SCP-1968

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SCP-1968 - (2021/04/26 (月) 10:41:46) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2018/8/26 (Sun) 20:21:30
更新日:2024/04/26 Fri 07:49:43
所要時間:約 20 分で読めます




何百回、何千回K-クラスを遅らせたとて、それから逃げられるはずもなく。



SCP-1968は、シェアワールド「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つ。
オブジェクトクラスはKeter。

概要

SCP-1968はブロンズ色の円環である。材質は例のごとく不明で、一部が隆起しシンボルが刻まれている。
光を歪める性質を持っており、画像ではオブジェクトが激しく歪曲してしまう。更には重力変動まで起こしているらしい。

こいつの異常性は人によって力が加えられた時に発動する。直後にこいつは急速に変形し、力を加えた人の周りを高速で渦巻き、しばらく経過すると元に戻る。
その後被験者を調査すると、被験者の記憶は深い領域まで改変されていることが判明する。
例として、ある財団職員が実験の為にこいつを起動した後、インタビューで自身の来歴を説明したが、その来歴は財団に保管されている人事記録とは一致しなかった。

結果として被験者は動揺状態に陥り、しばしば人間不信を誘発する。円環の変形が激しいほど、改変の程度は大きくなるようである。
また、先述の絵文字がこの異常性の発現を制御しているという仮説が立てられている。

発見経緯と収容手順

SCP-1968は2001年末ごろ、グリーンランド、ザッケンブルグ周辺の石油調査中に地下から回収された。調査の結果、こいつは 約31万年前 のものと推定されている。
財団職員は発見時の無線通信を傍受し1968を確保。グリーンランド関係者にはBクラス記憶処理が施された。
ところが職員が到着したとき、近辺にいた調査員が丸三日間にも渡って拘束された状態で発見された。
この調査員、どうにもこいつの異常性を食らったらしく、周囲の同僚に対し暴行をしたんだそうだ。

現在こいつは地下300メートルのシェルター状の収容室に保管されており、アクセス手段は一基のエレベーターのみとなっている。
搭乗口には武装警備員が常駐しているが、何か侵入事案が発生した際はエレベーターシャフトの自爆装置を起動することになっている。
警備員達は「自己の消耗」を考慮するように指示されている。*1
だが、これだけならこいつに触れなければいいという話に思える。KeterどころかSafeでも良いんじゃないだろうか。

追記・修正は記憶を改変してからお願いします。

機密事項
以下の資料の無認可閲覧は、O5レベル監督官の過半数の同意無しには禁止されています。この指令への抵触は当人の終了だけでなく、この資料を認識した他の職員の終了にも結び付きます。

注記: CK、VK、XK、ZK、あるいはDedekind-uuクラスイベントが差し迫った場合には、この指令は撤回されます。






















警告: 直近エリアから退去しようとしないでください。セキュリティのため、一時間以内に限り中和可能な致死性ミーム媒介が投与されています。セキュリティ担当者を待ち、あなたの身元を確認できるよう準備してください。


どう説明するつもりだってんだ?真実を覆い隠すために理論を延長させでもするのか?分かるだろ、たった2つの可能性しかない。

俺の知る世界は消え失せちまったのさ。変更に変更を重ねられて、今は19回目だ。

あんたは変化し続ける。何もかもがそうだ。それでも、俺は変わらないまま。俺は覚えているただ一人の人間なんだ。

教えてくれ、もし君がそう・・・










博士、あんたを啓蒙してやるよ。







   *   *
 *   +嘘です
  n ∧_∧ n
+ (ヨ(*´∀`)E)
  Y   Y  *


上記の説明は殆どがカバーストーリー、つまり「本当の概要を隠すための嘘」である。
SCP-1968の真のオブジェクトクラスはThaumiel
そう、あのSCP-2000(機械仕掛けの神)やSCP-2140(過去改変画像)と同じ、「財団の切り札兼最終兵器兼諸刃の剣」である。
特にこいつはその中でも最も重要性の高い部類。つまり


財団の切り札、世界を救う最終手段である。


実験記録

さて、真の概要について話す前に、まずはこのオブジェクトに関する実験記録について説明する。
最初の実験の後、被験者*2は肉体的・精神的共に問題ないことが分かり、報告会終了後に彼の宿舎に戻った。
しかし、その際に彼は自身の備品が変更されているようだと思ったらしく。その後彼のシフトが組まれた際、それを伝えられた彼はそれに強い混乱を示した。
ここまでは上記の概要と矛盾しない。

二度目の実験の後、被験者は精神に不安をきたした。実験場所の変更、担当者不足、見知らぬ職員、彼を混乱させる要素は山ほどあった。
尋問の結果、彼自身の来歴、財団の歴史、オブジェクトの性質などについて、「根本的に異なる記憶を」彼は所持していた。


彼は当時発見されていなかった*3SCiPについて言及した。財団所属の博士、インタビュー担当者、ひいては10セント硬貨の肖像まで記憶と違うことを説明した。
そうして出されたのが初期の結論、現在のカバーストーリーである。しかし、精神に影響を与えたにしては被験者の記憶は細部まで筋の通ったものであった。また、彼はわざと嘘をついているわけでもなかった。
そして、彼は不可解な発言をした。

被験者: 俺は“あんたが将来知るだろうこと”を喋ったのか… そんなら、間もなく聞き知る事になるだろうさ。

・・・勘のいい財団職員の方々はすでに気付いたかもしれない。だが、もうしばらく続けさせて貰いたい。

三度目の実験の後、恐ろしい事実が発覚した。


(O5監督官 ███████の権限により、インタビューはこの時点で突然終了された。)

末尾陳述:
ポリグラフの結果は、応答が意識的な虚偽ではないことを示した。


明らかに様子がおかしい。
まず、被験者はこの実験が19回目であると主張している(実際は先述のようにまだ3回)。
そして、この円環が「記憶を改変する」訳ではないとの仮説を述べる。証拠として、「インタビュアーの二人から立ち聞き」したという「カシミール力の変化」なる現象について語ったが……当の二人はその力について会話した記憶はなかった。
そして直後にこの現象は実験によって確認された。つまり、彼は知り得るはずのない知識を本当に知っていた。

インタビューは一度中断されたが、インタビュアーによってその間に行われた実験も異様である。
彼は、何かを確かめるように母親のボイスメッセージを繰り返し再生した後、なんと 自殺 している。
おそらく、彼が聞いた人物の声は、記憶している「母親」の物ではなかったのであろう。そして悟ったのだ、自分が取り返しのつかないことをしてしまったと。
インタビューはその後再開された。

再開後、被験者は12週間この円環への任務に就いていたと語った(実験を開始してからまだ1週間しかたっていないのに)。
彼は、自身の記憶ではなく、世界のほうが変わったのだと語った。彼の知るそれらは過ぎ去って、既に消え失せてしまったとも。
この時点では、インタビュアーとその立会人はこの被験者が精神疾患を患っていると考えていた。

しかしその後、被験者は近い将来のことを予測できると語り、鼻で笑うインタビュアーを遮って、こう発言した。

被験者: 博士、あんたを啓蒙してやるよ。

その後の彼の発言は全て黒塗りで規制されており、傍聴していたと思われるO5監督官の一人に突然インタビューは終了させられた。


財団による追加の調査

被験者の発言の裏付けをするため、財団はこのオブジェクトが効果を及ぼすと思われる範囲内の調査・測定を行った。
すると折しも、この円環が異常性を発現した際、CERN(欧州原子核研究機構。実在の組織)から「ある現象」についての報告が入った。財団でも調査を行ったところ、ニュージーランド、南アフリカ、南極*4、果ては木星周辺でも発生が確認された
そして結論づけられる。この現象は宇宙全体に、そして瞬間的に、超光速で拡散している。ただある地点を除いて。
その地点とは、


SCP-1968の動作範囲、もっと言えば被験者がいる場所だった。


真の概要

さあ諸君、大分待たせたが、このオブジェクトの真の概要について説明しよう。
このオブジェクトは、お察しの通り、被験者の記憶を改変するものではない。このオブジェクトが改変している本当の物は、

我々の過去、

もっと言えばこの宇宙全体の過去である。

ここで、 「因果関係」 というものについて説明する。
因果関係というのは、「Aを原因にBの結果が生じる」という関係。通常の時間軸において、この関係は絶対に一方通行であり、逆転することはない。
ひいては、「過去の出来事や行動を原因に今が形作られ、そして今の行動や出来事が未来の形を決定する」=「過去があるから今があり、今があるから未来がある」と言い換えることもできる。

このオブジェクトの作用は、その因果関係を逆転させてしまうことなのだ。すなわち、「今をもとにして過去を作り直す」という事である。
先ほど触れた「ある現象」とは、被験者が言及した「カシミール力の変化」である。変化は 超光速 で伝播した……つまり、相対性理論のやぶれ、 因果の逆行 が起こったのだ。

この再構築の基準となる「今」。これは恐らく、宇宙全体の「今」を意味しない。
唯一、カシミール力の変化が及ばないとされるSCP-1968の動作範囲内の「今」。つまり、被験者と周囲の大気を基準として、過去の世界が 「もっともらしく」 作り直されるのだ。
もちろん、こんな僅かな情報を「因」としているので、再現される細部は元通りとはいかないだろう。*5

そしてこの急ごしらえの過去の世界に、SCP-1968と被験者はちょこんと再配置される。
被験者の視点からすれば、単純に過去へとタイムスリップしたようにも見えるだろう。これが、

被験者: 俺はこの… 世界交替状態 が前回よりもゆっくり展開され、出来事が起こるのもより遅くなっていると考えてる。

の示す、「出来事が遅くなる」である。

そして、再構築とはいえ元いた世界と大きく変わることは少ないため、SCP-1968起動の直前に起こっていたようなイベントは、起動後の世界でもほぼ確実に、そう間もなくして発生する。
「手に負えないほど事象が分岐しないのなら、この現象は効果的に近い将来の予知を可能にしてくれる」 とはそういう意味なのである。


どういうことだ!まるで意味がわからんぞ!


要するに、このオブジェクトは、
起動するたびに、今の世界によく似た世界の、その過去に飛ばされる
異常性を有しているのである。
世界を包むこの円環は、因果関係をひっくり返し、世界を、過去を、再構築する。



SCP-1968

Global Retrocausality Torus(世界を包む逆因果の円環)






本家記事の最後に、SCP-1968の最近の動向について書かれている。
実験から二か月後、この円環は「人間による操作を伴わずに」起動した。実験時とは全く違う現象が起きたのだ。すると、実験の被験者とよく似た人物が出現した。相違点は、未知の化学的熱傷を全身に負っていたことであった。インタビューする試み空しく、程なくしてこの人物は息絶えた。
それからさらに一か月後、再び円環は勝手に起動し、今度は重武装した非人型実体を放出した。その実体は財団の職員に攻撃し、12人殺害、多数のけが人を出し、最終的に無力化された。実体の持っていた兵器は、今の物理法則に逆らう性質を有しており、その外見はSCP-1968と似たものだった。

この二つの補足と、先のO5によるインタビューの突然の停止。
考えられるのは、かつての世界で少なくとも3回、非人型実体によるサイトの襲撃・占領イベント……最悪の場合、 K-クラスシナリオ *6が起こったというものである。
2回目のイベントでは、先の人物が致命傷を負いながらもSCP-1968を起動。しかし起きる未来を伝えられぬまま死んでしまった。
その結果再構築された世界でも再びイベントが発生。この3回目では財団はSCP-1968を起動できなかった。しかし幸運なことに、イベントを起こした生物自身が1968を起動。また世界が再構築された。
そしてこれらの2つの起動が、今の財団世界で「予期せぬ起動」として観測されたのだと思われる。……1回目はいつだって? 被験者がインタビューで言及した、「アーティファクトは近い内に――」の経験が1回目である。

被験者は、この未来のイベントの発生について言及し、機密の漏洩、職員の動揺、あるいはタイムパラドックスの危険を感じたO5によって制止させられたのだと予想が付く。
・・・しかし、このオブジェクトの特性は「出来事を遅らせる」だけである。「無いことにできる」訳ではない。つまり、人型実体はいずれ必ずやってきて、財団に対処を迫るだろう。
果たして財団は、この報告書が存在する世界でそれを回避できたのだろうか?
もし失敗すればどうなるのか? 実は、その結果は既に示されている。

SCP-1968の正体

兵器の外観はSCP-1968に類似していることが分かっています。

当該アーティファクトは31±2.3万年のものと推定されています。

被験者: 俺はこの… 世界交替状態 が前回よりもゆっくり展開され、出来事が起こるのもより遅くなっていると考えてる。

……人型物体の武器、これに関する不気味な特徴について、気になった読者も多いのではないだろうか。
外観がSCP-1968に似ている――まるで、 SCP-1968も元々は彼らの道具であったかのように。

これは、通常のタイムスケジュールを考えれば有り得ない。なぜなら、SCP-1968は地下深くから発見された30万年前の遺物。これが人型実体のものだとすれば、彼らは 我々人類がようやく原人から脱したような古代に、既に高度な技術をもって地球に住んでいた ことになるからである。

しかし……SCP-1968は出来事の発生を遅らせる。言い換えれば、擬似的にタイムスリップを引き起こす。
もしも、オブジェクトが暴走したり、人型実体が操作を誤ったりして、幾百、幾千万回という世界の再構築を起こしていたとしたら? そしてその度に、 SCP-1968を過去へと、人型実体の社会を遠い未来へと移動させていったとしたら?

もしかしたら、我々人類は既に一度、生存競争に敗退(支配シフト)した後なのかもしれない……。



補遺

CK-クラス:現実終焉シナリオ発生時に、このオブジェクトを使用することを誰かが提案した。しかし、このオブジェクトを使用することは「世界の消滅を確実なものにする」と書かれている。同時に、「何もしないことは同様の結果を約束する」とも言及している。
そりゃそうだ。こいつが起こしているのは世界そのものの再構築だ。はっきり言えば「K-クラスをもっともマシなK-クラスで上書きしている」も同然である。
しかし1968を使わなければ、より凄惨なK-クラスシナリオで世界が終わるだけなのだ。だから使うしかない。
それは財団の目的の一つ「正常性の保護」を否定することに繋がる。だが、現行世界の報告書においてこいつがThaumielに指定されていると言うことは・・・
少なくとも、そのときが来ればやるつもりなのだろう。今の財団は。



財団の明日はどっちだ。




余談

1968自体は2000コンテストより前に投稿されたSCPであり、当時はKeterクラスのままだったが、コンテスト終了後に機密指定のThaumielクラスに変更された。
そのため、単純な執筆時期だけで言えば1968が二番目に古いThaumielである。


「SCP-1968が起動したら再構築されるのに、なぜ起動する瞬間の変化が観測できたのか」と疑問に思うかもしれない。
しかしよく考えてみると、この「観測できた」という事実自体が、再構築された過去の一部であることが分かると思う。
そもそも財団の報告書が、オブジェクトを研究し、その結果を報告する文書であり、過去を記したものである以上、それもまた1968の改変の産物なのだ。
もっと言えばここまでの「1968発見→実験→インタビュー→カシミール力の観測→真相の判明→Thaumiel指定」という一連の流れそのものが、度重なる再構築の末に生まれた過去だといえる。
1968の正確な起動回数が把握できないのもこれが理由。こいつにとっては「自身が起動した」という事実さえも、改変の対象となる過去に過ぎない。
幾度も改変を繰り返す世界の中で、唯一一貫性があるのは、「以前の世界を知っている人間が1968から出てきた」という出来事だけなのである。


追記・修正は、過去を再構築してからお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-1968 - Global Retrocausality Torus
by equitefahrenheit
http://www.scp-wiki.net/scp-1968
http://ja.scp-wiki.net/scp-1968

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