概要
戦闘に至るまでの背景
ローヴァー国を攻略し、重要な港を手に入れた
六界連合軍は、部隊を二手に別け、陸路と海路から同時侵攻を開始した。
海路部隊が目指したのは、
ベレル国と
ローヴァー国を結ぶ海路の重要拠点グラドリア湾であった。
様々な海路を持ち、優れた船舶技術を持つ
ローヴァー国と違い、
ベレル国は貿易船と最低限の艦隊しか備えていなかった。
その為、連合軍が
ローヴァー国から調達した艦隊を使って南下する情報を早いうちに手に入れていたが、艦隊を派遣しての海戦を避け、上陸してくる敵をグラドリア湾で迎え撃つこととした。
上陸作戦とは、篭城戦と同じく、三倍の兵力がいてやっと互角と呼ばれる攻撃側にとって厳しい戦場である。兵力で勝っているとはいえ、犠牲をなるべく抑える為に、連合軍は
サヌア傭兵団を密かに別働部隊として派遣。
海と陸、二つの部隊のタイミングが決戦の鍵を握ろうとしていた。
両軍の戦力
戦闘経緯
エリシアの提案により、
ベレル国最大の貿易港グラドリアへ正面から攻め込むと同時に、
サヌアを中心とした別働隊を闇夜に乗じてエクスデリア港へ派遣した。
彼ら隠密少数部隊は、警戒の薄いエクスデリア港から密かに上陸し、グラドリア港へ強襲を仕掛ける。
想定しなかった別方向からの攻撃に
ベレル国軍が混乱したところで主力部隊が正面から港へ乗り込むというのが基本戦術であった。
別働隊出陣と同時に主力部隊も港へ向かい接近、攻めると見せては退く擬態を行い、
ベレル国軍はこれに吊られて、別働隊に気づくことなく主力部隊と対峙を続けた。
だが、
ベレル国も手をこまねいていた訳ではなく、近隣の海賊に金を払い連合軍艦隊への強襲を依頼。
戦力差も判らず明確な戦術ももたない海賊が無謀な突撃を仕掛けるが、
レイスが用意しておいた海上に油を撒いてそれに火をつける海上火責め部隊により壊滅。
この海賊の奇襲は、
ベレル国としては使い捨て部隊のつもりであったが、別働隊を派遣していた連合軍としては、敵にも相当の策略があるのではと警戒、特に今回の作戦は隠密上陸部隊とあらかじめ打ち合わせておいた時間通りに双方が動かなければならないものであり、
エリシアの様な智謀に優れた将ほど疑心暗鬼の罠にかかっていた。
同時刻、別働隊は
隠密である
シーナと
クルスが先導して密かにグラドリア港へ接近していたが、戦術や智謀ではなく「戦士の勘」によりこれを打破した
ルーインにより、足止めを受けていた。
主力部隊である艦隊は、奇襲部隊が敵陣を強襲するまでなるべく敵の攻撃を受け流す様に言われていたが、
ルーインの妨害によって強襲が一向に始まらず、防御に徹していては自分達が倒されるところまで追い詰められた為ついに攻勢に転じ、最も避けたかった消耗戦へともつれ込んだ。
サヌアが
ルーインと一騎打ちを繰り広げる間に、
ロリスザードが別働隊を率いて一気に進軍、ようやく強襲作戦がはじまり、作戦通り
ベレル国軍に動揺が走るが、戦いは予想外の方向へと傾いていく。
確かに
ベレル国の艦隊設備は、
ローヴァー国のそれより劣っていたが、もともとの基礎技術が既に高かったこともあり、そこまで圧倒できるものでもなかった。
そして、上陸戦という困難な戦場は、連合軍に予想以上の損害を出し、突出した第15部隊にいたっては既に全滅状態となり、後続の部隊も次々と損害を出していた。
これは、援軍として駐屯していた
ルーイン、
ガイ、
ローラルの奮戦もあったが、祖国防衛という明確な理由があるだけ、
ベレル国軍の士気が高かった事もある。
サヌア達が苦心して実行した後方霍乱作戦も、一時の効果を出したものの、戦局を決める決定打とはならず、泥沼の戦いは二日目に突入し、いまだに連合軍は足場を確保することもできず、海岸線で損害を積み重ねていた。
そして、
サヌア達の存在を知られてしまっ為、別働隊の第二陣を警戒した
ルーインの指示で、
ベレル国軍の数部隊がすぐさまエクスデリア港に派遣される。
連合軍は、急遽エクスデリア港へ第二陣奇襲部隊を差し向けるが、
ベレル国軍の必死の防衛によって食い止められ、逆に兵力を分散させる結果となってしまう。
しかし、最初の強襲後、少数ゆえに身を潜めることに成功していた
サヌア傭兵団は、
ベレル国軍の旗を持って味方のふりをして海岸線まで移動すると、再び強襲を仕掛けた。
この攻撃に呼応して主力部隊が何かアクションを起こすことを期待してのことだが、本隊が動きをみせなければ、少数の傭兵団は一瞬にして敵陣で孤立、包囲殲滅されるというあまりにも危険すぎる賭けであった。
サヌア、
ロリスザード、
バルザック達の、危険な賭けによる突撃により、
ガイの部隊が混乱し、
サヌアによって
ガイは討ち取られた。
グラドリアの港攻防戦は、既に三日目に突入していた。
海の水が真っ赤になったと言われたこの血塗れの上陸戦、互いに策を使い果たし、あとは力と力がぶつかるだけの、連合軍としては想定していた範囲内で最もとりたくなかった消耗戦に突入していた。
一方、最初から選択の余地がなかった
ベレル国軍は、開き直りとも言える体制が逆に功を奏して、予想以上の健闘を見せていた。
それは、勝利後の事を考えながら戦わなければならない攻撃側と、敗北すれば全てを失うというわかりやすい状態の防衛側が起こした、逆転現象とも呼べる激戦であった。
エリシアは、敵後方で何らかの混乱が生じたことを察すると、その正体を確かるより先に全軍に突撃を命じた。
その際
エリシアは、「このまま攻めきれずに撤退することになれば、私の名前は「味方殺しの無能な将」として戦史に残るでしょう。このまま攻め切って勝利を収めれば、私の名前は「呆れるほどの物量で力押ししただけの将」として戦史に残るでしょう。どちらに転んでも、この戦いの勝者と呼べる者がどちらかは明白。それでも、この港を占拠しなければ……そこだけは譲れない最後の一線」と語ったという。
この最後の猛攻により、
ベレル国軍の奮闘も限界点を越え、各所で上陸を許し一気に崩壊へと向かっていく。
ベレル国軍の兵士は奮戦したものの良将には恵まれず、兵士達は
シャクティアナ帝国からの援軍である
ルーインを信頼し、撤退の命令は
ルーインに発してもらったほどである。
戦いの結末
グラドリア港は陥落し、連合軍は
ベレル国に上陸を果たした。
その日の夜、
シャクティアナ帝国援軍の一人であった
コズエが、連合軍首脳部を狙って深夜に強襲を仕掛けたが、失敗して討ち取られている。その為、
シャクティアナ帝国本国において、
ガイ、
コズエの戦死を
ライプリッヒが戦意高揚のプロパガンダとして利用した。
戦後、「味方の屍骸が海を埋め尽くし、徒歩で海岸にまで到達できた」と、誇張された伝説まで流布されることとなる
ルーイガルド侵攻作戦最大の上陸戦「グラドリア上陸作戦」は、こうして終わりを告げたが、その伝説は「誇張ではあっても虚偽というわけではない」、参戦した兵士達は後にそう語ることとなる。
なお、序盤の戦いでここまでの消耗戦を行ったにしては、その後の進軍に鈍りがなかったことから、
ローヴァー国の艦隊を調達したとき、兵士も同時に多く雇っていた(
六界連合軍は、金などの鉱物の価値は共通だったことを事前に調べていたので、軍資金として大量の金を持ち込んでいた)ため、この戦いでの犠牲は主に
ローヴァー国の兵士であったことが近年の研究で判明した。
最終更新:2024年08月20日 03:40