歯車(小説)

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歯車(小説) - (2024/11/12 (火) 13:23:15) の1つ前との変更点

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&font(#6495ED){登録日}:2024/02/23 Fri 17:17:30 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 10 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- 「歯車」とは、[[芥川龍之介]]の短編小説で、「河童」「或阿呆の一生」などと並ぶ彼の晩年における代表作の1つ。 作成期間は1927年の3月末から4月初めまでの約2週間で、彼が睡眠薬の多量摂取で自殺する数ヶ月前の作品となる。 全6章からなるが、生前に発表されたのは第1章のみで残りの5章は遺稿として発見されている。 芥川本人の私小説に近い内容&footnote(実際語り手は劇中で「A先生」と言う名称で呼ばれ、かつ「侏儒の言葉」「地獄変」などの自分の作品に触れる部分がある。)になっており、劇的な出来事は特に起こらず、所謂「銀ブラ」と言われる東京銀座やその周辺を歩き回った時の語り手の体験などを淡々と語る様な形で展開しつつ、所々に彼を悩ませていた幻覚などの症状とそれによって精神が疲弊し、追い詰められていく様が描写されているのが特徴。 *あらすじ 各章ごとに内容を折りたたみ記載する。 一:レエン・コオト #openclose(show=ネタバレ注意){ 知人の結婚式に参加する為、東京へ向かう語り手。 始め汽車の停車場へ向かうために自動車に乗っていたが、乗り合わせていたある理髪店の店主から妙な噂を聞く。 それは「レエン・コオトを着た幽霊が雨の日に出現する」というものだった。 語り手は適当に話を合わせるだけで本気にしていなかった。 が、停車場につくなり&bold(){いきなりレエン・コオトを着た男}を目撃。 しかしここでも語り手はあまり気には留めずに汽車に乗り、その後省線電車に乗り換え。 その最中に偶然知り合いであるT君と再会し、暫くとりとめのない会話をするが、ここで&bold(){またしてもレエン・コオトを着た男を見かけることとなる}。 流石に気味悪く思い始めた語り手だがT君は気付くこともなく話しかけてくる。 その内にその人物もいつの間にかいなくなっていた。 最終的に電車は東京に到着。 泊まり先のホテルに向かって歩を進めるが、ここで彼の眼前に&bold(){半透明の歯車が回り始めている}事に気が付く。 尤もこれ自体は彼にとって初めての体験という訳ではなく、過去に医者に診てもらった事もあるため、特段驚きはしなかった。 歯車は目を閉じても瞼の中で回り続け、しばらくすれば消えてしまうが今度は激しい頭痛に襲われる。 今回もその例に漏れず、ホテルに到着した際には頭痛に襲われて気持ちは落ち込んでいた。 それでも友人の結婚式には無事参加でき、そのままホテルにて一夜を過ごすことになったが、何の気なしにホテルの中を歩き回り、ロビーにて腰かけようとするが、&bold(){近くの椅子にレエン・コオトがかけられている}事に気が付いて慌ててそこから離れる。 自室に戻って短編の執筆にとりかかる語り手だったが、突然電話が鳴り響く。 かけてきた相手は姪。 内容は彼女の父親……つまり語り手の義兄が鉄道自殺したとの連絡だった。 &font(#ff0000){&bold(){しかもその死体には何故か季節外れのレエン・コオトがかぶせられていたのだという……。}} } 二:復讐 #openclose(show=ネタバレ注意){ 翌朝も語り手はホテルで小説の執筆を進めるが、脳裏に死んだ義兄のことがチラついて筆はなかなか進まず、ついには執筆を中断して姉のもとに向かうことにした。 その中でもホテルの中、外での移動する際に見た何気ない景色、通りかかりに話しかけてくる語り手のファンを自称する青年の言葉、それら1つ1つが彼の気持ちを不快に、暗鬱にさせていく……。 姉とは今後の生活の為の金に関する話を行い、売りに出すものについて話をしていたが、その中にあった義兄の自画像を見て彼は不気味さを覚える。 というのも、轢死と言う凄惨な死に方の為、彼の遺体は損壊度が高く口ひげ部分ぐらいしか形が判別できる箇所がなかったのだが、&bold(){自画像の側は逆に口の周りの部分がぼんやりしていた}のだ。 話を纏めて姉の家を出た語り手はひょんなことから通りがかりの会社員の呟く「イライラしてね」と言う言葉を聞き、そこから「Tantalizing(イライラする)→Tantalus(タンタルス&footnote(ゼウスの子。傲慢なふるまいを起こして地獄へ落とされている。)→Inferno(地獄)」と連想する。 青山の精神病院へ寄りつつ、再びホテルへ戻るとまたしてもレエン・コオトを着た男を目撃。 不気味に思い、来た道を引き返して銀座の道に向かった。 たまたま立ち寄った本屋の「&ruby(ギリシャ){希臘}神話」と言う本に目を通すが、その中の #center(){&bold(){一番偉いツォイスの神でも復讐の神にはかないません。}} と言う一節に彼の心はひどく打ちのめされ、&bold(){ついには自身の背後に復讐の神の存在を感じ始めてしまう……}。 } 三:夜 #openclose(show=ネタバレ注意){ 丸善へと足を運び、何冊か本を手に取って読む語り手。 そのように過ごして再びホテルに戻ったのは夜10時ごろだったが、その時にもふと立ち寄ったカフェで見たナポレオンの肖像やホテル内でふと出会った先輩彫刻家との会話などから語り手本人の不安は広がっていた。 自室に戻った彼の目の前には例の歯車が広がり始めており、語り手は薬を飲んでぐっすり寝ようとする。 そしてここで彼はこんな夢を見た。 場所はたくさんの子供たちが遊ぶプール。 彼はそこから立ち去る様に移動するが、自身を「おとうさん」と呼ぶ声に止められる。 そこで簡単に話をして語り手は先へ進んだ。 場所は変わって汽車のプラットホーム。 乗り込んだ汽車の中を移動していると、寝台車内にある女性が自分を見ていることに気が付く。 &font(#ff0000){語り手はそれが自分に対する復讐の神、かつとある狂人の娘}であると確信した……。 夢から覚めた語り手は慌ててロビーそばまでやって来た。時刻は深夜3時半。 語り手はそこで朝まで待つことを決めた。 そこにレエン・コオトはなく、アメリカ人と思われる女性が緑のドレスを着て本を読んでいた……。 } 四:まだ? #openclose(show=ネタバレ注意){ 短編の書き上げが完了し、開放感に浸る語り手。 気分転換に再び銀座へと出ていく。 書店で買った本、カフェでの客のやり取り、思いがけず合った旧友との交流、その1つ1つが彼に様々な感情を想起させ再びホテルの部屋に戻った時には小説を書く筆が非常によく進んだ。 が、それもあくまで一時的な物で数時間もするとたちまち筆の進みは止まってしまった。 そんな状態の時にかかってきた電話。 話自体は特段記憶に残る様な物ではなかったものの、話の中に出てきた「モオル」と言う単語に引っかかりを覚える。 Mole(モグラ)と言う響きにもどこか不快感を覚えるが、そこから綴りを少し変えた「La mort&footnote(フランス語で「死神」を意味する。)」という連想ワードが浮かび上がった事で語り手は戦慄。 義兄に死がもたらされたのと同じ様に、自分にも死が迫っているように感じられたのだ。 空恐ろしい妄想に至り、ふと部屋にある鏡に自分の姿を見る語り手。 そうしている内に彼の中に「第二の僕」、所謂ドッペルゲンガーの存在が浮かび上がる。 語り手本人はそれ自身を見た事はないが、他の人が「第二の僕」を見たことがあると言う事例が数件聞いている。 今痛切に感じている「死」の影。 それは自分に来るのか、それとも「第二の僕」に来るのか。 辛い想像をめぐらせた末、語り手は再び小説を書くため、机に戻るのだった。 } 五:赤光 #openclose(show=ネタバレ注意){ 日の光に不快感を感じながら、語り手は小説を書き続けていたが、ある夜に往来へと出て聖書会社に勤めるとある老人のもとに訪れる。 互いを知った仲である2人は色々な話を進めていったが、人生の闇から光を見出せない語り手と、同じ闇の中でも光を信仰して生きる老人との間で溝を感じさせていった。 その後彼の部屋にあった「罪と罰」の本を貸してもらい、再び往来に出るが、人の多さや電灯の明るさなどが語り手の神経をささくれ立たせた。 そしてたまたま目に入ったとある店の「タイヤに翼が付いた商標」の看板を見て、人造の翼で空を飛ぼうとして、翼が太陽で溶けて墜落死したイカロスを連想し、不安を覚える。 ホテルに戻ってしばらくした後、語り手は給仕から自分あての手紙を受け取る。 その中には甥からの家庭に関する手紙も含まれていたが、終わりに「赤光&footnote(斎藤茂吉の歌集。なお、彼は芥川龍之介主治医も担当している。)」の再販を送る旨の話が出て、何者かからの冷笑を感じたことで逃げるように部屋を出た。 ロビーまで来てタバコを吸おうとするがその時の銘柄は&bold(){エエア・シップ(飛行機)}。 先ほどまで不安を抱かせたイカロスを嫌でもまた想起させるものだった。 別の銘柄がないか給仕に聞いてもあるのはエエア・シップのみ。 諦めて部屋に戻り、借りた「罪と罰」を読もうとするが、製本の綴じ間違いのせいなのか、&bold(){たまたま開いたページには「カラマーゾフの兄弟」の話が、しかも登場人物が悪魔に苦しめられる様が書かれていた。} たまらず本を閉じた語り手は苦痛から逃れるべく、小説を書き始めた。 必死だった事もあり筆は進み、原稿用紙10枚分もの成果が出来上がった。 その後は疲れから眠りについたのだが、不意に聞こえた「le diable est mort&footnote(フランス語で「悪魔は死んだ」を意味する。)」と言う言葉に慌てて飛び起きた。 これまでに見えてきた苦痛に満ちた妄想や幻覚の数々や、自身の中で不意に沸いた強襲の念から、遂に語り手は東京を離れ、家へ帰る決心をするのだった。 } 六:飛行機 #openclose(show=ネタバレ注意){ 東海道線のある停車場から自動車を飛ばして家へ帰る語り手。 運転手がレエン・コオトをかけている事に、行く前とは打って変わって気味悪さを覚え、なるべく直視しないよう窓の外に目をやっていた。 家に戻ってからは数日間は妻子との時間や睡眠薬の為に平和な時間を過ごすことが出来た。 そんなある日、語り手は義両親の家へ訪れ、義母や義弟と世間話をしていると、近くから轟音と共に飛行機が飛び立つのを目撃。 義両親宅を出た後、飛行機のことやホテルで出たエエア・シップの件などが語り手に疑問を抱かせ、そして気持ちを沈ませていった。 その後も歩き続ける語り手だが、その先で絞首台を思わせるブランコの無いブランコ台、以前あったはずの西洋家屋の跡地、死んだ義兄を思わせる風貌の男、そして半ば腐乱したモグラの死骸など、不安を掻き立てるものを次々と目撃。 そして果てには&bold(){例の歯車が再び見え始め、語り手はついに自身の最期を頭の中で描き始めた……。} その後場所は変わって語り手の自宅。 襲ってくる頭痛に苦しみながら二階の自室で仰向けになる語り手。 するといつの間にか瞼の裏に「銀色の羽を鱗のように畳んだ翼」が見え始めている事に気が付く。それは歯車同様天井裏に実際にある物でなく、彼の目の中にある物として彼の視界に映っていた。 翼について考えている語り手だったが、ここで突然妻が慌ててやってきた事に気が付く。 驚き声をかけるが、妻は…… #center(){&font(#ff0000){いえ、どうもしないのです。……}} #center(){&font(#ff0000){どうもした訣ではないのですけれどもね、}} #center(){&font(#ff0000){&bold(){唯 何 だ か お 父 さ ん が 死 ん で し ま い そ うな 気 が し た も の で す か ら 。……}}} それは僕の一生の中でも最も恐しい経験だった。 ――僕はもうこの先を描き続ける力を持っていない。 こう云う気持ちの中に生きているのは何とも言われない苦痛である。 &bold(){誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?} } *「歯車」の幻覚 本作のタイトルであり、かつ劇中で何度か語り手が幻覚として目撃している「歯車」だが、これは「&bold(){閃輝暗点}」と呼ばれる視覚の異常であるとされている。 閃輝暗点は片頭痛の前兆として起きる事が多いとされており、具体的には視界内にジグザグ状の幾何学模様が光りながら出現。 左右どちらかの方向に回るようにしながら拡大していき、視界の多くの範囲を遮ってしまい、その後数分~1時間ほどで消えていくといった一連の症状が発生し、消えた後に片頭痛が起きていく。 この視界に映る幾何学模様を「歯車」に見立てると、本編内で語り手が体験している症状と完全に一致する。 実際、症状に関する記載が具体的にある事から、第104回の医師国家試験にて「歯車」本編の記述が抜き出され、その内容から判断できる原因を解答させると言う問題にも使用されている。 *余談 ・元々のタイトルは「ソドムの夜」と言う名前で、後に「東京の夜」→「夜」と名前が変わっていったのだが、最終的に佐藤春夫に進められる形で「歯車」と言う題名になったという経緯がある。 ・レエン・コオトをかけた状態で鉄道自殺した語り手の義兄だが、実際に芥川の義兄、西川豊が保険金詐欺並びに放火の嫌疑をかけられて鉄道自殺をしており、芥川は彼の借金や家族の面倒を見なければならなくなったことで精神面に大きなダメージを受けたとされている。なお、「レエン・コオトを着て死んでいた」という部分については芥川の創作とされている。 ・ラストに記載される語り手と妻とのやり取りについても同様にほぼ事実であったとされている事が妻の芥川文によって明らかになっている。 追記・修正は目に映る歯車に悩まされないようにしながらお願いいたします。 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,9) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 歯車の一族(遊戯王SEVENS) -- 名無しさん (2024-11-07 13:19:58) - アンパンマンとはぐるまのくに(それいけ!アンパンマン) -- 名無しさん (2024-11-07 15:10:42) - はぐるまが上城くん(遊戯王ゴーラッシュ!!) -- 名無しさん (2024-11-12 12:15:24) #comment(striction) #areaedit(end) }
&font(#6495ED){登録日}:2024/02/23 Fri 17:17:30 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 10 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- 「歯車」とは、[[芥川龍之介]]の短編小説で、「河童」「或阿呆の一生」などと並ぶ彼の晩年における代表作の1つ。 作成期間は1927年の3月末から4月初めまでの約2週間で、彼が睡眠薬の多量摂取で自殺する数ヶ月前の作品となる。 全6章からなるが、生前に発表されたのは第1章のみで残りの5章は遺稿として発見されている。 芥川本人の私小説に近い内容&footnote(実際語り手は劇中で「A先生」と言う名称で呼ばれ、かつ「侏儒の言葉」「地獄変」などの自分の作品に触れる部分がある。)になっており、劇的な出来事は特に起こらず、所謂「銀ブラ」と言われる東京銀座やその周辺を歩き回った時の語り手の体験などを淡々と語る様な形で展開しつつ、所々に彼を悩ませていた幻覚などの症状とそれによって精神が疲弊し、追い詰められていく様が描写されているのが特徴。 *あらすじ 各章ごとに内容を折りたたみ記載する。 一:レエン・コオト #openclose(show=ネタバレ注意){ 知人の結婚式に参加する為、東京へ向かう語り手。 始め汽車の停車場へ向かうために自動車に乗っていたが、乗り合わせていたある理髪店の店主から妙な噂を聞く。 それは「レエン・コオトを着た幽霊が雨の日に出現する」というものだった。 語り手は適当に話を合わせるだけで本気にしていなかった。 が、停車場につくなり&bold(){いきなりレエン・コオトを着た男}を目撃。 しかしここでも語り手はあまり気には留めずに汽車に乗り、その後省線電車に乗り換え。 その最中に偶然知り合いであるT君と再会し、暫くとりとめのない会話をするが、ここで&bold(){またしてもレエン・コオトを着た男を見かけることとなる}。 流石に気味悪く思い始めた語り手だがT君は気付くこともなく話しかけてくる。 その内にその人物もいつの間にかいなくなっていた。 最終的に電車は東京に到着。 泊まり先のホテルに向かって歩を進めるが、ここで彼の眼前に&bold(){半透明の歯車が回り始めている}事に気が付く。 尤もこれ自体は彼にとって初めての体験という訳ではなく、過去に医者に診てもらった事もあるため、特段驚きはしなかった。 歯車は目を閉じても瞼の中で回り続け、しばらくすれば消えてしまうが今度は激しい頭痛に襲われる。 今回もその例に漏れず、ホテルに到着した際には頭痛に襲われて気持ちは落ち込んでいた。 それでも友人の結婚式には無事参加でき、そのままホテルにて一夜を過ごすことになったが、何の気なしにホテルの中を歩き回り、ロビーにて腰かけようとするが、&bold(){近くの椅子にレエン・コオトがかけられている}事に気が付いて慌ててそこから離れる。 自室に戻って短編の執筆にとりかかる語り手だったが、突然電話が鳴り響く。 かけてきた相手は姪。 内容は彼女の父親……つまり語り手の義兄が鉄道自殺したとの連絡だった。 &font(#ff0000){&bold(){しかもその死体には何故か季節外れのレエン・コオトがかぶせられていたのだという……。}} } 二:復讐 #openclose(show=ネタバレ注意){ 翌朝も語り手はホテルで小説の執筆を進めるが、脳裏に死んだ義兄のことがチラついて筆はなかなか進まず、ついには執筆を中断して姉のもとに向かうことにした。 その中でもホテルの中、外での移動する際に見た何気ない景色、通りかかりに話しかけてくる語り手のファンを自称する青年の言葉、それら1つ1つが彼の気持ちを不快に、暗鬱にさせていく……。 姉とは今後の生活の為の金に関する話を行い、売りに出すものについて話をしていたが、その中にあった義兄の自画像を見て彼は不気味さを覚える。 というのも、轢死と言う凄惨な死に方の為、彼の遺体は損壊度が高く口ひげ部分ぐらいしか形が判別できる箇所がなかったのだが、&bold(){自画像の側は逆に口の周りの部分がぼんやりしていた}のだ。 話を纏めて姉の家を出た語り手はひょんなことから通りがかりの会社員の呟く「イライラしてね」と言う言葉を聞き、そこから「Tantalizing(イライラする)→Tantalus(タンタルス&footnote(ゼウスの子。傲慢なふるまいを起こして地獄へ落とされている。)→Inferno(地獄)」と連想する。 青山の精神病院へ寄りつつ、再びホテルへ戻るとまたしてもレエン・コオトを着た男を目撃。 不気味に思い、来た道を引き返して銀座の道に向かった。 たまたま立ち寄った本屋の「&ruby(ギリシャ){希臘}神話」と言う本に目を通すが、その中の #center(){&bold(){一番偉いツォイスの神でも復讐の神にはかないません。}} と言う一節に彼の心はひどく打ちのめされ、&bold(){ついには自身の背後に復讐の神の存在を感じ始めてしまう……}。 } 三:夜 #openclose(show=ネタバレ注意){ 丸善へと足を運び、何冊か本を手に取って読む語り手。 そのように過ごして再びホテルに戻ったのは夜10時ごろだったが、その時にもふと立ち寄ったカフェで見たナポレオンの肖像やホテル内でふと出会った先輩彫刻家との会話などから語り手本人の不安は広がっていた。 自室に戻った彼の目の前には例の歯車が広がり始めており、語り手は薬を飲んでぐっすり寝ようとする。 そしてここで彼はこんな夢を見た。 場所はたくさんの子供たちが遊ぶプール。 彼はそこから立ち去る様に移動するが、自身を「おとうさん」と呼ぶ声に止められる。 そこで簡単に話をして語り手は先へ進んだ。 場所は変わって汽車のプラットホーム。 乗り込んだ汽車の中を移動していると、寝台車内にある女性が自分を見ていることに気が付く。 &font(#ff0000){語り手はそれが自分に対する復讐の神、かつとある狂人の娘}であると確信した……。 夢から覚めた語り手は慌ててロビーそばまでやって来た。時刻は深夜3時半。 語り手はそこで朝まで待つことを決めた。 そこにレエン・コオトはなく、アメリカ人と思われる女性が緑のドレスを着て本を読んでいた……。 } 四:まだ? #openclose(show=ネタバレ注意){ 短編の書き上げが完了し、開放感に浸る語り手。 気分転換に再び銀座へと出ていく。 書店で買った本、カフェでの客のやり取り、思いがけず合った旧友との交流、その1つ1つが彼に様々な感情を想起させ再びホテルの部屋に戻った時には小説を書く筆が非常によく進んだ。 が、それもあくまで一時的な物で数時間もするとたちまち筆の進みは止まってしまった。 そんな状態の時にかかってきた電話。 話自体は特段記憶に残る様な物ではなかったものの、話の中に出てきた「モオル」と言う単語に引っかかりを覚える。 Mole(モグラ)と言う響きにもどこか不快感を覚えるが、そこから綴りを少し変えた「La mort&footnote(フランス語で「死神」を意味する。)」という連想ワードが浮かび上がった事で語り手は戦慄。 義兄に死がもたらされたのと同じ様に、自分にも死が迫っているように感じられたのだ。 空恐ろしい妄想に至り、ふと部屋にある鏡に自分の姿を見る語り手。 そうしている内に彼の中に「第二の僕」、所謂ドッペルゲンガーの存在が浮かび上がる。 語り手本人はそれ自身を見た事はないが、他の人が「第二の僕」を見たことがあると言う事例が数件聞いている。 今痛切に感じている「死」の影。 それは自分に来るのか、それとも「第二の僕」に来るのか。 辛い想像をめぐらせた末、語り手は再び小説を書くため、机に戻るのだった。 } 五:赤光 #openclose(show=ネタバレ注意){ 日の光に不快感を感じながら、語り手は小説を書き続けていたが、ある夜に往来へと出て聖書会社に勤めるとある老人のもとに訪れる。 互いを知った仲である2人は色々な話を進めていったが、人生の闇から光を見出せない語り手と、同じ闇の中でも光を信仰して生きる老人との間で溝を感じさせていった。 その後彼の部屋にあった「罪と罰」の本を貸してもらい、再び往来に出るが、人の多さや電灯の明るさなどが語り手の神経をささくれ立たせた。 そしてたまたま目に入ったとある店の「タイヤに翼が付いた商標」の看板を見て、人造の翼で空を飛ぼうとして、翼が太陽で溶けて墜落死したイカロスを連想し、不安を覚える。 ホテルに戻ってしばらくした後、語り手は給仕から自分あての手紙を受け取る。 その中には甥からの家庭に関する手紙も含まれていたが、終わりに「赤光&footnote(斎藤茂吉の歌集。なお、彼は芥川龍之介主治医も担当している。)」の再販を送る旨の話が出て、何者かからの冷笑を感じたことで逃げるように部屋を出た。 ロビーまで来てタバコを吸おうとするがその時の銘柄は&bold(){エエア・シップ(飛行機)}。 先ほどまで不安を抱かせたイカロスを嫌でもまた想起させるものだった。 別の銘柄がないか給仕に聞いてもあるのはエエア・シップのみ。 諦めて部屋に戻り、借りた「罪と罰」を読もうとするが、製本の綴じ間違いのせいなのか、&bold(){たまたま開いたページには「カラマーゾフの兄弟」の話が、しかも登場人物が悪魔に苦しめられる様が書かれていた。} たまらず本を閉じた語り手は苦痛から逃れるべく、小説を書き始めた。 必死だった事もあり筆は進み、原稿用紙10枚分もの成果が出来上がった。 その後は疲れから眠りについたのだが、不意に聞こえた「le diable est mort&footnote(フランス語で「悪魔は死んだ」を意味する。)」と言う言葉に慌てて飛び起きた。 これまでに見えてきた苦痛に満ちた妄想や幻覚の数々や、自身の中で不意に沸いた強襲の念から、遂に語り手は東京を離れ、家へ帰る決心をするのだった。 } 六:飛行機 #openclose(show=ネタバレ注意){ 東海道線のある停車場から自動車を飛ばして家へ帰る語り手。 運転手がレエン・コオトをかけている事に、行く前とは打って変わって気味悪さを覚え、なるべく直視しないよう窓の外に目をやっていた。 家に戻ってからは数日間は妻子との時間や睡眠薬の為に平和な時間を過ごすことが出来た。 そんなある日、語り手は義両親の家へ訪れ、義母や義弟と世間話をしていると、近くから轟音と共に飛行機が飛び立つのを目撃。 義両親宅を出た後、飛行機のことやホテルで出たエエア・シップの件などが語り手に疑問を抱かせ、そして気持ちを沈ませていった。 その後も歩き続ける語り手だが、その先で絞首台を思わせるブランコの無いブランコ台、以前あったはずの西洋家屋の跡地、死んだ義兄を思わせる風貌の男、そして半ば腐乱したモグラの死骸など、不安を掻き立てるものを次々と目撃。 そして果てには&bold(){例の歯車が再び見え始め、語り手はついに自身の最期を頭の中で描き始めた……。} その後場所は変わって語り手の自宅。 襲ってくる頭痛に苦しみながら二階の自室で仰向けになる語り手。 するといつの間にか瞼の裏に「銀色の羽を鱗のように畳んだ翼」が見え始めている事に気が付く。それは歯車同様天井裏に実際にある物でなく、彼の目の中にある物として彼の視界に映っていた。 翼について考えている語り手だったが、ここで突然妻が慌ててやってきた事に気が付く。 驚き声をかけるが、妻は…… #center(){&font(#ff0000){いえ、どうもしないのです。……}} #center(){&font(#ff0000){どうもした訣ではないのですけれどもね、}} #center(){&font(#ff0000){&bold(){唯 何 だ か お 父 さ ん が 死 ん で し ま い そ うな 気 が し た も の で す か ら 。……}}} それは僕の一生の中でも最も恐しい経験だった。 ――僕はもうこの先を描き続ける力を持っていない。 こう云う気持ちの中に生きているのは何とも言われない苦痛である。 &bold(){誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?} } *「歯車」の幻覚 本作のタイトルであり、かつ劇中で何度か語り手が幻覚として目撃している「歯車」だが、これは「&bold(){閃輝暗点}」と呼ばれる視覚の異常であるとされている。 閃輝暗点は片頭痛の前兆として起きる事が多いとされており、具体的には視界内にジグザグ状の幾何学模様が光りながら出現。 左右どちらかの方向に回るようにしながら拡大していき、視界の多くの範囲を遮ってしまい、その後数分~1時間ほどで消えていくといった一連の症状が発生し、消えた後に片頭痛が起きていく。 この視界に映る幾何学模様を「歯車」に見立てると、本編内で語り手が体験している症状と完全に一致する。 実際、症状に関する記載が具体的にある事から、第104回の医師国家試験にて「歯車」本編の記述が抜き出され、その内容から判断できる原因を解答させると言う問題にも使用されている。 *余談 ・元々のタイトルは「ソドムの夜」と言う名前で、後に「東京の夜」→「夜」と名前が変わっていったのだが、最終的に佐藤春夫に進められる形で「歯車」と言う題名になったという経緯がある。 ・レエン・コオトをかけた状態で鉄道自殺した語り手の義兄だが、実際に芥川の義兄、西川豊が保険金詐欺並びに放火の嫌疑をかけられて鉄道自殺をしており、芥川は彼の借金や家族の面倒を見なければならなくなったことで精神面に大きなダメージを受けたとされている。なお、「レエン・コオトを着て死んでいた」という部分については芥川の創作とされている。 ・ラストに記載される語り手と妻とのやり取りについても同様にほぼ事実であったとされている事が妻の芥川文によって明らかになっている。 追記・修正は目に映る歯車に悩まされないようにしながらお願いいたします。 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,9) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 歯車の一族(遊戯王SEVENS) -- 名無しさん (2024-11-07 13:19:58) - アンパンマンとはぐるまのくに(それいけ!アンパンマン) -- 名無しさん (2024-11-07 15:10:42) - はぐるまが上城くん(遊戯王ゴーラッシュ!!) -- 名無しさん (2024-11-12 12:15:24) - はぐるまんが上城くん(遊戯王ゴーラッシュ!!) -- 名無しさん (2024-11-12 13:23:15) #comment(striction) #areaedit(end) }

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