『save』
更新日:2020/07/14 Tue 15:50:29
目次
愛歩達は2手に分かれて逃げていた。
あの怪物を撒くためにだ。
「むらサメちゃん……みんな大丈夫かな…?」
「大丈夫や!あの三人がそうやすやすとくたばるわけないやろ!」
別行動している3人を心配する愛歩を、むらサメは勇気づけた。
「それにしても……」
むらサメは周囲を見渡す。母親に手を引かれて走る子供に、スマホで誰かと話しながらどこかに逃げていくカップル。飼育員にどうなってるんだと怒鳴るおじさん。
「皆混乱しとるなぁ」
「ま、まぁ動物が檻を壊して抜け出したりなんかしたら怖いよね……」
愛歩は考えた。動物園には来たこと無いけど。動物が檻から抜け出すなんて、しょっちゅうある事では無いのだろう。普通にあることなら飼育員が狼狽えたりはしない筈だ。
「ねえもしかしてさ」
隣にいるむらサメに言う。
「これって林間学校の時に襲ってきた人の……」
むらサメは何も言わなかった。一体どうしたのだろうと顔を上げた途端…
「アチョー!」
「ほわぁ?!」
丸太のように太い足が愛歩の目の前に飛び出てきたのだ。
あの怪物を撒くためにだ。
「むらサメちゃん……みんな大丈夫かな…?」
「大丈夫や!あの三人がそうやすやすとくたばるわけないやろ!」
別行動している3人を心配する愛歩を、むらサメは勇気づけた。
「それにしても……」
むらサメは周囲を見渡す。母親に手を引かれて走る子供に、スマホで誰かと話しながらどこかに逃げていくカップル。飼育員にどうなってるんだと怒鳴るおじさん。
「皆混乱しとるなぁ」
「ま、まぁ動物が檻を壊して抜け出したりなんかしたら怖いよね……」
愛歩は考えた。動物園には来たこと無いけど。動物が檻から抜け出すなんて、しょっちゅうある事では無いのだろう。普通にあることなら飼育員が狼狽えたりはしない筈だ。
「ねえもしかしてさ」
隣にいるむらサメに言う。
「これって林間学校の時に襲ってきた人の……」
むらサメは何も言わなかった。一体どうしたのだろうと顔を上げた途端…
「アチョー!」
「ほわぁ?!」
丸太のように太い足が愛歩の目の前に飛び出てきたのだ。
「危ないで、アユミン」
「あ、ありがとうむらサメちゃん」
足が顔にヒットする前に、むらサメちゃんが身体を引っ張って助けてくれた。
「自分、なんでこんな事するんや!名を名乗れ!」
むらサメが襲ってきた怪物に怒る。
怪物は真っ白なチャイナ服を着て、目元を黒いマスクで覆った少女だった。頭からは黒い耳を生やし、尻からは白い尻尾を出している。
怪物は名乗った。
「アタシはアルロリパンダ。更なる強さのためにその娘の肝が必要ある」
アルロリパンダは愛歩の方を指差した。
「そんなんさせるか!愛歩、下がっとりーや!」
「う、うん」
むらサメは自分の髪留めに噛みつき、女児符号を発動させた。
「ほう、楽しそうアルな。心踊るアル」
ぐんぐんと自分の体積を増やしていくむらサメ、それを見てパニックになる群衆。そのざわめきを聞いてアルロリパンダは邪悪に笑った。
「あ、ありがとうむらサメちゃん」
足が顔にヒットする前に、むらサメちゃんが身体を引っ張って助けてくれた。
「自分、なんでこんな事するんや!名を名乗れ!」
むらサメが襲ってきた怪物に怒る。
怪物は真っ白なチャイナ服を着て、目元を黒いマスクで覆った少女だった。頭からは黒い耳を生やし、尻からは白い尻尾を出している。
怪物は名乗った。
「アタシはアルロリパンダ。更なる強さのためにその娘の肝が必要ある」
アルロリパンダは愛歩の方を指差した。
「そんなんさせるか!愛歩、下がっとりーや!」
「う、うん」
むらサメは自分の髪留めに噛みつき、女児符号を発動させた。
「ほう、楽しそうアルな。心踊るアル」
ぐんぐんと自分の体積を増やしていくむらサメ、それを見てパニックになる群衆。そのざわめきを聞いてアルロリパンダは邪悪に笑った。
「そらぁ!」
でかくなったむらサメが、アルロリパンダを踏みつける。
「力比べあるな!はっはー!このアルロリパンダ負けはせん!」
避けることも反撃する事もせず、アルロリパンダは攻撃を受け止めた。
踏み潰そうとするむらサメ、押し返そうとするアルロリパンダ。2者の力は拮抗していた。
「ふぬぬぬぬぬ」
「ほちょー!」
アルロリパンダの力に、むらサメが焦り始める。むらサメの女児符号『巨躯の呼び声=ギガントコール』には弱点がある。使い続けると猛烈に腹が減っていくのだ。
強烈に腹部を襲う痛みに、むらサメの力がどんどん抜けていった。
「うわ!」
とうとうむらサメが押し負けた。体制を崩したむらサメがよろける。
「霊弾!」
好機と見たアルロリパンダは、指先に力を込める
。ぐんぐんと白い光がアルロリパンダの拳に集まっていき、危険な光をおび始めた。
「ヤバい!何かヤバいよ!」
真っ白な光の弾丸がアルロリパンダの掌から射出される。
「むらサメちゃん!」
愛歩の叫びは届かず、次の瞬間むらサメの心臓は白い弾丸によって貫かれていた
でかくなったむらサメが、アルロリパンダを踏みつける。
「力比べあるな!はっはー!このアルロリパンダ負けはせん!」
避けることも反撃する事もせず、アルロリパンダは攻撃を受け止めた。
踏み潰そうとするむらサメ、押し返そうとするアルロリパンダ。2者の力は拮抗していた。
「ふぬぬぬぬぬ」
「ほちょー!」
アルロリパンダの力に、むらサメが焦り始める。むらサメの女児符号『巨躯の呼び声=ギガントコール』には弱点がある。使い続けると猛烈に腹が減っていくのだ。
強烈に腹部を襲う痛みに、むらサメの力がどんどん抜けていった。
「うわ!」
とうとうむらサメが押し負けた。体制を崩したむらサメがよろける。
「霊弾!」
好機と見たアルロリパンダは、指先に力を込める
。ぐんぐんと白い光がアルロリパンダの拳に集まっていき、危険な光をおび始めた。
「ヤバい!何かヤバいよ!」
真っ白な光の弾丸がアルロリパンダの掌から射出される。
「むらサメちゃん!」
愛歩の叫びは届かず、次の瞬間むらサメの心臓は白い弾丸によって貫かれていた
宙を舞う血。
ぐんぐんと小さくなっていくむらサメ。
「……あ」
倒れ込んできたむらサメと目があった。彼女の瞳から光が失われていく。
「待って……」
愛歩は息を止めた。絶望から来る生理的な物だった。
時間が制止する……
愛歩は自分を取り戻した。
冷静に、決してパニックにならないように自分に言い聞かせる。
(むらサメちゃんは生きてる。むらサメちゃんは生きてる)
息を止めている間、時がどんどんと遡っていく。
吐きそうになりながら、嗚咽を漏らしそうになりながら、愛歩はただ時を戻した。
ぐんぐんと小さくなっていくむらサメ。
「……あ」
倒れ込んできたむらサメと目があった。彼女の瞳から光が失われていく。
「待って……」
愛歩は息を止めた。絶望から来る生理的な物だった。
時間が制止する……
愛歩は自分を取り戻した。
冷静に、決してパニックにならないように自分に言い聞かせる。
(むらサメちゃんは生きてる。むらサメちゃんは生きてる)
息を止めている間、時がどんどんと遡っていく。
吐きそうになりながら、嗚咽を漏らしそうになりながら、愛歩はただ時を戻した。
「そらぁ!」
でかくなったむらサメが、アルロリパンダを踏みつけ……
「力比べあるな!はっはー!このアルロリパンダ負けはせん!」
避けることも反撃する事もせず、アルロリパンダは攻撃を受け止めていた。
踏み潰そうとするむらサメ、押し返そうとするアルロリパンダ。一見二者の力は拮抗しているかのように見える。
「ふぬぬぬぬぬ」
むらサメの力が徐々に弱まり始める。
「むらサメちゃん!もういいよ!やめて!」
「はぁ?!」
「いいから!符号を解いて!!」
「わ、分かった」
愛歩の必死の形相に、むらサメはギガントコールを解いた。
アルロリパンダは腕を回しゴキゴキと首を回した。
「お前、むらサメ…だっけ、中々やるあるね。アタシは強者が好きある」
アルロリパンダはニヤリと笑ってから続ける。
「そいつを差し出したら見逃してやってもいいあるよ」
「アホかぁ!誰がそんな事するか!」
「私はいいよ」
「は、はぁ?!」
愛歩の言葉に、むらサメは驚愕する。
「自分、なに言っとるか分かっとんのか!」
乱暴に愛歩の胸ぐらを掴んだむらサメ。そこに彼女の感情が込められていた。
「分かってるよ!でももうむらサメちゃんを殺されたくないんだ!」
愛歩の叫びに、むらサメは怯む。友の手を振り払い、愛歩は怪物と対峙した。
「私はどうなってもいい。だから、皆には手を出さないで!」
アルロリパンダは途中から考え込んでいた。深く深く、思考を巡らせ、愛歩の言葉で我に帰った。
「……そうか、あんた、さっき時間を巻き戻したあるね」
むらサメはその言葉にはっとした。さっきの愛歩の言葉を思い出したのだ。
ーーーもうむらサメちゃんを殺されたくないんだーーー
愛歩は確かにそう言った。殺されたのか、自分は。
愛歩は頷き、アルロリパンダの言葉に同意する。
「そう、時間を戻した。だからむらサメちゃんの最期を見た。もう嫌だから。そんなの嫌だから、私を食べて。他の皆は殺さないで」
「ッ!アユミン……!」
愛歩はむらサメを庇うようにして立つのだった。
「いい奴だな。愛歩」
アルロリパンダから発せられた言葉は、予想外の物だった。
「だが、アタシも新たな能力を手にいれなければならないある」
アルロリパンダの目が、殺意に満ちた。
「このアルロリパンダ、ようしゃせ…」
ズガシャーン!
突然降ってきた影が、アルロリパンダを地面に叩きつけた。
「オラオラオラオラオラ、オラオラオラオラオラオラ、オラオラオラオラオラオ、オラオラオラオラ」
そのまま強烈なラッシュを叩き込む。反撃に出る間も与えない。チャイナ服が破れ、白い肌がどんどん土や泥に汚されていく。
「オラァ!」
現れた黒い影は、猫の耳と尻尾を生やしていた。
「「の、のじゃロリ猫?!」」
愛歩とむらサメは同時にハモる。
「へへ、やれやれじゃ」
のじゃロリ猫はボロボロになったアルロリパンダの上でピースサインをした。
「き……さま」
「お前の次の台詞は、その汚い足をどけろ!糞猫がだ!」
「その汚い足をどけろ!糞猫が!」
アルロリパンダが激昂し、勢いよく立ち上がる。
のじゃロリ猫は大きくジャンプし、愛歩とむらサメの前で着地した。
「のじゃロリ猫……らしくないあるな」
「守りたいもんがあるんでね」
アルロリパンダはすっかりズタボロになったチャイナ服を脱ぎ捨て、裸マフラーになった。
「……しょうがねぇなぁ」
でかくなったむらサメが、アルロリパンダを踏みつけ……
「力比べあるな!はっはー!このアルロリパンダ負けはせん!」
避けることも反撃する事もせず、アルロリパンダは攻撃を受け止めていた。
踏み潰そうとするむらサメ、押し返そうとするアルロリパンダ。一見二者の力は拮抗しているかのように見える。
「ふぬぬぬぬぬ」
むらサメの力が徐々に弱まり始める。
「むらサメちゃん!もういいよ!やめて!」
「はぁ?!」
「いいから!符号を解いて!!」
「わ、分かった」
愛歩の必死の形相に、むらサメはギガントコールを解いた。
アルロリパンダは腕を回しゴキゴキと首を回した。
「お前、むらサメ…だっけ、中々やるあるね。アタシは強者が好きある」
アルロリパンダはニヤリと笑ってから続ける。
「そいつを差し出したら見逃してやってもいいあるよ」
「アホかぁ!誰がそんな事するか!」
「私はいいよ」
「は、はぁ?!」
愛歩の言葉に、むらサメは驚愕する。
「自分、なに言っとるか分かっとんのか!」
乱暴に愛歩の胸ぐらを掴んだむらサメ。そこに彼女の感情が込められていた。
「分かってるよ!でももうむらサメちゃんを殺されたくないんだ!」
愛歩の叫びに、むらサメは怯む。友の手を振り払い、愛歩は怪物と対峙した。
「私はどうなってもいい。だから、皆には手を出さないで!」
アルロリパンダは途中から考え込んでいた。深く深く、思考を巡らせ、愛歩の言葉で我に帰った。
「……そうか、あんた、さっき時間を巻き戻したあるね」
むらサメはその言葉にはっとした。さっきの愛歩の言葉を思い出したのだ。
ーーーもうむらサメちゃんを殺されたくないんだーーー
愛歩は確かにそう言った。殺されたのか、自分は。
愛歩は頷き、アルロリパンダの言葉に同意する。
「そう、時間を戻した。だからむらサメちゃんの最期を見た。もう嫌だから。そんなの嫌だから、私を食べて。他の皆は殺さないで」
「ッ!アユミン……!」
愛歩はむらサメを庇うようにして立つのだった。
「いい奴だな。愛歩」
アルロリパンダから発せられた言葉は、予想外の物だった。
「だが、アタシも新たな能力を手にいれなければならないある」
アルロリパンダの目が、殺意に満ちた。
「このアルロリパンダ、ようしゃせ…」
ズガシャーン!
突然降ってきた影が、アルロリパンダを地面に叩きつけた。
「オラオラオラオラオラ、オラオラオラオラオラオラ、オラオラオラオラオラオ、オラオラオラオラ」
そのまま強烈なラッシュを叩き込む。反撃に出る間も与えない。チャイナ服が破れ、白い肌がどんどん土や泥に汚されていく。
「オラァ!」
現れた黒い影は、猫の耳と尻尾を生やしていた。
「「の、のじゃロリ猫?!」」
愛歩とむらサメは同時にハモる。
「へへ、やれやれじゃ」
のじゃロリ猫はボロボロになったアルロリパンダの上でピースサインをした。
「き……さま」
「お前の次の台詞は、その汚い足をどけろ!糞猫がだ!」
「その汚い足をどけろ!糞猫が!」
アルロリパンダが激昂し、勢いよく立ち上がる。
のじゃロリ猫は大きくジャンプし、愛歩とむらサメの前で着地した。
「のじゃロリ猫……らしくないあるな」
「守りたいもんがあるんでね」
アルロリパンダはすっかりズタボロになったチャイナ服を脱ぎ捨て、裸マフラーになった。
「……しょうがねぇなぁ」