SCP-646-JP

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SCP-646-JP - (2017/05/20 (土) 10:54:15) の編集履歴(バックアップ)


登録日: 2017/05/08 Mon 00:02:18
更新日:2024/03/02 Sat 08:11:38
所要時間:約 9 分で読めます







「変えたいものは何だ」

「このページを、君を紹介するページに変えてほしい」



「……分かった」



















SCP-646-JPは、怪奇創作サイト「The SCP Foundation」の日本支部で登録されているオブジェクトの一つ。
項目名は「過去改変協力者」。
オブジェクトクラスは当初はKeterに分類されていたものの、ある事案により現在は無力化され、Neutralizedに変更されている。

特別収容プロトコル


いかんせんすでに無力化してしまっているため、現在のSCP-646-JPはサイト-81██の高危険度物品保管室に普通に保管されているだけである。
ただし、もしかしたら再び異常性が発現したりするかもしれないので、管理担当者は定期的にこれの異常性について再評価を行っている。

概要


このオブジェクト、端的に表現すると 「使うことで自分の思い通りに物事を変えられる電話」 である。
どこの「もしもボックス」だよ!?と感じる方もいるかと思うが、しかし残念ながらあそこまで万能ではなく、実際にはそれなりに使用の制限がある。


SCP-646-JPは道端でよく見かけるような、1900年代製の公衆電話ボックスである。
ある1つの電話番号を入力した時を除けば、ごく普通の公衆電話として利用可能。

その電話番号とは、当該電話ボックスの中にある貼り紙に書かれている11桁のナンバーであり、一緒に 「変えてほしい方はこちらまで」 という一文が添えられている。
この電話番号は既存のいずれの携帯会社も一度も使ったことがない番号であり、またSCP-646-JP以外の電話に入力しても、単に「使われていない番号です」と返されるだけである。
また貼り紙が貼られたのは電話ボックス設置よりだいぶ後のことであるらしい。

SCP-646-JPを用いてこの番号に電話をかけるとどうなるか?
電話をかけた人のみに聞こえる、男性の声が電話に出るのである。
以下、電話をかけた人を「被験者」、電話に出る男性をSCP-646-JP-Aとする。

SCP-646-JP-Aは最初に 「変えたいものは何だ」 と尋ねてくる。
それに対し、被験者が「(ある物や人)を(他のものや人)に変えてほしい」と願ったときのみ会話が成立。
SCP-646-JP-Aは数秒〜数分の間を置いたのち、 「それは変えられない」 または 「分かった」 とだけ返答し、電話を切る。
なお被験者が上記以外の回答をした場合は全て無視される。またこの男性は日本語しか理解できないらしく、日本語以外で回答するとこれも無視される。

「それは変えられない」 と答えられた場合は、電話を切ったあと特に何か発生することはない。
しかし、 「分かった」 と返答された時が問題で、 被験者が願った通りに、ものや人が変化してしまう のである。
しかも、当の被験者以外の人々はその変化に気がつかず、違和感を抱くこともない。
……そう、立派な 現実改変 が発生してしまうのだ。
が、このとき現実改変につきものなヒューム値の変動は発生しない。

被験者が「願ったものが変化した!」と主張するので、財団(変化には気づいてない点に注意)としては試しに変化したものの過去を調査するわけだが、
するとどの場合においても、必ず過去にSCP-646-JP-Bが出現していたことが確認できるのである。
SCP-646-JP-Bはスーツ姿の30代の日本人男性として出現しており、この男が過去にとった行動によって、現在における「被験者が願ったもの」が変化していたことが判明するのだ。
ヒューム値の変動が起きないのは、実際には現実改変ではなく過去改変だったから、というわけである。
また一部では、電話に出る男性(SCP-646-JP-A)と過去に現れる男性(SCP-646-JP-B)は同一人物じゃないか?とも噂されている。


SCP-646-JPによる現実改変の一例として、これが財団に収容されるきっかけとなった事例を紹介しよう。
この電話ボックスの異常性に初めて気づいたのは、電話ボックスのある街に住んでいた地元の少年である。
彼はいじめられっ子だったようで、電話に出た男性に「いじめられない自分になりたい」とお願いした。
すると電話が切れた後、少年の身体はみるみるうちに筋肉質になり、さらに無数の傷痕がついたではないか!
少年は「地元の空手大会で優勝した」ことにされており、さらにはその試合を近隣住民みんなが観戦していた、という事実が作られていたのだった。
さらに少年の母親は「息子が熱心な空手の先生に教わったから優勝したのよ」と言っていることも判明。のちに財団が調査に入ったが、そんな先生(近所に住む30代の男性だったという)は存在していないことが分かった。
…そう、この「空手の先生」こそ、少年の願いを叶えるために現れたSCP-646-JP-Bだったのである。
少年は自分の身に起こったことを警察に通報。これにより、財団は問題の電話ボックスを発見・収容したのだった。

SCP-646-JP実験記録


財団の所有下に入った電話ボックス。
当初はこれを物質/事象再構築型の現実改変を発生させるオブジェクトとして扱っていた財団は、いくつかの実験を実施した。

実験記録では全て同一のDクラスに電話の応対をさせている。

まず、少年の事案からSCP-646-JPは人体の改変が可能なはずだと睨み、Dクラスに「自分を完全に女にしてくれ」と願わせた。
すると電話口の男性は数分考え込んだのちに「それは変えられない」と返し、通話は終了。Dクラスに変化は起こらなかった。
続いてDクラスに「隣にいる別のDクラスを死体に変えてくれ」と回答させたが、今度は即答で「それは変えられない」と却下された。
おそらく、前者の願いは「電話の男の技量では実現できないこと」で、後者は「電話の男が倫理的にやりたくないこと」だったのではないか、と考察されている。

次にもっと簡単な改変として、「実験を担当している博士の服の色を変えてほしい」と頼んでみた。
すると今回は男性は数秒後に「分かった」と返答。
電話の応対をしたDクラスによると、電話後に実際に博士の服が白衣から黒いシャツに変わった、という報告が得られた。
一方で博士に聞いてみると「今日は白衣が一着もなかったから仕方なく黒いシャツで来た」という回答が。他の職員もみな「博士は最初から黒いシャツだった」と回答。
やはり、願った当事者以外には現実改変を気づかせないようになっていることがうかがえる。
試しに前夜の警備カメラを確認したところ、博士の部屋に何者かが忍び込み、白衣を全部盗んでいく様子がきっちり映っていた。
これに対し侵入警報が発令されていたにもかかわらず、盗人は確保できていなかった。


この結果を受け、SCP-646-JPはKeterに分類された。理由はSCP-646-JP-Bの存在である。
一見、電話で話をしなければ過去の改変を行わないように見えるこの男だが、果たしてだれが本当にそうだと断言できるのか?
実際には男は自分の意志でも自由に過去の事象を弄れるんじゃないのか?
そうなったら、CK-クラス:再構築シナリオのような大規模な改変が発生しないと誰が保証できる?
ただでさえ財団は凶悪な現実改変者たちに多く接してきている。無意識下の願いだけでも確実に具現化させるちいさな魔女や、財団を一時的とはいえ完璧に欺いたジェームズ・フランクリンなど枚挙に暇がない。
そうなれば、財団が取る方針は一つ。SCP-646-JP-AおよびBを早急に捕らえることである。

電話の男を捕獲するための実験として、「収容室の切れた電球を取り替えてほしい」という願いを送った。
同時に収容室には警備員を10名配置し、電話の男についての情報を教えておいた。
さてきっと警備員が男を取り押さえてくれるだろう、と期待して電話を終えると、果たして収容室の電球はきっちり取り替えられており、そして男の確保には失敗していたのだった。
どういうことだと監視映像を見ると、収容室に入ってきた男が警備員6名に追いかけられていたものの首尾よくこれを煙に巻いた後、収容室のダクトからガスマスク装備の男が催眠ガス弾を投げ込んで収容室に残る警備員を無力化、そして電球を替える様子が映っていた。
……うーむ。この男、なかなかのやり手である。

財団はこの失敗を踏まえて次の実験を計画していた。
……しかし、結果的にはその必要はなかった。
ある事案が発生したのである。

無力化


次の実験でもいつものDクラスに電話の応対をさせたのだが、これが失敗だった。
Dクラスは突然命令を無視して「俺を自由にしてくれ!」という願いを送ってしまったのである。
当然ながら、Dクラスにとっての自由とは財団からの脱走にほかならない。
慌てて研究チームはDクラスを拘束。その結果、電話口でSCP-646-JP-Aがどう返答したのかは分からずじまいとなってしまった。
が、しばらく経ってもDクラスに特に変化は発生しなかったため、その時は「たぶん男が断ったのだろう」ということにされて事案は終息した。

ところが、別のDクラスで実験を再開した途端に異変が発覚した。
ボックス内の電話で貼り紙にある電話番号にかけても、男が出ることは二度となく、「その番号は使われていません」というアナウンスしか返ってこなくなったのだ。
何度繰り返しても同じ結果になったため、SCP-646-JPは無力化してしまったと判断され、オブジェクトクラスもNeutralizedへと変わったのだった。

Keterクラス、それも「いつでもK-クラスシナリオを起こせるかもしれない」レベルのオブジェクトを無力化できたことは、ある意味では喜ぶべきことなのかもしれないが……。
モヤモヤは残る幕切れである。


限界


さて、さっきの脱走しようとしたDクラス。
「本当は中身の精神や人格だけ脱走してて、他人と入れ替わったりしてるんじゃね?」ともしもの可能性が考えられたため、研究チームは改めて彼の経歴を調査してみた。
すると驚くべき変化が判明した。

このDクラスはもともと大量の強盗殺人事件を起こしたことで死刑囚となっていたのだが、
Dクラスがかつて殺害したとされる人々の中に、「俺はこんなやつ殺した覚えはねえ!」というのが一人だけ混じっていたのである。
その被害者は、ほかならぬDクラスの初めての強盗事件で殺されていたのだった。

Dクラスの最初の強盗事件で被害にあった人はこう証言した。
「強盗が家に押し入ってきたとき、続けさまに見知らぬスーツ姿の男が入ってきて、強盗を必死に諌めようとして『まだ間に合う』『止めるんだ』等の言葉を発していたが、逆にナイフで殺されてしまったのだ」
殺害された男は身元不明だったため、行旅死亡人として処理された。


……おわかりいただけただろうか。

SCP-646-JP-A・Bは、Dクラスの願いを断った訳ではなかったのだ。

男はDクラスを自由にしてやるために、そもそもDクラスがDクラスになった原因を消し去ろうと考えたのだ。
その答えが、 死刑になるような犯罪をやめさせる事 だったのである。

しかし、男は憐れむべきほどに愚直であった。
彼は自らの身を挺して、Dクラスの最初の犯罪現場に姿を現した。
そして、まさに犯罪を実行せんとする未来のDクラスに対し、言葉をもって諭すことで彼の行いを糾そうとしたのである。
だが、自分でも見知らぬ男に凶行を止めに入られた彼は激昂し――
……SCP-646-JP-Bを帰らぬ人にしてしまったのであった。

男が死んだことで男に繋がる電話番号も消滅し、電話ボックスからも異常性は失われたのだと考えて間違いないだろう。


悲しいかな、その場だけの言葉では、人間の心を変えることはできなかったのである。


SCP-646-JP

過去改変協力者


――それこそが、彼の限界だったのだ。



余談


電話の男が現実改変者の一種であると上述していたが、厳密にいうと一般的な現実改変者とはそのメカニズムが全く異なる。

一般的な現実改変者は、周囲のヒューム値(現実性の指標)を下げ、自らのヒューム値を高めることにより、自分が望む「現実」を周囲に押し付ける形で現実を改変する。上記のちいさな魔女やジェームズ・フランクリンはこのタイプ。
一方でこの電話男ができることは、ヒューム値の変異ではなく、自らのタイムトリップである。自分が過去に行って変えたいものや人の来歴を 手作業で 弄ることにより、結果として現在を改変しているのである。
SCP-646-JPの現実改変発生時にヒューム値が変化しないのはこのため。


そもそもこの男、なんで人助けばっかりやってたんだ?というディスカッションでの疑問に対し、報告書の作成者は以下のように回答している。

  • 異常特性を得るまでは、この男性は親切でお人好し、人の役に立つことを喜びとする人だった。
  • 異常特性を得たことで脳に異変が発生した。
  • 現在では「人の願いを叶えることこそが役に立つことだ」と拡大解釈して、自分の力で叶えられる願いならなんでも叶える状態になっている。

異常特性を得ることにより脳に異常をきたすのは、タイプ・グリーン(=現実改変者)では割とよくあることらしい。



「変えたいものは何だ」

「このページを、追記・編集ができるようにして欲しい」

「分かった」




SCP-646-JP - 過去改変協力者
by amamiel
http://ja.scp-wiki.net/scp-646-jp
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