クァチル・ウタウス

登録日:2022/08/09 Tue 23:10:51
更新日:2024/01/09 Tue 20:01:04
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数多くの生を通じて、誕生から死、死から誕生まで、選ばれた者を追う魔物の網は霊妙にして多用なり。
                                      カルナマゴスの遺言
創元推理文庫『ゾティーク幻妖怪異譚』(2009年、大瀧啓裕訳)収録「クセートゥラ」冒頭より引用


クァチル・ウタウス(Quachil Uttaus)とは、アメリカ合衆国の作家クラーク・アシュトン・スミスによる短編小説『塵埃(じんあい)を踏み歩くもの』に登場するキャラクターである。
訳によってはクアキル・ウッタウスとも。
本項ではキャラクターと縁の深いアイテムである「カルナマゴスの遺言」も併せて解説する。


概要

初出は「Weird Tales」1935年8月号に掲載されたC・A・スミスの『塵埃を踏み歩くもの』。

古代の賢者カルナマゴスが遺した書物「カルナマゴスの遺言」に記された呪文によって呼び出す事ができる存在で、「塵埃を踏み歩くもの」はその異名でもある。
外見は子供の木乃伊(ミイラ)のように小さく干からびており、頭髪や目鼻は無く皺の輪郭だけが刻まれた顔だとも言われている。
何らかの要因によって現れる際には青白い一条の光線(書籍によっては灰色の光線とも)と共に姿を見せるという。

最大の能力は、生物・無機物問わず触れた存在の時間を早める能力
この能力でクァチル・ウタウスの虜になったが最期、急速に時間を加速させられてしまい、老衰を通り越して肉体が風化、そのまま塵と化して死に至ってしまう
というか初出作品においては召喚者の住まう邸宅の器物などが急速に劣化したり、語り部のジョン・シバスチャンがクァチル・ウタウスに直接遭遇する前から
明らかに肉体の急速な衰えを感じていたりと、直接触れずとも召喚された時点でその領域に多大な影響を及ぼす事がうかがえる。
「エクスクロピオス・クァチル・ウタウス」という呪文によって協定を結ぶことも可能との事で、それによって上記の能力とは逆に契約者へ不死を与える事もあるとされるが、
その代わりに契約者の背骨が曲がってしまう事は避けられず、また「禁じられた言葉」を交渉人の近くで誰かが言うとクァチル・ウタウスが元従者を滅ぼしに現れるという。

クァチル・ウタウスの登場する『塵埃を踏み歩くもの』の日本語訳は、
2011年に創元推理文庫より刊行された『アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚』(訳:大瀧啓裕)に収録されており、現時点では邦訳はこれ一本のみ。
後述の通りTRPGの分野で知名度を上げた神性なだけあって待望の翻訳ではあったが、現在は絶版かつ結構なプレミア価格になってしまってるのが困り所。

その他、ジョセフ・ペイン・ブレナンの小説『The Keeper of the Dust』(現時点で未邦訳)に登場するカ=レト(塵の守護者)なる存在が
クァチル・ウタウスに酷似した外観と性格を有するとされるが、関連性は不明。


「カルナマゴスの遺言」

ハイパーボリア北西部・古代キンメリアの邪悪な賢者にして予言者カルナマゴスが記した魔術書で、クァチル・ウタウスについての情報が記された唯一無二の文献。
邦訳によっては「カルナマゴスの誓約」とも。むしろこちらの名称の方が馴染み深い神話ファンも多いかもしれない。
記述の内容は、写本だけでもクァチル・ウタウス絡みの記述の他、現在は失われた古代の妖術、地球と超宇宙の魔物や神々の歴史、邪悪な星ヤミル・ザクラに関する情報、
そして魔物を召喚・支配・退散させる術が記されているとされる。

元を辿れば、西暦935年頃に魔術師グレコ・バクトリアの墓にて発見された、カルナマゴスが記し遺したものが原本であり、
それを背教の修道士が夢魔の設けた半人半魔の怪物の血液によって、ギリシア語に翻訳しつつ筆写して複製したとされる。
筆写されたのは二部だけで、内一冊は13世紀初めにスペインの宗教裁判所の異端審問によって処分され、オリジナルの原本も行方知れずとなったが、
残り一冊は歴史の闇に埋もれながらも現存し、紆余曲折を経て、とある古書籍商の書棚でジョン・シバスチャンが発見、彼の手に渡るに至っている。
シバスチャンが元々その存在を知っていた事から、作中世界では「死霊秘法」辺りと同じ程度には稀覯本として知名度がある模様。

『塵埃を踏み歩くもの』ではシバスチャンが購入後、人間の存在を包み込む暗い謎の研究を目的に、クァチル・ウタウスの召喚周りの記述には極力触れないように
研究対象として読んでいたようだが、偶々ギリシア語の教養があった彼の使用人テイマーズが不用意に触れてしまい、クァチル・ウタウスを呼び出してしまったのが不幸の始まり。
召喚されたクァチル・ウタウスの影響によって屋敷の器物、そしてテイマーズは徐々に朽ちていき、やがてテイマーズも塵芥となって死亡。
事態を察したシバスチャンも恐怖に慄き、自身の身体が朽ちていく感覚に囚われながらも逃げ出そうとするが、やがてその眼前にクァチル・ウタウスが直接出現。
クァチル・ウタウスに触れられたシバスチャンは一瞬で朽ち果てて崩壊し死亡、遺された遺骸の塵にクァチル・ウタウスが足跡を付けて消え去った時点で物語は幕を閉じている。

その他、同じくC・A・スミスの作品で遥かな未来世界のゾティークを舞台にした『クセートゥラ』でも、物語冒頭の引用という形で存在が言及されている。
ちなみに作品発表順で言うと「カルナマゴスの遺言」というアイテムの初出はこっち。


クトゥルー神話におけるクァチル・ウタウス

『塵埃を踏み歩くもの』という作品に限れば元はクトゥルー神話は勿論のこと、上述の通り「カルナマゴスの遺言」の存在が他短編から引用されている事を除けば
スミス独自のシェアワールドであるゾティーク・ハイパーボリア・アヴェロワーニュの括りにも連ならない独自完結の短編であったが、
例によってリン・カーターによって「カルナマゴスの遺言」と共に「エイボンの書」がグレコ・バクトリアの墓から発見されたという設定が付加され、
クトゥルフ神話の体系に組み込まれる事に。
それに伴い、クァチル・ウタウスも神話で言うところの旧支配者としてカテゴライズされている*1

どちらかと言えばクァチル・ウタウスに「カルナマゴスの遺言」ともども、長らく邦訳が無かった事もあって、小説よりもTRPGの分野で認知度を得た存在であり、
時間を操るとも解釈できる能力故か、プレイによっては小説とは逆に人間の寿命を延ばし、果ては上述のように不死を授ける事もあるとすらされる。
ただし、クァチル・ウタウスの恩恵を受けるには言うまでもなく「カルナマゴスの遺言」を読む必要があり、
そのペナルティとしてたった数行読むだけで寿命が十年も消費されてしまうという、まさしくハイリスクハイリターンを地で行くアイテムとなってしまっている。


追記・修正は、「カルナマゴスの遺言」もしくはガチャでクァチル・ウタウスを召喚してからお願いします。

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最終更新:2024年01月09日 20:01

*1 ダニエル・ハームズ著『エンサイクロペディア・クトゥルフ』など、クァチル・ウタウスが旧支配者である設定に若干懐疑的な解釈をしている資料も存在する。