SCP-2508

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SCP-2508 - (2017/07/03 (月) 09:30:12) の編集履歴(バックアップ)


登録日: 2017/04/19 Wed 18:08:24
更新日:2022/07/28 Thu 00:27:14
所要時間:約 11 分で読めます





一つの時と一つの場。囚われ人は、待ち続ける。


SCP-2508はシェアード・ワールドThe SCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)。
項目名は「The Long Wait (長い待ち時間)」。
オブジェクトクラスはNone、つまりない。


概要

まず初めに断わっておくと、この報告書の冒頭にはこんな但し書きがある。

この文書にはクリアランス制限がありません
また、O5-7の命令により、保安上の注意事項は免除されています

何とも珍しいことに、セキュリティクリアランス制限によって秘匿された情報が全く存在しない。
さらにO5のお墨付きで、保安を考える必要もない。
秘匿しなくてもいいよ、全部読みな、ということだが、こんな扱いになっているのは当然理由がある。

このオブジェクトだが、何と財団の管理下にない。というか、財団が存在を把握していない。
じゃあ何で報告書があるんだよ、という話になるが、それはこれから話すオブジェクトの概要が物語っている。



コイツが何かというと、異常な特性を持った一軒の家とその庭である。
家自体は屋根裏部屋と地下室を持った二階建てで、庭は0.53平方キロメートルと結構広い。
その特性だが、実はよくわかっていない。
というのはコイツのベーシックエフェクトの一つが、「常にたった一人の住人のみが存在できる」という点なのである。

一人しか入れないなら一人ずつ入れば? と思うだろう。実際この家はそうしている。
しかし、財団がこの家の存在を把握していないのはもう一つの特性が関係している。

それは、この家とその地所には、一度立ち入ったら死んでも出ることが出来ないのである。
空間はループしており、現実世界には存在しないと考えられている。
なので何かしらのインシデントが発生しない限り、外の世界にこのオブジェクトの情報を送ることは決してできない。
よって、報告書の体裁を取ってまとめられたSCP-2508の文書を見ている者は、偶然ここにたどり着いて閉じ込められた、新たなる住人であり、このオブジェクトに対処するたった一人の職員なのである。
不可解なのは、この家に入り込み、時を過ごして死んだ者たちは、いずれもレベル1以上のクリアランスを持つSCP財団のスタッフだった、ということである。
この家とこの空間は、明らかに財団職員を狙い撃ちにして飲み込んでいるのだ。


そんなわけだから、このオブジェクトのことは財団は知らないし、関連文書も審査の対象にならないのだ。
現在までに相当な人数の職員が迷い込み、そしてこの場所について調べ、記録し、死んでいった。それらの努力の集大成こそが、この報告書なのである。
そしてわかっている事実の一つとして、住人が死んだ場合、その日のうちに新たな住人が入場する、というパターンが存在する。よって新たな住人の最初の仕事は、前任者の死体を葬り、弔うことである。

そんなわけで、特別収容プロトコルをまとめるとこんな感じ。

  • オブジェクトである家の維持管理と、研究に注力せよ
  • 日課を欠かすな
  • 新しい住人は、記録日誌に名前と所属と財団のIDを記録せよ
  • SCP-2508-1を、毎日正午に、満タンになるように充填せよ
  • SCP-2508-1を、1か月ごとに点検し、必要ならば修理せよ
  • SCP-2508-2の正面ハッチは、天気の悪い時と冬場には閉じよ
  • 生活必需品は毎日補填されることを留意せよ
  • 生活している中で発見した物事は、どんなに些細でも必ず記録せよ
  • そうでなくとも、思考や経験、あるいは夢でもいいので、簡潔に、しかし可能な限り記録せよ
  • 出来るだけポジティブな精神状態を保つよう心がけよ
  • 報告書の最新版を、ドアのそばのテーブルにあるラミネートケースに格納せよ

要は、「元気に生活しつつオブジェクトを維持し、時間があったら研究し、記録せよ」ということである。

研究、解明、理解。
Study、Clarify、Perceive。


ある意味当然ながら、この家の特性は全貌が解明されたわけではない。
関連していると思われるのは、SCP-2508-1と、SCP-2508-2のナンバーを与えられたものである。

まずSCP-2508-1は、旋盤を改造したと思われる、機械と木材で出来たポンプのような装置である。
屋根裏に設置されており、壁からどこかへ繋がる細いパイプを通して、中の水を終始どこかへ送っている。
ちなみに満タンだと30時間ほどでカラになる。さらに、こんな銘板がかけられている。
1日1回正午にこの機械を充填してもらいたい。機械が空になってしまうと、私たちとしても大急ぎで到着するという訳にいかなくなる。理解してほしい、君たちが私たち同様、そちらの設備を維持してくれると信じているよ。ありがとう。
これが誰の残したものかは不明だが、恐らくは家の「持ち主」だろうと思われる。ただ、カラになったらどうなるのかは検証が実質不可能であるためわかっていない。

私の前任者だったオリオン博士は、これがどのように致命的な事態を引き起こすかについての解説を提供することができませんでした。しかし、重要な情報である以上はここに書き残しておきます。 ― オズワルド博士


次にSCP-2508-2は、地下室にある有機物が生えたブロックである。植物らしいが、既存の種類とは一致していない。
この有機物は太陽光を受けて光合成を行い、時折青い花を咲かせる。
さらに、恐らく何かの機器を持っていた住人の何人かが、この植物が発する空電と、点滅する赤い光を目撃している。この光のパターンをある住人が解析したところ、モールス符号であり、内容はこうであった。
植物たちの世話を維持してくれてありがとう。渋滞に引っかかってしまったので、予定よりも少し時間が掛かりそうだ。

さらに、このブロックに通じるハッチにも銘板が取り付けられている。
このハッチは天気が良い時だけ開けてくれ。雨・雪・冬の寒さが堪える場合は閉じたままにしてほしい。ありがとう。

この植物、どうやら「持ち主」と通じるアンテナのようだ。


補遺

ところで、実はこの「住人」の中にはよりによってO5が含まれている。
注意事項として、保安上の留意事項を免責したO5-7である。

この御仁、とあるK-クラスシナリオの回避に成功したことを祝って祝杯を挙げたのだが、そのまんま車を運転して帰る途中にここに迷い込んだらしい。飲酒運転はダメ、ゼッタイ!

そしてO5-7は、23年に渡りこの家で生活を続けた。
その中で彼は、例のポンプが送り出す水は、家の外にある芝生に注ぎ込まれているのではないか、と考えていた。
さらに芝生の上に転がって耳を澄ませると、地下深くからカチカチという機械音が聞こえたという。だが、何らかのミーム汚染なのか、それとも単に達観しただけなのか、O5-7はそれ以上深くは考えなかったようだ。


しかし、彼は同時に疑問も覚えていた。
まず、この家と庭が異様なほど特徴に欠けていること。ここは、ここが、という明確な特徴がないのだ。
そしてもう一つは、明らかに財団のものである、恐らくは成立初期の時期のパソコン。O5-7が見る限りでは、家の中でもっとも古い……ほぼ間違いなく、家を建てたのと同じころに持ち込んだものらしい。
だが、財団のパソコンは機密保持のためのネットワークでつながっている。つまり、財団のパソコンがこの家にあるなら、SCP財団はこの家の情報を握っていなくてはおかしいのだ。


そして最大の謎は、「SCP-2508」というアイテムナンバー。
オブジェクトのアイテムナンバーは、「特別収容手順○○番」という意味合いを持っている。つまりこの家と庭は、特別収容手順2508番で取り扱われている、ということなのだ。
が、この家の存在を財団は知らない。ならば、SCP-2508というナンバーはなぜ割り振られているのか?

誰かが便宜上決めたものなのか?
それとも財団のデータベースに存在しているのか?

極端な話、番号は必要ない。どうせ外の世界の財団にはこの家のことはわからないのだから、分類する意味はない。
いずれこのオブジェクトが異常性を失った時、財団のデータベースに登録するとしたら、その時SCP-2508に別のオブジェクトが割り当てられていた場合振りなおしになる。
そして、オブジェクトクラスは存在しないにも関わらず番号だけが決まっている、これもよく考えるとおかしな話である。救い難き物? アレは存在しない、いいね?

そして、O5-7は最後に自らの胸中をつづっている。

時々私は、何かを、或いは誰かを待っているように感じる。私を救出してくれる誰かではなく、まるで私が誰かに会うために此処で待ち受けているような感覚だ。私は一体どのような出会いが待っているのか、そもそも何故に会わねばならないのかを夢想する。
だが心の奥底で、私は自分が間違いなく此処で死ぬだろうという事を、この長い待ち時間が次の者へ、息を殺して何かを待ち受けるために引き継がれるだろうという事を知っている。“何か”の正確な正体は我々には確認できないのだが。

多分いつか、食料が補充される仕組みを知ることだろう。

この家には間違いなく「持ち主」がいて、恐らくはその留守番役なのだろうが……だとすれば、財団の、しかもかなり初期のパソコンが存在しているのはなぜなのか?
成立の過程にSCP財団が関わっていたのだろうか? であれば、なぜO5-7は知らなかったのか?


―――まだ、謎は解かれていない。




余談

このオブジェクトは、言ってしまえばプロローグである。
「住人」の一人であるオリオン博士を主人公としたTaleハブ「アレフ-ヌル」の導入に当たるのがこのオブジェクトであり、ここに閉じ込められたオリオン博士の周囲で起きた不思議な出来事を綴っている。
現在このシリーズは未完の上、翻訳されているのもこの記事のみ。
ミスター・ほんやくに期待しよう。

アレフは「1」、ヌルは「0」。1から0へ。


追記・修正は待ち時間を消化してからお願いします。


SCP-2508 - The Long Wait
By Eekium
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