかというとそうではなく、その「役割」に従って人を殺害することも多々あるらしい。備えよう。

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権利情報

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代表権利者 浜池、キタミ
作品権利者 浜池、キタミ、イワシコ農相、妖識、堕魅闇666世、Ⅵ号鷲型、ケント
コンタクト先 浜池キタミイワシコ農相妖識堕魅闇666世Ⅵ号鷲型ケント
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