概要
共立公暦1001年、
第三次ロフィルナ革命の初期、
セトルラーム共立連邦と
共立機構国際平和維持軍からなる連合軍は、中南洋のエリッツ島沖で「中南洋エリッツ沖海戦」を開始した。この戦いは、ロフィルナ王国ティラスト派(レルナルト・ヴィ・コックス政権)の海軍が支配する海上補給路を断ち、連合軍の南中央大陸(ロフィルナ本土)への補給線を確保する戦略的要衝を巡るものだった。エリッツ島は
サンリクト公国が統治する中立の要塞で、王党派として
アリウス公王に忠誠を誓い、ティラスト派を敵視。サンリクトはティラスト派に港湾を一切提供せず、連合軍のロフィルナ領内での介入に不信感を抱き、領海内で哨戒艇による警告、通信攪乱、散発的な妨害を行った。ティラスト派の巨大潜水艦「ザルヴェス級」は、ステルス性能と破壊力で連合軍を脅かし、
ジェルビア星間条約同盟の艦艇支援を受けた連合軍は、深海戦と外洋戦を織り交ぜた苛烈な戦闘を展開。戦いはティラスト派の補給網を壊滅寸前に追い込み、連合軍の補給線を一時的に安定させたが、ザルヴェス級の逃亡とサンリクト公国の牽制により、完全な制海権は確保できず、革命の海洋戦に新たな火種を残した。
経緯
戦いの背景と準備
共立公暦1001年3月、
ヴェイルクラム作戦で南部港湾都市(ルナヴェイラ、ヴェリナクール)を制圧した連合軍は、ティラスト派の海上補給路を断つ次の段階として、中南洋のエリッツ島沖に照準を定めた。エリッツ島はサンリクト公国が統治する熱帯珊瑚礁に囲まれた島で、深海港と要塞化された沿岸砲台がティラスト派の侵入を阻む王党派の牙城だった。しかし、島沖の広大な外洋は、ティラスト派海軍が補給艦や潜水艦を展開する戦略的回廊であり、南中央大陸への弾薬、燃料、レアメタルの輸送を支えていた。連合軍にとって、島沖の制海権確保はティラスト派の補給を絶ち、ヴェイルクラム戦線の後方支援(兵器、食料、医療品)を安定させる生命線だった。セトルラームはフリーネア海軍の精鋭艦隊を動員。艦隊は巡洋艦18隻、駆逐艦35隻、対潜哨戒艇「テルサス型」90隻、対潜無人機「フェルナス型」120機で構成され、最新のソナー艦「ヴェルティス型」4隻が探知の中核を担った。
ヴァンス・フリートン大統領は「ティラスト派の海軍を根絶し、革命の流れを我々の手に」と演説し、士気を鼓舞。ジェルビア星間条約同盟は航空艦5隻、戦闘機「ゼルクロス型」80機、補給艦18隻を投入し、航空優勢と長距離輸送を確保。共立機構国際平和維持軍は監視艦8隻と海兵隊5000人を派遣し、封鎖線の維持とサンリクト公国との外交的折衝を担当した。
ティラスト派海軍は、
レルナルト・ヴィ・コックス大宰相の指揮下、巨大潜水艦「ザルヴェス級」3隻(「ザルヴェス・クロム」「ザルヴェス・ネブラ」「ザルヴェス・ヴェルタ」)を展開。全長300メートル、乗員700名、魚雷120基、対艦ミサイル「ヴェルザード」50基を搭載したザルヴェス級は、ヴァルヘラ州のレアメタル製装甲とステルス塗装で、深海潜航時の探知をほぼ不可能にした。支援戦力として通常潜水艦18隻、補給艦12隻、武装商船25隻を配備し、補給艦団は偽装コンテナで弾薬やレアメタルを隠匿。コックスは「ザルヴェス級は我々の意志の鉄槌だ。連合軍を海の底に叩き落とせ」と命じ、補給路の死守を最優先とした。サンリクト公国は王党派としてティラスト派を敵視し、領海への侵入を対艦ミサイル「セラヴィス」を備えた沿岸砲台で阻止。連合軍に対しては「ロフィルナの内戦に外部勢力が介入するのは許せぬ」との立場から、領海内での戦闘を厳禁。サンリクト海軍(高速艇120隻、哨戒艇70隻)は領海監視を強化し、連合軍艦艇が近づくと警告射撃、通信攪乱、電磁パルスで牽制。ティラスト派の補給艦が領海に逃げ込もうとした場合は即座に攻撃し、王党派の決意を示した。島の住民は外部勢力への反感を強め、港湾労働者が「連合軍もティラスト派もロフィルナを食い物にする」と抗議の旗を掲げた。
開戦と初戦
共立公暦1001年4月28日、中南洋エリッツ沖海戦が火蓋を切った。連合軍はジェルビア同盟の航空艦からゼルクロス型戦闘機を一斉発進させ、ティラスト派の補給艦団を急襲。初日の空爆で武装商船10隻を撃沈し、補給艦3隻を炎上させた。夜空を切り裂くミサイルの尾光と、海面を照らす爆発の閃光が戦場の幕開けを告げた。しかし、ザルヴェス級は深海5000メートルに潜伏し、フェルナス型無人機のソナーを撹乱。フリーネア海軍は島沖70キロメートルに封鎖線を構築し、テルサス型哨戒艇とヴェルティス型ソナー艦で対潜網を展開。だが、珊瑚礁の海底地形が音波を歪め、熱帯低気圧の強風がゼルクロス型の飛行を不安定にした。ティラスト派はザルヴェス・クロムが深夜にヴェルザードミサイルを連射。連合軍の駆逐艦4隻が爆炎に包まれ、2隻が沈没、2隻が航行不能に。艦橋から噴き上がる火柱と、乗員が救命ボートに殺到する混乱が、封鎖線の脆弱さを露呈した。
サンリクト公国は連合軍の封鎖線が領海5キロメートルに迫ると、高速艇を繰り出し、レーザー妨害でフェルナス型無人機のセンサーを一時無効化。沿岸砲台からセラヴィスミサイルの警告射撃を行い、戦闘を外洋に押し留めた。ティラスト派の補給艦が領海に逃げ込もうとした瞬間、サンリクトの砲台が正確に命中。艦は黒煙を上げて傾き、乗員が海に投げ出された。サンリクトは「我々はティラスト派の敵だ。だが連合軍がロフィルナの海を支配するなら黙ってはいない」と両軍に通告し、中立の線引きを鮮明にした。連合軍のフリーネア海軍副提督は「サンリクトの妨害は戦術的裏切りだ」と憤ったが、平和維持軍の調整役は「領海侵犯は革命全体の正当性を損なう」と抑え、内部の軋轢が浮き彫りになった。
4月下旬、連合軍は対潜戦を強化。ヴェルティス型ソナー艦がザルヴェス・ヴェルタの微弱な航跡を捕捉し、テルサス型哨戒艇が爆雷を投下。爆発の衝撃波が海底を揺らし、ヴェルタの魚雷発射管3基が破損した。ティラスト派は通常潜水艦を囮に展開し、連合軍の哨戒艇8隻を魚雷で沈没させた。戦闘の混乱の中、サンリクトの哨戒艇が連合軍の補給艇に誤って接近。電磁パルスを浴びせ、フェルナス型無人機6機が制御を失い海面に激突した。連合軍の艦長は「サンリクトはティラスト派と裏で通じている」と激怒したが、平和維持軍が調査を申し出ても、サンリクトは「我々の海を守っただけだ」と一蹴。連合軍内部では、セトルラームが「サンリクトに圧力をかけろ」と主張し、平和維持軍が「外交的解決を」と反論し、作戦会議は紛糾した。
中盤の深海戦
5月、戦闘は深海戦の泥沼に突入。ティラスト派のザルヴェス・クロムが深夜の奇襲を仕掛け、ジェルビア同盟の輸送艦4隻と燃料タンカー2隻をヴェルザードで撃沈。海面を覆う油が炎上し、連合軍の補給艦団は航路を変更せざるを得なかった。南中央大陸への弾薬輸送が25%減少し、ヴェイルクラム戦線の装甲部隊が燃料不足で進軍を停止。フリーネア海軍の提督は「ザルヴェス級を仕留めねば本土が危うい」と焦り、セトルラームは増援を急遽投入。対潜駆逐艦12隻、ヴェルティス型ソナー艦3隻、フェルナス型無人機60機が追加され、封鎖線は島沖120キロメートルまで拡大した。ジェルビア同盟の航空艦はゼルクロス型の哨戒を倍増したが、熱帯嵐の突風で5機が墜落。連合軍内部では、セトルラームの「総攻撃」方針に対し、平和維持軍が「民間船の誤爆リスク」を警告。作戦会議で、フリーネア海軍の若手指揮官が「平和維持軍の慎重さは我々を縛る鎖だ」と叫び、平和維持軍代表が「無謀な攻撃は連合の名を汚す」と応酬し、机を叩く音が響いた。平和維持軍の監視艦はティラスト派の武装商船を拿捕し、弾薬400トンとレアメタル50トンを押収したが、ザルヴェス級の位置特定には失敗。サンリクト公国は封鎖線拡大に反発し、高速艇を領海境界に集結。連合軍の通信網に攪乱信号を送り、フェルナス型無人機12機が一時オフラインに。サンリクトの声明は冷徹だった。「王党派としてティラスト派を討つ。だが連合軍がロフィルナの海を我が物にするなら、黙って見過ごさぬ」。連合軍の補給艇が領海近くでサンリクトの高速艇に体当たりされ、医療コンテナ3基が海中に沈んだ。セトルラームは報復を主張したが、平和維持軍が「サンリクトとの全面衝突は革命を台無しにする」と制止。会議室の空気は凍りつき、連合軍の亀裂が深まった。
6月、連合軍は「クロム狩り作戦」を発動。ヴェルティス型ソナー艦が島沖300キロメートルの深海でザルヴェス・ネブラのエンジン音を捕捉。フリーネア海軍はテルサス型哨戒艇を動員し、爆雷と誘導魚雷を集中投下。海底4500メートルで爆発が連続し、ネブラの推進系が粉砕された。浮上を余儀なくされたネブラは、連合軍の巡洋艦4隻の主砲に晒され、艦体が真っ二つに裂けた。700名の乗員は生存者ゼロ。ザルヴェス・ネブラの艦長は最期の通信で「コックスに栄光を」と叫び、艦と運命を共にした。ティラスト派は報復としてザルヴェス・クロムを反攻に投入。クロムは連合軍の駆逐艦4隻をヴェルザードで大破させ、うち2隻が黒煙を上げながら沈没。艦内の乗員が脱出ポッドで逃げる姿は、連合軍の士気を揺さぶった。サンリクト公国は戦闘の余波で島の漁場が汚染され、魚群が消滅。住民の抗議が港を埋め、サンリクトは連合軍に「戦闘海域の縮小」を要求。フリーネア海軍は「ティラスト派を逃がす気か」と拒絶したが、サンリクトの高速艇は連合軍の補給艦に再び体当たりを仕掛け、弾薬コンテナ2基を破壊。連合軍の副提督は「これ以上我慢できん」と艦砲射撃を提案したが、平和維持軍が「サンリクトを敵に回せば革命は終わる」と押し留め、緊張は頂点に達した。
終盤と戦闘の終息
7月、連合軍は封鎖線をさらに強化し、ティラスト派の補給艦の活動を98%阻止。ザルヴェス・クロムとヴェルタは深海での遊撃を続けたが、燃料とヴェルザードミサイルの在庫が3割に落ち込み、攻撃頻度が急減。連合軍はジェルビア同盟の航空艦を再編し、ゼルクロス型戦闘機100機を投入。8月30日、連合軍は島沖150キロメートルでティラスト派の補給艦団を捕捉。フリーネア海軍の巡洋艦とテルサス型哨戒艇が一斉攻撃を仕掛け、補給艦10隻、武装商船15隻、通常潜水艦6隻を撃沈。海面は残骸と油で埋め尽くされ、ティラスト派の補給網は事実上崩壊した。ザルヴェス・ヴェルタは連合軍の集中爆雷攻撃を受け、艦尾が大破。浮上を試みたが、ジェルビアのゼルクロス型戦闘機がミサイルを連射し、ヴェルタは爆発四散。艦内の乗員は「本土を守れ」と叫びながら海に沈んだ。
ザルヴェス・クロムは孤立無援となったが、ティラスト派の艦長は「コックスの革命は我々が守る」と決意。深海6000メートルに潜り、連合軍のソナー網を巧みに回避。9月5日、クロムは最後の反攻を仕掛け、連合軍の補給艦2隻をヴェルザードで撃沈。だが、燃料切れが迫り、クロムは中南洋の未知の海域へ姿を消した。連合軍は追跡を試みたが、熱帯嵐の到来でソナー信号が途絶。フリーネア海軍の提督は「クロムは必ず戻る」と歯噛みしたが、追跡は断念された。連合軍は南中央大陸への補給線を確保し、燃料、弾薬、医療品の輸送を再開。ヴェイルクラム戦線の地上部隊は息を吹き返し、連合軍の士気は一時高揚した。
サンリクト公国の妨害は終盤も続いた。連合軍の哨戒艇が領海内でサンリクトの高速艇と遭遇し、双方が一触即発の睨み合い。サンリクトの艇長が「これ以上近づけばセラヴィスで沈める」と通信し、連合軍艇は撤退を余儀なくされた。9月15日、サンリクトは連合軍に「領海侵犯の再発は武力で排除する」と最後通告。連合軍の補給艦が領海近くでサンリクトの高速艇に体当たりされ、食料コンテナ4基が損壊。フリーネア海軍の若手指揮官は「報復砲撃を」と叫んだが、平和維持軍の交渉団が「サンリクトとの戦争は革命の終焉を意味する」と説得。10月、共立機構が緊急仲介に入り、サンリクト公国と連合軍の直接衝突を回避。ティラスト派海軍はエリッツ島沖から撤退し、11月3日、戦闘は終息。連合軍は島沖の制海権を確保したが、ザルヴェス・クロムの逃亡とサンリクト公国の牽制が、完全な勝利を曇らせた。
影響
中南洋エリッツ沖海戦は、ティラスト派海軍の海上補給路を壊滅させ、連合軍の南中央大陸への補給線を確保する決定的な成果を上げた。ティラスト派の補給艦団は壊滅し、南中央大陸への燃料、弾薬、レアメタルの輸送が80%減少し、ヴァルヘラ州の兵器工場は原料不足で操業停止に追い込まれた。連合軍はヴェイルクラム戦線の後方支援を強化し、装甲部隊と無人機部隊が再び進軍を開始。革命の勢いは連合軍側に傾き、セトルラームの議会では「中南洋の勝利は歴史的転換点」との声が上がった。しかし、ザルヴェス・クロムの逃亡は暗い影を落とした。深海に潜むクロムの存在は、連合軍の補給艦団に常時警戒を強いることとなり、フリーネア海軍の艦長たちは「奴はいつでも戻ってくる」と神経をすり減らした。
サンリクト公国は王党派として中立を維持し、ティラスト派を締め出したことでアリウス公王の信頼を一層固めた。領海での妨害は限定的だったが、連合軍との緊張を高め、後の大規模戦闘の火種を蒔いた。島の漁場は戦闘の油と残骸で汚染され、漁民の生計が壊滅。港湾では「連合軍はティラスト派と同じ侵略者だ」との落書きが広がり、住民の反外部感情が頂点に達した。サンリクト指導部は住民の不満を抑えるため、アリウス公王との通信を密にし、王党派の共同戦略を模索。ある高官は「連合軍がこの海を支配するなら、我々はアリウスと共に戦う」と漏らし、後の衝突を予感させた。
ロフィルナ国内では、ティラスト派の補給網喪失が本土戦線を直撃。
レルナルト・ヴィ・コックスは「海を失っても我々の意志は不滅」と演説したが、民兵の装備は劣化し、ヴァルヘラ州の守備隊は補給不足で防衛線を縮小せざるを得なかった。ティラスト派の残党はザルヴェス・クロムの逃亡を「革命の希望」と宣伝し、若者たちを民兵に駆り立てたが、内部ではコックスの強硬策への不満が燻った。民間人への直接被害は限られたが、エリッツ島周辺の海洋資源が破壊され、サンリクトの漁民は生活の基盤を失った。漁民の代表は「連合軍とティラスト派の戦争が我々を殺した」と涙ながらに訴え、中立の代償が浮き彫りになった。
セトルラーム共立連邦では、戦闘の成功が
ヴァンス・フリートンの支持を一時的に押し上げたが、駆逐艦6隻、哨戒艇15隻、フェルナス型無人機30機の損失が議会で問題視された。野党は「勝利の代償が高すぎる」と批判し、軍事予算の増額を巡る議論が過熱。フリートンは「中南洋を制した我々は革命を制する」と強弁したが、疲弊した艦隊の補修費用が国民の不満を煽った。
ジェルビア星間条約同盟は輸送艦5隻とゼルクロス型戦闘機10機の喪失で動揺し、中小国が「セトルラームの独断が連合を危険に晒す」と非難。ある加盟国は「次の戦いで我々の艦を失えば撤退する」と警告し、同盟の結束に亀裂が生じた。共立機構国際平和維持軍はサンリクトとの交渉で中立を守り、漁場汚染への救援物資を提供したが、セトルラームとの作戦対立が連合軍の足並みを乱した。平和維持軍の指揮官は「セトルラームの焦りが革命を危うくする」と日誌に記し、内部の不協和音を吐露した。
星域全体では、中南洋エリッツ沖海戦が海洋戦の戦略的価値を再定義した。ザルヴェス級の深海戦術は、ステルス潜水艦の有効性を周辺国に示し、
サンパレナ共和国は新型ソナーと魚雷の開発に巨額を投じた。
マイヤント共和国は「低コスト潜水艦」の導入を検討し、非対称戦の潮流が広がった。連合軍の海上優勢は星域の勢力図に影響を与えたが、ザルヴェス・クロムの潜伏は中南洋を不安定な戦域に留めた。ある星域分析者は「クロムが再び現れる日、連合軍の補給線は再び血に染まる」と予測し、緊張は続いた。サンリクト公国の微妙な敵対姿勢は、ロフィルナの内戦が星域全体の火薬庫となる可能性を示唆。戦いは連合軍に勝利をもたらしたが、ティラスト派の執念とサンリクトの不信が、革命の未来に暗雲を投げかけた。
関連記事
最終更新:2025年04月13日 21:02