『違和感』
更新日:2020/07/07 Tue 23:23:28
1週間後、バスの中で愛歩はブスくれていた。
あの班決め後、渡された栞に原因があった。
(水泳にキャンプファイアーなんて馬鹿げてる)
キャンプファイアーが何なのか分からず、むらサメに聞くと、大きな焚き火と教えられた。
冗談じゃない。愛歩は燃え上がる炎が大嫌いなのだ。
水泳も気にくわなかった。施設の浴場で足を滑らせて死にかけてからと言うもの、溜まった水が大嫌いだった。(自分の女児符号に気付けたのもこの騒動のお陰なのだが)
担任の宇佐美に相談して、キャンプファイアーの時は部屋で休んでいる事にしたが、水泳は出なくてはいけない。
「アユミン、飴ちゃん舐める?」
むらサメが自分のポケットから飴を取り出して差し出してくれた。
不機嫌な愛歩に気を使ってくれたのだろう。
「むらサメちゃんはキャンプファイアー楽しみ?」
「んーまあな、キャンプといったらファイアーやしなぁ。先輩の話だと川の水も気持ちいいらしいし」
「そっか……」
憂鬱な気持ちのまま、愛歩は目的地まで飴を舐め続けるのだった。
あの班決め後、渡された栞に原因があった。
(水泳にキャンプファイアーなんて馬鹿げてる)
キャンプファイアーが何なのか分からず、むらサメに聞くと、大きな焚き火と教えられた。
冗談じゃない。愛歩は燃え上がる炎が大嫌いなのだ。
水泳も気にくわなかった。施設の浴場で足を滑らせて死にかけてからと言うもの、溜まった水が大嫌いだった。(自分の女児符号に気付けたのもこの騒動のお陰なのだが)
担任の宇佐美に相談して、キャンプファイアーの時は部屋で休んでいる事にしたが、水泳は出なくてはいけない。
「アユミン、飴ちゃん舐める?」
むらサメが自分のポケットから飴を取り出して差し出してくれた。
不機嫌な愛歩に気を使ってくれたのだろう。
「むらサメちゃんはキャンプファイアー楽しみ?」
「んーまあな、キャンプといったらファイアーやしなぁ。先輩の話だと川の水も気持ちいいらしいし」
「そっか……」
憂鬱な気持ちのまま、愛歩は目的地まで飴を舐め続けるのだった。
「はい、皆いるね~。また学校に戻るなんてごめんなの。ほら集合」
下手をすると生徒よりも子供っぽい口調で、5年1組の担任、宇佐美が呼び掛けている。
「今から水泳するからね~、全員水着に着替えてしゅうごー!」
「はーい!」
元気の良い生徒達の声。皆プールが楽しみなんだろう。
下手をすると生徒よりも子供っぽい口調で、5年1組の担任、宇佐美が呼び掛けている。
「今から水泳するからね~、全員水着に着替えてしゅうごー!」
「はーい!」
元気の良い生徒達の声。皆プールが楽しみなんだろう。
班ごとに決められたコテージに入り、水泳の支度をする。
「憂鬱……泳ぐのとか無理だし…」
「まあまあ、浅瀬にいたらいいよ」
愛歩の億劫そうな顔を覗き込んで、きゅーばんちゃんが宥めてくれた。
「はぁ……え?」
着替えを取り出そうとトランクを開ける……と、中から見慣れたモフモフが……
「え?」
愛歩は思わず二度見していた。黒く艶やかな毛皮で、愛歩のパンツを枕にしてぐっすり眠る猫……
「愛歩ちゃ~んどうしたの?」
「何か…いる……?」
友人達がトランクを開けて固まった愛歩を心配して集まってきた。
「うわぁぁぁぁ猫だ!めっちゃ可愛いやん!」
「パ、パンツを枕にしてる……!」
「あの、愛歩さん……猫を持ってきてはいけないんですよ?」
「いや古代さん?!私も知らなかったんだよ!」
と、皆の声が五月蝿かったのか、猫が目を開けた。猫の朱色の瞳と愛歩の紺の瞳が一瞬交わった。
「にゃあん」
猫の一声に友達は黄色い悲鳴をあげた。
「可愛い!愛歩ちゃんの猫?」
瞳をキラキラさせながら言うきゅーばん。
「ううん、近所に住んでた猫……どうしてトランクに入ってきちゃったんだろう……」
「まあ来ちゃったものは仕方ないんじゃない?」
天号が黒猫の喉を撫でると、ゴロゴロと言う音を出した。
「こらー!3班、何してるの~!」
皆が時計を見る。集合時間を十五分もオーバーしていた。コテージの玄関から鬼のような顔をした宇佐美が顔を出していた。
「ご、ごめんなさ……ブ!」
愛歩は吹き出した。宇佐美が着ている水着が、大きな白兎がプリントされたピンク色の派手な物だったからだ。
「全く、皆もう川に入ってる…よ……」
宇佐美が愛歩の膝に乗った黒猫を見つけ、物凄い形相で近寄ってきた。
「こいつ……!!!!」
愛歩はこんなに怒った宇佐美先生を見たことがなかった。
「う、宇佐美先生……?」
愛歩の怯えた表情に、宇佐美は何とかといった様子で怒りを押さえた。
「愛歩ちゃん、この、猫、どうしたの?」
「えっと、気付いたらトランクの中に……」
「そう……」
宇佐美は少し考える仕草をし、それから頷いた。
「まあ…今はいいかな……愛歩ちゃん。その子、逃げないように見ていてくれないかな?」
「は、はい……」
宇佐美はもう一度凄い顔で猫を睨んでから、普段の飄々とした明るい笑顔に戻った。
「じゃ、川にいこうか。ほら、早くするのよ」
「憂鬱……泳ぐのとか無理だし…」
「まあまあ、浅瀬にいたらいいよ」
愛歩の億劫そうな顔を覗き込んで、きゅーばんちゃんが宥めてくれた。
「はぁ……え?」
着替えを取り出そうとトランクを開ける……と、中から見慣れたモフモフが……
「え?」
愛歩は思わず二度見していた。黒く艶やかな毛皮で、愛歩のパンツを枕にしてぐっすり眠る猫……
「愛歩ちゃ~んどうしたの?」
「何か…いる……?」
友人達がトランクを開けて固まった愛歩を心配して集まってきた。
「うわぁぁぁぁ猫だ!めっちゃ可愛いやん!」
「パ、パンツを枕にしてる……!」
「あの、愛歩さん……猫を持ってきてはいけないんですよ?」
「いや古代さん?!私も知らなかったんだよ!」
と、皆の声が五月蝿かったのか、猫が目を開けた。猫の朱色の瞳と愛歩の紺の瞳が一瞬交わった。
「にゃあん」
猫の一声に友達は黄色い悲鳴をあげた。
「可愛い!愛歩ちゃんの猫?」
瞳をキラキラさせながら言うきゅーばん。
「ううん、近所に住んでた猫……どうしてトランクに入ってきちゃったんだろう……」
「まあ来ちゃったものは仕方ないんじゃない?」
天号が黒猫の喉を撫でると、ゴロゴロと言う音を出した。
「こらー!3班、何してるの~!」
皆が時計を見る。集合時間を十五分もオーバーしていた。コテージの玄関から鬼のような顔をした宇佐美が顔を出していた。
「ご、ごめんなさ……ブ!」
愛歩は吹き出した。宇佐美が着ている水着が、大きな白兎がプリントされたピンク色の派手な物だったからだ。
「全く、皆もう川に入ってる…よ……」
宇佐美が愛歩の膝に乗った黒猫を見つけ、物凄い形相で近寄ってきた。
「こいつ……!!!!」
愛歩はこんなに怒った宇佐美先生を見たことがなかった。
「う、宇佐美先生……?」
愛歩の怯えた表情に、宇佐美は何とかといった様子で怒りを押さえた。
「愛歩ちゃん、この、猫、どうしたの?」
「えっと、気付いたらトランクの中に……」
「そう……」
宇佐美は少し考える仕草をし、それから頷いた。
「まあ…今はいいかな……愛歩ちゃん。その子、逃げないように見ていてくれないかな?」
「は、はい……」
宇佐美はもう一度凄い顔で猫を睨んでから、普段の飄々とした明るい笑顔に戻った。
「じゃ、川にいこうか。ほら、早くするのよ」
「あ、愛歩さん。本当に泳げなかったんだ…」
古代の言うとおり、愛歩は全くと言っていいほど泳げなかった。
「う、うん。ごめんね…」
川に入って数分、愛歩は何回も泳いでみようとしたが、上手くいかなかった。
深い場所に入ると身体が沈む。身体が沈むと息ができない。息ができないと時間が止まる。パニックを起こさないように足のつく場所にいる時まで時間を戻す。
「はぁ……」
3班の皆はグロッキー状態の愛歩を気遣ってくれていた。
「宇佐美先生に言ってきたら?休みたいって」
「でもさ、さっきの宇佐美先生怖かったやん。何かあったんかなぁ」
むらサメの言葉に、愛歩は宇佐美先生の方を見た。
砂利道に椅子を置いて、爪にマニキュアを塗りながら生徒を監視している。白い肌に大きな胸。男子生徒や男の先生の一部はチラチラとそれを見ている。
「まるで人が変わったような感じだったよね?」
天号がこそこそ言うが、古代はそれを否定した。
「いや、案外あっちが本性かもしれないよ」
「えぇ…それはいやだなぁ」
愛歩は暫く宇佐美を観察していたが、水が胸まできていて身体が揺れる。だんだん気持ち悪くなってきた。
「泳ぐとかやっぱ無理……酔ってきたかも」
「ちょっと休んだらどうや?」
「うん…」
皆よりも運動してないのに皆より疲れた気がする。むらサメちゃんの提案に頷いた。
班の皆にごめんと言ってから宇佐美先生の所まで言いにいったのだった。
宇佐美先生は思いの外あっさりと休むことを許可してくれた。
「飯盒炊飯の時も休んだら?火使うし。部屋にカレー持っていくよ」
「あ、はい。ありがとうです」
愛歩は奇妙に思った。さっきまであれほど怒っていたのに、今ではケロっとしていて、親切にしてくれている。愛歩に怒っていたのでは無いのか?
古代の言うとおり、愛歩は全くと言っていいほど泳げなかった。
「う、うん。ごめんね…」
川に入って数分、愛歩は何回も泳いでみようとしたが、上手くいかなかった。
深い場所に入ると身体が沈む。身体が沈むと息ができない。息ができないと時間が止まる。パニックを起こさないように足のつく場所にいる時まで時間を戻す。
「はぁ……」
3班の皆はグロッキー状態の愛歩を気遣ってくれていた。
「宇佐美先生に言ってきたら?休みたいって」
「でもさ、さっきの宇佐美先生怖かったやん。何かあったんかなぁ」
むらサメの言葉に、愛歩は宇佐美先生の方を見た。
砂利道に椅子を置いて、爪にマニキュアを塗りながら生徒を監視している。白い肌に大きな胸。男子生徒や男の先生の一部はチラチラとそれを見ている。
「まるで人が変わったような感じだったよね?」
天号がこそこそ言うが、古代はそれを否定した。
「いや、案外あっちが本性かもしれないよ」
「えぇ…それはいやだなぁ」
愛歩は暫く宇佐美を観察していたが、水が胸まできていて身体が揺れる。だんだん気持ち悪くなってきた。
「泳ぐとかやっぱ無理……酔ってきたかも」
「ちょっと休んだらどうや?」
「うん…」
皆よりも運動してないのに皆より疲れた気がする。むらサメちゃんの提案に頷いた。
班の皆にごめんと言ってから宇佐美先生の所まで言いにいったのだった。
宇佐美先生は思いの外あっさりと休むことを許可してくれた。
「飯盒炊飯の時も休んだら?火使うし。部屋にカレー持っていくよ」
「あ、はい。ありがとうです」
愛歩は奇妙に思った。さっきまであれほど怒っていたのに、今ではケロっとしていて、親切にしてくれている。愛歩に怒っていたのでは無いのか?
バスタオルで髪を拭きながらコテージに向かう愛歩。
「ん……?」
違和感を感じて立ち止まる。辺りを見渡した。聞きなれない音がする……
ガラガラ……ガラガラ……シューシュー……
「な、なんだろう。怖いな」
皆の元に戻るか?いや、コテージの方が早い。それに、黒猫のいる場所にいなくてはいけない気がした。
怖いと思いつつ、コテージ目指して駆け出すのだった。
「ん……?」
違和感を感じて立ち止まる。辺りを見渡した。聞きなれない音がする……
ガラガラ……ガラガラ……シューシュー……
「な、なんだろう。怖いな」
皆の元に戻るか?いや、コテージの方が早い。それに、黒猫のいる場所にいなくてはいけない気がした。
怖いと思いつつ、コテージ目指して駆け出すのだった。
その背を、何者かが凝視していた。
「いひひ」
木ノ上に不気味に寝そべる黒いゴスロリの少女。
「美味しそうな心臓です……」
少女が舌舐りした。少女の舌は常人では想像もつかないほど長い。それだけで彼女が人間ではない物だと頷けるほどの物だった。
「このですロリ蛇が食べてあげます……」
怪異はいひひと笑うのだった。
「いひひ」
木ノ上に不気味に寝そべる黒いゴスロリの少女。
「美味しそうな心臓です……」
少女が舌舐りした。少女の舌は常人では想像もつかないほど長い。それだけで彼女が人間ではない物だと頷けるほどの物だった。
「このですロリ蛇が食べてあげます……」
怪異はいひひと笑うのだった。

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