女児ズ短編小説・バトル編
『新たな力、女児の紋章(ガールズ•エンブレム』
「がぁッ!!」
私の身体は、勢いよく地面に叩きつけられた。同時に、持っていた隻翼も手放してしまう。
「グゥウウウウウ.......」
目の前に立ちはだかる巨大な闇の怪物が、倒れた私を見下ろしている。隻翼の力を持ってしても倒せない強敵を前に、私は絶対絶命の危機に陥っていた。
「くっ....力が、入らない.........」
遠くに転がっていった隻翼までの距離は、僅か数メートル。立つことさえ出来ればすぐに取り戻せるのに、足にも腕にも全く力が入らないせいで起き上がることすらままならない。
「....あ、あわわ.......」
「!」
何とか視線だけ動かしていると、少し離れた木の裏に小さな女の子が立ち竦んでいるのが目に入った。
「ガァ........ウゥウオオオオオ!!」
怪物もそれに気がつき、私から目を逸らしてターゲットをその女の子に変えた。
「逃げて.......っ!」
私は女の子にそう叫ぶ。しかし、それよりも早く怪物が女の子を掴み上げ、ギリギリと握り潰そうと力を込め始めた。
「うわぁあああ!」
女の子は苦しそうに叫ぶ。このままだと、一分も保たず潰されてしまうだろう。
「やめろ.....!その子を離せ.......ッ!!」
『言羽』が使えない為、やむを得ず『言刃』で対抗するも、やはり精神が不安定な状態では上手く発動しなかった。それでも、限界に抗うように、私は叫び続けた。
「くそっ......動けよ、私の身体....!!あいつを倒す為に......一瞬でも良いから、動いてよ!!」
もう、他に手段はない。
女の子を救うには、あの怪物を倒すしかない。
だから.........
こんな所で、力尽きるわけにはいかないんだ!!!
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!立ち.....上がれぇえええええええええええええええええええッ!!!!!!!!!!!!!!!」
私は空に向かって、喉の奥から血の味が滲む程の大声で叫んだ。すると、空の彼方で一瞬なにかがキラッと閃くのが見えた。
「あれは...........!」
私が手を伸ばすと、その光は一筋の線となって私を包み込むように勢いよく降り注いだ。そして、光がおさまると同時に、私の左腕にはマイクを象ったブレスレットが装着されていた。
「.......これなら、戦える.........!この手で.....この拳であいつを倒せるくらい、私は強くなりたい!!」
ブレスレットのリングに指を掛け、そう叫びながら勢いよくリングを引いた。その瞬間、さっきまで全く動かなかった全身に満ち溢れる程の力が漲り、気づいた時には私の拳が怪物の脳天に振り下ろされていた。
「グォオオオッ.......!?」
私の一撃を喰らった怪物はよろめき、女の子を手放した。私はすかさず女の子を助け上げ、地面に下ろしてあげた。
「早く逃げて!」
「うん!」
女の子が逃げていったのを見届け、私は再び怪物に向き直る。怪物はさっきの一撃でかなりダメージを負ったのか、地面に膝を突いていた。
「悪いけど........お前には消えてもらう!」
私は地面を蹴って怪物に飛びかかり、拳に唸りをつけて振り上げる。そして、怪物の腹部を穿ち抜く程の一撃を繰り出した。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「凄い.......力が溢れてくる.......!」
怪物が悶絶している隙に、私は隻翼を拾い上げた。ブレスレットの効果はまだ続いているけど、多分長くは保たない。
「これでチェックメイトだ!拳よ、炎を纏え!!」
『言羽』を発動し、両手の拳に炎を纏わせる。そして再び地面を蹴り、怪物の頭上まで飛び上がった。
「!?」
「喰らえ!!《爆炎連撃打 -イフリート•ブレイクラッシュ-》!!!!!!!」
炎を纏った拳の連撃で、相手に悲鳴をあげさせる暇も与えず何度も何度も殴打する。強力な打撃と炎の高熱で、怪物の身体は溶けて砕け始めた。
「終わりだ.......あの世で懺悔しろッ!!!!」
最後に、握り合わせた両の拳に全身の力を集中させ、怪物の脳天目掛けて思い切り叩きつけた。砕けかけていた怪物の身体に、一気に亀裂が入っていく。
「グァアアアアアアアアアォオオオオオオァァァアアアァアアアアアア!!!!!!!!!」
怪物は断末魔をあげ、跡形もなく爆散した。私は地面に降り立ち、腕を振るって炎を掻き消す。同時にブレスレットの効力も切れ、私はまた脱力しその場で仰向けに寝転んだ。
「........はぁ、はぁ...........凄い力、だな.......」
本来、『言羽』だけではあそこまでの力は引き出せない。あの技は、このブレスレットの効果で身体能力を大幅に底上げしたからこそなし得たものだった。
「これで、また皆の助けになれるかな......」
寝転んだまま私はブレスレットを見つめ、軽く口元を緩めながらそう呟いた。
FIN.