欲望交錯-白紙の明日へ-◆z9JH9su20Q

PREV:欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火-




      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 建物も、道も。
 街灯も、草木も。
 何一つ残らず、焼け焦げ荒廃した大地だけが広がる、かつてキバの世界だった場所。
 その中心に一人、膝を着いたままの男がいた。
 他でもない――この世界において唯一無事である彼こそ、この地に大破壊を齎した惨禍が本来獲物としていた張本人。
 仮面ライダーディケイド、門矢士だった。

『なぁおい、ディケイド。フェイリスの奴は……』
 ディケイドの手にしていたのは、デンオウベルトとケータロス。
 その中に潜んでいるイマジン達の声が、今はこの二つのアイテムの所有者となったディケイドにも届いていた。
「……連れて来れなかった。死ぬことのないミラーワールドには、死体を持ち込むことができないようだな」
 あの最終兵器による破壊が、解き放たれるその寸前。ディケイドはフェイリスの遺体ごとイマジンズを回収後、破壊されたライドベンダーのサイドミラーからイカロスが存在しているのとは別の世界――ミラーワールド内へと避難し、その猛威を躱していた。
 イカロスの攻撃もミラーワールドまで追っては来れず、ディケイドはあの最終兵器による被害を飛沫を浴びるほども受けることなく、こうして命を拾っていたのだ。

『そんな……ネコちゃん、やっぱり死んじゃったの!?』
 だがフェイリスは、やはり息を引き取っていた。心臓を貫かれて即死、だったのだろう。
 その死体だけはミラーワールドへ運び込むことができず、あの炎の顎に捕らわれ、炭も残さず掻き消えた。

『無理もない。あんな怪我したら、人間や助かりっこないで』
 そんな現実を嫌だと叫ぶリュウタロスに、キンタロスが悲しみを滲ませつつも諭すようにそう告げる。
『ちっくしょーがっ!! 許せねぇあの手羽先女! フェイリスはあいつのことを、最後までダチって思ってたんだぞ!?』
『先輩と同じ意見だなんて癪だけど……僕もいくら女の子とは言え、イカロスちゃんのことはちょっと許せそうにないかな……』
 義憤と憎悪を滲ませて、モモタロスとウラタロスが続ける。
『こうなりゃ仇討ちだ! おまえら、皆であの手羽先女ぶっ倒すぞ!』
『ふむ……良かろう。その進言、聞き届けてやろう』
『手羽先!? おまえ寝てたんじゃ……どういう風の吹き回しだ』
『まず、常から不敬だがよりにもよってあの女と同じような呼び方をするのはやめろお供その2』
『まだ降格させられてたのかよって違うそうじゃねぇ! おまえどういうつもりなんだよ!?』
『私はフェイリスという娘の、その心意気に感心したまで。それを裏切り蛮行に及んだあのイカロスという女、見過ごすは我が誇りが許せんのだ』
『お、おぉし見直したぜ手羽先! よーしディケイド、おまえ次にあいつと会ったら俺達で変身して……』
「断る」

 勝手に盛り上がっていたイマジンズの提案を一刀両断し、ディケイドは首を振った。
『何でだよ! おまえあの女をほっとくつもりか!?』
「そんなわけあるか。あいつは次に見つけたら……俺が潰す」
 デイパックにデンオウベルトとケータロスを押し込みながら、ディケイドは続ける。
「だからおまえらは首を突っ込むな……これ以上、俺の戦いに」
 さすがにミラーワールドに置いていくわけには行かないが、いつまでも彼らと同行する気にもなれない。

 いや、そもそも――これ以上誰とも、行動を共にしようとは思えなかった。
「結局、俺は破壊者だ……仲間を作ったって、そいつらまで破壊してしまう」

 ラウラは無事だと信じたいが、それでも負う必要のない傷を心に与えてしまった。
 そしてフェイリスは、ライダー大戦の世界で共に戦ってくれたワタルやアスムのように死んでしまった。
 いや……ディケイドが使命さえ完遂すればまだ救える少年二人と違い、フェイリスの死はもう、覆ることはない。
 例え殺し合いの最中だろうと、世界の破壊者としての使命を捨てるわけには行かない。だがその使命がある限り、ディケイドの周りは敵だらけだ。

 そんな旅に付き合わせては、その誰かはいつか、必要もないのに命を散らすことになる――それでは、士が使命を受け入れた意味がなくなってしまう。
 例え、士自身が使命を終える前に死んでしまえば全てが水泡に帰すとしても、それだけは認められない。

 世界の再生には、全ての仮面ライダーを破壊し終えたディケイド自身が最後に破壊される必要がある。
 そうして士の命と引き換えに、ディケイドが破壊してきた者達を含めた全ての世界とその住人達は復活し、滅びの現象からも解き放たれる。
 この使命を完遂すれば、最終的に犠牲になるのはたったの一人。仮面ライダーディケイド――門矢士だけで済むというのに。

 その過程で無関係な者達まで危険に晒し、死なせてしまっては、自身の覚悟は滑稽なものでしかなくなってしまうでないか。

 こんな事情を、他の仮面ライダー達に伝えられるはずがない。誰かが不条理な犠牲になる世界を認めず戦う彼らはきっと、士も含めて世界を救う方法を模索しようとするに違いない。
 だが、最後のチャンスだった旅を終えた今、そんな悠長に構えている時間はない。だから彼らに歩み寄りの余地を感じさせ、徒に使命の遂行を妨げぬよう――迎え撃つしかない悪魔と思われ、最期まで悪魔と信じられたまま討たれることだけが、この先にディケイドが辿るたった一つの道のはずなのだ。

 なのに……

(おまえのせいだぞ……ユウスケ)
 昔のままの――旅の途中から連れて来られた彼のせいで、あの日々を思い出してしまったから。

 仲間恋しさに、ここまでの戦いでディケイドはずっと余計な迷いを、甘さを、躊躇いを抱えてしまっていた。

 ようやくそのことを、フェイリスという出てはならないはずだった犠牲を目にして自覚できた。
 だから立ち上がったディケイドは、もう一度。己に架した使命を宣誓する。

「仮面ライダーは全て破壊する……そして奴らの分も、俺がここにいる全ての悪を叩き潰す……!」

 そのためのメダルは、二体のグリードを破壊したことで確実に貯蓄できた。例え出口が近くにないミラーワールドからの脱出までに相当量を消費したところで、まだ十分お釣りが残るほどに。
 ならばいよいよ、ディケイドに徒党を組む必要などどこにもない。セルメダルさえ潤沢ならば、結局のところ今のディケイドに破壊できない者など存在しないのだから。
 イカロスだって、あそこで自分が甘さを捨て切れてさえいれば、フェイリスを殺される前にトドメを刺せていたのだ。

 だからこれからは、一人で戦う。世界の再生も、バトルロワイアルの粉砕も、全て一人で成し遂げる。
 この先二度と、甘さを生む仲間などを作りはしない。

(……そうだ。バトロワイアルの最中だろうが、時間はない。共闘の必要などない……ここにいるライダーは全て、ここで破壊する!)
 オーズを、アクセルを、龍騎を、そして、クウガを。
 一人たりとも逃しはしない。
 それは、あの天使もだ。

 ……イカロスに感じているのが、ただ人命を奪う脅威への怒りでも、フェイリスを殺された憎しみだけでもないことに、士自身は目を背けている。
 最後には全てチャラになるからと、それしか手段がないからと。私欲と使命の差はあれど、今誰かを理不尽に傷つけることを正当化している彼女に対する、同族嫌悪もあるのだということを。
 悪を討つのに、そんな私情を挟むまいという、深層心理が蓋をする。
 そして自身の行いが他者からどう見えるのかを理解して、またも躊躇ってしまうことのないように、敢えてそこから目を逸らす。

(こいつらは……次に適当な奴にあったら、渡しとくか)

 デイパックの中に背負う、デンオウベルトに意識を配る。

 仲間は作らないと言ったが、会場に戻ってすぐ野晒にするというのも危険だ。破壊する必要のない仮面ライダーは殺し合いを打破しようという者達の心強い味方となることだろうし、せめて誰かに預けられるまでは連れて行くしかない……と。覚悟を完了しながらもまだほんの少しだけ、引っ掛かりを残してしまった世界の破壊者が、辺り一帯を吹き飛ばされたミラーワールドからの出口を探し、歩き出した瞬間だった。
 閉じた世界から切り離され、望まぬ世界に取り残された女の悲鳴を、彼の耳が拾ったのは。



【一日目 真夜中】
【C-6 ミラーワールド内キャッスルドラン付近跡地】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】苛立ち、疲労(大)、ダメージ(大)、左肩に傷跡、フェイリスへの罪悪感、覚悟完了、仮面ライダーディケイド(激情態)に変身中、ミラーワールド内に侵入中
【首輪】120枚(消費中):350枚(250枚)
【コア】ゾウ、シャチ、ウナギ、タコ、スーパータカ
【装備】ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】バースバスター@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1~8(士+ユウスケ+ウヴァ+ノブナガ+ノブヒコ)、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)、アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド、デンオウベルト&ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
 基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
 0.こいつ(アビスの変身者)どうした……?
 1.全てのコアメダルを奪い取り、全てのグリードを破壊してルール上ゲームを破壊する。
 2.「仮面ライダー」とグリード含む殺し合いに乗った参加者は全て破壊する。
 3.仲間はもう作らない(被害者を保護しないわけではないが、過度な同行は絶対しない)。イマジンズは適当な参加者に出会い次第預ける。
 4.ミラーワールドからの出口を探す。
 5.イカロスは次に出会えば必ず仕留める。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ~キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティック、バーナビーは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
アポロガイストは再生怪人だと思っています。
※既に破壊した仮面ライダーを再度破壊する意味はないと考えています。少なくとも電王は破壊する意味なしと判断しました。
※仮面ライダーバース、仮面ライダープロトバースは殺し合いの中で”破壊”したと考えています。
※()内のメダル枚数はウヴァのATM内のメダルです。士が使うことができるかどうかは不明です。
※ディケイドにコアメダルを破壊できる力があることを知りました。
※もう仲間は作らないという対象の中に、海東大樹を含むか否かは後続の書き手さんにお任せします。
※現在、インビジブル、FARディケイド(ディメンションブラスト)、FARファイズ(クリムゾンスマッシュ)、クロックアップ、タイム、イリュージョン、FARキバ(ドッガ・サンダースラップ)、FAR響鬼(音撃打 豪火連舞)、FAR電王(デンライダーキック)、FARクウガ(強化マイティキック)、FARアギト(ライダーキック)、FARディケイド(ディメンションキック)、KR響鬼、ブラスト、マッハのカードを使用済みのため、一度変身を解除するまでこれらのカードは再使用できません。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依していました。


桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】健康 、FBとメールが繋がらないことへの極度の混乱と恐怖、仮面ライダーアビスに変身中、ミラーワールド内に侵入中
【首輪】75枚:0枚(消費中)
【装備】アビスのカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、桐生萌郁の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0~1(確認済)
【思考・状況】
 基本:FBの命令に従う。
 0.FBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFB……
【備考】
※第8話 Dメール送信前からの参戦です。
※FBの命令を実行するとメダルが増えていきます。
※ミラーワールド内ではFBにメールが届かず、また届きません。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 火野映司は目を覚ましたのは、直前までの戦いの気配などと縁遠い、静寂の中でのことだった。

「目ぇ、覚めたのか」
「……鏑木さん」
 ベンダーモードのライドベンダーに背を預け、座り込んでいる虎徹に声を掛けられた映司は、まずは辺りの様子を見渡して、続いて既視感を覚えた。
「ここは……」
「地図だとクスクシエってところ、みたいだが……また酷く壊されてんな。何か布団はあったから、おまえら休ませるのにちょうど良いかって思ったんだけど」
「キャッスルドランの辺りほどじゃ、ないでしょうけどね……」
 映司の声が、本人も気づかないまま消沈する。馴染み深い景色の手酷く荒らされた様を見て平気でいられるほど、今の映司に余裕はなかった。
 そうした気持ちに釣られ、視線までもが下がった時、ふと虎徹の言葉の重要な意味を流してしまっていたことに気づく。
「おまえ……ら?」

 そうして改めて、今度は低めに巡らせた視界の中に――離れた位置に敷かれた布団の上に、三人目の参加者の姿を見つけ出し――思わず驚愕の声を発した。
「――っ、この娘は!?」
 そこで深い眠りに落ちていたのは――先程自分達を散々蹂躙してくれたあのエンジェロイド、カオスだった。

「そいつはな……伊達の奴から託されたんだ」
「伊達って……伊達さんから!?」
 虎徹の口から出た予想外の名とその内容に、映司は思わず鸚鵡返しした。

 そんな映司に、虎徹は何があったのかを説明してくれた。

 相変わらず頼りになる伊達の活躍を聞いた映司の表情を見取ってか、虎徹は降参とばかりに肩を竦める。
「ったく、すげー奴だぜあいつはさ。こいつのことまで助けてやりたいだなんて……俺もそう思わなくちゃ、いけなかったのにな」
「何を言ってるんですか。実際こうして、鏑木さんも助けてるんじゃありませんか」
「そりゃー言われてからだし……それに多分、最初から俺じゃなくてあいつだったら、全部上手くやってたんじゃねーかってぐらい、その……」
 どこかしょげた様子の虎徹に苦笑しながら、映司は首を振る。
「そんなことないですよ。伊達さんは凄い人だけど、鏑木さんだって立派な人です」
「……ほんとにぃ?」
「はい。だって鏑木さん、伊達さんでもできなかったことをやってみせたんですから」
「……何のことだよ?」
「俺の暴走、止めてくれたじゃないですか」
 心底からの感謝と尊敬の念を込めて、映司は頭を下げる。

「あの時は、本当にありがとうございました。おかげで俺、まだここで死んじゃいけないんだって思い出せましたから」
「……そうか。いや、あそこじゃなくても死んだらダメだけどな」
 照れるような虎徹の何気ない一言に、映司はそうですね、と当たり障りのない返答をする。
 ……これ以上、虎徹にまで余計な心配は掛けない方が良いだろう、と判断してだ。

「……けどまぁ、伊達や俺がどう思っているからってだ。おまえまで無理して付き合う必要はねぇぞ、映司」
 そんなことを考えていた映司に、虎徹が声に硬さを戻して告げる。
「俺だって、何にも感じてないわけじゃない。……もっと付き合いの長かったおまえなら、なおさらだろ」
 そんな虎徹の言葉に、映司は思わず一瞬、口を噤む。

 恨む気持ちがないといえば、嘘になる。

 智樹もまどかも、いいやあの二人だけではなく、誰も。誰一人、死んで良いわけがなかった。
 カオスの手にかかったのは、あの二人だけではないだろう。命こそ奪われずに済んでも、映司や虎徹のように暴行を受け、マミのようにその心を傷つけられた者もいるはずだ。
 そのことに対する割り切りなど、簡単にできるはずがない。

 だが。

「そうもいきませんよ。たった一度の失敗も許さないような正義なんて認めたくないって……そう言ったのは、俺ですから」
 口に出した欲望(ユメ)を、諦めるな。
 そう訴える虎徹の言葉は、今のカオスの姿を見たことで一層強く、映司へと働きかけている。
「伊達さんや鏑木さんの言うように。この娘が間違いを知って、やり直せる可能性があるとしたら……俺はその、助けにならなくちゃいけないんです。
 ……まどかちゃんも、この子を見捨ててはいませんでしたしね」

 まどかの最期の言葉と、彼女を“食べて”しまったカオスの変化。まどかの記憶がわからないという、その嘆き。
 そこからカオスが、「ごめんなさい」と口にするまで至ったというのなら。
 無邪気故に歪んでしまっていた彼女に過ちを悟らせたのは、きっと――まどかなのだという予感が、映司にはあった。

 そうだとしたら、せめて。
 あの子に手を届けることができなかった罪滅ぼしには、決してなりはしないとしても。
 気づかせた後、きっとまどかが担うはずだった、己の罪に悔やみ、苦しむカオスを見守る役目ぐらいは――まどかに救われ、カオスにこれが正しいのかと尋ねられた自分が、代わりに成し遂げなくてはならないはずだ。
 そんな義務感が、映司の中に生じていた。

 ――ある意味では、欲望が生んだ呪いのように。

「まどかだけじゃない……智樹の奴も、そんな感じだった」
 そんな映司に同調するように、虎徹が映司の間に合わなかった少年の最期を伝える。
「こいつのことを叱って、そんなの間違ってるぞ! って……もう悪いことしないように、教えようとしていたんだ。多分、こいつに刺された後にもな」
「じゃあ……なおさらですね」

 たとえどんなに憎かろうが、勝手に苦しんでおけと見捨てるわけには行かない。
 映司の心情がどうであれ、映司がそうなって欲しいと願った明日は――もっと、寛容な物であるはずだ。
 ましてやそれを、あの心優しい少年と少女も望んだのなら。
 この先、どうしても言葉が届かない、グリードと同じような怪物でしかないと証明されるまでは――カオスにも平等に、やり直す機会は与えられるべきだ。

(本当は、おまえにもそうすべきなのかな……アンク
 不意に映司は、長くを共に過ごした彼のことを思い出す。
 彼が考えを改めてくれるなら、映司だって戦いたくはない。
 だが、コアメダルを全て砕き、バトルロワイアルそのものをノーゲームとするためには……アンクのコアもやはり、砕くしかないのだろうか。
 不意に生じた、今のこの場には相応しくない迷いを振り切って、映司は虎徹に向き直った。

「そのためにも、改めてよろしくお願いします。鏑木さん」
「おう。とはいっても、誰がこの件を預かるのかはまぁ、この娘本人が起きてからだろうけどな。いくらごめんなさいっつってるからって、まだ俺達が勝手に盛り上がっているだけかもしれないし……ってああクソ、バーナビー達と落ち合う場所決めてなかったなぁ……」
「集合場所といえば……マミちゃんは先に、ニンフちゃんのところに向かったんですよね?」
 そういえば智樹と同じぐらいに、虎徹がそこに直行したがっていたことを思い出した。
 そんな映司の抱いた疑問を察したように、虎徹は力なく苦笑した。

「なのにこんなところで止まっているのは、まぁ……さすがに俺もちょっと、休憩欲しくてな……」
 らしくない発言だが、おそらく傷の治りが早まっている映司以上に今の虎徹は重傷だろう。そこに加えて気絶者二名も抱えていては、さすがのワイルドタイガーもニンフの下まで強行軍とは行かなかったか。
「とはいっても、マミが先に着いたたらなら治療してくれているはずだ。それならニンフも多分、大丈夫なはず……」
 そんな予想を裏付けるかのように、一瞬気を失いそうになりながらも、虎徹は気合で踏み止まる。
「眠ってくれてても、良いんですよ?」
「馬鹿言え。そんなことできる状況かっての」
 ヒーローとしての矜持を見せる虎徹の言い分に、映司は少しばかり苦笑しながら立ち上がる。

「少し、休んでてください。俺はちょっと、その子の服になるもの探してきますから」
 クスクシエなら、着る物には困らないだろうと……さすがにエンジェロイドとはいえ、女の子が裸でいるなんていけないだろうと考えた映司は、適当に服を見繕う。
 予備をいくつか自身のデイパックに入れた後、残った一組を手に戻る。勝手に着させるのもさすがに憚られたから、掛け布団代わりに彼女の上に一先ず一枚置いた。
「……ん」
 その時少しだけカオスの表情が和らいだのは、直接は夜風に晒されることがなくなったからか。
 羨ましいな、と……徐々に人間から離れ、その感覚を消失して行っている身である映司は、自分より余程人間のような反応を見せたカオスへと、複雑な心境で微笑みを浮かべる。

 ――どんなに悪い人だってやり直すことができるって、私はそう信じたいんです

 ふと、ジェイク・マルチネスの処遇を巡った言い争いで、一人の少女が漏らした言葉を思い出す。
 結局ジェイクは何も省みることのないまま、その願いを踏み躙って逝ったが。あの子がやり直して欲しいと願ったこの娘(カオス)には、叶うことならちゃんとやり直して欲しい、と……全く状況は変わっていないはずだというのに。映司は自分の立場や義務感とは別の、密かな望みをその時、抱いた。



 ――キャッスルドランの方角に、太陽よりも大きな火の玉が出現したのは、その直後のことであった。



【一日目 真夜中】
【D-5 クスクシエ跡地】


【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、精神疲労(大)、まどか達への罪悪感、カオスへの複雑な心境、伊達達への心配
【首輪】70枚:0枚
【コア】タカ、トラ、バッタ、ゴリラ、プテラ、トリケラ、ティラノ 、プテラ(放送まで使用不能)、ティラノ(放送まで使用不能)
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、カオス用の替えの服(クスクシエから回収したものです。種類、枚数は後続の書き手さんにお任せします)
【思考・状況】
 基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
 0.あの方角は……!
 1.虎徹、カオスと同行する。
 2.カオスがやり直せるのか見守りたい。
 3.ある程度回復したらD-4エリアに向かい、マミとニンフに合流したい。
 4.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
 5.もしもアンクが現れたら、やはり倒さなければならない……?
 6.もしもまた暴走したら……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっており、オーズドライバーが映司以外でも使用可能になっています。
※暴走中の記憶は微かに残っています。
※暴走(一回目)中の詳しい話を聞きましたが、その顛末全てを知る者が残っていなかっため、不明瞭な部分が残っています。二回目については詳細を全て虎徹から把握しました。
※真木清人が時間の流れに介入できることを知りました。
※「ガラと魔女の結界がここの形成に関わっているかもしれない」と考えています。
※世界観の齟齬を若干ながら感じました。
※詳細名簿を一通り見ましたが、全ての情報を覚えているかは不明です。


鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極限)、背中に切傷(応急処置済み)、カオスへの複雑の心境、バーナビー達への心配
【首輪】15枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(両腕部ガントレット以外脱落)、天の鎖@Fate/Zero
【道具】基本支給品×3、不明支給品0~2 、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW、P220@Steins;Gate、カリーナの不明支給品(1~3)、切嗣の不明支給品(武器はない)(1~3)、雁夜の不明支給品(0~2)
【思考・状況】
 基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
 0. バーナビー……!
 1.映司、カオスと同行する。
 2.ある程度回復したらD-4エリアに向かい、マミとニンフに合流したい。
 3.できればシュテルンビルトに向かい、スーツを交換する。
 4.イカロスを探し出して説得したいが………
 5.他のヒーローを探す。
 6.マスターの偽物と金髪の女(セシリア)と赤毛の少女(X)を警戒する。
 7.カオスがやり直せるか見守る。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」「そらのおとしもの」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
  ……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』
※ヒーロースーツは大破し、両腕のガントレット部分以外全て脱落しています。
※ジェイクの支給品は虎徹がまとめて回収しましたが、独り占めしようとしたわけではありません。
※虎徹の不明支給品の一つは 『虚栄の兜(イビルフルフェイス)』でしたが、使用されたことで消滅しました。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 エンジェロイドは、夢を見ない。
 彼女達にはそもそも、眠るという機能が搭載されていない。

 なのに、彼女がこうして眠っているのは――第二世代である彼女が、第一世代にとって禁忌であった夢への干渉能力を与えられていたからなのか、それとも何人もの“人間”を吸収しその性質を取り込んで自己進化して来てからなのか、あるいはその両方か。正確なところはわからない。

 わからないままではあるが、カオスは今、夢を見ていた。

 まるで罪の意識から逃れるかのように、彼女の望んだ景色を。
 それは柔らかく暖かい笑顔を湛えた、あの人のいる世界。
 正しい「愛」を知るために辿る、鹿目まどかの記憶の中の、志筑仁美との思い出。

 まどかと、仁美と――カオスの知らない、青い髪のお友達と、三人で仲睦まじく過ごす毎日。
 ただ一緒にご飯を食べて、一緒に遊んで、お喋りして――たったそれだけで、とても幸せな日々。
 遠くから見つめているだけで、温かな気持ちになることができた。

 愛しい人ともう一度、夢の中だけでも逢うことができるということ。

 それが、自身の姉である天使がどれほど求めた救済であるのかも知らないままに、カオスは奇蹟のような思い出を眺めていた。

 だけど今はまだ、ただ見守るだけ。
 きっとそこは、カオスの踏み込んではいけない世界。
 きちんと正しく「愛」を学ぶまでは、まだ傍に行ってはだめな場所だ。

 でないとまた、“愛”だと思って相手に嫌がられることしてしまうかもしれない。
 もし、そうなってしまったらこの幸せを、損ねてしまうから。
 だからカオスはただひたすら、その思い出の観客となるに留めていた。

 しかし、そんなカオスの気遣いとは裏腹に。
 前触れもなく、宝物であるべき光景に、瑕疵が走る。

 途端に、その美しさは劣化する。仁美の顔は何かに喰い破られたようにして隠れ、見えなくなる。
 これでは、わからない。カオスの知らない志筑仁美も、カオスの勘違いしていた、本当の「愛」も。

(もっと、見せて!)

 そう願っても、カオスの中の“まどか”は、それ以上鮮明な記憶を読み取らせてくれない。

 現在の自身の電算能力だけでは、これ以上取り込んだ記憶を解析することができないのだということをカオスは理解した。

 そうして消沈し、夢の中だけに向けていた意識を緩めた時に……ふと、どこからか聞き覚えのある名前が齎された。

 ――ニンフ。

 電子戦用エンジェロイドタイプβ(ベータ)。
 それに特化した彼女の電算能力は、万全であれば第二世代であるカオスをも上回る。

(ニンフおねぇさまに、手伝って貰えたら……)

 でも。
 カオスはかつてニンフに、とても痛くなることをしてしまった。
 痛いのは、多くの人にとっては「愛」ではなくて嫌なことなのだということは、今のカオスにも理解できている。
 そんなことをしたカオスのお願いを、おねぇさまは聞いてくれるだろうか?

 聞いてくれないかもしれない、という。そんな心配が鎌首をもたげる。
 ニンフだけではない。あのおにいちゃんもおじさんも、おねぇちゃんも、皆、皆。許してはくれないのではないか。そんな不安が蘇る。
 仁美おねぇちゃんも、勘違いしてお友達に酷いことをした悪い子のことを、嫌いになるんじゃないか――と。そんな恐怖が蘇る。

 ――そんなの、嫌だ。
 嫌だから、カオスはちゃんと、今度こそ見つけないといけない。仁美の説いた、本当の「愛」を。

 そのために必要なことを、他に頼める相手もいないのだ。
 もしこの先、出会うことがあれば――許して貰えなくたって、頑張ってお願いしてみよう。
 きちんと、これまでのことを謝って。
 他の皆もそうだけれど、せめて……ニンフおねぇさまにだけでも。



 そのお願いすべき相手がもう、この世にいないのだということも知らないで。
 何も知らず、だからこそ識ることを欲する天使はまだ、微睡みの中にいた。



【一日目 真夜中】
【D-5 クスクシエ跡地】


【カオス@そらのおとしもの】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】精神疲労(極大)、“火野”への憎しみ(無自覚・極大)、ダメージ(小)、頬に青痣、罪悪感(大)、成長中、就寝中、全裸(クスクシエにあった服を被せられている)
【首輪】100枚:90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
 基本:「愛」を知りたい
 1.ニンフおねぇさまに力を貸して欲しい、けれど……
 2.“火野”のおじさんに、もう一度会ったら……
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレア、凰鈴音、甲龍、ジェイク・マルチネス、桜井智樹、鹿目まどかを吸収しました。
※現在までに吸収した能力「天候操作、超加速、甲龍の装備、ジェイクのバリア&読心能力」
※鹿目まどかのソウルジェムは取り込んでいないため、彼女の魔法少女としての能力は身につけていません。また双天牙月を失いました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。現在は17歳前後の身長にまで成長しています。
※憎しみという感情を理解していません。
※智樹、及びまどかを吸収したことで世間一般的な道徳心が芽生える素地ができましたが、それがどの程度影響するかは後続の書き手さんにお任せします。
※まどかの記憶を吸収しましたが、「Pandora」の機能が低下していたこと、死体の損壊が酷かったことから断片的にしか取り込めておらず、また詳細は意識しなければ読み込めません。
※読心能力で聞き取った心の声と、実際に口に出した声の区別があまりついていません。



【全体備考】
※青陣営が消滅しました。現在リーダー代行は現れていません。
※キャッスルドラン@仮面ライダーディケイドが死亡しました。
※『APOLLON』により、キバの世界全体が焦土になりました。巻き込まれた伊達明フェイリス・ニャンニャンの死体、智樹の支給品だったエロ本等は完全に消滅しています。また、該当エリア内のミラーワールドでも施設が消失するなどの影響が出ています。
カザリが放っていたタカカンドロイド&バッタカンドロイド達は少なくともイカロスより後にキバの世界に到着しましたが、『APOLLON』発射時にキバの世界にいたカンドロイドは全滅していると考えられます。具体的に何機残っているのかは後続の書き手さんにお任せします。
※キバの世界跡地のどこかにコアメダル(サイ、ウナギ、タコ、スーパートラの四枚)があります。
※マスカレイドメモリ@仮面ライダーW、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)@Fate/Zero、ナスカメモリ@仮面ライダーWは破壊されました。
※ミルク缶@仮面ライダーOOO、グロック拳銃(14/15)@Fate/Zero、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、紅椿@インフィニット・ストラトス、キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ(支給品)、メズールのランダム支給品が破壊されているのか、どこかに残っているのかは後続の書き手さんにお任せします。
※キャッスルドランにいた監視用インキュベーターの安否は後続の書き手さんにお任せします。
※シナプスカード(智樹の車窓)はキバの世界跡地付近にあると思われますが、具体的に会場内のどこにあるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※会場を覆う結界が確認されました。結界は少なくとも内側から制限下最大出力の超々高熱体圧縮対艦砲『HephaistosⅡ』による攻撃を受けても影響がありません。
※ミラーワールド内に侵入可能な仮面ライダーのミラーワールドにおける活動制限時間は、DCD出典である本ロワ内では特に決まっていませんが、ミラーワールド内だと加速度的にメダルを消費し、変身状態でなければ脱出はできないものと思われます。
※結界に防がれた『HephaistosⅡ』、及び『APOLLON』の影響は会場の広い範囲で観測できたと思いますが、具体的には後続の書き手さんにお任せ致します。
※ディケイドによって、シャチのコアメダル(メズールの感情コア)が破壊されました。青のコアメダルは残り8枚です。



 かくして、一つの長い戦いは幕を閉じた。

 数多の思惑と事情が交錯した結果、都合六名の参加者が脱落し、二つの陣営が消滅し、残された者達に多大な影を残した一連の激闘も、バトルロワイアル全体から見れば所詮、たった一つのエピソードに過ぎない。
 それでも一つの区切りとなったこの戦いは、来たるべき終わりの到来をまた一歩、確かに早めたことだろう。

 ――――しかし、いつか訪れることが確定していても。

 まだその形は、定まっていない。

 いつか訪れる、終末/未来/明日の形を本当に決定づけるものは――斯くあって欲しいと望む、たった一つの想いだけ。

 それを抱く誰かが選択される、その最後の瞬間まで――戦いは、続いて行く。

 明日はまだ、白紙(ブランク)のまま。



【伊達明@仮面ライダーOOO 死亡】
【メズール@仮面ライダーOOO 消滅】
【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate 死亡】



122:さらばアポロガイスト!男の涙は一度だけ!! 投下順 124:再【りとらい】
120:This Illusion 時系列順
119:今俺にできること 後藤慎太郎 127:正義失格者
117:UNSURE PROMISE バーナビー・ブルックスJr.
伊達明 GAME OVER
ユーリ・ペトロフ 134:執着
114:時差!! 園咲冴子
火野映司 130:明日のパンツと再起と差し伸べる手(前編)
鏑木・T・虎徹
カオス
メズール GAME OVER
桐生萌郁 129:被制約性のアイソレーション
106:シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者(前編) 門矢士
フェイリス・ニャンニャン GAME OVER
ラウラ・ボーデヴィッヒ 136:誤解と道化と身中の虫
118:呪いをかけられた天使 イカロス 133:遭遇!!


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年02月17日 23:50