歯車(小説)

登録日:2024/02/23 Fri 17:17:30
更新日:2024/11/12 Tue 13:23:15
所要時間:約 10 分で読めます




「歯車」とは、芥川龍之介の短編小説で、「河童」「或阿呆の一生」などと並ぶ彼の晩年における代表作の1つ。

作成期間は1927年の3月末から4月初めまでの約2週間で、彼が睡眠薬の多量摂取で自殺する数ヶ月前の作品となる。
全6章からなるが、生前に発表されたのは第1章のみで残りの5章は遺稿として発見されている。

芥川本人の私小説に近い内容*1になっており、劇的な出来事は特に起こらず、所謂「銀ブラ」と言われる東京銀座やその周辺を歩き回った時の語り手の体験などを淡々と語る様な形で展開しつつ、所々に彼を悩ませていた幻覚などの症状とそれによって精神が疲弊し、追い詰められていく様が描写されているのが特徴。


あらすじ



各章ごとに内容を折りたたみ記載する。

一:レエン・コオト


二:復讐


三:夜


四:まだ?


五:赤光


六:飛行機


「歯車」の幻覚



本作のタイトルであり、かつ劇中で何度か語り手が幻覚として目撃している「歯車」だが、これは「閃輝暗点」と呼ばれる視覚の異常であるとされている。

閃輝暗点は片頭痛の前兆として起きる事が多いとされており、具体的には視界内にジグザグ状の幾何学模様が光りながら出現。
左右どちらかの方向に回るようにしながら拡大していき、視界の多くの範囲を遮ってしまい、その後数分~1時間ほどで消えていくといった一連の症状が発生し、消えた後に片頭痛が起きていく。

この視界に映る幾何学模様を「歯車」に見立てると、本編内で語り手が体験している症状と完全に一致する。

実際、症状に関する記載が具体的にある事から、第104回の医師国家試験にて「歯車」本編の記述が抜き出され、その内容から判断できる原因を解答させると言う問題にも使用されている。



余談



  • 元々のタイトルは「ソドムの夜」と言う名前で、後に「東京の夜」→「夜」と名前が変わっていったのだが、最終的に佐藤春夫に進められる形で「歯車」と言う題名になったという経緯がある。

  • レエン・コオトをかけた状態で鉄道自殺した語り手の義兄だが、実際に芥川の義兄、西川豊が保険金詐欺並びに放火の嫌疑をかけられて鉄道自殺をしており、芥川は彼の借金や家族の面倒を見なければならなくなったことで精神面に大きなダメージを受けたとされている。なお、「レエン・コオトを着て死んでいた」という部分については芥川の創作とされている。

  • ラストに記載される語り手と妻とのやり取りについても同様にほぼ事実であったとされている事が妻の芥川文によって明らかになっている。



追記・修正は目に映る歯車に悩まされないようにしながらお願いいたします。


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最終更新:2024年11月12日 13:23

*1 実際語り手は劇中で「A先生」と言う名称で呼ばれ、かつ「侏儒の言葉」「地獄変」などの自分の作品に触れる部分がある。

*2 ゼウスの子。傲慢なふるまいを起こして地獄へ落とされている。

*3 フランス語で「死神」を意味する。

*4 斎藤茂吉の歌集。なお、彼は芥川龍之介主治医も担当している。

*5 フランス語で「悪魔は死んだ」を意味する。