アルプス一万尺

登録日:2024/05/06 Mon 16:23:31
更新日:2024/07/12 Fri 10:47:05
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せっせっせーのよいよいよい

【概要】

アルプス一万尺』とは、おそらくほとんどの人が手遊びと共に憶えているであろう歌。
作詞者は不明だが、後述の様にメロディは元々は別の曲。

しかし、有名な曲だが歌詞の意味については良く解っていないという人も多いのでは。
また、この歌をどこで覚えたかについては、ほとんどの人が手遊びで遊んでいる内に、あるいは遊んでいる人が歌っているのを聞いて、というのが大半と思われる。

この項目では、替え歌のバリエーションや歌詞の意味などについても触れていく。

【手遊び】

「せっせっせーのよいよいよい」の掛け声で始まり、二人が対面して手を動かす遊び。
アルプス一万尺の歌に合わせて手を動かし、曲が終わるまでに4回同じ動きを繰り返す。
小学生以下の女子の間に流行っていたらしい。
慣れた子供だと高速でこなしてしまう。
この手遊び自体も誰が考えたのか、いつ頃広まったのかは明確ではない。
手遊びは少なくとも高度経済成長期から2000年までの間には日本中に流行っていたと考えられる。

替え歌

有名な曲なので替え歌も多い。
小学生向けのランドセルのCM用のものや、個人で作ったであろう品のない歌詞のものもある。
「となりのじっちゃんばっちゃん〜」ではじまるものが割と有名。

リズム的には都々逸の7、7、7、5の音が合うため組み合わせやすい。

【元の歌】

実はこの歌、『ヤンキードゥードゥル*1というアメリカの曲に日本語で歌詞を付けたもの。
この曲は1853年の黒船来航後、ペリーがアメリカ大統領からの親書を江戸幕府の代表らに手渡すため、久里浜に海兵隊とともに上陸した際、行進曲として演奏されたのが日本に来た始まりらしい。
『ヤンキードゥードゥル』の方も、元はヨーロッパ民謡だがイギリス人が植民地の アメリカ人をバカにする替え歌 として作ったもの。
……にもかかわらず、当のアメリカ人が曲を気に入ったために愛国的な歌詞やその他好き勝手に編詩してアメリカを代表する歌にしている(なんか日本鬼子みたいな顛末だ……)ため、日米問わず独創的に作詞したくなる魅力がある良曲と言えよう。

【歌詞の意味】

以下、歌詞の意味を解説する。
まず、この歌は「日本の山」に関する歌ということを念頭に置いて欲しい。
作詞者は不明だが、考案者はどこかの大学の山岳部の学生ではないかという説がある。

戦後、昭和30年代ころまでは空前の登山ブームで、その際に広まったとか。
そこから同じ頃、「アルプス一万尺」の歌詞がついたものが公開されたらしい。
調べればすぐに出てくるのと著作権の問題があるので単語毎に説明する。

  • アルプス一万尺
よく「アルプス一万」と誤解されるが、長さの単位の「」が正しい。しかしこれがあまり使われなくなっていることから誤解された様子。「一万尺」で後述の小槍の高さの約3030mになる。
また、このアルプスとは「日本アルプス」のことで、ヨーロッパのアルプスのことではない。
アルプスの少女ハイジ』が人気のアニメだったためか、そちらと関連付けられヨーロッパのアルプスと思われることも多いらしい。

  • こやり
よく「子ヤギ」と間違われる。
やはり『ハイジ』が人気のアニメな上、主人公と一緒に子ヤギがよく登場したため結びついたか。
しかし実際は日本アルプスにある槍ヶ岳の近くの小槍岳という尖った岩を指す。
なお一応上に立てるスペースはあるが、上るのはロッククライミングの技術が必要で一人が限界。

  • アルペン踊り
詳細不明な踊り。
一説によれば数人が手を繋いで輪になって踊る踊り、らしい。その場合は前述した通りスペースの関係上小槍の上で踊れるものではない。

この後は実際に踊るのか「ラーンラランラ~」と歌が入ってきて、最後に「ヘイ!」で終わる。
ただこの最後の「ヘイ!」は元の歌詞にはなく、恐らく手遊びの中で付け加えられたらしい。





と、まあここまではよく知る「アルプス一万尺」の1番の歌詞の中身である。





そう、この歌、2番もあり、3番もあり……29番まである。

29番まであるというかなり長い歌なのだ。

Q:何故そんなに長い?
A:作詞者不明のため、複数のバリエーションをまとめたか、後から付け足しが繰り返されたためと思われる。
  歌詞のテイストが異なるため、一人で全部考えたとは考えにくい。

Q:何故1番しか知られていない?
A:おそらく「手遊び」で拡散したため。
  この手遊びは1番だけで同じ動きを4回行うので、長さからして1番だけで丁度良かったのだと思われる。


ではあらためて2番以降の歌詞の解説。
やはり歌詞そのものは書けないので、ざっくりと解説。
なおいずれも、「ラーンラランラ~」と歌が入ってくるところは共通。

  • 2番
ノミが富士登山をするという夢の内容。
スケールが大きいのか小さいのか分からない。

  • 3~5番
道を尋ねたり、お花畑や雪渓などの山の景色の描写がある。

  • 6~7番
一万尺にテントを張ったりキャンプの朝を迎えるなど、山でキャンプし、景色を楽しんでいる様子。

  • 8~14番
ここからテイストが変わり恋愛の歌になる。
女の子に片思いしているらしく、一人でいることに寂しさを覚えたり、その子の夢を見たり、ラブレターの返信がないといった内容になっている。
「ラーンラランラ~」と歌が入ってきてよいのだろうか。
一方で14番は、本当に好きなら気になって眠れないだろう、と10,13番の歌詞に反論する内容である。

  • 15~18番
本格的な登山用具の専門用語が出てきて分かりにくい。
「チンネ」とは大きな岩壁を持つ尖った峰のこと、「ザイル」とはクライミングロープの事を意味し、どちらもドイツ語に由来。
「ハーケン」とは岩の割れ目にハンマーで打ち込む楔型の金具であり、「ハーケンが歌う」とはしっかりハーケンが食い込んでいることを意味する。

  • 19~24番
槍穂高が登場し、以降この場所が歌の中心となる。
「槍穂高」とは北アルプス南部の山々の槍・穂高連峰のことで、厳しいルートながらも登山者の憧れの場所とされている。
実際の穂高岳の地図と歌詞を見比べるとどういうルートで移動したのかが分かる様になっている。
いくつかは長野県の民謡、安曇節(あずみぶし)と共通する歌詞があり、そこが元ネタと言われている。
ここでも登山の用語がいくつもあり、「ルンゼ」とは岩の縦の割れ目。
「ジャンダルム」は西穂高岳から奥穂高岳のルート上にある峰。
フランス語で憲兵を指す*2言葉で、スイスのアルプス山中にある有名なアイガー山にある同名の絶壁にちなんで呼ばれている。
「リンキ」は悋気と書き、嫉妬心を意味する。

  • 25~27番
下ネタになっている。
「花を摘む」は知っている人もいるかもしれないが女性の小便、男性の大便の隠語。
「キジを撃つ」とは立ちションの隠語らしい。
つまり、出す物をだしたということか。

  • 28~29番
長野県松本市安曇にある大正池につき、名残惜しくなっている様子。
帰路に着き、また来年も会おうと山に挨拶している。


追記・修正は29番まで歌いきってからお願いします。

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最終更新:2024年07月12日 10:47

*1 タイトルの意味は「間抜けなアメリカ人」。

*2 厳密には「国家憲兵」という、軍隊内部ではなく民間も取締る組織。旧日本軍の憲兵も国家憲兵を参考に制度化された