東海道線のある停車場から自動車を飛ばして家へ帰る語り手。
運転手がレエン・コオトをかけている事に、行く前とは打って変わって気味悪さを覚え、なるべく直視しないよう窓の外に目をやっていた。
家に戻ってからは数日間は妻子との時間や睡眠薬の為に平和な時間を過ごすことが出来た。
そんなある日、語り手は義両親の家へ訪れ、義母や義弟と世間話をしていると、近くから轟音と共に飛行機が飛び立つのを目撃。
義両親宅を出た後、飛行機のことやホテルで出たエエア・シップの件などが語り手に疑問を抱かせ、そして気持ちを沈ませていった。
その後も歩き続ける語り手だが、その先で絞首台を思わせるブランコの無いブランコ台、以前あったはずの西洋家屋の跡地、死んだ義兄を思わせる風貌の男、そして半ば腐乱したモグラの死骸など、不安を掻き立てるものを次々と目撃。
そして果てには例の歯車が再び見え始め、語り手はついに自身の最期を頭の中で描き始めた……。
その後場所は変わって語り手の自宅。
襲ってくる頭痛に苦しみながら二階の自室で仰向けになる語り手。
するといつの間にか瞼の裏に「銀色の羽を鱗のように畳んだ翼」が見え始めている事に気が付く。それは歯車同様天井裏に実際にある物でなく、彼の目の中にある物として彼の視界に映っていた。
翼について考えている語り手だったが、ここで突然妻が慌ててやってきた事に気が付く。
驚き声をかけるが、妻は……
唯 何 だ か お 父 さ ん が 死 ん で し ま い そ うな 気 が し た も の で す か ら 。……
それは僕の一生の中でも最も恐しい経験だった。
――僕はもうこの先を描き続ける力を持っていない。
こう云う気持ちの中に生きているのは何とも言われない苦痛である。
誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?