疾走る。疾走る。疾走る。
木々を掻き分け、時に薙ぎ倒し、
岩山を乗り越え、時に打ち砕き、
只々前へと疾走する。
岩山を乗り越え、時に打ち砕き、
只々前へと疾走する。
流れてくる、濃い血の匂い。
これは間違いなく、人間のもの。
怪我や事故の類ではない。
これは間違いなく、人間のもの。
怪我や事故の類ではない。
何者かが、人を殺めておる。
それも1人ではない。何人もの人間の、
混ざり合った「中身」の匂い。
むせ返りそうなその匂いの只中に、
「ソレ」はいた。
それも1人ではない。何人もの人間の、
混ざり合った「中身」の匂い。
むせ返りそうなその匂いの只中に、
「ソレ」はいた。
「…………なんだ、貴様。
その身のこなし、人ではないな。
血の匂いに引き寄せられたのか?
愚かな。ここは、私の狩場だぞ」
その身のこなし、人ではないな。
血の匂いに引き寄せられたのか?
愚かな。ここは、私の狩場だぞ」
夥しい量の血に塗れた、女。
真っ赤な鮮血を浴びて尚、さらに緋き髪。
そこらに落ちていた布切れを、
ただ纏っただけのような服。
今となっては元の色など分かりようもないが、
返り血によって赤黒く染まったソレは、
どこか美しさすら感じる。
真っ赤な鮮血を浴びて尚、さらに緋き髪。
そこらに落ちていた布切れを、
ただ纏っただけのような服。
今となっては元の色など分かりようもないが、
返り血によって赤黒く染まったソレは、
どこか美しさすら感じる。
「狩場、じゃと?カカカ、笑わせる。
貴様"外"の者じゃろう?
昨日今日こっちに来たばかりの輩が
どの面下げて────」
貴様"外"の者じゃろう?
昨日今日こっちに来たばかりの輩が
どの面下げて────」
視界が、反転する。
投げ飛ばされた?
否。
これは、首を落とされた感覚。
ウム。
こちらが息吐く間も無く攻撃を仕掛けて来るとは。
面白いの。
投げ飛ばされた?
否。
これは、首を落とされた感覚。
ウム。
こちらが息吐く間も無く攻撃を仕掛けて来るとは。
面白いの。
「フン、他愛も無い。所詮日ノ本の化生など
この程度の…………」
「面白い。面白いぞ、貴様!
首を切られるなぞ、二百年ぶりではないか?
カカカ、血が騒ぐわ!!」
「なっ…………!?貴様、
どういう身体の構造をしている……!?」
「なぁにを驚いておる。人ならざるモノなら
首を切り落とした程度で、よっこらせ……
死ぬ事なぞあるまいよ」
落とされた自分の首を拾い上げ、ぐちゃりとくっつける。
ふむ、ま、三秒もあれば馴染むじゃろ。
この程度の…………」
「面白い。面白いぞ、貴様!
首を切られるなぞ、二百年ぶりではないか?
カカカ、血が騒ぐわ!!」
「なっ…………!?貴様、
どういう身体の構造をしている……!?」
「なぁにを驚いておる。人ならざるモノなら
首を切り落とした程度で、よっこらせ……
死ぬ事なぞあるまいよ」
落とされた自分の首を拾い上げ、ぐちゃりとくっつける。
ふむ、ま、三秒もあれば馴染むじゃろ。
「只の猫又と侮ったか。
貴様、何が『混じっている』?」
「…………ふ、ククク……カカカカカ!!
自分が何者かなぞ、もう何百年も前に
忘れたわ!そんなものは些末事じゃ。
のぅ異邦のモノよ。
海の外ではどうなっておるかなぞ知らんが、
此処では新参者は土着の者に挨拶するのが礼儀じゃ。
頭を下げんか。」
「ッ!!!」
貴様、何が『混じっている』?」
「…………ふ、ククク……カカカカカ!!
自分が何者かなぞ、もう何百年も前に
忘れたわ!そんなものは些末事じゃ。
のぅ異邦のモノよ。
海の外ではどうなっておるかなぞ知らんが、
此処では新参者は土着の者に挨拶するのが礼儀じゃ。
頭を下げんか。」
「ッ!!!」
様子見に、強めの『気』を発して牽制する。
戦い慣れしておるヤツのようじゃから、
この『気』を見ればこちらの強さもある程度
想像が付くであろうが……さて。
戦い慣れしておるヤツのようじゃから、
この『気』を見ればこちらの強さもある程度
想像が付くであろうが……さて。
「ッ……舐めるなああぁっ!!!」
多少は気圧されたようじゃが、
それでも尚向かってくるか。良い良い。
少し遊んでやるとしよう。
多少は気圧されたようじゃが、
それでも尚向かってくるか。良い良い。
少し遊んでやるとしよう。
「ふっ!!」
硬化させた襟巻を伸ばし、剣のように突く。
しかし奴はそれを読んだ上で、
既のところで回避しそのまま攻撃に転ずる。
ウム、場慣れしておるわ。
硬化させた襟巻を伸ばし、剣のように突く。
しかし奴はそれを読んだ上で、
既のところで回避しそのまま攻撃に転ずる。
ウム、場慣れしておるわ。
ガキィィィン!!!
爪と爪がぶつかり合い、火花が散る。
「ほぉーう、爪もよく手入れしてあるのぉ。
よく斬れそうじゃ」
「貴様、ふざけているのか……!!」
「カカ、ワシはいつでも本気じゃよ。
ホレ、足元がお留守じゃぞ?」
ガッ、と足払いをして体勢を崩す。
膝から崩れた事で奴の頭の位置が、
全力で殴るのにちょうど良いところに来る。
「すこぉしキツイの行くぞ?」
爪と爪がぶつかり合い、火花が散る。
「ほぉーう、爪もよく手入れしてあるのぉ。
よく斬れそうじゃ」
「貴様、ふざけているのか……!!」
「カカ、ワシはいつでも本気じゃよ。
ホレ、足元がお留守じゃぞ?」
ガッ、と足払いをして体勢を崩す。
膝から崩れた事で奴の頭の位置が、
全力で殴るのにちょうど良いところに来る。
「すこぉしキツイの行くぞ?」
ドッ!!!!!!
「ガッ…………!!!」
諸に顔面に拳を喰らい、
奴の身体はそのまま吹き飛んでむき出しの岩盤に
叩きつけられる。
「…………くっ…………!おの、れ……!!」
「ほぅ、今のを食らってもまだ意識を保っておるか。
なかなかやるのぉ」
「いつまで、格上のつもりでいる…………
化け猫如きが!!!」
諸に顔面に拳を喰らい、
奴の身体はそのまま吹き飛んでむき出しの岩盤に
叩きつけられる。
「…………くっ…………!おの、れ……!!」
「ほぅ、今のを食らってもまだ意識を保っておるか。
なかなかやるのぉ」
「いつまで、格上のつもりでいる…………
化け猫如きが!!!」
ドゥッ!!!
「ぬっ……!」
あちらも『気』を放って来る。
緋く、禍々しい殺気。
それでこそ、闘りがいがあると言うもの。
「ぬっ……!」
あちらも『気』を放って来る。
緋く、禍々しい殺気。
それでこそ、闘りがいがあると言うもの。
殺気と殺気がぶつかり合う。
鮮血が弾け、
火花が散る。
死力を尽くし、
己が力を示さんとする。
これが妖の戦い。
永き時を生きる醍醐味。
これこそが、妖怪の本懐よ!!
鮮血が弾け、
火花が散る。
死力を尽くし、
己が力を示さんとする。
これが妖の戦い。
永き時を生きる醍醐味。
これこそが、妖怪の本懐よ!!
……………………
………………………………
…………………………………………
時は、貞応二年。
西暦に直せば、千二百二十三年。
後の世で言う、鎌倉時代の出来事。
始まりは、よく出入りしておった村の民に、
ある頼まれごとをした事からじゃった。
「魔猫様、おねげぇします!
わしらの村や隣村の仲間が、もう何人もやられとるんです。こんな恐ろしい事、獣や人間の仕業じゃありやせん。
間違いなく、妖の仕業でさぁ!」
「うーむ、そうは言うがのぉ。
ここらにそんな派手な事をしでかす妖なんぞ、
長いことおらんかったじゃろ?
なんでまた急に現れたんじゃ?」
「なんでも、噂じゃそいつは
外の国の言葉を話すとかなんとか……。
もしかしたら、海の外からやって来た
妖なのかも知れやせん」
西暦に直せば、千二百二十三年。
後の世で言う、鎌倉時代の出来事。
始まりは、よく出入りしておった村の民に、
ある頼まれごとをした事からじゃった。
「魔猫様、おねげぇします!
わしらの村や隣村の仲間が、もう何人もやられとるんです。こんな恐ろしい事、獣や人間の仕業じゃありやせん。
間違いなく、妖の仕業でさぁ!」
「うーむ、そうは言うがのぉ。
ここらにそんな派手な事をしでかす妖なんぞ、
長いことおらんかったじゃろ?
なんでまた急に現れたんじゃ?」
「なんでも、噂じゃそいつは
外の国の言葉を話すとかなんとか……。
もしかしたら、海の外からやって来た
妖なのかも知れやせん」
ポリポリと鳥の骨を食べていた手を止める。
「……ほぅ。外の世界から来た妖のぅ。
面白いではないか。興味が湧いた。
ソイツの正体を突き止めてやろう。なに、
人を食らうと言うのなら、血の匂いを辿れば
自ずと辿り着けよう。
カカカ、血湧き肉躍るわい」
「……ほぅ。外の世界から来た妖のぅ。
面白いではないか。興味が湧いた。
ソイツの正体を突き止めてやろう。なに、
人を食らうと言うのなら、血の匂いを辿れば
自ずと辿り着けよう。
カカカ、血湧き肉躍るわい」
村からほど近い、鬱蒼と茂った森の中を駆け抜ける。
時刻はまだ昼前でありながら、生い茂った葉の影に隠れて
陽の光はほとんど差し込まず、まるで夜の帳が下りたよう。
妖のワシでなければ、前を見る事すら難しいやも知れぬ。
そんな暗い森の中をひたすら進んで行く。
時刻はまだ昼前でありながら、生い茂った葉の影に隠れて
陽の光はほとんど差し込まず、まるで夜の帳が下りたよう。
妖のワシでなければ、前を見る事すら難しいやも知れぬ。
そんな暗い森の中をひたすら進んで行く。
何度か見た大きな塩の水たまり……海の外には、
まだワシの知らぬ世界があるという。
行った事はないが、興味はある。
この日ノ本の国をつまらぬと思った事はないが…………
外の世界にはどんな景色が広がっておるのか。
どんな妖がいて、どんな力を使うのか。
一度見てみたい。
話だけでも、聞いてみたいものじゃ。
まだワシの知らぬ世界があるという。
行った事はないが、興味はある。
この日ノ本の国をつまらぬと思った事はないが…………
外の世界にはどんな景色が広がっておるのか。
どんな妖がいて、どんな力を使うのか。
一度見てみたい。
話だけでも、聞いてみたいものじゃ。
……………………
………………………………
…………………………………………
「……………………」
「………………おい、生きとるか?
ワシの身体をここまでバラバラにしておいて、
謝罪の一言もなしにくたばるなぞ、許さんぞ」
「……………………勝手に殺すな。
こっちももう身体が動かんから休んでいただけだ。
ここまでしても死なんとは貴様、一体何をどうすれば
殺せるんだ?」
「カカカ、さぁての。
ワシもどうやったら自分が死ぬのか、
だんだん分からなくなって来たわ。
ま、今のところ死にたいとも思わんから別に良いがの」
「……ふん、訳の分からんやつだ。
殺しても死なんのなら、殺そうとするだけ
無駄ではないか」
「………………おい、生きとるか?
ワシの身体をここまでバラバラにしておいて、
謝罪の一言もなしにくたばるなぞ、許さんぞ」
「……………………勝手に殺すな。
こっちももう身体が動かんから休んでいただけだ。
ここまでしても死なんとは貴様、一体何をどうすれば
殺せるんだ?」
「カカカ、さぁての。
ワシもどうやったら自分が死ぬのか、
だんだん分からなくなって来たわ。
ま、今のところ死にたいとも思わんから別に良いがの」
「……ふん、訳の分からんやつだ。
殺しても死なんのなら、殺そうとするだけ
無駄ではないか」
誰のものとも知れぬ肉片が飛び散る血溜まりの中で、まだ名も知らぬ妖とワシは不思議と意気投合してしまった。
───それがワシと神楽坂の、
最初の出会いであった。
最初の出会いであった。