天使。オブジェクトクラスはEin sof。アイン・ソフ、無より来る無限、である。
昏睡状態のアメリカ先住民族の少女で、カバーのオブジェクトクラスはExplaindになっている。
生存するために呼吸も飲食も不要だが、肉体的な機能としてそれを行うことは可能。ただし、老化に対しての耐性はない。
この少女は常に深いレム睡眠に近い状態を保っており、時折発する寝言は多くの人命が失われた事件・事故に関連している。
担当職員により嗚咽、うめき声、落涙が記録され、それに応じて世界では戦争や虐殺が繰り広げられていたらしい。
これだけなら001認定するほどではないのだが、問題の異常性はこの次。
彼女は自身に奉仕するあらゆる刺激に対して耐性を持っており、長期的かつ執拗な接触によってのみ覚醒に近づけることが可能。
が、こうなると彼女の脳活動が妨害され、結果イベント「大いなる漸滅」が発生することになる。
これがどういうイベントかというと、距離無限の異常空間を発生させ、彼女が覚醒に近づくほどに広がっていく。この空間の中は真空や無という概念すらも存在しない、あえて表現するなら非存在、不在としか書きようがないもの? である。これに人間が接触した場合、移動に必要な部分、要は足が呑まれたのでなければ自由に出入りできる。しかし足が呑まれてしまった場合脱出不能になり、そのまま崩壊していくことになる。
この異常空間はいかなる手段を用いても捕捉不能であり、規模がでか過ぎるのとその性質から研究は出来ていない。
SCP-001-FRが再び眠りにつくと、巻き戻されるように全ての非存在が戻り、呑まれていたものは全てその直前の状態で復帰する。この事から、イベント発生中において現実と入れ替えられる非存在領域において、時間の流れを一時的に中断させていることがわかっている。
要は、「この世界はこの子が見ている夢。起きると世界が消えるから寝かしとけ」という話である。
それを信じなかったあるエージェントがSCP-001-FRを射殺しようとするインシデントが発生したことがあるのだが、
それによると件のエージェントは、この世界が彼女の夢だということを信じず、彼女を殺すことでそれを証明しようとしたようだ。
結局阻止されているが、この時小規模なイベントが発生している。
この結果そのエージェント・モームと止めに入ったエージェント・クラインは互いに殺されたものの、クラインはイベントの特性により復帰。
そして「死んでいた」間、クラインは光に包まれた「正常な場所」において、覚醒状態のSCP-001-FRと会話していた。
そこにおけるSCP-001-FRの発言の一部がこちら。
貴方の周りに見える彼らは皆、水晶の眠りを眠っているのです。貴方やかつての私と同じに、彼ら自身が生と希望とを築き上げた世界の夢を見ている。そして最後は、遅かれ早かれ目を覚ます。そうして彼らは、己が常に探し求めていた「父」を見つけ出すのです。
けれど貴方の夢は、あのような終わりを迎えるべきではなかった。貴方の覚醒を望んだのはこの私。貴方が私を守ろうとして、貴方に唯一残された大切な人を排除すると決意した時、私は貴方のために悲嘆を胸に感じました。しかし貴方の友人が、死を齎すに違いない一撃を貴方に加え、それは全て私の誤りだったと理解した時、私は己の力の全てをもって、貴方が死ぬことのないようにと願い、そして… 不可能なことが起こったのです。ワカン・タンカが私の願いを聞き入れられた。
貴方の言う"神"とは何です? 貴方達の偶像とは違う物なのですか? 私が貴方に語っているのはワカン・タンカのこと。万物の起源の創造者たる存在。人間、動物、樹木、岩石、それに心や星々や、無数に存在する世界の全ても。私たちはそれを"大いなる神秘"と呼んでいた、遥か昔から、それこそが全てだったから。それは自らが創ったものの全てを愛しているけれど、絆は唯一、私の民族にだけ結ばれていた。
彼女はその後、かつて起きた白人による侵略について語り、全ての命の父たるもの、ワカン・タンカの嘆きを耳にしたという。
そしてワカン・タンカの嘆きと苦悩は人間たちに傷を与えたが、それは世界そのものにも波及。結果、例の非存在領域が広がった。
そのため、スー族のシャーマンの子であった彼女=ワカンダは、自らをワカン・タンカの器として捧げ、ワカン・タンカと共に眠りにつくことでその「傷」が広がるのを防いでいるという。そのため、彼女の覚醒は即ちワカン・タンカの覚醒=ワカン・タンカの苦悩と嘆きの再来=「傷」の拡大に繋がるのである。
その後のやり取りはここでは省くが、エージェント・クラインは最後に、ワカンダのような守護天使がいる限り、この世界が現実であるという希望を捨てずに済む、と締めくくっている。
ワカンダは元々スー族の居住地でオブジェクト調査をしていた際に発見されており、聖地にある岩窟の奥で、布にくるまれた状態で封印されていた。
同時に発見された碑文がこちら。
ワカンダ 明かされたる神秘の力
誇らかな汝の名をもて 誉れ高き化身となるは
ワカン・タンカ 大いなる神秘 地と人とを
水と火とを 太陽と月とを 風と天とを創りしもの。
父祖の魂を子らの狂気より守らしめ
かの死せる心を汝に宿し 汝の肉体をして かの者安らえる場所とならんことを。