寄生バチ

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寄生バチ - (2017/01/21 (土) 08:34:30) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2012/11/12(月) 20:06:36
更新日:2024/04/30 Tue 14:58:28
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ハチの仲間は、実に様々な生活を過ごす種類が見られる。
毎日各地で蜜や花粉を集めるもの、大きな巣で女王の為に働くもの、さらには強力な毒や牙を持って他の昆虫やハチに猛威をふるうもの等々。

しかし、中にはその一生の一部を他の生物の体の内外で過ごし、そしてそれを食べながら成長していくという生活をするハチも存在する。
それらを総称して寄生バチと呼び、中でも動物に寄生するものの多くは寄生蜂下目(Parasitica)というグループの中に含まれている。



◎概要

寄生バチが「寄生」を行うのは、基本的には卵から幼虫までの頃。大きくなると翅が生え、ごく普通の見慣れたハチの姿となって空を飛ぶ。
だが、そこに至るまで、その生活は他の生物を生きたまま食い尽くすという形を過ごすのである。


彼らのグループは大きく分けて、植物に産卵するもの動物に産卵するものに分かれている。

植物に産卵するものの場合、鋭く繊細な産卵管を器用に用い、表皮の下の組織内部に卵が挿入される。
そこで生まれた幼虫が食べる事も出来る揺りかごの中で大きく成長を遂げる一方、寄生された植物はその部分だけ大きく膨れ上がってしまう。
植物の枝や葉の所に実とも違う妙な膨らみを見つける方も多いかもしれないが、あれが所謂虫こぶと呼ばれるものである。

一方、動物に寄生するものも同様に、メスが宿主となる動物やその卵に自分の卵をうみつける。
こちらの場合も植物同様、幼虫はそのまま宿主の体を食べて成長する。
あまりに暴れすぎると宿主が死んでしまい、自分自身も巻き添えを食らってしまうので大きくなる段階では殺すと言う事はしない。
いわば踊り食いの状態を維持しつつづけるのである。

だが、一旦成長してしまうと状況は一変する。もう住処に用は無いと言わんばかりに態度を変え、宿主を殺して蛹になり、そして羽化に至るのである。
一見ごく普通のアゲハチョウの幼虫が蛹になり、そしていよいよ大空へ向かってはばたくという段階で、
その殻を破って出てくるのは見慣れぬ一匹のハチ…そういう体験をした人もいるかもしれない。
こういう場合の寄生を、ずばり「捕食寄生」と呼ぶ。

因みに基本的にどんな昆虫にも寄生し、他の寄生バチの上にもまた寄生してしまうなど容赦ないが、ノミのように小さすぎるとさすがに無理らしい。
人間には寄生しないのでご安心を。


同じような生き方をするハチに、ジガバチを代表する「狩りバチ」と呼ばれるものがある。
こちらも捕えた昆虫の体表の上で卵が産まれ、幼虫は宿主を生きたままじわじわと食べ尽くすのだが、
こちらは親が鋭い針で餌となる昆虫に麻酔を注射し運動機能を奪い、それを自分の巣へと運ぶと言うどこか鳥のような行動をとる。
まず胸部を刺すことで胸部にある脚の筋肉を弛緩させ、動きが鈍ったところで頭部に麻酔を注射し、運動機能のみを完全な停止へと追い込む。
いきなり頭部を狙っても激しい抵抗を受ける可能性があり、刺す場所を間違えると相手が死ぬため、二段階の手順を踏むことで確実に目的を遂行出来るようにしている。
寄生バチと比べてより高度で複雑化している事から、狩りバチは寄生バチから進化したのではないかとも言われている。



◎主な種類

ゴキブリを毒を用いてゾンビ化させ、洗脳したまま幼虫が食いつくす。
その一生は狩りバチにも似ているが、ゴキブリが行動可能な洗脳状態であることから寄生バチの一つとしても数えられる事もある。詳細は項目参照。


  • アザミウマタマゴバチ
大きさ僅か0.18mmと、ゾウリムシよりも小さい世界最小の昆虫。
こちらも0.7mmと非常に小さいアザミウマという農業害虫の幼虫に寄生し成長する。
当然ながら顕微鏡を使わないと碌に見る事が出来ず、翅の形もまるでタンポポの綿のように独特なもので飛ぶと言うよりも空中に浮かぶと言った方が良いかもしれない。
因みに意外に種類も多く、現在5種類が見つかっている。


  • ヒメバチ科
主にチョウのような蛹になる昆虫を中心に寄生する。
前述の「チョウの蛹の中から現れるハチ」というのは大概こいつのようで、チョウが蛹になるや否や一気に食らいつくし、蛹の内部を乗っ取る。
元々種類の多い昆虫達に寄生するという事からその種の数は半端なく、
現在の段階でも既に1万5千種、まだ学名が付いていなかったり未発見のものも含めると最大10万種もいると考えられている。


  • テントウハラボソコマユバチ
最近になってとんでもない能力が発見されたもの。
名称の通りテントウムシの成虫を襲って卵を産むのだが、テントウムシサイズにまで巨大化したこの幼虫は腹を突き破って外に出て繭を作る。
そしてその繭の上にテントウムシが覆いかぶさる。
まるでボディーガードのようなこの行動、実は体内にいる間に幼虫はテントウムシを洗脳し、行動を支配しているのである。


  • セイボウ上科
青や緑のメタリックカラーが非常に美しいハチだが、なんとこちらは同類のハチに卵を産みつける。
しかも狙われるのは主にトックリバチのように泥や筒の中に巣を作る狩りバチ。様々な昆虫を生きながら食べる彼らが、今度は標的の立場になるのである。
ただ中にはガの仲間に寄生するものもいるとか。寄生蜂下目とは違う分類。


  • クリタマバチ
タマバチ科のハチで、日本には外来種として現れた。
こちらは名前の通り、クリの新芽に寄生して虫こぶを作ってしまう厄介な害虫。
一時は耐性遺伝子を持ったクリのおかげで数が減少したものの、それに慣れてしまいまだ被害は大きい。


  • チュウゴクオナガコバチ
そんなクリタマバチを専門に寄生を行うハチ。
前述のアザミウマタマゴバチ同様コバチの仲間で、クリタマバチ対策の為に日本に持ち込まれた。
ただ、日本由来のクリマモリオナガコバチとの交雑が確認される等少々不安な一面も。



◎生物農薬として

…ここまで書くと非常に恐ろしい存在のように思える寄生バチ。特に「植物」に寄生するハチは、農作物以外にも街路樹にも大きな被害を与える事もある。

だが、その一方で「動物」に寄生するハチ達の方は、実は非常に頼もしい存在である。

これらのハチが利用するチョウやガ、そして植物の寄生バチと言うのは、農業にとっては非常に厄介な存在であるのはご存じの通り。
イモムシや毛虫によって次々に野菜や果物が被害を受け、農薬をまいてもすぐにそれに対する耐性を身につけ、さらに強くなってしまう。
だが、実は植物側はこの時、空気中に寄生バチを呼び寄せる物質を作り、SOSを呼び掛けるのである。
それに応えて寄生バチが参上し、害虫を見事に死滅させてくれるのだ。


その能力を活かすべく、近年この寄生バチの研究が進んでいる。

温室やビニールハウス内で大繁殖している害虫達を一網打尽にしてくれる天敵として、
現在一部の動物への寄生ハチが「生物農薬」として販売されているのだ。
害虫が全滅すればそれに合わせて彼らも役目を終えるので、薬品のように後々まで影響が残ると言う事がない。
また相手が相手なので害虫側も対抗手段が持てず、化学農薬と合わせればほぼ無敵の力を得る事が出来る。

しかし一方で動物という事もあり、なかなか結果が思うように出ないという欠点もある。
また先程の通り、管理をしっかりしないと生態系に影響を与えてしまう可能性も捨てがたい。

利点と欠点それぞれを見つつ、適切な対応を取るのが一番だろう。




「寄生」と言うと、嫌な印象で捉えられる事が多い。だが、その能力は時に人間生活を支える重要な力になると言う事を忘れないで頂きたい。グロいけど




追記・修正は殻をやぶってからお願いします。

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