女児ズ短編小説・美奈編
『みっちゃんの憂鬱』
月曜日。一週間の始まり....なのに、朝から雨が降っている。
「憂鬱だなぁ.....まぁ、梅雨だから仕方ないか.....」
傘を片手に、私は学校に向かった。今日は猫達も何処かで雨宿りしているのか、一匹も姿を現さない。
「........あ」
ふと顔を上げると、前から誰かが歩いてくるのが見えた。私と少し似た髪型に、『一撃必殺』と書かれたTシャツ。クラスメイトのみっちゃんだ。
「みっちゃん、おはよう!」
私は傘の下でみっちゃんに手を振った。すると、それに気づいたみっちゃんも小さく手を上げて「よ」と短く答える。
「.........?」
何だか、元気がない。いつもなら向こうから挨拶してくるくらいなのに珍しいなと思いながら、私はみっちゃんの元に駆け寄る。すると、ふとある事に気がついた。
「あれ、玲亜は?」
いつもみっちゃんと一緒に来ている玲亜が、今日は隣に居ない。
「風邪だってよ、昨日から熱で寝込んでるらしいぜ。」
「そうなんだ、心配だね.....」
そうか、玲亜が居ないからみっちゃんも元気がないんだ。いつもお互いにどつき合いながらも、二人は凄く仲良しだから......加えて、この雨のせいでみっちゃんの大好きな外遊びも出来ないとなれば元気がなくなるのも当然だけど、本当にそれが原因かは私にも分からなかった。
「とりあえず、学校行こっか。」
「........おう。」
何となく気まずい雰囲気のまま、私達は一緒に学校に向かった。
.........................
...........
「.........はぁ.................」
二時間目まで終わり、休み時間になっても、みっちゃんは溜め息ばかりついてじっと席に座ったままだった。
「............」
そんなみっちゃんにどう声をかけて良いか分からず、私も黙ってしまう。下手な事を言って怒らせるのも良くないし、むしろそっとしておく方が良いのかもしれない。
「初ちゃーん!トランプして遊ぼー!」
「う、うん!」
旭達に誘われ、しばらくトランプで遊んでいたけど、やっぱりどうしてもみっちゃんのことが気になってしまった私は思い切って旭に相談してみた。
「........あの、さ......みっちゃんが朝から元気ないんだけど.......どうしちゃったのかな......」
「え?みっちゃんが?.....ほんとだ、何か暗いね......玲亜ちゃんが居ないからかな?」
「それもあると思うけど、はっきりした原因は分かんない.....」
「うーん.........あっ、もしかして!」
「何?何か分かったの?」
「あたしの予想通りなら、初ちゃんも給食の時間になれば分かると思うよ♪」
旭はそう言ってウインクしてみせた。給食の時間になれば分かる......どういう事なんだろう。
...............................
...............
いよいよ、給食の時間になった。旭の予想は合っているんだろうか。
「というか、今日の給食何だっけ。」
私は献立表を確認した。コッペパンと苺ジャム、牛乳、ハンバーグ、コンソメスープ。そして、ミニトマトが二つ。私からすれば、どれも大好きなメニューばかりだ。
自分の給食を運びながら席に戻ると、みっちゃんはまだ席に座ったままだった。その机には何も置かれていない。
「........みっちゃん、給食食べないの?」
私はとうとう思い切って、みっちゃんにそう聞いてみた。すると、みっちゃんは虚な目を此方に向け、一言
「要らない。」
と答えた。
「ダメだよみっちゃん、お腹空いちゃうよ?」
そう言いながら、給食当番の旭がみっちゃんの分の給食を用意し始める。
「.....良いって、食欲ねえんだよ。」
「良くない!はい、これも!」
「.......うぇ..........」
ハンバーグとミニトマトが乗ったお皿が机に置かれると、みっちゃんは更に嫌そうな顔を浮かべた。
「!」
なるほど、そういう事だったんだ。
「.....もしかして、みっちゃん.....トマト苦手?」
「うっ........な、何で分かったんだよ初。」
「顔に出てたよ、思いっきり。」
「ぐ............」
顔を逸らしながら、みっちゃんは黙ってしまう。
「そっか、それで朝から元気なかったんだね。てっきり玲亜が居なくて寂しいのかと思ったよ。」
「なっ、んなわけねーだろ!一日くらい居なくたって平気だっつーの!」
みっちゃんはそう言うが、声色からしてあながちそれも間違いではなさそうだった。
「玲亜のやつもトマト苦手でよ、二人で今日の給食やだなーって前から話してたんだ。そしたらちょうど良いタイミングで風邪ひきやがって.....」
「あはは、そうだったんだ。じゃあ、私がそれ貰ってあげるよ。」
「えっ!良いのか?でも先生に怒られねえかな...」
「バレそうになったら私が勝手に取ったって言えば良いよ、それにヘタだけみっちゃんのお皿に戻せば多分バレないしね。」
「そっか!悪りぃ、頼んだぜ!」
運良くその日は先生が会議で教室に居らず、私はすんなりみっちゃんのミニトマトを貰うことに成功した。
「皆よくトマトなんか食えるよなぁ.....アタシ多分一生無理だ........」
「そういう食べ物って多分誰にでもあるよね、私も練り物とかヒジキはどうしても無理だなぁ。」
「じゃあ、初の苦手なもんが給食に出たら今度はアタシが食ってやるよ!」
「ほんと?ありがとう、これも助け合い....かな?」
「だな!助け合い助け合い!」
みっちゃんはすっかり元気になっていた。それを見て、私もようやく安心する。やっぱりみっちゃんは、元気に笑ってる顔の方が似合うなって。
「.........あんまり良い事とは思えないけど......二人がそれで良いなら、何も言いません。」
「げっ、久乱!?いつの間に!?」
「こ、この事はどうか内密に......」
FIN.