神聖イルニクス帝国ギルノーツ領、ギルノーツ家が住まう館の一室にてニコラス三世とギルノーツ家当主が会談を行っていた。
「つまりギルノーツ家は吾輩を支持するという考えで良いのか?」
「ええ、その通りでございます。我がギルノーツ家はニコラス・フォン・イルニクスを支持する意向でございます」
どちらも穏やかな笑みを讃えているがその腹の内を探り合っている。それも当然だ。ニコラス・フォン・イルニクスを疎み反発する諸侯は多い。ギルノーツ家先代当主もその一人であったのだ。その先代から今代の当主に代替わりした途端に手の平を返すかのように支持派に回ると表明したのだ。どのような腹積もりか探りたくもなる。かつて同じ学び舎で研鑽しあった友人であってもだ。
「ふむ、先代当主は我のことをよく思っていなかったのだが良いのか? 機嫌を損ねることとなるぞ」
「構いませぬ。もはや先代に我がギルノーツ家の意向に口出しする権利も力もございませぬ。私が全て取り上げて差し上げたのですからな」
「先代当主の影響を完全に排除したと。家を掌握するためにそこまで徹底したのか」
そう言ってニコラスは茶を口にする。かつての友人の成長ぶりに内心驚嘆する。
「そこまでするということは何かよほどのことがあったのだろうな」
「……そんなところでございます」
何やら微妙な反応を示すギルノーツ家当主であったがあえて知らぬ振りをすることした。ここでつついてギルノーツ家の弱みを握るのもよいかと思ったがどういった腹積もりであるかを確かめてからでも遅くはないと判断する。
「それで?支持派に回るとして吾輩に何を期待しているのだ?」
直球でギルノーツ家当主に尋ねる。当たり障りのない回答が返ってくるだろうと考えたがその予想は外れることとなる。
「……あえて本心を話しましょう。私は貴方様に、ニコラス・フォン・イルニクスに希望になってほしいのです」
「……希望?」
予想外の返答に面食らうこととなったニコラス。それに構うことなくギルノーツ家当主はさらに言葉を重ねる。
「この世はいまだ魔物、そして魔王の脅威にさらされている。その脅威によって人々の安寧は奪われる一方だ。希望が必要なのだよ。全種族にとって魔王という脅威に屈服しないためにも、我ら知的種族全体の道行きを照らしてくれる希望の光が」
「……その希望は吾輩が相応しいと?」
「その通りだ。貴方に全種族の希望になってほしいのだよ。それが私が貴方を指示する理由だ。貴方はその器だと私は信じている」
「……なるほどな……そう言う理由か……」
俯きくつくつと笑いだすニコラス。かつての友人から希望になれと言われたのだ。可笑しくて仕方がなかった。
「……いいだろう。お前の望みに乗ってやる。その代わり途中で降りることは許さんぞ? ギルノーツよ」
「無論、この命が尽きるまで力を尽くして見せましょう」
お互いの意思を確認し合うかのように差し出した手を堅く握り合った。誓いを立てるかのように。
「つまりギルノーツ家は吾輩を支持するという考えで良いのか?」
「ええ、その通りでございます。我がギルノーツ家はニコラス・フォン・イルニクスを支持する意向でございます」
どちらも穏やかな笑みを讃えているがその腹の内を探り合っている。それも当然だ。ニコラス・フォン・イルニクスを疎み反発する諸侯は多い。ギルノーツ家先代当主もその一人であったのだ。その先代から今代の当主に代替わりした途端に手の平を返すかのように支持派に回ると表明したのだ。どのような腹積もりか探りたくもなる。かつて同じ学び舎で研鑽しあった友人であってもだ。
「ふむ、先代当主は我のことをよく思っていなかったのだが良いのか? 機嫌を損ねることとなるぞ」
「構いませぬ。もはや先代に我がギルノーツ家の意向に口出しする権利も力もございませぬ。私が全て取り上げて差し上げたのですからな」
「先代当主の影響を完全に排除したと。家を掌握するためにそこまで徹底したのか」
そう言ってニコラスは茶を口にする。かつての友人の成長ぶりに内心驚嘆する。
「そこまでするということは何かよほどのことがあったのだろうな」
「……そんなところでございます」
何やら微妙な反応を示すギルノーツ家当主であったがあえて知らぬ振りをすることした。ここでつついてギルノーツ家の弱みを握るのもよいかと思ったがどういった腹積もりであるかを確かめてからでも遅くはないと判断する。
「それで?支持派に回るとして吾輩に何を期待しているのだ?」
直球でギルノーツ家当主に尋ねる。当たり障りのない回答が返ってくるだろうと考えたがその予想は外れることとなる。
「……あえて本心を話しましょう。私は貴方様に、ニコラス・フォン・イルニクスに希望になってほしいのです」
「……希望?」
予想外の返答に面食らうこととなったニコラス。それに構うことなくギルノーツ家当主はさらに言葉を重ねる。
「この世はいまだ魔物、そして魔王の脅威にさらされている。その脅威によって人々の安寧は奪われる一方だ。希望が必要なのだよ。全種族にとって魔王という脅威に屈服しないためにも、我ら知的種族全体の道行きを照らしてくれる希望の光が」
「……その希望は吾輩が相応しいと?」
「その通りだ。貴方に全種族の希望になってほしいのだよ。それが私が貴方を指示する理由だ。貴方はその器だと私は信じている」
「……なるほどな……そう言う理由か……」
俯きくつくつと笑いだすニコラス。かつての友人から希望になれと言われたのだ。可笑しくて仕方がなかった。
「……いいだろう。お前の望みに乗ってやる。その代わり途中で降りることは許さんぞ? ギルノーツよ」
「無論、この命が尽きるまで力を尽くして見せましょう」
お互いの意思を確認し合うかのように差し出した手を堅く握り合った。誓いを立てるかのように。
「…………ずいぶんと懐かしい夢を見たものだ」
神聖イルニクス帝国の執務室にてニコラス三世は独り言ちる。どうやら居眠りをしていたようであった。ここ最近は政務が忙しくまともに食事をとることはおろか十分な睡眠時間を確保することすら難しいほどであった。皇帝とは忙しいものだと心の内で呟き居眠り時の夢に思いをはせる。いい年に差し掛かる頃だろうにずいぶんと青臭い理想を語っていたものだと。そして共に理想を叶えるために力を尽くすと誓い合ったはずだと思い返す。しかし青臭い理想を語り誓いを立てた友人はもうこの世にはいない。領民共々殺されてしまったのだ。事態を聞きギルノーツ領に駆け付けた時には手遅れだった。友人やその家族、そして領地に住まう民の死体が転がっているだけだった。事態を引き起こした愚かな人物はいまだに捕まっていない。そもそもどういった人物が企て実行したのか、それすら判明していない。
「……途中で降りることは許さんと言ったはずだ。馬鹿者が」
誰もいない執務室にて亡き友人を思い返しニコラス三世の呟きがぽつりと零れたのだった。
神聖イルニクス帝国の執務室にてニコラス三世は独り言ちる。どうやら居眠りをしていたようであった。ここ最近は政務が忙しくまともに食事をとることはおろか十分な睡眠時間を確保することすら難しいほどであった。皇帝とは忙しいものだと心の内で呟き居眠り時の夢に思いをはせる。いい年に差し掛かる頃だろうにずいぶんと青臭い理想を語っていたものだと。そして共に理想を叶えるために力を尽くすと誓い合ったはずだと思い返す。しかし青臭い理想を語り誓いを立てた友人はもうこの世にはいない。領民共々殺されてしまったのだ。事態を聞きギルノーツ領に駆け付けた時には手遅れだった。友人やその家族、そして領地に住まう民の死体が転がっているだけだった。事態を引き起こした愚かな人物はいまだに捕まっていない。そもそもどういった人物が企て実行したのか、それすら判明していない。
「……途中で降りることは許さんと言ったはずだ。馬鹿者が」
誰もいない執務室にて亡き友人を思い返しニコラス三世の呟きがぽつりと零れたのだった。