『無花果のタルト』
更新日:2020/07/28 Tue 14:02:15
くぐり抜けた先にあったのは不気味な部屋が広がっていた。
部屋全体が真紫に発光しているし、空間がネジ曲がっているようにぐにゃぐにゃしている。後からついてきただよロリ犬もビックリした様子なので、これは異常事態なのだろう。
「ようこそ、招かれざるお客様」
部屋の奥から少女の声がした。
「私は客じゃないわ。ちょっと聞きたい事があるだけよ」
「へえ、こちらの迷惑も考えずに押し掛けてきたのですか?軽蔑しますね」
部屋の奥から声の主が現れた。白と黒の翼を生やした少女の姿をしている。その翼と脛の下から先が赤い鱗に覆われている事以外は人間と同じだ。
「メローナはどこ?」
「……会わせるとお思いですか?」
「ちょ!待ってほしいんだよ!アンコちゃん。この子は謎を解きたいだけだって!」
だよロリ犬の言葉に、少女は深いため息をついてからこっちに向かってきた。その手には長く赤い爪が生え揃っている。
「その行為が迷惑と言う話なんです、だよロリ犬さん。別に殺したりするつもりはありません。ただお引き取り願うだけです」
愛歩は必死に考えた。
「あなたも人間?」
少女の歩みが止まる。
「ロリポップ姉妹は人間なんだよね?現にメローナはみどりだって名乗ってた。あなたも逢魔時に拐われてそんな姿にされたの?」
少女はひどく不快そうな顔をする。愛歩は何か間違ったことを言ってしまった気がした。
「名乗らせて頂きましょう。私はアナスターシャ・デビルケーキ。この『喫茶オウマがトキ』の厨房を任せられているパティシエです!こんな姿で申し訳ありませんが、生まれた時からこの姿なのですよ」
アナスターシャは更に自慢げに続けた。
「喫茶店の厨房はお店の心臓部ともいわれています。その心臓を任せられていると言うことは、私が優れている証拠なのですよ」
「でも…子供を誘拐して働かせてるんでしょ?そんなの外道だわ」
「外道…?」
愛歩の言葉に、アナスターシャは殺気を見せながらにじりよってくる。
愛歩は直ぐにでも時を止められるように覚悟を決めた。ここで引いては行けない気がする。
「外道じゃないわ!理由があっただけ!」
アナスターシャの殺気に、だよロリ犬が動いた。愛歩を抱えて大きく跳躍し、距離を取る。
「取り消しなさい!今の言葉!」
アナスターシャの直ぐ隣の空間が滲み、瞳の無い黒い蛇のような物体が出てきた。
「うわぁ、本気なんだよ…」
だよロリ犬が小さく呻く。アナスターシャは淡々と説明した。
「プレデター。空間を喰らう加速符号よ。さっきの言葉を取り消さなかったらこいつをけしかけるから」
「あなたに親はいないの?!」
愛歩の口から咄嗟に出た言葉に、虚を突かれたような表情をする少女。
「親なら子供を心配するはずよ!引き離された親の気持ちが分からないの?!」
愛歩の糾弾に黙ってしまったアナスターシャ。だよロリ犬はハラハラしながらそれを見守っていた。
「私に…」
アナスターシャは唸る。
「私に親の話をするなァ!!!」
蛇が飛び掛かってきた。愛歩は直ぐに時を停止させ、だよロリ犬を引っ張って避けた。
「うわ…」
調理台にボコっと穴ができている。空間を喰らうと言うのはこう言うことらしい。
「もうたくさん!」
愛歩の物でもアナスターシャの物でもだよロリ犬の物でもない声が辺りに響いた。
冷たい目をしたメローナがこちらを見ていた。
「これいじょう厨房で暴れたりしないでちょうだい、あと愛歩さん。ここまで来たならしょうがないわ。話してあげるからいらっしゃい。二人はここを掃除しておいて。いいわね?」
心配そうなだよロリ犬と不快そうな顔で睨んでくるアナスターシャの横を通って、愛歩はメローナの後をついていくのだった。
部屋全体が真紫に発光しているし、空間がネジ曲がっているようにぐにゃぐにゃしている。後からついてきただよロリ犬もビックリした様子なので、これは異常事態なのだろう。
「ようこそ、招かれざるお客様」
部屋の奥から少女の声がした。
「私は客じゃないわ。ちょっと聞きたい事があるだけよ」
「へえ、こちらの迷惑も考えずに押し掛けてきたのですか?軽蔑しますね」
部屋の奥から声の主が現れた。白と黒の翼を生やした少女の姿をしている。その翼と脛の下から先が赤い鱗に覆われている事以外は人間と同じだ。
「メローナはどこ?」
「……会わせるとお思いですか?」
「ちょ!待ってほしいんだよ!アンコちゃん。この子は謎を解きたいだけだって!」
だよロリ犬の言葉に、少女は深いため息をついてからこっちに向かってきた。その手には長く赤い爪が生え揃っている。
「その行為が迷惑と言う話なんです、だよロリ犬さん。別に殺したりするつもりはありません。ただお引き取り願うだけです」
愛歩は必死に考えた。
「あなたも人間?」
少女の歩みが止まる。
「ロリポップ姉妹は人間なんだよね?現にメローナはみどりだって名乗ってた。あなたも逢魔時に拐われてそんな姿にされたの?」
少女はひどく不快そうな顔をする。愛歩は何か間違ったことを言ってしまった気がした。
「名乗らせて頂きましょう。私はアナスターシャ・デビルケーキ。この『喫茶オウマがトキ』の厨房を任せられているパティシエです!こんな姿で申し訳ありませんが、生まれた時からこの姿なのですよ」
アナスターシャは更に自慢げに続けた。
「喫茶店の厨房はお店の心臓部ともいわれています。その心臓を任せられていると言うことは、私が優れている証拠なのですよ」
「でも…子供を誘拐して働かせてるんでしょ?そんなの外道だわ」
「外道…?」
愛歩の言葉に、アナスターシャは殺気を見せながらにじりよってくる。
愛歩は直ぐにでも時を止められるように覚悟を決めた。ここで引いては行けない気がする。
「外道じゃないわ!理由があっただけ!」
アナスターシャの殺気に、だよロリ犬が動いた。愛歩を抱えて大きく跳躍し、距離を取る。
「取り消しなさい!今の言葉!」
アナスターシャの直ぐ隣の空間が滲み、瞳の無い黒い蛇のような物体が出てきた。
「うわぁ、本気なんだよ…」
だよロリ犬が小さく呻く。アナスターシャは淡々と説明した。
「プレデター。空間を喰らう加速符号よ。さっきの言葉を取り消さなかったらこいつをけしかけるから」
「あなたに親はいないの?!」
愛歩の口から咄嗟に出た言葉に、虚を突かれたような表情をする少女。
「親なら子供を心配するはずよ!引き離された親の気持ちが分からないの?!」
愛歩の糾弾に黙ってしまったアナスターシャ。だよロリ犬はハラハラしながらそれを見守っていた。
「私に…」
アナスターシャは唸る。
「私に親の話をするなァ!!!」
蛇が飛び掛かってきた。愛歩は直ぐに時を停止させ、だよロリ犬を引っ張って避けた。
「うわ…」
調理台にボコっと穴ができている。空間を喰らうと言うのはこう言うことらしい。
「もうたくさん!」
愛歩の物でもアナスターシャの物でもだよロリ犬の物でもない声が辺りに響いた。
冷たい目をしたメローナがこちらを見ていた。
「これいじょう厨房で暴れたりしないでちょうだい、あと愛歩さん。ここまで来たならしょうがないわ。話してあげるからいらっしゃい。二人はここを掃除しておいて。いいわね?」
心配そうなだよロリ犬と不快そうな顔で睨んでくるアナスターシャの横を通って、愛歩はメローナの後をついていくのだった。
「さあ、どこから話しましょうか」
愛歩は先程の部屋と比べれば至って平凡な部屋に通された。
部屋全体に染み付いているコーヒーの匂いからして、ここが飲食スペースなのだろう。
並べられたソファーに座るメローナはヤクザの親分のような貫禄があった。
「先ず……そうね、オウマがトキが出来たワケから話しましょうか」
メローナのエメラルド色の瞳が輝いた。
愛歩は先程の部屋と比べれば至って平凡な部屋に通された。
部屋全体に染み付いているコーヒーの匂いからして、ここが飲食スペースなのだろう。
並べられたソファーに座るメローナはヤクザの親分のような貫禄があった。
「先ず……そうね、オウマがトキが出来たワケから話しましょうか」
メローナのエメラルド色の瞳が輝いた。
「狂ってる!」
メローナの話を聞いた愛歩は思わず椅子から立ち上がってメローナを睨み付けた。
「一人の幸せの為に六人も犠牲にするなんて!」
「犠牲…?果たしてこれは犠牲なのかしら?」
「そうでしょう?!犠牲にされた子はもう親と会えないのよ!家に帰れないのよ!友達とも遊べないし見たいと思ってたテレビも見れないし将来やりたいと思ってた夢も奪われたのよ!!」
愛歩はひとしきり叫ぶと、肩で息をした。
メローナはそれを冷静に……冷酷に聞き遂げてから言った。
「もし早生ちゃんが人間だったら、今のあなたはいないわね」
「!!!!」
その言葉に、愛歩は衝撃を受けた。
「あなたは今幸せ?幸せならそれでいいじゃない。プラムちゃんも幸せなんだから。どうしてそれを壊そうとするの?」
「ッッッッ!!!」
メローナのそれは正論だった。愛歩は何も言い返すことが出来ず、ただただ唇を噛み締めた。
「仮にプラムちゃんが記憶を取り戻したとして、もう人間でなくなったあの子がご両親とやっていけると思うの?今までの行動は、ただのあなたのエゴだわ」
更なる追い討ちに、愛歩の唇から血が滲んできた。
「あれ~メローナお姉ちゃん。昼間なのにお客さん?」
突然響いてきた声に、メローナも愛歩も驚いた。
メローナと同じような構造をした人間ではない物が、銀色のお盆をもってこっちを見ている。
頭のてっぺんから爪先まで全身がピンク色に染まった少女。身体と同色の髪の毛先がクルンとカールしている少女。とろけたような跡の残る目の周り。きっと本当の身体が閉じ込められているんだろう。
「お客さん、初めまして!私、プラム! あなたのお名前は?」
「あ…」
この人だと直ぐに分かった。笑った時の顔がお母さんに似ている。
「えっと…」
「あ、そうだ!無花果のタルトをね、アンコ達と作ったの!まだ習いたてだけど、良かったら」
愛歩は目の前の少女を見つめた。この少女は、大石早生の事を覚えていない……この子にその話をしたらどうだろう?思い出すのではないか?お母さん達と再開したいのではないか?
口を開きかけた瞬間、愛歩の脳裏にお母さんの声が響いた。
ーーー危ない事はしないでねーーー
「ッ!」
愛歩は思わず差し出されたお盆を払い除けた。
無花果のタルトが乗ったお皿が派手な音を立てて落ちて割れ、愛歩の手に生クリームがベットリと付着した。
「こんな歪んだお菓子なんていらない!」
愛歩はそう言って駆け出した。
「ちょ、何?!何なのよ!」
後ろから大石早生だった者の声がするが、愛歩は振り返らずに走った。
メローナの話を聞いた愛歩は思わず椅子から立ち上がってメローナを睨み付けた。
「一人の幸せの為に六人も犠牲にするなんて!」
「犠牲…?果たしてこれは犠牲なのかしら?」
「そうでしょう?!犠牲にされた子はもう親と会えないのよ!家に帰れないのよ!友達とも遊べないし見たいと思ってたテレビも見れないし将来やりたいと思ってた夢も奪われたのよ!!」
愛歩はひとしきり叫ぶと、肩で息をした。
メローナはそれを冷静に……冷酷に聞き遂げてから言った。
「もし早生ちゃんが人間だったら、今のあなたはいないわね」
「!!!!」
その言葉に、愛歩は衝撃を受けた。
「あなたは今幸せ?幸せならそれでいいじゃない。プラムちゃんも幸せなんだから。どうしてそれを壊そうとするの?」
「ッッッッ!!!」
メローナのそれは正論だった。愛歩は何も言い返すことが出来ず、ただただ唇を噛み締めた。
「仮にプラムちゃんが記憶を取り戻したとして、もう人間でなくなったあの子がご両親とやっていけると思うの?今までの行動は、ただのあなたのエゴだわ」
更なる追い討ちに、愛歩の唇から血が滲んできた。
「あれ~メローナお姉ちゃん。昼間なのにお客さん?」
突然響いてきた声に、メローナも愛歩も驚いた。
メローナと同じような構造をした人間ではない物が、銀色のお盆をもってこっちを見ている。
頭のてっぺんから爪先まで全身がピンク色に染まった少女。身体と同色の髪の毛先がクルンとカールしている少女。とろけたような跡の残る目の周り。きっと本当の身体が閉じ込められているんだろう。
「お客さん、初めまして!私、プラム! あなたのお名前は?」
「あ…」
この人だと直ぐに分かった。笑った時の顔がお母さんに似ている。
「えっと…」
「あ、そうだ!無花果のタルトをね、アンコ達と作ったの!まだ習いたてだけど、良かったら」
愛歩は目の前の少女を見つめた。この少女は、大石早生の事を覚えていない……この子にその話をしたらどうだろう?思い出すのではないか?お母さん達と再開したいのではないか?
口を開きかけた瞬間、愛歩の脳裏にお母さんの声が響いた。
ーーー危ない事はしないでねーーー
「ッ!」
愛歩は思わず差し出されたお盆を払い除けた。
無花果のタルトが乗ったお皿が派手な音を立てて落ちて割れ、愛歩の手に生クリームがベットリと付着した。
「こんな歪んだお菓子なんていらない!」
愛歩はそう言って駆け出した。
「ちょ、何?!何なのよ!」
後ろから大石早生だった者の声がするが、愛歩は振り返らずに走った。
「……あ、あれ?」
気が付くと見慣れた天井。そして聞き飽きたエアコンの音。
「……夢?」
薄暗くなっている外を見て、愛歩は呟く。ふと手に違和感を感じ、視線をはずすと…
「あ…」
愛歩の手には生クリームがベットリとついていた。
コンコン……
ノックの音に顔を上げると、ベランダへと繋がる窓に見知った影が見えたのだった。
気が付くと見慣れた天井。そして聞き飽きたエアコンの音。
「……夢?」
薄暗くなっている外を見て、愛歩は呟く。ふと手に違和感を感じ、視線をはずすと…
「あ…」
愛歩の手には生クリームがベットリとついていた。
コンコン……
ノックの音に顔を上げると、ベランダへと繋がる窓に見知った影が見えたのだった。