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体育祭準備開始
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あと十二日
体育祭準備期間の開始を知らせる通知は、朝のホームルームと同時に届きました。
教室前方の表示面に、開催までの日数と競技一覧が大きく映し出されます。
<だんのこまち第一高等学校体育祭>
<開催まで、あと十二日>
クラス対抗リレー。
障害物競走。
綱引き。
大縄跳び。
借り人競走。
そして、バーチャル世界内で行われるデュエル大会。
競技名が表示されるたび、教室のあちこちから声が上がりました。
「チョコちゃん、デュエル大会!」
レンちゃんが、私の腕を軽く引きました。
「はい。ですが、まだ本戦出場者の通知は――」
言い終える前に、手元のDPo-Xが振動しました。
<デュエル大会・本戦出場資格>
<一年二組 チョコチップ>
<クラス内模擬戦およびAグループ訓練結果により、本戦出場者として登録されました>
一度、表示された名前を確認します。
見間違いではありません。
「おめでとう、チョコちゃん」
フィーちゃんが、すぐに笑顔を向けてくれました。
「ありがとうございます」
「やっぱり選ばれたね!」
プラリネさんも、前の席から振り返ります。
教室の中から拍手が起こりました。
模擬戦で一位になった時にも祝っていただきましたが、体育祭の代表として名前が表示されると、また違う緊張があります。
「どこまで勝ちたい?」
フィーちゃんが尋ねました。
「出場する以上、最後まで勝ち上がりたいです」
「優勝?」
「はい。目標は優勝です」
答えると、レンちゃんの表情が明るくなりました。
「応援するね!」
「私も」
「試合の合間に食べられるパンも作るよ!」
プラリネさんが続けます。
「ありがとうございます。ですが、プラリネさんも競技や準備があるでしょう? 無理しないでくださいね。」
「うん。お父さんにも相談するから大丈夫」
「それなら、楽しみにしています」
担任の先生が、表示をクラスの準備項目へ切り替えました。
「本戦出場者以外にも、全員に競技や準備の担当があります。出たい競技と、当日までに手伝いたい係を登録してください」
それぞれのDPo-Xへ、希望登録画面が届きます。
レンちゃんは、すぐに障害物競走を選びました。
「もう決めたんですか?」
「日本の体育祭らしい競技、やってみたかったの」
「途中に網や平均台もありますよ」
「それが楽しそう!」
レンちゃんは、本当に嬉しそうです。
ドイツから日本へ戻ってきた理由の一つが、普通の高校生活を経験することでした。
そのレンちゃんにとって、体育祭は待ち望んでいた行事なのかもしれません。
「では、私も一生懸命応援します」
「ありがとう。転ばないように頑張るね」
「はい。ただ、転んでしまっても慌てずに立ってください」
「チョコちゃん、もう当日の心配をしてる」
「楽しみにしているからこそです」
フィーちゃんは、競技一覧よりクラス旗と応援企画の項目を見ていました。
「旗と腕章の模様、揃えたいな」
「もうデザインを考えているんですか?」
「昨日、少しだけ考えたの。大きな旗と小さな腕章では、同じ柄をそのまま使えないから、形は似せて細かさを変えようと思って」
フィーちゃんは、下書きの画像を見せてくれました。
中央から何本もの線が前へ伸び、遠くから見ても勢いが伝わるデザインです。
「素敵です」
「本当?」
「はい。校庭で風を受けた時も、きれいに見えると思います」
「じゃあ、もう少し詰めてみるね」
プラリネさんも、旗制作へ希望を入れました。
「私も手伝う! 実家から広い作業台を借りられるよ」
「ありがとうございます。大きな布を広げる時に助かりますね」
「塗料を混ぜる容器も、食べ物に使わないものを持ってくるから安心して」
以前の会話を覚えていたようです。
「気を遣わせてしまいましたか?」
「ううん。最初から分けるつもりだったよ」
プラリネさんは笑ってくれました。
私はデュエルの練習に加え、バーチャルポッドの最終試験へ参加する予定があります。
それでも、クラスの準備をすべて任せてしまうのは落ち着きませんでした。
用具係の希望欄を開きます。
「私も、参加できる日に用具係を手伝います」
そう言うと、レンちゃんとフィーちゃんが同時にこちらを見ました。
「チョコちゃん、予定を確認してからにしよう」
レンちゃんが、Kirscheの共有予定表を開きます。
授業。
デュエルの追加訓練。
バーチャルポッドの試験。
クラス旗の制作日。
一つずつは毎日ではありません。
ですが、すべて並べてみると、空いている日は思っていたより少なくなっていました。
「確かに、このまま登録すると少し忙しくなりそうですね」
「手伝わなくていいってことじゃないよ」
フィーちゃんが言いました。
「チョコちゃんが空いている日に、できることを一緒にやろうってこと」
「私たちもいるからね」
レンちゃんも頷きます。
二人に仕事を押しつけたいわけではありません。
反対に、私が全部抱えることで、心配をかけたくもありませんでした。
「ありがとうございます。先生へ相談して、参加できる日だけ手伝います」
担任の先生にも確認すると、用具係への補助登録を認めていただけました。
ただし、デュエルの練習とバーチャルポッドの試験を優先すること。
必ず休憩時間を取ること。
その二つが条件です。
「先生と約束しましたので、きちんと守ります」
「私たちも予定を見てるからね」
フィーちゃんが言いました。
「見張るのではなく、協力をお願いします」
「もちろん」
話し合いが終わる頃には、一年二組の予定表が色とりどりの項目で埋まっていました。
昨日までと同じ教室。
同じ席。
同じクラスメイトです。
それでも、全員が一つの行事へ向けて動き始めると、教室の空気まで少し違って感じられました。
教室前方の表示面に、開催までの日数と競技一覧が大きく映し出されます。
<だんのこまち第一高等学校体育祭>
<開催まで、あと十二日>
クラス対抗リレー。
障害物競走。
綱引き。
大縄跳び。
借り人競走。
そして、バーチャル世界内で行われるデュエル大会。
競技名が表示されるたび、教室のあちこちから声が上がりました。
「チョコちゃん、デュエル大会!」
レンちゃんが、私の腕を軽く引きました。
「はい。ですが、まだ本戦出場者の通知は――」
言い終える前に、手元のDPo-Xが振動しました。
<デュエル大会・本戦出場資格>
<一年二組 チョコチップ>
<クラス内模擬戦およびAグループ訓練結果により、本戦出場者として登録されました>
一度、表示された名前を確認します。
見間違いではありません。
「おめでとう、チョコちゃん」
フィーちゃんが、すぐに笑顔を向けてくれました。
「ありがとうございます」
「やっぱり選ばれたね!」
プラリネさんも、前の席から振り返ります。
教室の中から拍手が起こりました。
模擬戦で一位になった時にも祝っていただきましたが、体育祭の代表として名前が表示されると、また違う緊張があります。
「どこまで勝ちたい?」
フィーちゃんが尋ねました。
「出場する以上、最後まで勝ち上がりたいです」
「優勝?」
「はい。目標は優勝です」
答えると、レンちゃんの表情が明るくなりました。
「応援するね!」
「私も」
「試合の合間に食べられるパンも作るよ!」
プラリネさんが続けます。
「ありがとうございます。ですが、プラリネさんも競技や準備があるでしょう? 無理しないでくださいね。」
「うん。お父さんにも相談するから大丈夫」
「それなら、楽しみにしています」
担任の先生が、表示をクラスの準備項目へ切り替えました。
「本戦出場者以外にも、全員に競技や準備の担当があります。出たい競技と、当日までに手伝いたい係を登録してください」
それぞれのDPo-Xへ、希望登録画面が届きます。
レンちゃんは、すぐに障害物競走を選びました。
「もう決めたんですか?」
「日本の体育祭らしい競技、やってみたかったの」
「途中に網や平均台もありますよ」
「それが楽しそう!」
レンちゃんは、本当に嬉しそうです。
ドイツから日本へ戻ってきた理由の一つが、普通の高校生活を経験することでした。
そのレンちゃんにとって、体育祭は待ち望んでいた行事なのかもしれません。
「では、私も一生懸命応援します」
「ありがとう。転ばないように頑張るね」
「はい。ただ、転んでしまっても慌てずに立ってください」
「チョコちゃん、もう当日の心配をしてる」
「楽しみにしているからこそです」
フィーちゃんは、競技一覧よりクラス旗と応援企画の項目を見ていました。
「旗と腕章の模様、揃えたいな」
「もうデザインを考えているんですか?」
「昨日、少しだけ考えたの。大きな旗と小さな腕章では、同じ柄をそのまま使えないから、形は似せて細かさを変えようと思って」
フィーちゃんは、下書きの画像を見せてくれました。
中央から何本もの線が前へ伸び、遠くから見ても勢いが伝わるデザインです。
「素敵です」
「本当?」
「はい。校庭で風を受けた時も、きれいに見えると思います」
「じゃあ、もう少し詰めてみるね」
プラリネさんも、旗制作へ希望を入れました。
「私も手伝う! 実家から広い作業台を借りられるよ」
「ありがとうございます。大きな布を広げる時に助かりますね」
「塗料を混ぜる容器も、食べ物に使わないものを持ってくるから安心して」
以前の会話を覚えていたようです。
「気を遣わせてしまいましたか?」
「ううん。最初から分けるつもりだったよ」
プラリネさんは笑ってくれました。
私はデュエルの練習に加え、バーチャルポッドの最終試験へ参加する予定があります。
それでも、クラスの準備をすべて任せてしまうのは落ち着きませんでした。
用具係の希望欄を開きます。
「私も、参加できる日に用具係を手伝います」
そう言うと、レンちゃんとフィーちゃんが同時にこちらを見ました。
「チョコちゃん、予定を確認してからにしよう」
レンちゃんが、Kirscheの共有予定表を開きます。
授業。
デュエルの追加訓練。
バーチャルポッドの試験。
クラス旗の制作日。
一つずつは毎日ではありません。
ですが、すべて並べてみると、空いている日は思っていたより少なくなっていました。
「確かに、このまま登録すると少し忙しくなりそうですね」
「手伝わなくていいってことじゃないよ」
フィーちゃんが言いました。
「チョコちゃんが空いている日に、できることを一緒にやろうってこと」
「私たちもいるからね」
レンちゃんも頷きます。
二人に仕事を押しつけたいわけではありません。
反対に、私が全部抱えることで、心配をかけたくもありませんでした。
「ありがとうございます。先生へ相談して、参加できる日だけ手伝います」
担任の先生にも確認すると、用具係への補助登録を認めていただけました。
ただし、デュエルの練習とバーチャルポッドの試験を優先すること。
必ず休憩時間を取ること。
その二つが条件です。
「先生と約束しましたので、きちんと守ります」
「私たちも予定を見てるからね」
フィーちゃんが言いました。
「見張るのではなく、協力をお願いします」
「もちろん」
話し合いが終わる頃には、一年二組の予定表が色とりどりの項目で埋まっていました。
昨日までと同じ教室。
同じ席。
同じクラスメイトです。
それでも、全員が一つの行事へ向けて動き始めると、教室の空気まで少し違って感じられました。
二年二組の作戦会議
二年二組では、担任が説明を終えるより先に、シロが三つの競技へ希望を登録していた。
クラス対抗リレー。
綱引き。
障害物競走。
「シロちゃん」
キャラメルが、隣から穏やかに呼ぶ。
「一つ減らそうね」
「まだ三つだよ?」
「三つもあるんだよ」
コレットが自分の席から、シロの予定表を表示した。
「競技時間は重なってない。でも、リレーの練習、綱引きの位置合わせ、障害物の試走まで入れたら、放課後が全部埋まる」
「全部できると思うけど」
「できるかどうかではなくて、本番まで元気を残せるかの話」
ミルクも、シロの予定表へ休憩時間を追加した。
「ここは空けておこうね~」
「予定表を囲まれた」
「同じクラスで一年以上見てるからね」
キャラメルは微笑んだ。
「シロちゃんが楽しくなると、全部引き受けることも知ってるよ」
シロは三人の顔を順番に見たあと、障害物競走だけを取り消した。
「リレーと綱引きは残す」
「それなら大丈夫」
コレットが頷く。
「ただし、練習の合間は休む」
「はいはい」
「返事は一回」
「はい」
みたらしっぽの予定表には、すでに二つの項目が登録されていた。
<デュエル大会・本戦出場>
<バーチャルポッド最終調整班>
空いている日にクラス旗の設置も手伝えないかと一覧を開くと、隣のフェタが画面を覗き込んだ。
「みたも増やさないでね」
「まだ登録してないよ」
「今、設営係を見てたでしょう?」
「少しくらいなら手伝えるかなと思って」
「その少しが、毎回増えるんだよ」
「今回は気をつける」
「昼休みを作業時間に入れようとしてた人が?」
みたらしっぽは、開きかけていた昼休みの欄を静かに閉じた。
正面の席から、つきみが振り返る。
「みたは、ポッドの調整を優先した方がいい」
「つきみまで?」
「今年は決闘大会を校庭へ映すんでしょう。そこで見え方がおかしくなったら、戦う人だけじゃなくて、見ている人も困る」
つきみは、前回までの試験記録を表示した。
室内での明るさ。
校庭での投影範囲。
観客席ごとの見え方。
複数台のバーチャルポッドを並べた時の境界。
「今までの試験では、問題はほとんど出てないよ」
みたらしっぽが言う。
「今まで試した動きでは、ね」
つきみは映像を一時停止した。
試験用のアバターが、決められた線の上を歩いている。
「本番は、全員が同じ速さでまっすぐ動くわけじゃない。急に止まるし、向きを変える。武器を呼び出したまま走る人もいる」
「実戦に近い動きを、まだ投影してないってこと?」
「うん。戦う必要はないけど、短い走行や急停止、武器を持った状態での方向転換は見ておいた方がいい」
みたらしっぽは記録を見直した。
つきみの言うとおりだった。
仮想空間の中で戦闘が正しく動くことと、その映像が現実側から正しく見えることは別の問題だ。
「最終試験へ追加しよう」
「そのつもりで、私も試験参加へ希望を出した」
つきみの予定表には、
<デュエル大会・本戦出場>
<バーチャルポッド観客位置確認>
<競技用武器・安全設定確認>
が登録されていた。
「武器の確認もするんだ」
「実際に使う側の方が、呼び出した時の違和感に気づきやすいから」
「つきみ、頼りになるね」
「本番で困りたくないだけ」
「それを頼りになるって言うんだよ」
つきみは少しだけ視線を逸らし、もう一度予定表へ目を戻した。
「デュエルは優勝を狙うの?」
シロが尋ねる。
「大会へ出るなら、そのつもり」
声は静かだったが、迷いはない。
「みたも出るんでしょう?」
「うん。今年は最後までやる」
「途中で当たったら、手加減しないよ」
「もちろん」
みたらしっぽのDPo-Xが振動した。
送り主はチョコ。
<デュエル大会の本戦出場が決まりました>
<一年二組の代表として、最後まで勝ち上がります>
自然に口元が緩む。
<おめでとう>
<僕も最後まで戦うよ>
返事はすぐに届いた。
<では、決勝で待っています>
シロが、画面に表示された名前へ気づいた。
「もう決勝の約束してる」
「目標だからね」
「私も出るんだけど」
つきみが言う。
「その前に当たったら、二人のどちらかは決勝へ行けないよ」
「その時は、つきみと全力でやる」
「うん」
みたらしっぽはチョコへ、もう一通送った。
<つきみも優勝を狙ってる>
少しして返事が届く。
<つきみさんと当たっても、もちろん勝ちにいきます>
つきみはその文章を見て、小さく頷いた。
「それでいい」
「よし!」
シロが両手を上げた。
「私はリレーと綱引き。みたとつきみはデュエル。旗も一番目立つものを作ろう!」
「全員の目標を一人で決めないで」
コレットが言う。
「でも、悪くないでしょう?」
「わかりやすくはあるね」
キャラメルが笑った。
クラス旗は、キャラメルとミルクが色や全体の印象を考え、コレットが遠くから見た時にも判別できる形へ整える。
フェタが制作日と必要な材料をまとめる。
シロは競技練習のない時間に、大きな部分の塗装や設置を手伝う。
みたらしっぽとつきみは、デュエルとバーチャルポッドの予定を優先する。
同じ二年二組の予定表が、少しずつ埋まっていく。
体育祭まで、あと十二日。
準備初日から、二年二組は十分ににぎやかだった。
クラス対抗リレー。
綱引き。
障害物競走。
「シロちゃん」
キャラメルが、隣から穏やかに呼ぶ。
「一つ減らそうね」
「まだ三つだよ?」
「三つもあるんだよ」
コレットが自分の席から、シロの予定表を表示した。
「競技時間は重なってない。でも、リレーの練習、綱引きの位置合わせ、障害物の試走まで入れたら、放課後が全部埋まる」
「全部できると思うけど」
「できるかどうかではなくて、本番まで元気を残せるかの話」
ミルクも、シロの予定表へ休憩時間を追加した。
「ここは空けておこうね~」
「予定表を囲まれた」
「同じクラスで一年以上見てるからね」
キャラメルは微笑んだ。
「シロちゃんが楽しくなると、全部引き受けることも知ってるよ」
シロは三人の顔を順番に見たあと、障害物競走だけを取り消した。
「リレーと綱引きは残す」
「それなら大丈夫」
コレットが頷く。
「ただし、練習の合間は休む」
「はいはい」
「返事は一回」
「はい」
みたらしっぽの予定表には、すでに二つの項目が登録されていた。
<デュエル大会・本戦出場>
<バーチャルポッド最終調整班>
空いている日にクラス旗の設置も手伝えないかと一覧を開くと、隣のフェタが画面を覗き込んだ。
「みたも増やさないでね」
「まだ登録してないよ」
「今、設営係を見てたでしょう?」
「少しくらいなら手伝えるかなと思って」
「その少しが、毎回増えるんだよ」
「今回は気をつける」
「昼休みを作業時間に入れようとしてた人が?」
みたらしっぽは、開きかけていた昼休みの欄を静かに閉じた。
正面の席から、つきみが振り返る。
「みたは、ポッドの調整を優先した方がいい」
「つきみまで?」
「今年は決闘大会を校庭へ映すんでしょう。そこで見え方がおかしくなったら、戦う人だけじゃなくて、見ている人も困る」
つきみは、前回までの試験記録を表示した。
室内での明るさ。
校庭での投影範囲。
観客席ごとの見え方。
複数台のバーチャルポッドを並べた時の境界。
「今までの試験では、問題はほとんど出てないよ」
みたらしっぽが言う。
「今まで試した動きでは、ね」
つきみは映像を一時停止した。
試験用のアバターが、決められた線の上を歩いている。
「本番は、全員が同じ速さでまっすぐ動くわけじゃない。急に止まるし、向きを変える。武器を呼び出したまま走る人もいる」
「実戦に近い動きを、まだ投影してないってこと?」
「うん。戦う必要はないけど、短い走行や急停止、武器を持った状態での方向転換は見ておいた方がいい」
みたらしっぽは記録を見直した。
つきみの言うとおりだった。
仮想空間の中で戦闘が正しく動くことと、その映像が現実側から正しく見えることは別の問題だ。
「最終試験へ追加しよう」
「そのつもりで、私も試験参加へ希望を出した」
つきみの予定表には、
<デュエル大会・本戦出場>
<バーチャルポッド観客位置確認>
<競技用武器・安全設定確認>
が登録されていた。
「武器の確認もするんだ」
「実際に使う側の方が、呼び出した時の違和感に気づきやすいから」
「つきみ、頼りになるね」
「本番で困りたくないだけ」
「それを頼りになるって言うんだよ」
つきみは少しだけ視線を逸らし、もう一度予定表へ目を戻した。
「デュエルは優勝を狙うの?」
シロが尋ねる。
「大会へ出るなら、そのつもり」
声は静かだったが、迷いはない。
「みたも出るんでしょう?」
「うん。今年は最後までやる」
「途中で当たったら、手加減しないよ」
「もちろん」
みたらしっぽのDPo-Xが振動した。
送り主はチョコ。
<デュエル大会の本戦出場が決まりました>
<一年二組の代表として、最後まで勝ち上がります>
自然に口元が緩む。
<おめでとう>
<僕も最後まで戦うよ>
返事はすぐに届いた。
<では、決勝で待っています>
シロが、画面に表示された名前へ気づいた。
「もう決勝の約束してる」
「目標だからね」
「私も出るんだけど」
つきみが言う。
「その前に当たったら、二人のどちらかは決勝へ行けないよ」
「その時は、つきみと全力でやる」
「うん」
みたらしっぽはチョコへ、もう一通送った。
<つきみも優勝を狙ってる>
少しして返事が届く。
<つきみさんと当たっても、もちろん勝ちにいきます>
つきみはその文章を見て、小さく頷いた。
「それでいい」
「よし!」
シロが両手を上げた。
「私はリレーと綱引き。みたとつきみはデュエル。旗も一番目立つものを作ろう!」
「全員の目標を一人で決めないで」
コレットが言う。
「でも、悪くないでしょう?」
「わかりやすくはあるね」
キャラメルが笑った。
クラス旗は、キャラメルとミルクが色や全体の印象を考え、コレットが遠くから見た時にも判別できる形へ整える。
フェタが制作日と必要な材料をまとめる。
シロは競技練習のない時間に、大きな部分の塗装や設置を手伝う。
みたらしっぽとつきみは、デュエルとバーチャルポッドの予定を優先する。
同じ二年二組の予定表が、少しずつ埋まっていく。
体育祭まで、あと十二日。
準備初日から、二年二組は十分ににぎやかだった。
一年二組の色
一年二組のクラス旗は、自分たちの教室で制作することになりました。
放課後になると机を壁際へ寄せ、中央へ大きな作業台を置きます。
その上へ、真っ白な旗が広げられました。
フィーちゃんが考えた下書きを、クラス全員で確認します。
中央には大きく一年二組を示す文字。
そこから何本もの線が前へ伸び、遠くから見ても勢いが伝わる形です。
「旗では、大きな形を見せたいの」
フィーちゃんが説明しました。
「腕章や応援用の小物には、同じ色を使って、もう少し細かい柄を入れるつもり」
「校庭で旗を見たあと、近くで腕章を見るとつながるんですね」
私が言うと、フィーちゃんが嬉しそうに頷きました。
「そう。それをやりたかったの」
「とても素敵だと思います」
レンちゃんは、大きな文字へ色を塗る係です。
「思っていたより広いね」
「焦らず、少しずつ塗りましょう」
「チョコちゃん、こっちを押さえてくれる?」
「はい」
旗が動かないよう、両手で布の端を押さえます。
プラリネさんは塗料を小さな容器へ分け、クラスメイトへ配っていました。
「足りなくなりそうな色があったら教えてね」
「ありがとうございます」
作業を始めてしばらくすると、一人のクラスメイトの筆から、下書きの外へ小さな塗料が落ちました。
「ご、ごめん!」
本人は慌てて布を取ろうとしました。
「大丈夫です。まだ乾いていません」
私は近くにあった細い筆を取りました。
「フィーちゃん、この線を少しだけ外へ伸ばしても、不自然にはなりませんか?」
フィーちゃんは塗料の位置を確認し、すぐに下書きへ線を追加しました。
「うん。ここから反対側にも同じ形を足せば、むしろ流れがきれいになるよ」
「では、こちらを私が塗ります」
「本当にごめんね」
クラスメイトが、もう一度謝ります。
「一緒に直せましたから、気にしないでください。続きもお願いしてよいですか?」
「うん。今度は気をつける」
「ありがとうございます」
予定にはなかった線が一つ増えました。
ですが、それは失敗を隠した跡ではありません。
クラス全員で作っている旗に、新しく加わった形でした。
「チョコちゃん」
レンちゃんが、少し離れた場所から呼びます。
「そろそろポッドの試験へ行く時間じゃない?」
時計を見ると、集合時間が近づいています。
「もう少しだけお手伝いしたいのですが」
「続きは私たちに任せて」
フィーちゃんが言いました。
「チョコちゃんが戻ってくるまでに、ここまで進めておくから」
「ですが、皆さんの負担が――」
「負担じゃないよ」
レンちゃんが、優しく続けます。
「チョコちゃんがデュエルやポッドを頑張っている間、私たちは旗を進める。明日は、また一緒にできるでしょう?」
私は、三人の顔を見ました。
自分がいなければ進まないわけではありません。
任せることも、一緒に作ることの一つなのだと思います。
「わかりました。お願いします」
プラリネさんが、小さな紙袋を差し出しました。
「休憩用のパン。試験が終わるまで食べられなかったら、帰りに食べてね」
「ありがとうございます。大切にいただきます」
教室を出る前に、もう一度旗を振り返りました。
白かった布へ、少しずつ一年二組の色が増えています。
「行ってきます」
「いってらっしゃい、チョコちゃん!」
教室に残る皆さんの声に見送られ、私はバーチャルポッドの試験へ向かいました。
放課後になると机を壁際へ寄せ、中央へ大きな作業台を置きます。
その上へ、真っ白な旗が広げられました。
フィーちゃんが考えた下書きを、クラス全員で確認します。
中央には大きく一年二組を示す文字。
そこから何本もの線が前へ伸び、遠くから見ても勢いが伝わる形です。
「旗では、大きな形を見せたいの」
フィーちゃんが説明しました。
「腕章や応援用の小物には、同じ色を使って、もう少し細かい柄を入れるつもり」
「校庭で旗を見たあと、近くで腕章を見るとつながるんですね」
私が言うと、フィーちゃんが嬉しそうに頷きました。
「そう。それをやりたかったの」
「とても素敵だと思います」
レンちゃんは、大きな文字へ色を塗る係です。
「思っていたより広いね」
「焦らず、少しずつ塗りましょう」
「チョコちゃん、こっちを押さえてくれる?」
「はい」
旗が動かないよう、両手で布の端を押さえます。
プラリネさんは塗料を小さな容器へ分け、クラスメイトへ配っていました。
「足りなくなりそうな色があったら教えてね」
「ありがとうございます」
作業を始めてしばらくすると、一人のクラスメイトの筆から、下書きの外へ小さな塗料が落ちました。
「ご、ごめん!」
本人は慌てて布を取ろうとしました。
「大丈夫です。まだ乾いていません」
私は近くにあった細い筆を取りました。
「フィーちゃん、この線を少しだけ外へ伸ばしても、不自然にはなりませんか?」
フィーちゃんは塗料の位置を確認し、すぐに下書きへ線を追加しました。
「うん。ここから反対側にも同じ形を足せば、むしろ流れがきれいになるよ」
「では、こちらを私が塗ります」
「本当にごめんね」
クラスメイトが、もう一度謝ります。
「一緒に直せましたから、気にしないでください。続きもお願いしてよいですか?」
「うん。今度は気をつける」
「ありがとうございます」
予定にはなかった線が一つ増えました。
ですが、それは失敗を隠した跡ではありません。
クラス全員で作っている旗に、新しく加わった形でした。
「チョコちゃん」
レンちゃんが、少し離れた場所から呼びます。
「そろそろポッドの試験へ行く時間じゃない?」
時計を見ると、集合時間が近づいています。
「もう少しだけお手伝いしたいのですが」
「続きは私たちに任せて」
フィーちゃんが言いました。
「チョコちゃんが戻ってくるまでに、ここまで進めておくから」
「ですが、皆さんの負担が――」
「負担じゃないよ」
レンちゃんが、優しく続けます。
「チョコちゃんがデュエルやポッドを頑張っている間、私たちは旗を進める。明日は、また一緒にできるでしょう?」
私は、三人の顔を見ました。
自分がいなければ進まないわけではありません。
任せることも、一緒に作ることの一つなのだと思います。
「わかりました。お願いします」
プラリネさんが、小さな紙袋を差し出しました。
「休憩用のパン。試験が終わるまで食べられなかったら、帰りに食べてね」
「ありがとうございます。大切にいただきます」
教室を出る前に、もう一度旗を振り返りました。
白かった布へ、少しずつ一年二組の色が増えています。
「行ってきます」
「いってらっしゃい、チョコちゃん!」
教室に残る皆さんの声に見送られ、私はバーチャルポッドの試験へ向かいました。
二年二組の色
二年二組の旗は、一年二組とは別の日に、自分たちの教室で制作していた。
キャラメルとミルクが考えた色を、コレットが遠くから見た時にも形が崩れないよう整理している。
「中央の線、もう少し太い方がいい」
コレットは教室の後ろから旗を見た。
「近くでは十分だけど、校庭の反対側だと隣の色へ埋もれると思う」
「では、外側へ少し広げようか」
キャラメルが下書きを修正する。
「ミルクちゃん、上の飾りは今の形で大丈夫そう?」
「うん。風で少し揺れても、色のまとまりは残ると思うよ~」
シロは大きな筆を持ち、広い部分を塗っていた。
「こういうの、思っていたより楽しいな」
「シロちゃん、端はゆっくりね」
「大丈夫。見てて」
勢いよく筆を動かした直後、線の外へほんの少し色が出た。
コレットが、教室の端から声を飛ばす。
「今、出た」
「まだ乾いてないから直せる」
「直せることと、出していいことは別だよ」
「細かいなぁ」
「クラス旗だからね」
キャラメルが布を持って近づき、はみ出した部分を丁寧に拭った。
「シロちゃん、広いところは早くて助かるけど、最後だけ少しゆっくりにしようね」
「わかった」
シロは反論せず、今度は筆の速度を落とした。
つきみは、旗を支柱へ取りつける部分を確認していた。
今年の二年二組の旗は、昨年より横幅がある。
同じ数の固定具では、風を受けた時に端へ負担が集まりやすい。
「上側だけ、固定する場所を増やした方がいい」
つきみが言った。
「中央にも一つ?」
フェタが支柱の図面を開く。
「うん。ただ、表の模様へ重ならない位置にしたい」
ミルクが旗の裏側へ回った。
「ここなら、表から見えないよ~」
「そこにしよう」
フェタは追加の固定具を予定表へ登録した。
「みたがポッドの調整から戻ったら、支柱の方をお願いしようか」
「みた、今日は遅くなるんだよね?」
シロが尋ねる。
「最終試験の前準備。旗の方へ来るのは明日かな」
「じゃあ、今日はここまで塗っておこう」
「シロちゃん、競技練習の時間もあるよ」
キャラメルが言う。
「あと少しだけ」
「時間を決めてからね」
フェタが、教室全体へ見える位置に残り時間を表示した。
旗を作る人。
色を考える人。
遠くからの見え方を確かめる人。
取りつけた後の安全を考える人。
一枚の旗に、それぞれの得意なことが加わっていく。
みたらしっぽが教室へ戻った時には、旗の大部分へ色が入っていた。
「かなり進んだね」
「みたは、こっち」
つきみが支柱の図面を渡す。
「固定具を一つ増やしたい」
「わかった。明日、用具室で合うものを探してみる」
「ポッドの方は?」
キャラメルが尋ねた。
「準備はできた。次は校庭で、本当に見えるかを確認する」
「バーチャル世界の中は、いつもどおりなんだよね?」
「うん。試すのは、現実側へ映した時の見え方だけ」
みたらしっぽは、自分の席へ置かれた旗を見た。
明日には、チョコも試験へ参加する。
一年二組でも、今頃同じように準備が進んでいるはずだ。
「みた、少し楽しそう」
フェタが言った。
「そう?」
「体育祭のことを考えてる顔」
「今年は、いろいろ新しいからね」
デュエル大会。
バーチャルポッド。
チョコとの約束。
そして、同じ二年二組で作る旗。
準備の時間そのものも、昨年とは違っていた。
キャラメルとミルクが考えた色を、コレットが遠くから見た時にも形が崩れないよう整理している。
「中央の線、もう少し太い方がいい」
コレットは教室の後ろから旗を見た。
「近くでは十分だけど、校庭の反対側だと隣の色へ埋もれると思う」
「では、外側へ少し広げようか」
キャラメルが下書きを修正する。
「ミルクちゃん、上の飾りは今の形で大丈夫そう?」
「うん。風で少し揺れても、色のまとまりは残ると思うよ~」
シロは大きな筆を持ち、広い部分を塗っていた。
「こういうの、思っていたより楽しいな」
「シロちゃん、端はゆっくりね」
「大丈夫。見てて」
勢いよく筆を動かした直後、線の外へほんの少し色が出た。
コレットが、教室の端から声を飛ばす。
「今、出た」
「まだ乾いてないから直せる」
「直せることと、出していいことは別だよ」
「細かいなぁ」
「クラス旗だからね」
キャラメルが布を持って近づき、はみ出した部分を丁寧に拭った。
「シロちゃん、広いところは早くて助かるけど、最後だけ少しゆっくりにしようね」
「わかった」
シロは反論せず、今度は筆の速度を落とした。
つきみは、旗を支柱へ取りつける部分を確認していた。
今年の二年二組の旗は、昨年より横幅がある。
同じ数の固定具では、風を受けた時に端へ負担が集まりやすい。
「上側だけ、固定する場所を増やした方がいい」
つきみが言った。
「中央にも一つ?」
フェタが支柱の図面を開く。
「うん。ただ、表の模様へ重ならない位置にしたい」
ミルクが旗の裏側へ回った。
「ここなら、表から見えないよ~」
「そこにしよう」
フェタは追加の固定具を予定表へ登録した。
「みたがポッドの調整から戻ったら、支柱の方をお願いしようか」
「みた、今日は遅くなるんだよね?」
シロが尋ねる。
「最終試験の前準備。旗の方へ来るのは明日かな」
「じゃあ、今日はここまで塗っておこう」
「シロちゃん、競技練習の時間もあるよ」
キャラメルが言う。
「あと少しだけ」
「時間を決めてからね」
フェタが、教室全体へ見える位置に残り時間を表示した。
旗を作る人。
色を考える人。
遠くからの見え方を確かめる人。
取りつけた後の安全を考える人。
一枚の旗に、それぞれの得意なことが加わっていく。
みたらしっぽが教室へ戻った時には、旗の大部分へ色が入っていた。
「かなり進んだね」
「みたは、こっち」
つきみが支柱の図面を渡す。
「固定具を一つ増やしたい」
「わかった。明日、用具室で合うものを探してみる」
「ポッドの方は?」
キャラメルが尋ねた。
「準備はできた。次は校庭で、本当に見えるかを確認する」
「バーチャル世界の中は、いつもどおりなんだよね?」
「うん。試すのは、現実側へ映した時の見え方だけ」
みたらしっぽは、自分の席へ置かれた旗を見た。
明日には、チョコも試験へ参加する。
一年二組でも、今頃同じように準備が進んでいるはずだ。
「みた、少し楽しそう」
フェタが言った。
「そう?」
「体育祭のことを考えてる顔」
「今年は、いろいろ新しいからね」
デュエル大会。
バーチャルポッド。
チョコとの約束。
そして、同じ二年二組で作る旗。
準備の時間そのものも、昨年とは違っていた。
校庭へ映すための試験
バーチャルポッドの最終試験は、現実側の校庭と、校舎内にある接続室の両方を使って行われました。
校庭の四隅には、複数のバーチャルポッドが保護ケースへ入れられた状態で設置されています。
体育祭当日。
デュエルの選手たちは、校舎内のコネクションシートから、学校のバーチャル世界にある決闘場へ接続します。
そのバーチャル世界の決闘場と選手の姿を、バーチャルポッドが現実の校庭へ立体映像として表示する仕組みです。
私たちが接続するバーチャル世界は、普段の授業で使っているものと何も変わりません。
試験するのは、あくまで現実側に映った映像が、観客からどのように見えるかでした。
「チョコ、聞こえる?」
コネクションシートへ座る前、通信機器から先輩の声が届きました。
先輩は校庭側で、アッサムさんやフェタさんと一緒に投影設定を確認しています。
「はい。聞こえています」
「最初は、チョコとシロに接続してもらうよ。決められた場所まで歩いて、向きを変えて、武器を呼び出すだけ」
「戦闘はしないんですね」
「本番まで取っておこう」
「はい」
隣のコネクションシートには、シロさんが座っています。
「走る試験もあるんだよね?」
「ありますが、最初は歩行です」
「わかってるって」
「シロさんなら、きちんと合わせてくださると信じています」
「そう言われると、ちゃんとやらないとなぁ」
シロさんは笑いながら、接続準備を整えました。
確認ボタンを押します。
視界が切り替わりました。
私の目の前には、いつもどおりのバーチャル決闘訓練場が広がっています。
白い床。
円形の境界線。
観客席。
風も、光も、普段と変わりません。
現実側で投影がずれていたとしても、こちらの空間へ異常が現れることはありません。
「接続完了しました」
『確認したよ』
先輩の声が返ってきます。
『チョコは中央の青い印。シロは反対側の赤い印まで歩いて』
私は指定された位置へ向かいました。
シロさんも、反対側を歩いています。
『現実側、投影開始』
アッサムさんの声。
私たちの視界には何も変化がありません。
ですが現実の校庭では、バーチャルポッドから決闘場と私たちの姿が映し出されているはずです。
『正面観察位置、縮尺は問題なし』
フェタさんが記録します。
『西側も大丈夫』
ミルクさんの声が続きました。
ミルクさんは、観客席を想定した複数の位置から投影映像を撮影しています。
『東側前列から見ると、チョコちゃんの足が少しだけ地面から浮いて見える』
つきみさんの声が届きました。
つきみさんは校庭側を歩き、観客席の前列と後列、左右の端から見え方を確認しています。
『正面では合ってる。東側だけ、投影する地面の基準が少し高いと思う』
『映像基準を一・五センチ下げる』
先輩が調整します。
こちらのバーチャル世界では、何も動きません。
変わるのは、現実側へ映る映像だけです。
『もう一度確認』
少しして、つきみさんが答えました。
『今度は合ってる。靴底が校庭について見える』
「ありがとうございます」
私が言うと、通信の向こうでつきみさんが短く答えます。
『次は向きを変えて』
私はゆっくり一周しました。
正面。
横。
背中。
反対側。
花飾りや髪、お団子の形も、観客の位置によって崩れないか確認しているそうです。
『輪郭は問題なし』
キャラメルさんが言いました。
『ただ、午後の日差しだと黒い髪の外側が少し薄く見えるね』
『背景との境目がわかりにくい』
コレットさんも続けます。
コレットさんは、映像と別に設置された校庭の音響設備を確認する役です。
『輪郭補助を一段階だけ上げよう』
先輩が設定を変更しました。
『上げすぎると不自然になるから、最小で』
『今の方が見やすいよ~』
ミルクさんが答えます。
次は武器表示です。
私は中型木刀を呼び出しました。
シロさんは、大型木刀を選びます。
互いに攻撃はせず、決められた角度で構えを変えました。
『木刀の長さ、正常』
『シロの大型武器も端まで表示されてる』
『観客席の端からも切れてない』
問題はありません。
続いて、音響の確認です。
武器を床へ軽く当て、校庭側のスピーカーから出る音と映像のタイミングを比較します。
一度。
二度。
三度。
『音が少し遅い』
コレットさんが、すぐに言いました。
『映像より、ほんの少し後ろ』
『どのくらい?』
先輩が尋ねます。
『〇・一秒くらい。一定だから、音響側で合わせられる』
ドラムを叩くコレットさんには、わずかなずれでもよくわかるようです。
数回の確認で、音と映像のタイミングが揃いました。
「次は走行ですか?」
『うん。まずチョコが直線を走って、指定位置で止まって』
私は木刀を消し、合図を待ちます。
『開始』
走り出します。
決められた速度で中央を通り、反対側の印で止まりました。
こちらでは、いつもどおりに走っただけです。
『映像正常。残像なし』
フェタさんが答えます。
次はシロさんです。
「行くよ!」
シロさんが走り出しました。
先ほどの私より速く、長い距離を一気に抜けます。
『西側で、輪郭が少し尾を引いた』
つきみさんの声。
『止まった位置は合ってる。速い移動中だけ』
『複数のポッドをまたいだ瞬間に、表示更新が一回遅れてる』
アッサムさんが原因を確認します。
「こちらでは、普通に走れていました」
『うん。バーチャル側は正常だよ』
先輩が答えました。
『現実側で、シロの映像だけが少し残って見えた。更新の時刻を揃えてみる』
調整が終わるまで、私たちはバーチャル側の待機場所へ座りました。
シロさんが、少し残念そうに言います。
「速く走ったら分身したらしい」
「本番では困りますが、今日見つかってよかったですね」
「もう一回走れるのは、ちょっと嬉しい」
「試験ですから、楽しみすぎないでくださいね」
「チョコちゃんも、本当は少し走りたいでしょう?」
「否定はしません」
二人で笑いました。
校庭の四隅には、複数のバーチャルポッドが保護ケースへ入れられた状態で設置されています。
体育祭当日。
デュエルの選手たちは、校舎内のコネクションシートから、学校のバーチャル世界にある決闘場へ接続します。
そのバーチャル世界の決闘場と選手の姿を、バーチャルポッドが現実の校庭へ立体映像として表示する仕組みです。
私たちが接続するバーチャル世界は、普段の授業で使っているものと何も変わりません。
試験するのは、あくまで現実側に映った映像が、観客からどのように見えるかでした。
「チョコ、聞こえる?」
コネクションシートへ座る前、通信機器から先輩の声が届きました。
先輩は校庭側で、アッサムさんやフェタさんと一緒に投影設定を確認しています。
「はい。聞こえています」
「最初は、チョコとシロに接続してもらうよ。決められた場所まで歩いて、向きを変えて、武器を呼び出すだけ」
「戦闘はしないんですね」
「本番まで取っておこう」
「はい」
隣のコネクションシートには、シロさんが座っています。
「走る試験もあるんだよね?」
「ありますが、最初は歩行です」
「わかってるって」
「シロさんなら、きちんと合わせてくださると信じています」
「そう言われると、ちゃんとやらないとなぁ」
シロさんは笑いながら、接続準備を整えました。
確認ボタンを押します。
視界が切り替わりました。
私の目の前には、いつもどおりのバーチャル決闘訓練場が広がっています。
白い床。
円形の境界線。
観客席。
風も、光も、普段と変わりません。
現実側で投影がずれていたとしても、こちらの空間へ異常が現れることはありません。
「接続完了しました」
『確認したよ』
先輩の声が返ってきます。
『チョコは中央の青い印。シロは反対側の赤い印まで歩いて』
私は指定された位置へ向かいました。
シロさんも、反対側を歩いています。
『現実側、投影開始』
アッサムさんの声。
私たちの視界には何も変化がありません。
ですが現実の校庭では、バーチャルポッドから決闘場と私たちの姿が映し出されているはずです。
『正面観察位置、縮尺は問題なし』
フェタさんが記録します。
『西側も大丈夫』
ミルクさんの声が続きました。
ミルクさんは、観客席を想定した複数の位置から投影映像を撮影しています。
『東側前列から見ると、チョコちゃんの足が少しだけ地面から浮いて見える』
つきみさんの声が届きました。
つきみさんは校庭側を歩き、観客席の前列と後列、左右の端から見え方を確認しています。
『正面では合ってる。東側だけ、投影する地面の基準が少し高いと思う』
『映像基準を一・五センチ下げる』
先輩が調整します。
こちらのバーチャル世界では、何も動きません。
変わるのは、現実側へ映る映像だけです。
『もう一度確認』
少しして、つきみさんが答えました。
『今度は合ってる。靴底が校庭について見える』
「ありがとうございます」
私が言うと、通信の向こうでつきみさんが短く答えます。
『次は向きを変えて』
私はゆっくり一周しました。
正面。
横。
背中。
反対側。
花飾りや髪、お団子の形も、観客の位置によって崩れないか確認しているそうです。
『輪郭は問題なし』
キャラメルさんが言いました。
『ただ、午後の日差しだと黒い髪の外側が少し薄く見えるね』
『背景との境目がわかりにくい』
コレットさんも続けます。
コレットさんは、映像と別に設置された校庭の音響設備を確認する役です。
『輪郭補助を一段階だけ上げよう』
先輩が設定を変更しました。
『上げすぎると不自然になるから、最小で』
『今の方が見やすいよ~』
ミルクさんが答えます。
次は武器表示です。
私は中型木刀を呼び出しました。
シロさんは、大型木刀を選びます。
互いに攻撃はせず、決められた角度で構えを変えました。
『木刀の長さ、正常』
『シロの大型武器も端まで表示されてる』
『観客席の端からも切れてない』
問題はありません。
続いて、音響の確認です。
武器を床へ軽く当て、校庭側のスピーカーから出る音と映像のタイミングを比較します。
一度。
二度。
三度。
『音が少し遅い』
コレットさんが、すぐに言いました。
『映像より、ほんの少し後ろ』
『どのくらい?』
先輩が尋ねます。
『〇・一秒くらい。一定だから、音響側で合わせられる』
ドラムを叩くコレットさんには、わずかなずれでもよくわかるようです。
数回の確認で、音と映像のタイミングが揃いました。
「次は走行ですか?」
『うん。まずチョコが直線を走って、指定位置で止まって』
私は木刀を消し、合図を待ちます。
『開始』
走り出します。
決められた速度で中央を通り、反対側の印で止まりました。
こちらでは、いつもどおりに走っただけです。
『映像正常。残像なし』
フェタさんが答えます。
次はシロさんです。
「行くよ!」
シロさんが走り出しました。
先ほどの私より速く、長い距離を一気に抜けます。
『西側で、輪郭が少し尾を引いた』
つきみさんの声。
『止まった位置は合ってる。速い移動中だけ』
『複数のポッドをまたいだ瞬間に、表示更新が一回遅れてる』
アッサムさんが原因を確認します。
「こちらでは、普通に走れていました」
『うん。バーチャル側は正常だよ』
先輩が答えました。
『現実側で、シロの映像だけが少し残って見えた。更新の時刻を揃えてみる』
調整が終わるまで、私たちはバーチャル側の待機場所へ座りました。
シロさんが、少し残念そうに言います。
「速く走ったら分身したらしい」
「本番では困りますが、今日見つかってよかったですね」
「もう一回走れるのは、ちょっと嬉しい」
「試験ですから、楽しみすぎないでくださいね」
「チョコちゃんも、本当は少し走りたいでしょう?」
「否定はしません」
二人で笑いました。
見る側の目
現実側では、投影された映像をさまざまな場所から確認していた。
正面本部席。
一年生の応援席。
二年生の応援席。
校舎側。
校門側。
見る場所が変われば、光の当たり方も、映像と実際の校庭が重なる角度も変わる。
つきみは、校庭の端から中央を見た。
投影された決闘場はきれいに見えている。
チョコとシロの姿も、一人分ずつ正しく映っていた。
ただ、東側の最前列では、現実の競技用ロープと投影された決闘場の境界線が重なっている。
「フェタ」
「何?」
「このロープ、本番ではここ?」
「午前の競技が終わったあとも残す予定」
「投影の境界と重なって、線が二本に見える」
フェタも同じ場所へ移動し、確認した。
「本当だ。決闘場の外周がずれて見えるね」
「ポッドを直すより、ロープを片づけた方が早いと思う」
「午後の運営へ確認する」
つきみは、さらに一つ後ろの席へ移動した。
そこでは問題ない。
装置の設定だけではなく、現実側の用具や観客席も含めて、初めて見え方が完成する。
「つきみ、次はどう?」
みたらしっぽが通信で尋ねた。
「映像は大丈夫。午後のロープだけ移動させたい」
「了解。運営へ回すね」
「あと、午前の旗が大きく揺れた時に、ポッドの前へ入らないか確認した方がいい」
「旗まで見るんだ」
「本番で映像が見えなくなったら困るでしょう?」
「うん。助かる」
つきみは、校庭の四隅に設置されたポッドと、各クラスの旗の予定位置を照らし合わせた。
競技の場では、装置だけが動いているわけではない。
人。
旗。
用具。
日差し。
それらが同じ校庭に集まる。
だから、実際に見る側の位置から確かめる必要があった。
「みた」
「何?」
「三番ポッドだけ、もう少し内側へ寄せられる?」
「理由は?」
「二年二組の旗を立てると、風向きによって飾りが前へ出る可能性がある」
「ケーブルの長さを見てみる」
アッサムが端末を確認した。
「三十センチなら動かせる」
「なら、その方が安心」
ポッドの位置を調整し、もう一度試験映像を表示する。
旗の設置予定範囲からも離れました。
「これで大丈夫」
つきみが言う。
みたらしっぽは、調整項目へ完了を入れた。
「やっぱり、つきみに見てもらってよかった」
「実際に観客席へ座っただけ」
「それが必要だったんだよ」
つきみは返事の代わりに、次の観察位置へ向かった。
少しだけ、歩く速度が軽くなっていた。
正面本部席。
一年生の応援席。
二年生の応援席。
校舎側。
校門側。
見る場所が変われば、光の当たり方も、映像と実際の校庭が重なる角度も変わる。
つきみは、校庭の端から中央を見た。
投影された決闘場はきれいに見えている。
チョコとシロの姿も、一人分ずつ正しく映っていた。
ただ、東側の最前列では、現実の競技用ロープと投影された決闘場の境界線が重なっている。
「フェタ」
「何?」
「このロープ、本番ではここ?」
「午前の競技が終わったあとも残す予定」
「投影の境界と重なって、線が二本に見える」
フェタも同じ場所へ移動し、確認した。
「本当だ。決闘場の外周がずれて見えるね」
「ポッドを直すより、ロープを片づけた方が早いと思う」
「午後の運営へ確認する」
つきみは、さらに一つ後ろの席へ移動した。
そこでは問題ない。
装置の設定だけではなく、現実側の用具や観客席も含めて、初めて見え方が完成する。
「つきみ、次はどう?」
みたらしっぽが通信で尋ねた。
「映像は大丈夫。午後のロープだけ移動させたい」
「了解。運営へ回すね」
「あと、午前の旗が大きく揺れた時に、ポッドの前へ入らないか確認した方がいい」
「旗まで見るんだ」
「本番で映像が見えなくなったら困るでしょう?」
「うん。助かる」
つきみは、校庭の四隅に設置されたポッドと、各クラスの旗の予定位置を照らし合わせた。
競技の場では、装置だけが動いているわけではない。
人。
旗。
用具。
日差し。
それらが同じ校庭に集まる。
だから、実際に見る側の位置から確かめる必要があった。
「みた」
「何?」
「三番ポッドだけ、もう少し内側へ寄せられる?」
「理由は?」
「二年二組の旗を立てると、風向きによって飾りが前へ出る可能性がある」
「ケーブルの長さを見てみる」
アッサムが端末を確認した。
「三十センチなら動かせる」
「なら、その方が安心」
ポッドの位置を調整し、もう一度試験映像を表示する。
旗の設置予定範囲からも離れました。
「これで大丈夫」
つきみが言う。
みたらしっぽは、調整項目へ完了を入れた。
「やっぱり、つきみに見てもらってよかった」
「実際に観客席へ座っただけ」
「それが必要だったんだよ」
つきみは返事の代わりに、次の観察位置へ向かった。
少しだけ、歩く速度が軽くなっていた。
四人分の入場
走行時の更新設定が終わると、最後に四人同時の投影試験を行うことになりました。
参加するのは、私。
先輩。
つきみさん。
シロさん。
今回は戦いません。
体育祭本番で選手が入場する時に近い動作を、四人で行います。
それぞれ別の入口から中央へ歩く。
指定位置で止まる。
一礼する。
武器を呼び出す。
決められた方向へ構えを変える。
短い距離を走り、急停止する。
最後に武器を消し、退場する。
バーチャル世界側では、普段どおりの決闘場で動くだけです。
現実側では、その一連の姿が校庭へ立体映像として表示されます。
「準備できた?」
接続後、正面に現れた先輩が尋ねました。
「はい、先輩」
つきみさんは左側の入口。
シロさんは右側の入口に立っています。
『最終試験を始める』
アッサムさんの声。
『今回は入場動作だけ。武器を相手へ向けたり、攻撃動作へ移らないように』
「わかってるよ」
シロさんが答えました。
カウントが始まります。
三。
二。
一。
四人で歩き始めました。
中央の指定位置へ向かいます。
歩幅を揃える必要はありません。
それぞれが、自分の位置へ自然に入ります。
止まる。
一礼。
私は木刀を呼び出しました。
先輩はレイピア。
つきみさんは中型の剣。
シロさんは大型木刀です。
誰も振りません。
構えを取り、ゆっくりと左右へ向きを変えます。
現実側から、確認する声が届きました。
『全員、縮尺正常』
『武器の表示も問題なし』
『輪郭、日差しの中でも見えてるよ~』
ミルクさんの声です。
続いて、一人ずつ短い走行。
先輩。
つきみさん。
私。
最後にシロさん。
先ほど残像が出た位置を、シロさんが高速で通ります。
急停止。
『残像なし』
フェタさんが、すぐに答えました。
『四方向すべて正常』
『音響も合ってる』
コレットさんが続けます。
最後に四人で武器を消し、中央へ並びました。
攻撃はしていません。
それでも、現実側から拍手が聞こえました。
準備中の生徒たちが手を止め、投影試験を見ていたようです。
『バーチャルポッド校庭運用・最終試験、合格』
表示が浮かびます。
私は先輩の方を見ました。
「終わりましたね」
「うん」
「本番では、ここから先へ進むんですね」
今は武器を構えただけです。
向かい合ってもいません。
この先にある試合の内容は、まだ誰にもわかりません。
先輩が少し笑いました。
「本番まで取っておこう」
「はい」
つきみさんも、武器を消してこちらを見ます。
「次にここへ来る時は、試験ではないね」
「誰と当たっても、全力です」
私が答えると、つきみさんは静かに頷きました。
「私も」
シロさんが、両手を大きく上げます。
「今度こそ終わったー!」
通信の向こうから、キャラメルさんの声が届きました。
『シロちゃん、戻ってきたらまず休憩ね』
「まだ元気だよ!」
『元気なうちに休むの』
「はい!」
本番前の緊張より、今は皆さんの笑い声の方が大きく聞こえました。
参加するのは、私。
先輩。
つきみさん。
シロさん。
今回は戦いません。
体育祭本番で選手が入場する時に近い動作を、四人で行います。
それぞれ別の入口から中央へ歩く。
指定位置で止まる。
一礼する。
武器を呼び出す。
決められた方向へ構えを変える。
短い距離を走り、急停止する。
最後に武器を消し、退場する。
バーチャル世界側では、普段どおりの決闘場で動くだけです。
現実側では、その一連の姿が校庭へ立体映像として表示されます。
「準備できた?」
接続後、正面に現れた先輩が尋ねました。
「はい、先輩」
つきみさんは左側の入口。
シロさんは右側の入口に立っています。
『最終試験を始める』
アッサムさんの声。
『今回は入場動作だけ。武器を相手へ向けたり、攻撃動作へ移らないように』
「わかってるよ」
シロさんが答えました。
カウントが始まります。
三。
二。
一。
四人で歩き始めました。
中央の指定位置へ向かいます。
歩幅を揃える必要はありません。
それぞれが、自分の位置へ自然に入ります。
止まる。
一礼。
私は木刀を呼び出しました。
先輩はレイピア。
つきみさんは中型の剣。
シロさんは大型木刀です。
誰も振りません。
構えを取り、ゆっくりと左右へ向きを変えます。
現実側から、確認する声が届きました。
『全員、縮尺正常』
『武器の表示も問題なし』
『輪郭、日差しの中でも見えてるよ~』
ミルクさんの声です。
続いて、一人ずつ短い走行。
先輩。
つきみさん。
私。
最後にシロさん。
先ほど残像が出た位置を、シロさんが高速で通ります。
急停止。
『残像なし』
フェタさんが、すぐに答えました。
『四方向すべて正常』
『音響も合ってる』
コレットさんが続けます。
最後に四人で武器を消し、中央へ並びました。
攻撃はしていません。
それでも、現実側から拍手が聞こえました。
準備中の生徒たちが手を止め、投影試験を見ていたようです。
『バーチャルポッド校庭運用・最終試験、合格』
表示が浮かびます。
私は先輩の方を見ました。
「終わりましたね」
「うん」
「本番では、ここから先へ進むんですね」
今は武器を構えただけです。
向かい合ってもいません。
この先にある試合の内容は、まだ誰にもわかりません。
先輩が少し笑いました。
「本番まで取っておこう」
「はい」
つきみさんも、武器を消してこちらを見ます。
「次にここへ来る時は、試験ではないね」
「誰と当たっても、全力です」
私が答えると、つきみさんは静かに頷きました。
「私も」
シロさんが、両手を大きく上げます。
「今度こそ終わったー!」
通信の向こうから、キャラメルさんの声が届きました。
『シロちゃん、戻ってきたらまず休憩ね』
「まだ元気だよ!」
『元気なうちに休むの』
「はい!」
本番前の緊張より、今は皆さんの笑い声の方が大きく聞こえました。
学校中の放課後
体育祭準備期間に入ると、放課後の校舎は普段よりも長く起きているように見えました。
音楽棟では、アールグレイさんたち吹奏楽部が、開会式の演奏を合わせています。
窓を開けた音楽室から、校庭まで音が伸びていました。
その休憩時間を狙うように、ワッフルさんが大きな保温バッグを抱えて現れます。
「差し入れ持ってきたよ!」
「今日は何?」
アールグレイさんが楽器を置きました。
「冷たいお茶と、温かいお茶!」
「どうして両方?」
「どっちを飲みたいかわからなかったから!」
「用意する量が二倍になってるけど」
「おばあちゃんも体育祭を楽しみにしてるから大丈夫!」
ワッフルさんは一人ずつカップを配り、明るく感想を聞いて回ります。
音楽室の隅では、フランボワーズさんが折り畳み椅子へ番号札を貼っていました。
座ったままできる仕事を自分で見つけたらしく、作業は思っていた以上に進んでいます。
「全部終わった」
「本当に?」
アールグレイさんが確認すると、一番から四十番まできれいに並んでいました。
「完璧でしょう」
「では、運営席まで運んで」
「そこが残ってた」
「一番大事なところを残さないで」
「一度に全部は無理」
「何回かに分ければいいでしょう?」
「じゃあ、ワッフルも手伝って」
「もちろん!」
中庭では、もえぎさんが来場者用通路の周囲を整えていました。
伸びた枝をただ切るのではなく、人が通る方向や午後の日差しを確認しながら位置を変えています。
待機列ができる場所には、木陰へ入りやすいようベンチの位置も調整していました。
校庭では、マロンさんとアッサムさんがリレー用の計測機器を確認しています。
「カーブの出口、もう少し外を広くできる?」
マロンさんが、実際に走った感触を明るく伝えました。
「バトンを受け取った子が、二歩目で前を見やすくなると思う」
「計測線は動かさず、外側の余白を広げよう」
アッサムさんが端末を操作します。
「もう一回走ってみる?」
「うん。確認してくるね」
マロンさんは軽く体をほぐし、もう一度スタート位置へ向かいました。
用具庫では、エスプレッソさんが競技用ケーブルへ番号をつけ、使用場所ごとの箱へ分けています。
あまりに静かに作業していたため、パンを届けに来たプラリネさんが、箱が半分以上片づくまで気づきませんでした。
「いつからいたんですか?」
「最初から」
「声をかけてください」
「作業へ集中していたから」
「休憩していますか?」
「まだ」
プラリネさんは紙袋からミルクパンを取り出しました。
「では、これを食べてから続けてください」
「食べる」
返事だけは、とても早いものでした。
校庭の別の場所では、シロさんがリレーの練習を始めようとしていました。
バーチャルポッドの試験から戻った直後です。
キャラメルさんが飲み物を渡し、コレットさんが開始時間を確認し、ミルクさんがタオルを差し出しています。
「五分だけ座ろうね~」
「みんな、私を休ませる時だけ息が合ってない?」
「Flatwhiteでも、シロが急に音を増やそうとする時は同じだから」
コレットさんが言いました。
「ベースとリレーは別だよ」
「休まないところは同じ」
キャラメルさんが笑います。
「シロちゃん、五分後には一緒に応援するから、今は座ろう?」
「わかった」
美術室。
音楽棟。
中庭。
校庭。
用具庫。
それぞれ違う場所で、違う準備が進んでいます。
走る人。
演奏する人。
お茶やパンを用意する人。
道具を整える人。
旗を作る人。
装置を調整する人。
どの作業も、同じ一日へ向かっていました。
音楽棟では、アールグレイさんたち吹奏楽部が、開会式の演奏を合わせています。
窓を開けた音楽室から、校庭まで音が伸びていました。
その休憩時間を狙うように、ワッフルさんが大きな保温バッグを抱えて現れます。
「差し入れ持ってきたよ!」
「今日は何?」
アールグレイさんが楽器を置きました。
「冷たいお茶と、温かいお茶!」
「どうして両方?」
「どっちを飲みたいかわからなかったから!」
「用意する量が二倍になってるけど」
「おばあちゃんも体育祭を楽しみにしてるから大丈夫!」
ワッフルさんは一人ずつカップを配り、明るく感想を聞いて回ります。
音楽室の隅では、フランボワーズさんが折り畳み椅子へ番号札を貼っていました。
座ったままできる仕事を自分で見つけたらしく、作業は思っていた以上に進んでいます。
「全部終わった」
「本当に?」
アールグレイさんが確認すると、一番から四十番まできれいに並んでいました。
「完璧でしょう」
「では、運営席まで運んで」
「そこが残ってた」
「一番大事なところを残さないで」
「一度に全部は無理」
「何回かに分ければいいでしょう?」
「じゃあ、ワッフルも手伝って」
「もちろん!」
中庭では、もえぎさんが来場者用通路の周囲を整えていました。
伸びた枝をただ切るのではなく、人が通る方向や午後の日差しを確認しながら位置を変えています。
待機列ができる場所には、木陰へ入りやすいようベンチの位置も調整していました。
校庭では、マロンさんとアッサムさんがリレー用の計測機器を確認しています。
「カーブの出口、もう少し外を広くできる?」
マロンさんが、実際に走った感触を明るく伝えました。
「バトンを受け取った子が、二歩目で前を見やすくなると思う」
「計測線は動かさず、外側の余白を広げよう」
アッサムさんが端末を操作します。
「もう一回走ってみる?」
「うん。確認してくるね」
マロンさんは軽く体をほぐし、もう一度スタート位置へ向かいました。
用具庫では、エスプレッソさんが競技用ケーブルへ番号をつけ、使用場所ごとの箱へ分けています。
あまりに静かに作業していたため、パンを届けに来たプラリネさんが、箱が半分以上片づくまで気づきませんでした。
「いつからいたんですか?」
「最初から」
「声をかけてください」
「作業へ集中していたから」
「休憩していますか?」
「まだ」
プラリネさんは紙袋からミルクパンを取り出しました。
「では、これを食べてから続けてください」
「食べる」
返事だけは、とても早いものでした。
校庭の別の場所では、シロさんがリレーの練習を始めようとしていました。
バーチャルポッドの試験から戻った直後です。
キャラメルさんが飲み物を渡し、コレットさんが開始時間を確認し、ミルクさんがタオルを差し出しています。
「五分だけ座ろうね~」
「みんな、私を休ませる時だけ息が合ってない?」
「Flatwhiteでも、シロが急に音を増やそうとする時は同じだから」
コレットさんが言いました。
「ベースとリレーは別だよ」
「休まないところは同じ」
キャラメルさんが笑います。
「シロちゃん、五分後には一緒に応援するから、今は座ろう?」
「わかった」
美術室。
音楽棟。
中庭。
校庭。
用具庫。
それぞれ違う場所で、違う準備が進んでいます。
走る人。
演奏する人。
お茶やパンを用意する人。
道具を整える人。
旗を作る人。
装置を調整する人。
どの作業も、同じ一日へ向かっていました。
前日の校庭
体育祭前日。
午前中の授業が終わると、全校生徒で最後の会場準備を行いました。
応援席へクラス旗を固定する。
競技用具を番号順に並べる。
誘導表示を確認する。
得点板の動作試験。
本部テント。
放送設備。
救護所。
一年二組の旗も、ようやく校庭へ運ばれました。
教室で見ていた時より、ずっと大きく感じます。
応援席へ立てると、フィーちゃんが考えた模様が、校庭の反対側からもよく見えました。
「ちゃんと一年二組だってわかるね」
レンちゃんが、嬉しそうに旗を見上げます。
「はい。線もきれいに見えています」
「細かな柄を腕章へ分けてよかったでしょう?」
フィーちゃんが、私の腕章の位置を整えてくれました。
「少し右へ寄ってる」
「自分では気づきませんでした」
「はい。これで大丈夫」
「ありがとうございます、フィーちゃん」
プラリネさんは、準備を終えたクラスメイトへパンを配っていました。
「作業が終わった人から一つずつね!」
「プラリネさんも、きちんと休憩してくださいね」
「うん。私の分も取ってあるよ」
「それなら安心です」
一年二組の最後の用具箱を運び終えると、DPo-Xへ完了表示が出ました。
<一年二組・体育祭準備完了>
少し離れた応援席では、二年二組の旗も設置されています。
シロさんが支柱を支え。
キャラメルさんとミルクさんが、布の位置や飾りの向きを確認し。
コレットさんが、校庭の反対側から傾きを見ています。
フェタさんは固定具を締め。
つきみさんは、風を受けても旗がポッドの投影範囲へ入らないか確認していました。
先輩は、校庭四隅のバーチャルポッドへ本番用の設定を読み込ませています。
私が近づくと、シロさんが大きく手を振りました。
「チョコちゃん! 一年二組も終わった?」
「はい。無事に設置できました」
「こっちも、あと少し!」
キャラメルさんが、シロさんの持つ支柱を確認します。
「シロちゃん、もう少しだけ左」
「このくらい?」
「うん。そこで止めて」
コレットさんが、遠くから片手を上げました。
「今の位置なら傾いてない」
「固定するよ」
フェタさんが金具を締めます。
二年二組の旗も、しっかりと立ちました。
「きれいですね」
私が言うと、ミルクさんが笑いました。
「みんなで作ったからね~」
「一年二組の旗も、すごくよく見えるよ」
「ありがとうございます」
つきみさんは、二枚の旗とポッドの位置を見比べていました。
「風が強くなっても、これなら装置の前へ来ないと思う」
「最後まで確認してくださったんですね」
「本番で見えなくなったら困るから」
「ありがとうございます、つきみさん」
「チョコさんも、試験お疲れさま」
先輩が最終端末を持ってこちらへ来ました。
「チョコ」
「はい、先輩」
「本番設定への切り替え、終わったよ」
「本当にお疲れさまでした」
「チョコも、何度も試験へ付き合ってくれてありがとう」
「私は決められた動きをしただけです」
「それでも、同じ人が何度も動いてくれたから、前の記録と比べられたんだよ」
「では、少しはお役に立てたんですね」
「かなり」
先輩の返事が嬉しくて、自然に笑いました。
校庭中央では、最後の演出確認が始まります。
四隅のバーチャルポッドが起動しました。
低い動作音。
何もなかった校庭へ、バーチャル世界の決闘場が立体映像として現れます。
白い床。
円形の境界線。
観客席。
現実の校庭そのものが変化したわけではありません。
けれど、中央に大きな舞台が浮かぶことで、そこだけ別の場所とつながったように見えました。
頭上へ、大きな文字が表示されます。
<DUEL TOURNAMENT>
準備を終えた生徒たちから、歓声が上がりました。
今、舞台に選手の姿はありません。
試合も始まりません。
空の決闘場が、明日を待っています。
アールグレイさんたち吹奏楽部が、開会式の旋律を短く演奏しました。
ワッフルさんが、準備を終えた人たちへお茶を配っています。
もえぎさんが整えた通路には、柔らかな木陰ができていました。
マロンさんとアッサムさんは、リレーの計測表示を最後に確認しています。
フランボワーズさんが番号札を貼った椅子は、運営席へ順番どおり並んでいました。
エスプレッソさんが整理したケーブル箱も、本部テントの裏へ収まっています。
それぞれが準備したものが、一つの校庭へ集まっていました。
「チョコちゃん」
シロさんが、私たちのところへ駆けてきます。
「明日は、デュエル組も全員応援するからね!」
「シロさんも、リレーと綱引きを頑張ってください」
「もちろん!」
「ただ、競技の間には休んでくださいね」
「やっぱり、それも言われるんだ」
キャラメルさんが、少し遅れてやってきました。
「チョコちゃん、明日もシロちゃんへ言ってあげてね」
「はい。私でよければ」
「味方が増えた」
「シロの休憩を確保する側のね」
コレットさんが続けます。
ミルクさんも笑いました。
「みんなで元気に最後まで楽しもうね~」
つきみさんは、空の決闘場を見上げています。
「次にここへ映る時は、本番だね」
「はい」
私はつきみさんの隣へ立ちました。
「誰と当たっても、全力です」
「私も」
「先輩もですよ」
二人で先輩を見ると、先輩は少し笑いました。
「もちろん。今度は途中でやめないよ」
「では、決勝まで来てくださいね」
「チョコもね」
つきみさんが、静かに付け加えます。
「二人だけで決めないで。私もそこへ行くつもりだから」
「はい。待っています」
「待つより、途中で当たるかもしれないよ」
「その時は、全力で勝ちます」
「うん。それでいい」
先輩が、私たち二人を見ました。
「誰が相手でも、最後までやろう」
「はい」
「うん」
校庭の上空へ、体育祭実行委員からの通知が表示されます。
<全準備項目の完了を確認しました>
<明日の登校時間を確認してください>
<だんのこまち第一高等学校体育祭――明日開催>
拍手と歓声が、完成した校庭へ広がりました。
一年二組の旗。
二年二組の旗。
開会式を待つ吹奏楽部。
競技用具。
補給用のお茶とパン。
校庭中央に浮かぶ、まだ誰も立っていない決闘場。
長かった準備は、これで終わりです。
次にこの場所へ集まる時。
私たちは準備係でも。
試験参加者でもありません。
体育祭の選手として。
クラスメイトを応援する仲間として。
本番の一日を迎えます。
開催まで――あと一日。
午前中の授業が終わると、全校生徒で最後の会場準備を行いました。
応援席へクラス旗を固定する。
競技用具を番号順に並べる。
誘導表示を確認する。
得点板の動作試験。
本部テント。
放送設備。
救護所。
一年二組の旗も、ようやく校庭へ運ばれました。
教室で見ていた時より、ずっと大きく感じます。
応援席へ立てると、フィーちゃんが考えた模様が、校庭の反対側からもよく見えました。
「ちゃんと一年二組だってわかるね」
レンちゃんが、嬉しそうに旗を見上げます。
「はい。線もきれいに見えています」
「細かな柄を腕章へ分けてよかったでしょう?」
フィーちゃんが、私の腕章の位置を整えてくれました。
「少し右へ寄ってる」
「自分では気づきませんでした」
「はい。これで大丈夫」
「ありがとうございます、フィーちゃん」
プラリネさんは、準備を終えたクラスメイトへパンを配っていました。
「作業が終わった人から一つずつね!」
「プラリネさんも、きちんと休憩してくださいね」
「うん。私の分も取ってあるよ」
「それなら安心です」
一年二組の最後の用具箱を運び終えると、DPo-Xへ完了表示が出ました。
<一年二組・体育祭準備完了>
少し離れた応援席では、二年二組の旗も設置されています。
シロさんが支柱を支え。
キャラメルさんとミルクさんが、布の位置や飾りの向きを確認し。
コレットさんが、校庭の反対側から傾きを見ています。
フェタさんは固定具を締め。
つきみさんは、風を受けても旗がポッドの投影範囲へ入らないか確認していました。
先輩は、校庭四隅のバーチャルポッドへ本番用の設定を読み込ませています。
私が近づくと、シロさんが大きく手を振りました。
「チョコちゃん! 一年二組も終わった?」
「はい。無事に設置できました」
「こっちも、あと少し!」
キャラメルさんが、シロさんの持つ支柱を確認します。
「シロちゃん、もう少しだけ左」
「このくらい?」
「うん。そこで止めて」
コレットさんが、遠くから片手を上げました。
「今の位置なら傾いてない」
「固定するよ」
フェタさんが金具を締めます。
二年二組の旗も、しっかりと立ちました。
「きれいですね」
私が言うと、ミルクさんが笑いました。
「みんなで作ったからね~」
「一年二組の旗も、すごくよく見えるよ」
「ありがとうございます」
つきみさんは、二枚の旗とポッドの位置を見比べていました。
「風が強くなっても、これなら装置の前へ来ないと思う」
「最後まで確認してくださったんですね」
「本番で見えなくなったら困るから」
「ありがとうございます、つきみさん」
「チョコさんも、試験お疲れさま」
先輩が最終端末を持ってこちらへ来ました。
「チョコ」
「はい、先輩」
「本番設定への切り替え、終わったよ」
「本当にお疲れさまでした」
「チョコも、何度も試験へ付き合ってくれてありがとう」
「私は決められた動きをしただけです」
「それでも、同じ人が何度も動いてくれたから、前の記録と比べられたんだよ」
「では、少しはお役に立てたんですね」
「かなり」
先輩の返事が嬉しくて、自然に笑いました。
校庭中央では、最後の演出確認が始まります。
四隅のバーチャルポッドが起動しました。
低い動作音。
何もなかった校庭へ、バーチャル世界の決闘場が立体映像として現れます。
白い床。
円形の境界線。
観客席。
現実の校庭そのものが変化したわけではありません。
けれど、中央に大きな舞台が浮かぶことで、そこだけ別の場所とつながったように見えました。
頭上へ、大きな文字が表示されます。
<DUEL TOURNAMENT>
準備を終えた生徒たちから、歓声が上がりました。
今、舞台に選手の姿はありません。
試合も始まりません。
空の決闘場が、明日を待っています。
アールグレイさんたち吹奏楽部が、開会式の旋律を短く演奏しました。
ワッフルさんが、準備を終えた人たちへお茶を配っています。
もえぎさんが整えた通路には、柔らかな木陰ができていました。
マロンさんとアッサムさんは、リレーの計測表示を最後に確認しています。
フランボワーズさんが番号札を貼った椅子は、運営席へ順番どおり並んでいました。
エスプレッソさんが整理したケーブル箱も、本部テントの裏へ収まっています。
それぞれが準備したものが、一つの校庭へ集まっていました。
「チョコちゃん」
シロさんが、私たちのところへ駆けてきます。
「明日は、デュエル組も全員応援するからね!」
「シロさんも、リレーと綱引きを頑張ってください」
「もちろん!」
「ただ、競技の間には休んでくださいね」
「やっぱり、それも言われるんだ」
キャラメルさんが、少し遅れてやってきました。
「チョコちゃん、明日もシロちゃんへ言ってあげてね」
「はい。私でよければ」
「味方が増えた」
「シロの休憩を確保する側のね」
コレットさんが続けます。
ミルクさんも笑いました。
「みんなで元気に最後まで楽しもうね~」
つきみさんは、空の決闘場を見上げています。
「次にここへ映る時は、本番だね」
「はい」
私はつきみさんの隣へ立ちました。
「誰と当たっても、全力です」
「私も」
「先輩もですよ」
二人で先輩を見ると、先輩は少し笑いました。
「もちろん。今度は途中でやめないよ」
「では、決勝まで来てくださいね」
「チョコもね」
つきみさんが、静かに付け加えます。
「二人だけで決めないで。私もそこへ行くつもりだから」
「はい。待っています」
「待つより、途中で当たるかもしれないよ」
「その時は、全力で勝ちます」
「うん。それでいい」
先輩が、私たち二人を見ました。
「誰が相手でも、最後までやろう」
「はい」
「うん」
校庭の上空へ、体育祭実行委員からの通知が表示されます。
<全準備項目の完了を確認しました>
<明日の登校時間を確認してください>
<だんのこまち第一高等学校体育祭――明日開催>
拍手と歓声が、完成した校庭へ広がりました。
一年二組の旗。
二年二組の旗。
開会式を待つ吹奏楽部。
競技用具。
補給用のお茶とパン。
校庭中央に浮かぶ、まだ誰も立っていない決闘場。
長かった準備は、これで終わりです。
次にこの場所へ集まる時。
私たちは準備係でも。
試験参加者でもありません。
体育祭の選手として。
クラスメイトを応援する仲間として。
本番の一日を迎えます。
開催まで――あと一日。