| 生年月日 |
宇宙新暦500年4月25日 |
| 年齢 |
55アストラ歳(星年齢) 共立公暦1000年時点 |
| 出生地 |
星間文明統一機構 ロフィルナ行政管理区 |
| 人種 |
ロフィルナ人 |
| 所属 |
ロフィルナ連邦共同体 |
| 主な階級 |
右位連邦公爵(王大公) |
概要
ウラジス・エルク・ヴィ・セトルラーム=レミソルトインフリー(真名:ウラジス・セトルラーム)は、
セトルラーム共立連邦において司法を総覧する三元君主の一人である。
故ルドラス大公の第一夫人にあたり、旧セトルラーム公家の当主として、レミソルトインフリー家の一角を占めている。
自己紹介
ようこそ、お越しくださいました。わたくしはウラジス・セトルラーム。共立連邦にて王大公の位を賜り、三元君主の一席で法をお預かりしております。司法と申しましても、難しいことは何もございませんのよ。正しいものを正しい場所に置いて、あとは静かに待つだけ。物事というのは、急かさずにおけば、たいてい自分から本当のお顔を見せてくれますもの。……あら、肩に力が入っていらっしゃるのね。どうぞ楽になさって。ここでは、どなたも裁かれたりいたしませんわ。少なくとも、今日のところは。……ふふ、冗談ですのよ。私ね、たまにこういう物言いをしてしまって、周りの者によく叱られるの。悪い癖よね。さ、お掛けになって。お飲み物は温めたお水でよろしくて? 香りの強いものは、せっかくのお話の邪魔になりますでしょう。わたくし、お客様のお声は、一言たりとも聞き漏らしたくない性分ですの
来歴
ウラジスの公的な足跡は、宇宙新暦1206年、
母星イドゥニアで
星間文明統一機構の支配に抗った武装蜂起から始まる。赤軍の航空部隊を率いた彼女は、管区宇宙港を強襲して発電所を押さえ、得た電力で東半球を一時的に制圧した。やがて
移民船団が星系を離れると、第一夫人として船団の中枢に身を置き、長い航行の間に夫の度重なる不貞と軽視を味わっている。愛情と等しい深さの憎悪は、この時代に根を張った。夫婦の溝を抱えたまま建国から時が流れ、同2050年代の財閥間の主導権争いにおいて、ウラジスは主戦派を束ねて台頭した。勢力の伸長は守旧派を率いる夫の解任を招き、ルドラスは間もなく謀殺されたが、下手人の名は今日まで伏せられている。恋敵アリウスの排除を望む
ヴァンス・フリートンが接近したのは、この頃である。同2150年以降、大統領が責任共立の名目でアリウスに出征を促すと、主戦派の長として後押しに回り、
新秩序世界大戦の前線に向かう恋敵を見送った。同4500年の終戦後、救国の英雄となったアリウスは、同4895年に筆頭公爵の座に就いた。後ろ盾であった大統領が求心力を失うなか、ウラジスは新体制を受け入れる譲歩を強いられている。共立公暦983年、夫を巡る確執にアリウスと区切りをつけ、夫の生誕祭の日に生体プラントから
娘を迎えた。後年、娘が
パルディステルでの奉公に旅立つと、これを事実上の亡命と断じ、
文明共立機構に引き渡しを求めた。ウラジスは今日も、打倒レミソルトと次期元首の座を見据えた策を練り直している。
人物
ウラジスの人柄の骨格を成すのは、隠し立てを嫌う執念と、自らに課した法の規律である。公の場では柔和な笑みと落ち着いた声色を保ち、司法の長に相応しい穏やかな威を纏う一方、内側では自身にも他者にも同じ水準の厳格さを求め続ける。美貌と知性を交渉の手札に数える割り切りも持ち合わせており、甘い言葉で相手の構えを解いた直後に、冷えた視線で要求を突きつける緩急を使い分ける。旧セトルラーム公家は、アリウスの属するレミソルト公家と同じく、古代レミソルト王家に源流を持つ。ウラジスは、この系譜を己の正統の根拠に据えており、王家の本流を継ぐ者は自分であるとの自負が、恋敵の前で踏みとどまる覇気の芯を成してきた。敵意を胸の奥に隠す真似を嫌い、宿敵と同じ席に着けば、飾り気を排した言葉で正面から挑みかかる。受け流された翌日にも、同じ熱量で議場の席に着く粘り強さが、彼女の真骨頂といえる。右位連邦公爵として、
セトルラーム共立連邦の司法府人事に承認を与える役目にあり、最高司法長官をはじめとする任命書類は一枚ずつ自ら読み通す。夫の死についても、司法公の矜持から記録を手元に置き続けてきた。疑わしい者の名は幾つも胸にあるものの、告発は署名入りの証拠が揃うまで、宿敵が相手であっても控えている。公務を離れた夜には、移民船団の航路を記した古い航法図を書斎に広げ、亡夫と過ごした航行の日々を指先で辿っている。
人間関係
ルドラスの第二夫人であり、ウラジスが生涯の宿敵と定めた相手である。顔を合わせるたびに辛辣な言葉を正面からぶつけているが、アリウスの側は涼しい顔で聞き流すため、勝負は毎回ウラジスの持ち越しで幕を閉じる。共立公暦983年の和睦は、娘の誕生のために交わした一時の休戦であり、敵意そのものは今も手元に残している。前線に送り出した恋敵が英雄として帰還した日の記憶は、敗北の実感と分かち難く結びついており、だからこそ相手の力量を見誤る愚だけは自らに固く禁じてきた。公爵会議では同じ王家の源流を持つ者として席を並べ、半歩の譲歩も拒む構えで議事に臨む。旧暦から肩を並べてきた当主として、ウラジスは宿敵の胆力と采配を誰より正確に測っており、測り終えたうえで、なお正面に立ち続ける。罵声の応酬に紛れて、宿敵の采配の巧拙を具体的に論評する一言が混じる点も、二人の間柄の特徴である。アリウスが議事を一言で収めた日には、翌日の会議に反論の資料を揃えて現れ、論点を一つずつ蒸し返していく。
左位連邦公爵として立法を預かる、三元君主の同輩である。宇宙新暦4005年の革命を経て連邦に移ったセレーナは、建国の時代を知るウラジスから見れば年若い当主にあたり、二人の間には穏やかな協力関係が保たれてきた。共同大権の行使には三元君主の一致を要するため、
アリウスと意見の分かれる局面では、セレーナの一票の行方が議事の帰趨を決める。ウラジスは、この事情を誰より弁えており、立法公の判断に口を挟む真似を慎みながら、議場の外では折に触れて労いの言葉を掛ける。セレーナは連邦エルク家の始祖としてルドラスを敬っており、生前の姿を知るウラジスに昔語りを求めることがある。ウラジスは求めに応じて建国期の思い出を語るものの、披露される場面は、いずれも夫の美点を伝えるものに限られる。若い同輩の胸に宿る始祖の像を、ウラジスは丁寧に整えたまま手渡し続けている。
ウラジスが公家の将来を託した一人娘である。幼い頃から政治学をはじめとする厳しい教育を課し、成績を収めるたびに相応の褒美で報いてきた。稽古で負けた娘が泣いた夜には、叱責を一通り並べた後、翌朝の稽古相手を自ら務めたこともある。愛情の表し方が褒美に偏る母の不器用さは、娘の側にも見透かされている。娘がアリウスの助言を受け、レミソルトの名のもとに見聞を広める道を選んだことは、セトルラーム公家に背を向けた選択として、ウラジスの胸に最も深い傷を残した。生活費の支給を打ち切った処置には、当主の面子と母の未練が同居しており、どちらが勝っているかは本人も測りかねている。娘が生まれた日、ウラジスは公家の系譜書に自ら筆を執って名を書き加え、セトルラームの名を先頭に据えた綴りを選んだ。娘が家を離れた今も、系譜書は当時の綴りのまま保管されている。娘が自力で暮らしを立てていると聞いた日には、強情な気性に自分の若い頃を重ね、侍従の前でだけ口元を緩めた。
宇宙新暦2050年代から利害を共にしてきた古い盟友であり、今日のウラジスにとっては宿敵を揺さぶるための手駒である。平和の時代に入って気力の萎えた大統領を密談の席に呼び、アリウスの足元を崩す策を夜ごと吹き込んでいるものの、成果の上がる日は今も遠い。策が空振りに終わるたび、矛先は実行役である大統領の手際に向かい、次の密談は叱責から幕を開ける。旧暦の財閥争いを共に潜った経緯から、大統領の判断の癖をウラジスは熟知しており、策を授ける際には相手が迷いやすい箇所を先回りして指示書に書き込む。指示書の余白は年を追うごとに狭まり、近年の束は本文より注釈のほうが長い。聞き役を務める大統領の顔色は回を追うごとに青ざめていき、ウラジスはこの怯えを、宿敵の圧に晒された盟友の消耗と受け取って労いの言葉を掛ける。夫の死の真相は、大統領の胸の内に今も伏せられたままである。露見した後の報復を恐れる大統領は沈黙を守り続け、その事情を知る宿敵からは弱みとしてからかわれる立場にある。
旧暦の赤軍で同じ蜂起を経験した古参同士であり、現在は内政を預かる連邦首相として、ウラジスと公務の上で向き合う。ウラジスが航空部隊を率いていた頃、ゾレイモスは医学技官の道を歩み始めた若輩で、当時の上下関係の名残は今も言葉の端々に表れる。傷病兵の治療に駆け回っていた若き日の呼び名で、ウラジスは今も時折首相を呼び止め、そのたびに相手の眉間に皺を刻ませている。司法府の人事は、行政評議会の助言と連邦総議会の推薦を経て右位連邦公爵の承認に至るため、首相の側が整えた書類の束は、最終的にウラジスの机に積まれていく。書類の不備を巡って差し戻しと再提出を繰り返すうち、二人の間には書面だけで互いの機嫌を読み取る呼吸が生まれた。大統領を焚きつける夜が続くと、翌朝には後始末に追われる首相から抗議の書簡が届くものの、ウラジスは丁寧な返書を送るだけで方針を据え置く。大統領の退場を待つ首相と、大統領を使い続けたいウラジスとの間では、思惑の向きが真っ向から食い違っている。
娘を侍従官として預かる、
文明共立機構の常任最高議長である。ウラジスが娘の引き渡しを求めた際、メレザは大切な私用人であるとしてこれを拒み、母娘の距離は国際機関の長を挟んで固定された。司法公として引き渡しの法的根拠を自ら精査した結果、強制の手立てを欠くことを誰より先に悟ったのはウラジス自身であった。以降は正面から争う手段を改め、礼を尽くした抗議の書簡を定期的に送り届けている。メレザは旧暦の和解交渉の頃からアリウスと親しく、ウラジスにとっては宿敵の側に立つ人物に数えられるものの、書簡の宛名には常任最高議長の正式な肩書を毎回漏れなく記している。もっとも、書簡の結びには決まって娘の体調や勤めぶりを尋ねる一文が添えられており、抗議の体裁を借りた近況の照会が実態に近い。メレザからの返書には毎回、娘の働きを伝える短い報告が同封され、ウラジスはそれを受け取るたびに抗議の文面を書き直す。互いの立場を保ったまま、二人の文通は娘を介した奇妙な礼儀の応酬として続いている。
ルドラスとアリウスの間に生まれた娘であり、父の意向によって大統領に嫁ぎ、現在は
ユミル・イドゥアム連合帝国の中央貴族として暮らす。宿敵の血を引く相手でありながら、ウラジスはヨバンナを夫の忘れ形見として遇し、顔を合わせる場では公家の儀礼を尽くす。ヨバンナの目元に夫の面影を見るたび、言葉に詰まる瞬間があることを、側近だけが知っている。アリウスに向けた罵声を誰の前でも口にするウラジスも、ヨバンナの同席する場に限っては宿敵の名を伏せ、話題を公務に絞って接する。大統領を焚きつける密談の相手がヨバンナの夫であることも自覚しており、帝国から届く彼女の書簡には形式を整えた返礼のみを送っている。庭で花を育てるヨバンナの暮らしぶりを伝え聞いて以来、返礼には旧公家の領地で採れた種子が添えられるようになり、文面が形式に終始する一方で、種子の銘柄だけは毎回選び直されている。夫を巡る因縁を娘の世代に背負わせることを、ウラジスは自らの品位にかけて戒めてきた。
第2代連邦筆頭公爵を務めた古参の王族であり、書類の上ではウラジスの縁戚にあたる。ルドラスが謀殺された後、空いた玉座を継いだのはアルバスであったが、老公が身を挺して守ろうとしたのは、宿敵である孫娘の側であった。
大統領の圧力による退位を経て、停戦の人質に志願したアルバスは
ユミル・イドゥアム連合帝国に渡り、今日では帝国貴族として気ままな暮らしを送っている。帝国で奔放な振る舞いを重ねる老公について、ウラジスは公の場では論評を控え、旧筆頭公爵に相応しい儀礼をもって接する。式典で顔を合わせれば、老公は決まって軽口と誘いの言葉を投げかけるが、ウラジスは型の整い切った作法の挨拶で応じ、相手が二の句を探すうちに次の来賓に向き直る。老公の側は、この対応を楽しんでいる節があり、翌年の式典でも同じ口上を繰り返している。宿敵の祖父という立場を、どう値踏みしているのか、答えはウラジス本人の胸の内にのみ仕舞われている。
第3代連邦筆頭公爵を務めた
アリウスの実父であり、宇宙新暦3000年頃の即位から同4895年の退位まで、ウラジスは主戦派の長として、この老公の玉座と向き合ってきた。勢力間の衝突を避ける調整に心を砕いたゾラテスは、ウラジスの献策を最後まで聞き届け、論点を整理したうえで、穏やかな言葉とともに保留の扱いに回していった。怒声をぶつければ静かに受け止められ、皮肉を向ければ一つの論点として丁寧に拾い直されるため、在位中の老公を相手に、ウラジスは口論に持ち込む機会を最後まで掴み損ねている。娘に玉座を譲った老公の決断について、ウラジスは今日に至るまで一切の言及を避けてきた。公務を退いた老公が古文書の収集に時間を割いていると聞いて以来、ウラジスは旧セトルラーム公家の書庫から写本を選び、年に一度だけ贈り届けている。受け取った老公は、写本の欄外に自らの読み解きを書き添えて送り返し、ウラジスは書き込みの入った頁を書庫の正本に転記させる。宿敵の父の筆跡は、こうして旧公家の書庫に少しずつ増えている。
大統領の次女であり、父親の失言や政策を公然と揶揄する奔放さで知られる娘である。ウラジスにとっては直接の利害から遠い相手であるものの、父に真正面から牙を剥く気骨には、公の場で見かけるたびに目を留めている。密談の席で大統領が次女の振る舞いを嘆くと、ウラジスは娘の育て方について長々と講釈を始め、父親としての至らなさを一つずつ指摘していく。講釈の締めには決まって次女の言い分にも一理あると付け加えるため、大統領の嘆きは毎回行き場を塞がれる。もっとも、自分の娘が家を離れた件を棚に上げた講釈であることは、聞かされる大統領の側が誰より承知している。父に逆らう他家の娘を頼もしく眺めながら、自分に背を向けた娘に向けた怒りを抱え続ける矛盾について、ウラジス本人は今日まで沈黙を通している。公式行事で顔を合わせた際には、次女の側から砕けた調子の挨拶を受け、ウラジスは型どおりの微笑で応じたうえで、同行の大統領に冷えた視線を送り、その晩の密談を予定より早く切り上げている。
戦闘能力
ウラジスの個人戦闘は、
令咏術の心スクリプトと冬スクリプトを短い間隔で切り替えながら、白兵の距離で相手を詰めていく戦法を軸とする。令咏術の言語コードは一度に一つに限られ、切り替えには別のホログラムシートを構築する手順が要るため、多くの術者は、この間隙を隙として抱えている。ウラジスは口頭による書き込みを定型の言い回しに固めて反復し、切り替えに要する詠唱の長さを自身の限度まで削り込んだ。音を介して相手の認識の拍をずらす心スクリプトで初動を乱し、生じた遅れに冬スクリプトの水流を重ねて手足を絡め取るのが、彼女の基本の運びである。拘束の後は、腰に帯びた細身の短剣で決着をつける。白兵の間合いに対する感覚は、旧暦の蜂起で培われた。魔導法具に頼る同時実行を嫌い、自らの切り替えの手順だけで戦い抜く姿勢を、今日まで貫いている。冬スクリプトの水流は大気中の水分を媒介とするため、乾いた環境では拘束の持続が短くなり、その場合は冬の防壁による守りに比重を移す。心スクリプトの作用は精神の領域で完結するため、精神の作用に耐性を持つ相手には撹乱を受け流されやすい。最大の弱点は本人の気性にあり、宿敵の名を出して挑発されると詠唱の定型が崩れ、切り替えの間隙が常人並みに広がる。
語録
「三元君主の間に上下はございませんの。筆頭公爵に頭を下げよと定めた条文があるのでしたら、どうぞお示しになって。司法府の書庫は夜通し開けておきますわ。……ええ、あなたが見つけるまで、ずっと」
儀礼の場でアリウスへの一礼を促した式部官に。式部官は書庫に案内されたまま、式典の終わりまで戻らなかった。
「推薦状はお見事ですこと。けれど、この方の判決文、三度拝読しても結論に至る道筋が辿れませんの。法の番人の椅子に座るのでしたら、まず文章ひとつで人の息の根を止められるくらいには、なっていただかないと」
判事の任命書類を前に。評議員に慣例を説かれて署名した後も、当の判事には添削の書簡が届き続けた。
「相変わらずお綺麗な勝ち方ですこと、アリウス様。泥の一滴も跳ねていらっしゃらない。……私ね、あなたのそういうところが、本当に、心の底から、大っ嫌い」
大戦の戦勝記念式典で、祝辞を終えたアリウスに歩み寄って。式典の写真には、二人が並んで微笑む姿だけが残された。
「レミソルトの御名を掲げるのでしたら、どうぞ源流まで遡ってから名乗りなさいまし。辿り着いた岩に、どの家の名が先に刻まれているか。わたくし、その場でお待ちしておりますわ」
叙勲の祝宴で、レミソルト公家の栄光を讃えた若い貴族に。祝宴の空気は一瞬で凍りついた。
「判決は、腹の立っている時に書いてはなりません。怒りが冷めてから読み返して、それでも同じ結論でしたら、そのときは迷わず署名なさい。……迷わず、ですわよ」
新任の判事に贈った訓示。贈った当人は、同じ日にアリウス宛ての抗議文を三度書き直している。
「あの子の槍、柄が指一本ぶん長すぎますわね。……どなたに申し上げるのかって? 言えるわけないでしょ、私のところから出て行った娘なのよ。……失礼。今のは聞かなかったことにしてくださる?」
娘の稽古の記録映像を見返しながら、侍従に。翌月、差出人を伏せた槍の柄が預け先の屋敷に届いた。
「嫉妬深い、と。ええ、存じておりますわ。自覚のある嫉妬は、よく研いだ刃と同じですの。みっともないのは、ご自分の刃で指を切っていることにさえ気づかない方ですわね。……ちょうど、今のあなたのように」
連邦評議員から面と向かって性分を指摘されて。指摘した評議員は、翌月の会議で議事録係に回された。
「議場の騒ぎ? 船団の配給所で、空腹の群れに列を守らせた夜を思えば、ずいぶんお行儀がよろしいこと。あの頃、列を乱した方のお顔は一人残らず覚えておりましたのよ。……ふふ、今も覚えておりますけれど」
首長会議の紛糾を終えて退出する際、気遣う書記官に。
「本日の敗北、通し番号はいくつになりますかしら。……そう。では日付と、あの方の口元の角度まで添えて綴じておいてちょうだい。いつか勝った日の判決文に、すべて前例として引用いたしますから」
アリウスに議論を一言で収められた直後、書記官に命じて。記録の束は、既に書棚の一段を埋めている。
エピソード
- アリウスとの対面に備え、数日かけて口上を推敲した。当日の返答は短い相槌一つで終わり、行き場を失った口上の全文は、同じ夜に呼び出された大統領が明け方まで聞かされている。
- 旧公家の家紋を刺繍した外套を新調したところ、職人が意匠の源流を辿りすぎてレミソルト公家の紋に近づけてしまった。仕立て直しの指示書は十枚に及び、完成した外套の家紋は以前より一回り大きくなっている。
- 公務の移動中、専用機の操縦士の操作に口を出し続けた末、操縦席を譲らせて自ら着陸させた。管制局には始末書が届き、署名欄に記されていたのはウラジス本人の名であった。
- 密談で使う応接室の椅子を、大統領が座ると軋む古い型に替えさせた。軋む音で嘘を見抜けると周囲に語っていたが、最初の晩から自分の椅子の音のほうが大きく響き、一月で元の椅子に戻されている。
- 公爵会議でアリウスより先に着席するため、開場前の早朝から議場入りする習慣を続けた。警備員と二人きりで過ごす朝が重なり、気づけば彼の子供たちの誕生日まで諳んじていた。
- 娘の好物を料理人に作らせ、毎年の生誕祭の朝に食卓に並べ続けている。当人が家を離れた後も同じ献立が続き、残った皿は厨房の見習いたちのささやかな楽しみになった。
- 連邦評議員の一人が会議に遅刻した際、扉の前で待ち構えて遅延の理由を口頭で弁論させた。弁論の出来が良かったため不問とされ、以後その評議員は遅刻の言い訳を事前に練習するようになった。
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最終更新:2025年02月25日 18:39